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言えない理由 side A (3)

言えない理由 side A (3)







 そんなに幸せだった僕たちの関係が壊れ始めたのは、その年の冬。
 鈴木の笑顔と口数が減って、ときどき黙り込むようになった。
 自分以外の人がその心の中に住み始めてる。僕はそう思った。

「あのさ、薪。オレたち」
「今日はビーフカレーだよ。昨日から煮込んでたんだぞ」
「薪、ちょっとオレのはなし聞けよ」
「話なんか後でいいだろ。僕、おなか空いたよ」
「……うん。食べよっか」
 鈴木は何度も別れ話を持ち出そうとした。そのたびに僕はそれを遮って、鈴木の逃げ道を閉ざした。
 話を聞く代わりに、新しく買ったアクセを見せて。別れを告げようとするくちびるをキスでふさいで。離れようとする身体をセックスの快楽でつなぎとめた。

 でも、僕がどんなに努力をしても、離れていく心はどうしようもなかった。心だけは縛りようがなかった。
 僕はそれが悲しくて苛立たしくて、次第に鈴木に当り散らすようになった。些細な言い争いも増えた。その度にやさしい鈴木は折れてくれて、僕の癇癪を許してくれたけれど、イライラは募る一方だった。

 こんなはずじゃなかった。
 その頃の僕は、いつもそう思っていた。

 こんな関係は僕が望んだものじゃない。これなら友だちだったときの方がずっと楽しかった。きっと鈴木もそうだ。少なくとも僕は、こんな嫌な人間じゃなかった。
 鈴木を好きになって、いつも一緒にいたくなって。誰よりも大好きで誰にも渡したくなくて。鈴木のやさしさにつけこんで無理やり関係して縛りつけて。気持ちを押し付けることでがんじがらめにして、鈴木はとうとう息もできなくなってしまった。

 だから鈴木は、他の女の処へ頻繁に出かけるようになった。
 ただの友だちだよ、と鈴木は言ったけれど、僕はその言葉をウソだと決めつけた。
 どこかの女と鈴木の噂が流れる度に、僕は派手に泣き喚いて鈴木を責めて。僕が怒ると鈴木はその女とは別れてくれたけど、すぐにまた新しい女を作って。

 鈴木が僕と別れたがっているのは分かってた。
 でも、絶対に嫌だった。鈴木の心がもう僕にないのは明らかだったけど、それでも嫌だった。
 当たり前だけど、一緒にいてもぜんぜん楽しくなかった。鈴木といるとあれほど世界がきらめいて見えたのに、その年の冬は以前よりもくすんでしまったみたいだった。

 そのうち鈴木は……雪子さんと出会ってしまった。
 雪子さんと知り合ってから、鈴木の心は加速度的に僕から離れていった。僕と話をしながら彼女のことを考えている、と思えることが何度もあった。
 その度に僕は鈴木の意識を自分に向けさせようと、セックスをねだった。僕のことを確かに愛してくれた日々を思い出してもらいたくて、必死だった。

「鈴木、僕のこと好き?」
 行為の最中に、僕は何度もそう訊いた。質問の形式を取っているけど、この状況では完全に強要だ。鈴木が口にできる解答は一つしかない。
「好きだよ。でも」
「僕も! だいすきっ!」
 訊いておきながら最後までは言わせずに、僕は言葉を重ねた。愛してる、と繰り返しながら無理矢理に身体を重ねた。そんなもので相手を繋ぎとめられるとでも思っていたのか、僕は哀しいくらいに愚かだった。

 そんな気持ちでするセックスは、すごく痛かった。心の中がカラカラに乾いていて、それが身体にも影響してくるみたいだった。心は拒んでも身体の方は行為に慣れて、というのが普通なのかもしれないけど、経験の不足からか僕の身体はそうならなかった。でも、それを鈴木に悟られるわけにはいかなかった。
 下手なセックスをしたら、鈴木に抱いてもらえなくなる。鈴木はますます僕から離れて行ってしまう。
 僕は懸命に演技した。甘い声を上げて、身体をくねらせてみせた。だけど、男の身体はとても正直で。僕のそこは射精どころか勃起もしなかった。

 そんな僕とのセックスを、鈴木は拒むようになった。
 初めて拒否されたとき、僕はものすごく悲しかった。おまえはもう要らない、と言われたような気がした。実は気のせいじゃなくて、とうに僕のことは要らなくなってたんだけど、それを認めるくらいなら死んだほうがましだった。
 雪子さんは僕みたいな下らないことは考えなかった。他の女とは違って、鈴木と簡単に寝たりしなかった。鈴木はどんどん雪子さんに惹かれていって……。

 そして破局が訪れた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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