FC2ブログ

ジンクス(9)

ジンクス(9)






 タクシーの運転手を脅すようにして、青木は問題の料亭に乗りつけた。
 玄関口に出てきた仲居に三田村たちがいるはずの部屋を聞くが、当然案内はしてもらえない。こういうところで秘密が守られなかったら、店は潰れてしまうだろう。それは百も承知だが、青木の方もおいそれと引き下がるわけには行かない。
 これは警察手帳を出すしかないか、と覚悟を決めたとき、背後から聞きなれない声がした。
「こんばんは、雅子さん。重光さんに頼まれたんですけど、これ、部屋に届けてもらっていいですか?」

 振り向くと30歳くらいのすらりとした好男子が、にっこり微笑んで立っていた。青木より背は低いが、かなりの男前である。
 彼は、仲居と押し問答をしている青木の後ろから、ぬっと紙袋を出して仲居に手渡した。仲居は青木に対するときと打って変わって、愛想よくその袋を受け取った。
 袋を持って、仲居は建物の中に入ってしまった。それを押しとどめようとした青木の腕をつかみ、見知らぬ男は低い声で囁いた。
 
「君は第九の人間か?」
「……警察の方ですか?」
「俺は一課の竹内だ。来い。こっちだ」
 竹内と名乗った男は、懐からモバイルを取り出して蓋を開けた。電源が入ると同時に、点滅する赤いマークが画面に現れる。発信機だ。
「それ、もしかしてさっきの袋の中に?」
「重光さんてのは三田村部長のことなんだ。隠語ってやつだ。俺はここには何回か三田村のお供で来てるから。あの仲居とも顔見知りだ」
 一課の人間だという竹内が何故ここにいるのか不思議だったが、青木は薪のことが心配でそのことを尋ねる余裕もなかった。

「どうやらこの部屋だな」
 樹木の茂った裏庭を抜けて、発信機の示す場所に出る。庭と廊下の間は開け放してあり、直接部屋に入ることが可能だった。
「さて、どうするか……って、おい!」
 腕組みをした竹内を尻目に、青木は靴のまま廊下に上がり部屋に突進した。襖を開け放ち、中に駆け込んでいく。しかし、部屋には誰もいない。仲居が持ってきたらしい紙袋は廊下に置いてある。ここで間違いはないはずだ。
 奥にもうひとつ部屋がある。きっとここに薪が――――。

 青木が襖を開けると、そこには信じられない光景があった。
「薪さん!?」
 二つの枕が並べられた布団の上で、ワイシャツの前をはだけた姿で男の上に馬乗りになり、薪が相手の股間をまさぐっている。青木の姿を見て驚くが、男から離れる様子はない。

「なにやってんですか!?」
 淫猥な室長の姿に、目の前が真っ暗になる。こんな室長の姿を見たくはなかった。無理強いをされているならともかく、自分から積極的に上になって。
「ひどいですよ! 薪さんて、そんな人だったんですか!」
「青木。おまえには悪いことをしたかも知れないが、ついその」
「ついってなんですか? 相手は誰でもよかったんですか? 岡部さんのほうがまだましでしたよ! なんでオレじゃダメなんですか!?」
 余計なことまで口走ってしまったが、青木は完全にパニック状態で、それに気付く余裕はない。

「……なに言ってんだ? おまえ」
「なにって、あれ?」

 薪の冷静な口調に青木はいくらか落ち着き、改めて二人を見た。
 よく見ると、ワイシャツのボタンは外れているが、薪はきちんとズボンを履いている。ベルトも外した様子はない。相手の男は仰向けになって、目を閉じたままぴくりとも動かない。どうやら気を失っているようだが、この場合容疑者は一人しかいない。

「あった、あった。こんなとこに隠しやがって。汚いな。使えるかな、これ」
 男の下着の中から目的のものを発見し、親指と人差し指で摘み上げる。USBメモリーだ。どうやらこれが欲しくて男の体を探っていたらしい。
「あれ? もうひとつある。バックアップかな」
 2つのメモリーフラッシュを指の先だけで持ち上げて、ハンカチに包む。気持ち悪そうに顔をしかめて、枕元にあったおしぼりで手を拭いた。
「これはもうゴミだな」
 苦々しく言って、おしぼりをゴミ箱に投げ入れる。嫌悪の表情を隠そうともしない。

「よくここがわかったな」
「岡部さんに聞いて……今井さんが、この店のことを知っていて」
 ワイシャツのボタンを留めて、ネクタイを締めなおす。青木のほうを見て何か言いかけるが、途中で思いとどまって薪は口を閉ざした。
「オレ、いてもたってもいられなくなって……すみませんでした」
「なんでこの部屋だとわかった? おまえ、まさか手帳使ったんじゃ」
「いえ、捜査一課の」
「工藤!!」
 青木の言葉を遮って、三田村の野太い声が響いた。
 三田村に届け物を頼まれた仲居が、別の部屋にいた彼を呼んできたらしい。気絶した友人と、身支度を整えた薪の姿を交互に見る。ここでなにがあったかは一目瞭然だった。

「青木。おまえはもう帰れ」
 薪が小さな声で青木に命令する。しかしこの状況では、薪に不利な結果になるのは目に見えていた。

「よくもわしの友人を。覚悟するんだな!」
 毛むくじゃらの太い手が薪の襟元をつかみ、華奢な身体を引き摺り上げた。もう一方の手が振り上げられる。  一、二発、殴られるくらいなんでもない。薪は観念して目を閉じ、奥歯を噛み締めた。
 しかし、頬に与えられるはずの痛みはなかなか襲ってこない。不審に思って目を開けると、三田村の太い手首は青木の大きな手にがっちりと押さえられていた。
「なにをする!わしは警視長だぞ!」
 ぎりぎりと音がするほど強く手首を握り、青木は三田村の腕をねじ上げる。薪には見せたことのない凶悪な表情で、青木は右手を振り上げた。
「青木、よせ!」
 薪の制止に青木の手が止まる。が、その憤怒は収まらない。
 長身にものを言わせ、三田村が薪にしたのと同じように、両手で三田村の首元を摑んでその太った身体を持ち上げる。薪の倍はあろうかという巨体は、青木の強い腕力によって宙に浮いていた。

「青木!やめろ!」
「オレの室長に手を出すな!」

 二人の声が重なる。
 青木の台詞に、薪は軽いデジャビュを覚える。どこかで聞いたような……。
 それに思い至って、薪は目を瞠る。そういえば、あの時もこうして彼は相手のことを持ち上げていたっけ。

「オレの、じゃなくて『うちの』だろ」
「……すみません。間違えました」
 首が絞まって、三田村は意識を失いかけている。この状況をどうやって収めたらよいものか、見当もつかない。
「もういい。降ろしてやれ」
「はい」
 薪にだけは素直に従うが、納得していないのはその顔つきでわかった。
 伸びてしまった三田村とその友人を並べて布団に寝かせて、この後のことを考える。が、もうここまでしてしまったらフォローのしようがない。どうやら身の振り方を考えなければならないようだ。
「こいつらのことは放っておけ。僕はこのデータを持って第九に寄って帰るから、おまえも早く家に帰れ」
「薪さん……すみません、オレ……」
 自分だけの左遷で済むといいのだが、と心の中で思慮を重ねるが、その可能性は低い。おそらく青木にも、何らかの処罰があるに違いない。
 そうなったら自分の免職をかけてでも、こいつを守ってやらなければならない。こいつがこんなに怒ったのを見たのは初めてだ。大人しいこいつが我を忘れてこんなことをしでかしたのは、自分のためなのだ。

「心配するな。おまえのことは僕が守ってやる。大丈夫だ」
 今は考えても仕方がない。処分が決まってから打開策を打ち出すしかない。

 薪が廊下に出ると、そこにはまたもや会いたくない人物がいた。捜査一課の竹内だ。
「どうしてあなたがここに」
 険悪な眼で宿敵を睨みつける。が、何故か竹内は、今日だけは薪の悪意に苦笑で応えた。
「第九にも、無茶なやつがいるんですね」
「あいつはまだ新人で。警察がどういうところか解っていないんです」
「それにしても、部長にあそこまでするとは。勉強ばかりしてきたモヤシとは思えませんね。見所があるじゃないですか。第九をクビになったら、捜一で面倒見ますよ」
 それには答えず、薪は竹内に背を向けた。

 もうここにはいたくない。早く第九へ帰ろう。

 さんざんな夜だった。明日は田城に報告をしなければならない。……なんと言えばいいのだろう。
 タクシーに乗り込みながら、薪は田城への言い訳をあれこれ考えていた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Aさまへ

Aさま、いらっしゃいませ~。
コメントありがとうございますっ!


>薪さんがエロジジイの毒牙にかかると、単純な私はまたもやハラハラしました(><)

Aさまって、素直で可愛らしい方ですね(^^
しづはドSなんですけど、薪さんが好きだから、取り返しのつかないことは致しません。 ご安心ください。
ただ、その「取り返しのつかないこと」の基準が、普通よりちょっと・・・・・・あははは・・・・心臓に悪い小説ですみません(^^;


>が、おとなしく言うこときくわけなかった!

うちの薪さん、強いですから!
黒帯ですから! 男爵ですから!(←??)


>青木の「岡部さんの方がまだましでしたよ」に爆!!
>薪さんとのやりとり、最高(笑) 何気に告白してますね(^^)

わーい、ウケてくださってうれしいです~!!
このズレた掛け合い漫才が、うちのウリでございます。
ギャグ小説を書いてるつもりなので、笑っていただけるのが一番うれしいです(^^


>でも、薪さんは本当に部下思いですよね。2月号でも青木を捜査に参加させる為に頭を下げて回ったらしいし。

そうなんですよおお!!
もー、感動しました! 各班の班長にまで、って!!

だってね、警察と言うところは完全な縦社会で、自分よりも階級の低い人に頭を下げるなんてことは、普通なら考えられないはず。
班長といえばせいぜい警部、所轄によっては巡査部長って可能性もありだと思うのですが、管理職である警視正が自分より2階級以上も下の職員に「お願いします」と頭を下げて回るって!! 
どんだけ青木のこと大事なんですか、しつちょおっっ!!!
と、第九全員が心の中で突っ込んだことと確信いたします☆


>はっ、頭の中では全然、別の事を考えてたりして・・(笑)

それはうちの男爵だけです(笑)


ありがとうございました(^^
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: