土曜の夜に花束を(15)

土曜の夜に花束を(15)







 フラワーショップしらいしの女店主は、今日も白百合の花束を作っている。
「何色のリボンになさいますか?」
 常連客の長身の男に声をかける。この男がこの店に来るようになってから、2度目の春が巡って来た。飽きもせず白百合を選ぶところを見ると、想い人は変わっていないらしい。
「そうですね。この薄紫で」
 相変わらずの幸せそうな顔。この男の変化を敢えて挙げるなら、来店する曜日が変わったことくらいか。

「以前は金曜日によく来ていただいてましたけど。最近は土曜日が多くなりましたね。お仕事の関係ですか?」
「ええ、まあ」
 この男の恋路が順調に進展しているらしいことは、口元の緩み具合でも察することができる。白百合の化身のような女性と、うまくいっているらしい。今日だって蕩けそうな顔をしている。
 きっと今夜は彼にとって、スペシャルな夜なのだ。朝まで彼女と過ごす約束でもしているのだろう。
 土曜の夜に花束を持って恋人に会いに行く。この男の幸せがいつまで続くのか店主に興味はないが、大切なお客様だ。ここはヨイショしておこう。
「お幸せそうですね。素敵な恋人なんでしょうね」
「はい! オレの恋人は世界一キレイでカワイイひとなんです!」
 ……正面から頭突きをくれてやりたい。

「ありがとうございました」
 スキップどころか三段跳びで駆けて行きそうな男の背中を見て、店主は頭を下げながらも苦笑している。
 あそこまで手放しで、自分の恋人を賞賛する男は見たことがない。もうメロメロというカンジだ。よほど美しい女性なのだろう。
 半ば呆れつつも客を見送っていた店主は、横断歩道を渡ってこちらに近づいてくる小さな人影に気付いた。
『白百合のきみ』だ。
 まずい。今の客に作った花束で、白百合はカンバンだ。明日の入荷を待ってもらうしかないが、配達料を無料にすることで納得してもらえるだろうか。
 
 彼は最後の白百合を抱いた男と、横断歩道の中心ですれ違った。皮肉な光景を店主が見ていると、それは次の瞬間、不可思議な画に変わった。
 道の真ん中で、長身の男が白百合のきみに花束を手渡している。亜麻色の髪の青年は何事か言ったようだが、声は聞こえない。表情はいくらか不機嫌そうだ。
 つややかなくちびるを尖らせながらも花束を受け取って、彼は踵を返した。振り返りもせず道の向こう側へ戻っていく。その後を黒髪の男がいそいそとついていく。
 これは、どう理解したらいいのだろう。

「そうじゃないかと思ってたんですよ」
 アルバイトの女の子が、我が意を得たりとばかりに何度も頷いた。
「百合の化身みたいにきれいな人なんて、そうそういるもんじゃないですから」
 自分の予想が当たったと彼女は言うが、店主には状況が理解できない。というか、したくない。
「真奈美ちゃん、気持ち悪くないの?」
「なにがですか?」
「だって、あれ男のひとよ」
「それがどうかしました?」
 最近の若者はこういう関係に比較的おおらかだが、50に差し掛かろうとしている自分にはとても肯定できない世界だ。

「店長だって喜んでたじゃないですか。最近、白百合のきみに笑顔が増えたって」
「そりゃそうだけど。男同士なんて」
「いいじゃないですか。あんなに幸せそうなんですから」
 並んで小さくなっていく後姿は、たしかに彼女の言うとおり、いい雰囲気だった。イチャついているわけでも手を繋いでいるわけでもないのだが、その間には温かい空気が流れているようで。時おりキスをしながら彼らの少し前を歩いているカップルより、よほど好感が持てる。
 こっそりと前のカップルを指差して、長身の男が白百合のきみに何か囁いた。すると、白百合のきみは思いもかけない素早さで左足を回して、男の腿の裏を蹴り飛ばした。どうやら「あのカップルのようなことがしたい」とでも持ちかけて、蹴られたようだ。

「ぷっ」
「あはは。見かけによらず逞しいところは、やっぱり百合ですね」
「そうよね。百合ってか弱そうに見えて、実は強い花なのよね」
 あの二人がどういう関係だろうと、大切なお客様であることには変わりない。これから土曜の夜には、白百合のストックが切れないように気をつけなければ。でないと黒髪の男に生傷が増えていきそうだ。

 自分の店の花が二人の人間を結びつけた光景を実際に見ることができて、店主は満足している。やっぱり花はひとを幸せにする力を持っているのだ。

「いらっしゃいませ」
 次の来店客に笑顔を向けて、店主は晴れやかに声をあげた。




 ―了―



(2009.4)



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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青木、あんたには負けた‥

しづさん、お疲れさまでした~♪
お仕事の方もお疲れ様です~(^_^;)

一応のハッピーエンドですね‥えっ?まだ、山あり谷ありですか?
分かってます(笑)
しづさんの薪さんですものね‥青木も苦労が絶えませんね。
だけどほんとうの‥正真正銘ラブラブになったら‥
薪さんのことですから‥のめり込み‥ということを期待したいと‥
あああ‥やっぱりダメかしら‥。
白百合のきみは‥一筋縄ではいかない‥??まだ?
今まで待ってたんですから、あと何年後を‥見てみたいです(^^♪

それにしても‥。
青木の辛く切ない努力に敬意を表します!
いつも苛めてほしい‥そう思ってましたけど、
さすがに、Sでも‥青木には参った‥という感じです(^^ゞ

今回もレスなど気になさらずお仕事頑張ってくださいませ。

ruruさんへ♪

いらっしゃいませ、ruruさんっ(≧∇≦)

> 一応のハッピーエンドですね‥えっ?まだ、山あり谷ありですか?
> 分かってます(笑)
> しづさんの薪さんですものね‥青木も苦労が絶えませんね。

おおお、ruruさん、さすが学習機能がすんばらしい!
はい、これから谷ありフォッサマグナあり、マリアナ海溝ありですっ!(GLマイナスかよ)


> だけどほんとうの‥正真正銘ラブラブになったら‥
> 薪さんのことですから‥のめり込み‥ということを期待したいと‥
> あああ‥やっぱりダメかしら‥。

大丈夫ですよ~、ちゃあんとのめり込みますよお。
のめり込んじゃうから辛くなるんじゃないですかあ、ふふふ~(←またアクマ的なことを考えている)


> 白百合のきみは‥一筋縄ではいかない‥??まだ?
> 今まで待ってたんですから、あと何年後を‥見てみたいです(^^♪

見てみたい、とおっしゃっていただいて、とってもウレシイですっ。
はい、頑張って先のお話をアップしますね(^^


> それにしても‥。
> 青木の辛く切ない努力に敬意を表します!
> いつも苛めてほしい‥そう思ってましたけど、
> さすがに、Sでも‥青木には参った‥という感じです(^^ゞ

思いを遂げられるのは、3ヵ月後くらいです。
7月に地獄の初夜パート2が(笑)
もー、この話は初めっから終わりまでその話です。すっごい下品だし。あ、でもruruさんだけは読んでくれると信じてます!(どういう意味でしょう??)


> 今回もレスなど気になさらずお仕事頑張ってくださいませ。

ありがとうございます!
実は今、設計書待ちの状態なんですよ。(設計書がないと、工事書類は作れません)
そんなんで検査の日時が決定しているという・・・・おかしくないか、うちの市役所?
届き次第、第九モードに突入いたします。頑張りますっ。

Sさまへ

こんにちは、Sさま。
お返事おそくなりまして~、すみません(^^;


>お花屋さんから見たような雰囲気の二人が私は好きなんですね。とても自然で、青木が犬のようで(勿論ほめているんですよ~)。

ありがとうございます~。
はい、本人たちは意識してなくても、周りから見たらけっこういい雰囲気なんだと思います。
そして、青木くんが犬(笑)
はい、青木くんには、犬の精神を貫いて欲しいです。一度決めたご主人さまは、一生ご主人さま、みたいな。


>青木のばかみたいな、あけっぴろげな薪さんへの讃歌、ホント心が安らぎます。

このストレートなところが彼の武器ですよね。
素直さと率直さを失わないひとって、周りから愛されますよねえ。・・・・・・わたしも見習わなきゃとは思うんですけど、もう遅いかな(^^;

読んでいただいて、ありがとうございました~!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Sさまへ

2/19 コメントいただきました Sさまへ



Sさま、こんにちは~!
お返事遅くなってすみません~!



>ガーリー系薪さん!

はい、こちらもガーリー系薪さんでございますね。 オトメ化率99%でございます。(笑)


> しづさんちの青木くんの影の指南役『彩華さん』の初登場はここでしたね☆
> そうそう初めて読んだ時も口調が妲己なのねンって思いました(笑)

妲己ちゃん、ご存じなんですね♪
わたしは別格で太公望が好きでしたけど~、
その他のキャラの中では申公豹イチオシでございました。(笑) あのつかみどころのない性格が、ツボ! でしたネ。

普賢は~、
仙界大戦のとき、死んじゃったんですよね……太公望が初めて涙を見せるシーン、痛かったです。 親友だったんですよね。 後にも先にも、彼の涙を見たのはあれだけだったと思います。    (一昨年くらいに読み直したんですけど、忘れちゃった。)



> ここから第3部ってありましたけど、少なくとも私にはただのBL小説だなんてことないです。だってここから先もどんどんいろんなこと起こるでしょ。まあ、愛の試練的な?簡単に幸せになれないのね。

いや、Sさん、世ではそれをBL小説って言うんですよ!
男同士の恋愛を主題に持ってきてるものを、BLと言うんです、ボーイズ・ラブですから☆  (青木さんも薪さんもボーイズって年じゃありませんけど。 オヤジラブだからOLか?)
BLというのは決して卑俗的なもではなく、男同士ゆえの恋の切なさ、性別を超えてまで愛し合う素晴らしさを謳っているのです。 わたしは興味ありませんけど。←おいいぃっっ!!! (すみません、少年漫画が好きなんです。 ラブはあんまり……)

えっとね、
2部までは、薪さんに課せられた罪と贖罪と、それを青木さんが救う、そこをテーマに書いてたんです。 恋愛よりも、そっちがメインだったんです。 「秘密」って元々、こっちがメインの話だと思うんですよね。
で、3部からは恋愛問題が主になって行くので~、もうこれ、薪さんと青木さんじゃなくても有り得る話だなって。 だから「ただのBLです」って言ったんです。

ただ、うちの話は、
2部の終わりで薪さんが鈴木さんの本心に気付き、薪さんは救われるというラストになってますので、その先もずっと罪悪感を引き摺るようでは話の意味が無くなってしまうので~、
だから本当は2部で完結させた方が話としてはまとまってたと思うんですけど。 これは二次創作なのでね、書きたいだけ書いちゃった。(笑) 
なので3部からは、薪さんは段々に鈴木さんのことを過去にして、青木さんとの未来に生きていく、という流れにしてあります。


> しづさんのお書きになるものは、それぞれに紆余曲折があって、それで大きな一つのあおまきさん物語になってて、本当に何度読んでも飽きません。

ありがとうございます~、て、あり過ぎですよね。(^^;)<紆余曲折。
何度読んでも飽きないなんてまあうれしい、ぎゃーっ! 読み直しちゃダメだって、アラが矛盾が~~!!!
一応ですね、前の話を受けて次の話が展開するようにキャラの心情には配慮しているつもりですが、けっこうあちこち矛盾してて~、穴だらけなんですよ~、見逃してくださいね。


> このお話はまずタイトルがしゃれてる。あと、最初と最後が花屋さんの場面っていうのが何だかドラマのシナリオみたいで、お洒落です。

題名と作りはオシャレにしたんですけどね、何たって二人の初夜だから。
でも内容が。(笑) 薪さんの病気疑惑と彩華さんが。(爆)

薪さんがイタイのはですね、わたしのシュミです。←鬼畜。
だって~、そこに快感が無くても抱き合いたい、痛みは愛でカバー、という自己犠牲的エッチは、受けの健気さ全開じゃないですか? それは最初のうちしかできない、愛の形だと思うのです。
え、本当は薪さんの例の病気疑惑のギャグが書きたかっただけだろうって? きゃー、それ言っちゃダメーー!!


> でも、『タイムリミット』で岡部さんに「足を引きずって歩いていた頃のあなたの方が幸せそうだった」ってしづさんも言わせてますものね。やっぱり肉体の痛みは精神の充実感でしのぐことができるんですよね。
> この薪さん、心がちょっとガーリーになってます。ヘアスタイルは普通だったかな、ふふふ。

幸せだったんだと思いますよ~。(^^
好きな人が自分を求めてくれる、自分を抱いて喜んでくれる、それだけで痛みなんか吹っ飛んじゃうんですよね。 不思議ですねえ、オトメって。(笑)


> 最新作は、ファンクラブの方々の意見交換で笑わせていただきました。
> いやいや、愛でる会の前身ですか?それとも愛でる会はまた別会派かしら。愛でる会は5課の人が多そうだから(笑) 偉い方々で構成されてるらしきファンクラブで使用済み紙コップや割り箸は、かの精神科医のようでヤバいでしょう。デスクトップの壁紙の方が健全っぽいけど、でも薪さんのかあ・・・やっぱ仕方ないかも。。。
> あれ?

笑っていただけて嬉しいです♪
しかし、この警察、上層部がこんなことやってて、いつ崩壊してもおかしくないですよね。 貴重な人員と職務時間使って何やってんだか。 給料ドロボーばっか。(--;

あの雑誌が彼らに見つかったら……
そらーもう大騒ぎでしょうね☆
本当に、こんな警察機構だったら本部内手配なんて怖くも何ともないんですけどね。(笑)

Aさまへ

Aさま。
過去記事にコメントありがとうございます。

今になってみると、どうしてこんなに無茶苦茶な展開にしたんだか自分でも疑問です(^^;
単純に痔疑惑のギャグと彩華さんが書きたかっただけかも、いやさすがにそれはない。
あるいは薪さんが痛い思いするのに萌えたのかも、いやそれひどい。

多分ですね、
この頃の薪さんは青木さんを受け入れると決めたものの未だ心の中には鈴木さんへの気持ちが多分に残っていて、それは決して誰からも責められることじゃないのだけれど自分自身それが許せなくて、結果身体が強張ってしまってスムーズに事が運ばなかった、という設定で書いてたんだと思います。
4年も経つと忘れちゃうね(笑)


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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