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土曜の夜に花束を(8)

土曜の夜に花束を(8)








 薪の家の冷蔵庫は、ほぼ空の状態だった。
 いつもかなりの食材や残り物が入っているのに、この1週間はろくな料理もしなかったらしい。その原因に思い当たって、青木の胸がずきりと痛んだ。
 自分が薪をあんなに傷つけてしまったから。申し訳なさが先にたって、この1週間はまともに薪の顔が見れなかった。翌朝、会ってもらえなかったことで、嫌われたかもしれないという恐怖が生まれた。今日は勇気を出して来てみたものの、追い返されるかもしれないと覚悟してきたのだ。

 薪は冷凍庫から作り置きのロールキャベツを出して、電子レンジに入れた。3週間ほど前に青木と一緒に作ったものだ。春キャベツが甘くて、とても美味しかった。
「オレ、今日はケチャップ味がいいです」
 青木のリクエスト通りに、薪は鍋にケチャップベースのスープを作ってくれる。薪は視線を鍋に固定して、ずっと無言のままだが、自分に腹を立てているわけではない。もしも薪が怒っていたら、彼の周りの空気はもっと冷たくなる。薪の穏やかな表情に勇気を得て、青木は計画を実行することにした。
「ん~、美味しいです。春はやっぱりロールキャベツですよね」
 食欲がないという薪にも強引に食べさせる。これからのことを考えると、夕食抜きは身体に良くない。

 やっと一つのロールキャベツを食べ終えて箸を置いた薪は、食卓に頬杖をつくと、青木の方を見ずに言った。
「食べ終わったら帰れよ。僕は今日は酒を飲む気にはなれないんだ」
「お酒が飲みたくて来たんじゃありません。てか、食事をご馳走になりに来たわけでもないです」
「じゃ、何しに来たんだ」
 青木はテーブルをぐるりと回って、薪のそばに近付いた。床に膝をついて、座っている薪に自分の目線の高さを合わせる。

「お願いです。リベンジさせてください」

 亜麻色の瞳が丸くなる。まさか青木がこんなに図々しいことを言ってくるとは、夢にも思わなかったのだろう。
 あれだけ非道いことを僕にしておいて、という非難を覚悟して、青木は薪の返答を待った。しかし、薪の言葉は青木の予想とまるで違っていた。
「あんな汚いもの見せられて、僕のことが嫌になったんじゃ」
 驚くのは青木の番だった。
 汚いものなど見た覚えはない。青木が見たのは、自分が傷つけた愛しいひとの無残な姿だった。それは多分、青木の心から一生消えない。他人を傷つけた罪悪感も、傷つきながらも自分を差し出そうとしてくれた健気な恋人を慰撫することもできなかった己の脆弱さと共に、青木をずっと責め続けるだろう。

「今更そんなこと思いませんよ。薪さんの身体はとうの昔に、隅から隅まで見てますから」
 基本的に薪は、風呂から上がれば素っ裸で歩いているし、一緒に風呂に入ったことも一度や二度ではない。それを差し引いても、おとり捜査のときのアレやぺニンシラホテルのソレや冬の温泉旅館でのコレや……しかし薪には、どの記憶も定かではないのだろう。
 青木は薪の身体がちゃんとした男の身体だということも、自慰も射精もする普通の男だということも、とっくに知っている。それでも、やっぱり薪が好きで愛し合いたくて。青木はそう言いたかった。
 しかし、薪の見解は違ったようだ。

「あのCCD、おまえか!」
「違いますよっ!!」

 自分の記憶の欠損を棚に上げて、青木をストーカー扱いである。相変わらず薪の自己中は果てしない。
「なんでオレが第九の風呂場にCCD仕掛けなきゃならないんですか!?」
 あれを仕掛けたのが誰なのか、未だに分からない。分かったら只じゃおかない、まずは犯人の目玉を潰して、記憶も消すために頭も潰してやる。
「じゃあ、どこで僕のハダカなんて見たんだ?」
「薪さん、風呂上がったらその辺ハダカでうろうろしてるじゃないですか。その気がなくても見えちゃいますよ」
 風呂上りにはせめて腰にタオルを巻いて欲しいと、何回言っても聞き入れてくれない。薪の裸を他の男に見られて青木がどんなに悔しいか、理解してくれないのだ。

「ああ、そうか。そうだな。そういえば何度も一緒に風呂に入ったよな」
「そうですよ。とっくに手遅れですよ」
「それでも、僕を抱きたかったのか?」
「はい」
「どうして」
「好きだからに決まってるじゃないですか。オレ、前に言いませんでしたっけ? 好きになっちゃえば相手の美醜は関係ないって」
 薪は信じられない、という顔で青木を見ている。そのちいさな頬を、青木は両手で包み込んだ。

「もっとも薪さんのはとってもきれいでしたけど」
「男のアレとケツの穴だぞ。きれいなわけないだろ」
 それを言ったらBL小説は成り立たない!!!
 どこかから誰かの(しかも複数の)声が聞こえたような気がしたが、青木は動じずに言った。薪の顔に似合わない発言には慣れている。
 
「好きになっちゃえばこだわらないです」
「こだわらなきゃダメだろ。人として」
「そんなものが気になるようなら、とっくに薪さんのことは諦めてます」
 薪の頬を捕らえたまま、青木は顔を近づける。亜麻色の瞳が少し潤んで、熱を帯びる。それは青木の申し出を承諾してくれた証拠だ。
「愛してます」
 目を閉じてキスを許してくれた恋人に、青木はやさしく口づける。華奢な身体を抱えあげて、寝室に向かう。いつもなら下ろせと喚く上司は、今日は青木の首にしっかりと抱きついている。それも道理だ。いまは上司ではない。青木のかわいい恋人だ。
 そんなふうに自分に縋ってくれると、愛しさが込み上げてくる。もう二度と傷つけない。薪にあんな思いはさせない。
 寝室の扉を、青木はそっと押し開いた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

・・・・・うきゃー、恥ずかしいです、ずっとCCBだと思ってました!!!
ネットで調べてみたら、Aさまのおっしゃるとおり、CCDカメラでした!! 教えてくださってありがとうございました、訂正しておきます。

ううう、以前もですね、
「シチュエーション」を「シュチエーション」だと思い込んで書いてて・・・・無知すぎる・・・・年寄りは横文字に弱くて(^^;)
いや、日本語もあやしい。「役不足」の意味を反対に覚えてた。あと、「やおら」も。
・・・・・単なるばかだ・・・・・。

これからも、何かおかしいところがあったら教えてくださるとうれしいです。
よろしくお願いします。


あ、青木くんへの応援、ありがとうございました。
ハラハラドキドキはうちの売り物です~、楽しみにしてくださって嬉しいです。

来週中には書類地獄から解放されるので、そしたらAさまのブログにお邪魔しますね。楽しみです。(^^)
(忙しいときに読むと、どうしても字面だけ追ってしまって、感動がいまひとつなんです。そんなもったいないことしたくないので、現在ネ落ちしてます)
プロフィール

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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