執行猶予(4)

執行猶予(4)







「角膜バンクはあんまりじゃないですか?」
 向かいのベッドに腰を下ろして、青木は拗ねたように言った。
「おまえが間抜けだからだろ。あんな画を見逃しやがって。もっと訓練しとけ」
 すみません、と素直に頭を下げる。これに関しては反論する気はない。たしかに犯人が映った画を見逃した自分が悪い。
 ベッドに横たわった美貌の室長の目には、冷たいおしぼりが置かれている。タオルの下から、こじんまりした鼻とつややかなくちびるだけが覗いている。目隠し状態の薪は、なんだかエロティックだ。

「岡部が帰ってきたら、ここへ呼んでくれ。マッサージ頼みたいんだ」
「オレがやってあげますよ」
「おまえ、いつも途中から別のことになっちゃうじゃないか」
 それは薪があんな声をあげるからだ。
 風呂上りのいい匂いと、色っぽいうめき声。しなやかに仰け反る四肢と、びくびく動く腰。あれで我慢しろと言う方が無理だ。

「いいから、おまえはさっさと角膜バンクへ行ってこい」
「目が見えなくなっちゃうのは困ります。薪さんの顔が見られなくなるなんて、耐えられません」
「僕はその方が都合がいいけどな」
「またそんな意地悪言って」
「おまえに言われたくないぞ。僕にあんなことしといて」
「あんなことって?」
「僕がイヤだって言ってるのに無理矢理。いくら頼んでも止めてくれなかったくせに」
 薪の声は平静を装っているが、タオルの下の頬が赤くなっている。この文句は、たぶん一昨日の夜のことだ。

「汚いと思わないのか? あんなところ」
 思わない。薪に汚い所などない。
 シミひとつない白い肌。優美な手足に華奢な背中。細いながらに強いばねをもった腰。顔もきれいだが、身体も非の打ち所がない。こういう仲になって解ったことだが、100人は斬ったと豪語していた薪の女性遍歴は真っ赤なウソで、実は性経験は青木より少ない。そのせいか、薪のそこはとてもきれいな色をしている。
 それに、薪はひとに気を使う性格だから、青木に会う前には必ず風呂に入っておいてくれる。青木が好んでキスをしたがる場所も念入りに洗ってくれるらしく、顔を近づけると石鹸の匂いがする。
 ピンク色をした清潔な香りのそれを、口に含んで舐め上げてやることになんの抵抗も感じない。それから、もっと秘められた部分も。

 近い将来、自分を受け入れてくれるはずのその場所をひと舐めしたら、ものすごい勢いで抵抗された。足をばたつかせて逃げ出そうとしたから、力づくで押さえつけてやった。
 やめろ、と叫ぶ声を無視して奥の方まで舐め溶かしてやった。石鹸の香りとは違う、強いフェロモンを持った香りが奥のほうからしてきて、これが薪の匂いなのだな、と思った。薪の体臭を濃縮したような、甘やかで清冽な香。香りに酔って、夢中で責めてしまった。
 薪のその部分は長いブランクのせいで未だに固く、血を流さずに青木を受け入れることはできない。だから一昨夜はベッドの中でじゃれていただけだ。からだを繋げる行為はしていない。
 薪が最後まで許してくれるのは、土曜日の夜。
 その日だけは特別で、薪はとても健気な恋人になる。これから味わう苦痛を知ってなお、青木に身体を開いてくれる。薪のからだを気遣う青木に、「僕がそうしたいんだ」と言ってくれる。身も心も、全部自分に捧げてくれる。そんな薪が愛しくて愛しくて、だから青木はどれだけ薪に苛められても、薪から離れられない。

「あれはもう禁止だからな。二度とするなよ」
「そんな約束はできません」
 職務において部下が上司の命令に背くことは重大な違反行為だが、この場合は当てはまらない。熱愛中の恋人同士のベッドの中に、決まりも規則もないからだ。
「じゃあ、もうおまえとはしない」
 さらっと打ち切りを宣告されて、青木は真っ青になる。
 規則はないが、上下関係はたしかに存在している。結局は惚れたほうが負けだ。

「それだけはカンベンしてください」
 神様に祈るように、両手を合わせて頭を下げる。意地もプライドもあったものではない。薪にこころを奪われた時点で、そんなものは青木の中から消滅してしまった。自尊心の欠片でもあったら、薪とは付き合えない。
 青木にとっては悩みの種だが、薪のセリフは強がりではない。薪は昔からそちらのほうの欲求は極端に薄くて、なくてもちっとも困らない。そもそもゲイではないから、男に抱かれて悦ぶ趣味はないのだ。その証拠に、彼の数少ない性経験のうち男性はひとりだけで、他はみんな女の子だ。とある事情から今は行かないが、若いころは風俗にも通っていたみたいだし、鈴木のことさえなければ本当に普通の男の人なのだ。
 運命の悪戯としか思えないが、青木はその普通の男に恋をしてしまった。それから2年も掛かって口説き倒して、ようやくOKしてもらったばかりなのだ。青木の立場が弱いのは、仕事上の上下関係だけが理由ではない。

「わかりました。もうしません」
 素直に薪の言い分を受け入れるふうを装って、青木は神妙な顔つきを作った。
 ここはこう言っておけばいい、とこころの中で呟く。恋人同士になったのは最近でも、薪との付き合いは3年目だ。薪のヒネくれた性格は心得ているし、このセリフがただの意地悪だということもわかっている。
 それに、一昨夜のことだって本当に嫌がっているようには見えなかった。あのときの薪は追い詰められたような声を上げて……最後の頃はたまらなくなって、足を青木の肩に絡めて腰を使ってきたくせに。
 でも、このことは言えない。薪の痴態を指摘しようものなら、本気で絶交されかねない。一回りも年下の男によって自分が快楽に導かれることを、薪は屈辱だと思っている。それを慮らせるのは、行為の最中に薪が頻繁に口にするセリフだ。

『僕はおまえより12歳も年上なんだぞ』
『僕は女の子じゃない』
 どちらも恋人同士のベッドには不必要な事実だ。

 青木と違って薪のプライドは天より高い。それを忘れて軽口を叩くと、青木にとって甚だ芳しくない結果になる。だから青木はどこまでも低い姿勢を崩さない。

「薪さんの言う通りにしますから。また週末、行ってもいいですか?」




*****

 いちゃつく二人なんか書いたことがないから、むず痒いのなんのって。
 読むのは好きなんですけど、書くのは苦手です。 身体中、カユイよ~~。(^^;


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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No title

しづさん、お疲れさまです(^-^)
もう、大丈夫かな‥と思いましてお邪魔いたしました。

‥かゆいですか‥(笑)
痒がっちゃうからアトピーとかの広告が入っているじゃないですか(^_^;)
私もしづさんちのコメに連続して青木賛美を書いたら痒くなっちゃいました。
後悔してます(笑)私はどうしちゃったの??
未だに恥ずかしくしづさんのレスを読ませていただいてはいません。
ヘンでしょう?


それはそうとお二人、仲良しなようで‥安心。
痴話げんかの範囲でしょうか‥。
しづさんちの薪さんはベッド以外では言いたい放題、青木よりも
随分と上にいらっしゃいますが‥ベッドでは‥腐腐ふふふ‥
読者としてはそのギャップに萌えるのですが。

薪さんのプライドなんですね、年齢や性別を口にするのは。
それを言うのはまだ最後の砦を‥心の最も奥を青木に
開いていないということでしょうか?
体は開いても‥(笑)すみません‥下品で。
どうなのか知りたくて。
この先の創作に支障がありましたらお答えは控えて下さってけっこうですから。
なんだか気になって。
体はともかく心は開ききっているのかな‥?
でも‥なにかあるとガラガラと壊れていくのかな‥?
なんて考えておりました。

でもリバースもありとか(笑)
だったら‥上のようなことはありえませんね。
しづさんのお話だから分からないかも‥一寸先は‥闇。
あおまきすとでしたね‥失礼いたしました。

無理はいけませんよ、睡眠、休養は取って下さいませ<m(__)m>




ruruさんへ

こんにちは、ruruさん~、コメントありがとうございます!
ruruさんちにお邪魔はしたんですけど、コメ入れてなくてすみません(^^;
そうそう、『激甘青薪宣言』されてましたね。ruruさんらしいです。じゃ、うちは激辛宣言で!<おいおい。


> ‥かゆいですか‥(笑)
> 痒がっちゃうからアトピーとかの広告が入っているじゃないですか(^_^;)

本当だ。
ruruさんに言われて確認しましたよ(笑)
昔、勝負パンツの話を書いたら下着の宣伝が入ってて笑いましたけど、今度のも笑えます(^^

> 私もしづさんちのコメに連続して青木賛美を書いたら痒くなっちゃいました。
> 後悔してます(笑)私はどうしちゃったの??

お互い、慣れないことするから(笑)
無理はダメってことですよね。


> それはそうとお二人、仲良しなようで‥安心。
> 痴話げんかの範囲でしょうか‥。

これは完全に痴話げんかですねえ。じゃれてるだけです。あー、カユイ。
まだ書いたことないんですけど、うちはふたりとも武闘派なので(どーゆーあおまきさん?)取っ組み合いのケンカになったらものすごいと思うんですよ。面白そうだなあ、書いてみたいなあ。


> しづさんちの薪さんはベッド以外では言いたい放題、青木よりも
> 随分と上にいらっしゃいますが‥ベッドでは‥腐腐ふふふ‥
> 読者としてはそのギャップに萌えるのですが。

これって、オヤジが大好きなシチュですよね。(笑)
昼間はヒステリックに自分を叱責する女上司が、夜になると自分の下になって~~、というパターンですね。<こらこらこら!!
いかんいかん、ruruさん相手だとヘンタイトークがどこまでも突っ走っちゃいそうです、やばすぎます。(^^;


> 薪さんのプライドなんですね、年齢や性別を口にするのは。
> それを言うのはまだ最後の砦を‥心の最も奥を青木に
> 開いていないということでしょうか?
> 体は開いても‥(笑)

おおっ、ruruさん、鋭いです!
その通りです。
この頃の薪さんの気持ちは、次のお話に書きましたので~、多分、ひんしゅくだろうなあ(^^;


> 体はともかく心は開ききっているのかな‥?
> でも‥なにかあるとガラガラと壊れていくのかな‥?

ええ、そりゃあもう木っ端微塵に(笑)
この年の夏のお話を楽しみにしててください!あ、でもあれはあおまきすとさんは読んじゃダメかも、ってどっちなんだ(^^;


> でもリバースもありとか(笑)
> だったら‥上のようなことはありえませんね。

書いてみたんですよ~、けっこう面白かったです。うちの薪さんはノーマルなのでね、相手が欲しいと思えば攻めに回るのは当然なんです~。

付き合いだして6年後のお話なので、まだまだ先の話です。(公開する気はないので、安心してください。イメージ崩れちゃいますものね)
うちの薪さん、成長したと思いません?青木くんの裸見て、そういう気が起きるようになったんですから。いやー、たいしたもんだ。(笑笑)


> しづさんのお話だから分からないかも‥一寸先は‥闇。
> あおまきすとでしたね‥失礼いたしました。

ruruさん、優れた学習機能をお持ちですねwww。
しづはあおまきすとですけど~~、書き出すと止まらないので~~、
でもでも信じてくださいねっ、しづはあおまきすとですからねっ(必死)


> 無理はいけませんよ、睡眠、休養は取って下さいませ<m(__)m>

ありがとうございます。
検査が終わったので、これからは毎日ブログできると思います。
あ、ruruさんのところにもコメ入れに行きますね。読み逃げしててごめんなさい(^^;

ruruさんも無理なさらないでくださいね。子供さんの世話だけで目一杯忙しいですよね。その中での新作執筆、尊敬いたします。
わたし、この冬は殆ど書いてなくて~~、
みなさまの創作を読ませていただいたら、わたしも何か書こうと思います。春らしく、ピンクなお話を♪(Rじゃないですよ(^^;))

それでは、ruruさんのブログでお会いしましょう☆☆☆
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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