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言えない理由 side A (4)

言えない理由 side A (4)







 どうしてあんなひどいケンカになったのか、原因は忘れてしまった。
 僕はとにかく情緒不安定で、つまらないことにもイライラするようになっていたから、きっと些細なことだったんだろうと思う。
 いつもなら苦笑して僕の癇癪を許してくれるはずの鈴木は、その日に限って何故か狭量で、むっとした顔で僕のアパートを出て行こうとした。また他の女のところへ行こうとしてる、と思った僕は、ドアの前に立って鈴木を引き止めた。

 「雪子と約束してんだ」
 他の女ならともかく、あの女だけはいやだった。鈴木の心を僕から引き離すのは、あの女だけだ。
 「どこがいいんだよ、あんな女!」
 僕は鈴木から、彼女を友だちとして紹介されていた。鈴木はあの女と気が合うみたいだけど、僕は大嫌いだった。
 がさつで乱暴で、無神経で大雑把だった。女のクセに僕より背が高くてからだが大きくて、しかも柔道は2段の腕前だった。口も悪いし手も早いしで、女としての魅力には欠けていると最初は思った。
 彼女は鈴木がおかしな冗談を言う度に、鈴木の大きな背中や後頭部をバンバン叩いていた。優柔不断だとか八方美人だとか、そんな言い方で鈴木のことを貶した。
 僕は大事な鈴木に乱暴されるのが許せなくて、鈴木の悪口が許せなくて、彼女に食って掛かった。腕力では到底敵わなかったが、口喧嘩なら負けなかった。
 僕は心の底から彼女を憎んでて、彼女もきっと同じ気持ちだったと思うのに、鈴木は僕たちの仲がいい、と何故か勘違いしているらしかった。鈴木がどうしても、と言うから何回か3人で遊びに行ったのが誤解の原因だったのかもしれない。

 「雪子はそういうんじゃないんだよ。知ってるだろ?おまえも一緒に来ればいいじゃん」
 「冗談じゃないよ。顔も見たくない」
 僕にとって、雪子さんは僕から鈴木を奪う魔女だった。
 あの女のせいで鈴木とうまくいかなくなった、と僕は思っていた。僕と鈴木の間に亀裂が入ったのは鈴木が彼女と出会う前のことだったのだけれど、僕はなにもかもを彼女のせいにした。
 自分が悪いとは考えなかった。
 だって、僕はこころの底から鈴木を愛していて。
 わき目も振らずに鈴木だけを見ていた。こんなに愛してるのに、鈴木だって僕を愛してくれていたのに、僕たちのこころはしっかりと繋がっていたのだから、外部的な作用がなければ壊れるはずがないと信じ込んでいた。

 「あいつ、女のクセにスパイ映画が好きなんだよ。変わってるだろ?映画の時間に遅れちまうからさ、そこどいてくれよ」
 「・・・行かせない」
 「薪」
 「いやだ!」
 雪子さんの存在が、僕を平静でいられなくした。ここで鈴木を行かせてしまったら、僕のところには帰ってきてくれなくなる。僕はそう思い込んでいた。

 「・・・どうしたんだよ。おまえこの頃、少しおかしいぞ」
 「鈴木が悪いんだろ!?僕がいるのに他の女なんかと!」
 刺々しい口調は鈴木のこころを遠ざけるだけだと解っていても、僕はこういう風にしか喋れなくなっていた。もう、何ヶ月もこんなギスギスした会話ばかりしていた。僕自身、いやでたまらなかった。鈴木はもっと不愉快だったはずだ。

 「おまえ、オレに女友だちも持たせないつもりなのかよ」
 「僕は鈴木がいれば他のひとは要らない。友だちもサークル仲間も必要ない。なのに、なんで鈴木はそうじゃないんだよ!僕だけじゃどうしてダメなんだよ!」
 「いい加減にしろよ。ふたりだけで生きていけるわけないだろ?社会に出たらどうする気だよ。結婚もしないつもりなのか?」
 「・・・結婚?」
 僕はそんなことは、ぜんぜん考えていなかった。鈴木も同じ気持ちでいてくれてるとばかり思っていた。
 「じゃあ、僕とは卒業したら終わりってこと?」
 「そういう意味じゃないけどさ。よく考えてみろよ。おまえ、警察官僚目指してんだろ?男とこういう関係持ってたら、世間的にもまずいだろ」

 意外だった。
 鈴木がそんな現実的なことを考えているなんて。

 そのときの僕には、現実なんか何の意味も持たなかった。鈴木との関係を邪魔するものはすべてが悪で、僕の敵だった。子供のころからの憧れでさえも。
 「それなら警官になんかならなくたっていい。IT関連の企業からもオファーはあるし」
 卒業は来年の春だったけど、僕のところには既に幾つもの会社から誘いが掛かっていた。その中でいちばん条件のいいところを選んで就職するのは、べつに悪いことじゃないと思えた。
 しかし、鈴木は僕を非難するように眉をしかめた。僕が警官にならなくてもいい、と言ったことが腑に落ちなかったらしい。
 「なに言ってんだよ。警察官になるのが子供の頃からの夢だって言ってたじゃないか」
 「なんで分かってくれないんだよ、僕は鈴木さえいればいいんだよ!鈴木を失うくらいなら、何にも要らないよ!」
 それは僕の本心だった。僕は全身全霊をかけて鈴木を愛してた。だけど鈴木が僕に返してきたのは、さよならの言葉だった。

 「もうお終いにしよう、薪。オレたち、別れたほうがいい」
 ひどく悲しそうに、鈴木は僕に別れを切り出した。
 僕は鈴木に捨てられたくなくて、必死で首を振った。鈴木に抱きついて、関係を迫ろうとした。それは拒絶された。しばらく前から鈴木は僕のからだには、興味を持たなくなったみたいだった。
 
 「今のおまえは、オレが惚れた薪じゃない」
 なりふり構わず取り縋る僕に嫌気が差したのか、鈴木はとうとう冷たい声で言った。
 「オレが好きだったのは、警察官になってこの世から犯罪を完全撲滅してやるって息巻いてたおまえだよ。警察官僚になって警察機構を上から改革してやるんだって、エラそうに言ってたおまえだよ。オレはそんなおまえが好きだったんだよ。男に縋り付いて泣いてるおまえなんか、魅力もなにも感じない」

 僕は声も出せなかった。
 鈴木が、あのやさしい鈴木が。
 僕にこんなひどいことを言うなんて、信じられなかった。

 「さよならだよ。もう会わない」

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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