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土曜の夜に花束を(14)

土曜の夜に花束を(14)







 翌週の月曜日。
 第九の年若い捜査官は、早朝からモニタールームの掃除に精を出していた。大きな手を休みなく動かして、鼻歌交じりにてきぱきとモニターを拭いている。
 シュッと自動ドアが開く音に振り返ると、職員たちが団体で出勤してきた。月曜の朝はミーティングがあるから、比較的みなの出勤が早いのだ。
「おはようございます」
「おはよ。いつもご苦労さま」
 青木に労いの言葉を掛けて、今井が穏やかに微笑む。彼女持ちの余裕か、第九で一番温厚なのは今井だ。逆に一番のお天気屋が第九でいちばん性経験の少ない人物と同じ人間である事実は、心の平穏と恋人の有無は密接な関係にあることを暗示している。

「ゴキゲンじゃないか。うまくいったみたいだな、初体験」
「おかげさまで」
 自分に掛けられた童貞疑惑を否定する気にもなれない。このくらいで怒っていたら、薪に悪いような気がする。
「ご感想は?」
「すごく楽しかったです。といっても、まだ半分ですけど」
「半分?」
「痛そうで可哀相で。途中までしかできなかったんです」
「あ、わかった。相手の娘、バージンだったんだろ」
 笑いで誤魔化してその場を離れる。本当のことは口が裂けても言えない。

「青木の相手の女の子、バージンだったみたいだぜ」
「童貞と処女かよ。じゃあ初めは上手くいかなくても仕方ないな」
「でも青木の相手って、三好先生じゃなかったのか?」
「あ、そうだよな。あれ?」
「あのひと室長の親友と婚約してたんじゃ」
「婚約してて処女? 今時、ありえないだろ」
「清い仲だったんだ。すごい人だな、鈴木さんて」
「うん。本当に三好先生のこと大切に思ってたんだな」
 ありえない仮説を貫いてしまうところは、着実に上司の背中を追いかけている。
「三好先生も嬉しかっただろうな。あの年でバージンはきついもんな」
「よかったよかった」
 雪子がこの会話を聞いていたら、多分明日の第九は機能停止になる。6人中4人の部下が入院したら、残された2人は地獄を見ることになるだろう。

「あれ。室長は?」
 室長室を覗いた宇野が、意外そうな声を出す。いつも一番乗りの室長がこの時間に来ていないなんて、滅多にないことだ。
「めずらしいな。あのひとが始業時間ギリギリなんて」
「もしかすると今日は、お休みかも」
 青木が不自然に目をウロウロさせて、欠勤の可能性を示唆する。仕事命の薪が欠勤なんて、それこそこの季節に雪が降ってもありえない。
「なんで」
「いや、なんとなく」
「あ、来た。おはようございます、室長」
 どこか怪我でもしているのか、ゆっくりと足を引き摺りながら薪がモニタールームに入ってくる。部下たちの挨拶に軽く頷いて、そのまま室長室に入ってしまった。

 そんな薪を見て、青木は心の中で手を合わせる。やっぱり、昨夜は休ませるべきだった。薪の方から誘ってくれたとはいえ、まだ傷も治りきっていなかったのに。
 それでも、回数を重ねるごとに少しずつは慣れていくようだ。とても中で動かせるような状態ではなかったが、昨夜は金曜の夜よりずっとスムーズだった。少なくとも前戯の途中で蹴られることはなかった。

『この次の土曜日に、またここに来てもいいですか?』

 青木の申し入れに、薪はこっくりと頷いてくれた。
 薪のからだが行為に慣れるまで、夜のデートは週末限定だ。週末といえば普通は金曜の夜を指すが、定例会は薪の数少ない楽しみのひとつだし、奪うのは可哀想だ。それに1週間の疲れが溜まった金曜の夜より、一日ゆっくり休んだ土曜日のほうが薪の身体の負担は軽いはずだ。
 
 だから、秘密のデートは土曜の夜に。
 花束を持って愛しいひとに逢いに行こう。
 
「室長、なんか調子悪そうだな」
「ていうか、明らかに患部を庇った歩き方だな」
「だから早く病院に行ったほうがいいって言ったのに」
 薪の病名は、とうとう確定してしまったらしい。
「やっぱりこれ、必要だろ」
 小池がドーナツ型のクッションを引っ張り出してくるのを見て、青木は心の中で薪にひたすら謝り続けていた。



*****



 同じ日の昼休み。
 法医第一研究室の監察医助手、菅井祥子は上司宛の付け届けに首を傾げていた。
「雪子先生。なにかお祝い事でもあったんですか?」
「べつに。どうして?」
「第九から、お赤飯届いてますけど」
「……なんで?」
 室長の勘違いと思い込みの強さは、第九の部下たちに日々浸透していくようだった。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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