言えない理由 side A (6)

言えない理由 side A (6)








 鈴木との苦い経験で、僕は学習した。
 誰かを好きになっても、その気持ちを全部相手に押し付けてはいけない。特に男同士は絶対にうまくいかなくなる。
 相手の100%を欲しがってもいけないし、自分のすべてを捧げようとするのも駄目だ。何故なら、そんなものを捧げられてもお互い責任が取れるわけではないからだ。僕たちは結婚もできないし、家庭も作れない。この関係は一時のものに過ぎない。
 その場限りというには長すぎるけれど、これはバカンスみたいなものだ。男同士で一生恋人でいることなんか、できない。それが良く分かった。

 男女の仲もそうだけれど、恋は一生続くものじゃない。ひとはそんなに強いものじゃないから、同じ感情を永遠に持ち続けることなんか不可能なんだ。でも、男と女の場合にはその間に夫婦という絆があったり子供という楔があったりで、それを支えに愛し合っていくことができる。激しい恋愛感情がなくなっても、もっと崇高でやさしい気持ちで相手を思いやる関係が作れるのだ。
 だけど、僕たちの関係はそうじゃない。
 なにも作れないし、なにも残せない。だからお互いの、いやどちらかの感情が冷めてしまったら、そこでお終いだ。鈴木と僕のように気持ちが通じ合っていてさえも、人間が感情の生物である限り、それは避けられない運命で。
 だから問題は、そこから後をどうフォローするかだ。

 鈴木とは、二度と会えなくなるところだった。
 フォローのしようがないくらい、僕が鈴木を傷つけてしまった。やさしい鈴木が僕に別れを告げるのに、僕に言葉の刃を向けるのに、自分自身をどれだけ深く傷つけたのか。あのころの僕は、そんなこともわからなかった。
 あの時は雪子さんがいてくれたから鈴木と僕は親友に戻れたけれど、青木とはそうじゃない。上司と部下の関係なんか、書類一枚で簡単に切れるつながりなんだ。

 今度は失敗しない。
 おまえを失いたくないから。
 避けられない別れを迎えたときに、傷つけあいたくないから。
 別れた後も、おまえの顔を見ることができるように。ただの上司と部下にいつでも戻れるように。その絆だけでも、僕に残しておいて欲しいから。

 だから、僕はおまえを好きだって言わない。
 おまえがその言葉を望んでいることは分かっているけど、これは二人のためだから。

 青木。
 おまえは知らなくていい。
 僕が、おまえの顔も見ることができないのなら死んだほうがマシだと思うほど、おまえのことを好きだなんて。仕事中だけでもいいから一緒に過ごせれば、それを支えに生きていけると思えるほどに、おまえの存在が大切だなんて。
 おまえは知らない方がいい。
 知ってしまったら、やさしいおまえは僕を捨てることを躊躇うはずだから。鈴木のように、僕を傷つけたくなくてずるずると別れを引き延ばして、それは結局おまえを苦しませることになるから。
 身体の関係だけだと思っていれば、そんなに苦しまずに済む。また新しいセフレを見つけるから大丈夫だ、と僕が笑ってみせれば、次の日から元の上司と部下に戻れるはずだ。僕たちの関係はそれでいい。

 でも、万が一。
 おまえが僕を好きでいてくれるうちに、幸運にも僕に死が訪れて、おまえが僕を看取ってくれるようなことがあれば、そのときは。
 そのときはちゃんと言葉にしよう。

 ずっと愛してる。心の底から、おまえだけを愛してる。

 その日が来るまでは。
 愛してるとは言わない。


 ―了―



(2008.11)



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Kさまへ

いらっしゃいませ、Kさま♪
コメントありがとうございます。


> 薪さんは、青木を傷付けたり苦しめたりすることだけが恐いのではなく、そのあげくに、顔を合わせることも出来なくなることが、恐いのですね。

そうです。
鈴木さんのときの失敗を繰り返したくないと思っているのです。


> でも、鈴木さんの時だって、薪さんが、全てを鈴木さんに捧げてしまわなければ、ああはならなかった筈ですよね。
> 精神的には全てを捧げてもいいと思います。
> でも、生活の全てを捧げちゃったら、それは、ひずみが来ますって。

その通りです。
だから、あれはまるっと薪さんの自爆です。


> 鈴木さんは、薪さんの存在が重荷になって、他の女性に逃げようとしたとか、そういうことではないと思いました。
> 薪さんが、自分のせいで、駄目になっていくのを、止めたかったのだと思います。
> 鈴木さんは本気で薪さんを想っていたから、自分のせいで落ちていく薪さんを見たくなかった、本来の薪さんに戻ってほしかったのだと思いました。

当たりです。
実は~、拍手コメでご指摘くださったとおり、sideBは鈴木さんからの話なんですけど。鈴木さんが別れを決めた理由は、そういうことでした。
ううん、さすがKさま。 またもや読まれちゃいました☆☆☆(←うれしい)


> 薪さんが、自分のことも大切にしつつ、鈴木さんのことも大切に出来たら、もしかしたら、ずっと恋人でいられたかもしれない。

若かったんですよ~。
幼い恋だったんです、初恋だったし、まだ20歳でしょう?
周りも自分も、何も見えなくなってたんです。


> それにしても、だからって、今度は、傷付け合い、二度と会えなくなる別れ方をしないで済むようにと、愛している気持ちを隠して付き合い続けるなんて。
> ・・・・・・極端過ぎます、薪さん。

ええ、ですからね、Kさまの拍手コメ、決して的外れじゃなかったんですよ。
わたし、この話読み返して同じこと思いましたもん。
学んでないよ、薪さんっ!鈴木さん、泣いてるよっ!!
(自分で書いといてすみません・・・・)


> 大体、何で青木の方が先に気持ちが冷めると思い込むかなあ。
> 自分の方が、青木のことを「こんなつまらない男、顔も見たくない」って日が、来るかもしれないじゃないですか。
> そんな日は絶対に来ない、自分は青木を愛し続けると思うなら、青木だって同じだと、どうして分からないかなあ・・・

だって、薪さんだもん(笑)
薪さん、全然自分に自信がないんですよ。
青木くんを幸せにしてあげられる自信もないし、ぶっちゃけこの時点ではまだ、青木くんの親姉弟や周囲の人間にカミングアウトしてガンガン非難されながらも青木くんと生きよう、という決意もできてないんです。(一生ふたりで生きるって、そういうことですよね?覚悟いると思いますよ)
まだ1年目ですからね~、長い目で見てやってください(^^


> 健気・・という言葉だけではとても言い尽くせない、ちょっと悲し過ぎる薪さんのサガ・・しかも、「おまえが僕を好きでいてくれるうちに、幸運にも僕に死が訪れる日」が、実際に来ると分かっているだけに、余計に悲哀を感じます・・。

1年目はこういう状態ですけど~、
大丈夫です、2年3年と経つに従って、薪さんどんどんヒトデナシになりますから♪<こらこら。

それと、薪さんの殉職予定もどうなるかわからないです。
書いてるうちに最初の設定と大分違ってきてるので、この先、予定通りに進むかどうかはわからないです。
一番最初の予定では、薪さんは青木くんと恋人同士になるものの、かれを愛することはなく、天国で鈴木さんと幸せになる、というお話だったんですよ。(←最初はあおまきすとじゃなかった)
何故こんな話を考えていたかというと、ズバリ、5巻の展開ですね。
薪さんを泣かせる青木さんを、どれだけ憎んだことか。(雪子さんに怒りが向かないところが男の考え方だと言われました)
ええい、おまえなんか薪さんに恋焦がれて、でも好きになってもらえなくて、鈴木さんに嫉妬して、ザマーミロ、死ぬほど苦しめっ!と思ってプロット立てたから。
だけど書いてるうちに青木くんが可愛くなってきて、薪さんもどんどん彼に惹かれていって、最初のプロットなんかどこへやら(笑)
なので、この先はどうなるかわからないです。どちらにせよ殉職話は書けないです、いくらわたしでも(^^;

そんなわけで、あまり心配しないでくださいね。
未来は明るいですよ♪♪♪

Sさまへ

いらっしゃいませ、Sさま。
コメントありがとうございます。


> 薪さんの気持ち。
> 胃が絞り取られるカンジ。何と表現したら良いですかね。

すばらしく痛みを感じる表現です!
ドS作家にとっては最高の褒め言葉です!(←人間として終わってる)


>青木が分かっていてくれるといいんですが。薪さんが表に出せないものを汲み取れる力はあるよね?青木。

さあ?
「運命のひと」で、さんざんすれ違ってましたからね?
あはは、意地悪言っちゃいました、SさまはS展開お好きじゃないんですよね。薪さんが幸せになってくれないとすごく辛い、っておっしゃってましたものね。

今ね、「運命のひと」の後に入る話を書いてるんですよ。
というのも、このふたりって恋人同士になる前にはあんなに心が通じ合っていたのに、恋人同士になったらやたらとすれ違いが目立って・・・・なんでかしら?と思っていたのですが、どうも青木くんが増長してたみたいで。恋人になったから、安心しちゃったんでしょうね。
雪子さんが、その辺に喝を入れるお話を書いてます。
だからこのお話を転機に、以心伝心のふたりに戻ります。薪さんの青木くんに対する気持ちも、ちゃんと伝わるようになります。
長い間付き合ってると、いろいろありますよね(^^)(←それはわたしがSなだけ)

あ、それと、例のあれ、公開しました。
カテゴリの一番下の、「いつものキス」というSSです。
あの、すっごくグロイので、覚悟して読んでくださいね。洗面器用意してから読んだほうがいいかも・・・・・(←読み直して気持ち悪くなったやつ。それを人に読ませるってどうよ?)
で、吐き終わったら連絡ください。
すみません、よろしくお願いします。(^^;

Sさまへ

Sさま、ご連絡ありがとうございました。
読まれたんですね、よかったです(^^
はい、プリ・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(←気絶中)


ダメッ、ダメです、他の記事ならともかく、あれはヤバイですっっ!!!
今すぐシュレッターにかけて、記憶も脳から削除してください!!
万が一だれかに見つかりでもしたら、社会人失格の烙印を押されてしまいますよ!(そこまで?)


ええ、そうなんですよ・・・・。
Sさまにだけ見てもらおうと思ってたのに、いつの間にか拍手が15個も~~(TT)
いえ、とってもありがたかったんですけど、恥ずかしくて悶死しそうでした(^^;


グロくなかったですかあ?
Sさま、末期状態ですね(笑)(←失礼)
枕の下にって、ちょっ、旦那さまに見つかったらどーするんですか!?
あああ、Sさまのご無事をお祈りしてます・・・・・。

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Aさまへ

10/24にコメントくださった Aさま。

>言えない理由sideAまで読みました。

どうもありがとうございますっ。
「ここで涙が止まらなくなり」なんて、最高の誉め言葉です♪ ←ヒトデナシ、泣いてる人の気持ちとか考えない。


わたしも、切ない薪さん、大好きなんです。
第九編で、周りに誰もいない部屋で、それでも声を殺して泣く薪さんとか、激萌えでした~!(鬼か)

うちの場合はカンチガイで泣いてること多いんで、後で思い返すと笑えますけどね☆
これだって、何年も経ってから思い出してみたら、どうしてあんなに後ろ向きだったんだろー? て本人、首を捻ってると思いますが、
この時は真剣だったんです。泣いてくださってありがとうございます。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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