きみのためにできること(2)

きみのためにできること(2)








 木曜日の部長会議に、薪は出席することにした。
 本音ではあまり参加したくない会議なのだが、これも仕事のうちだ。それに、今回は警務部長に頼みたいこともある。
 来春の人事で、岡部を警視に昇任させて欲しい。
 岡部には、ゆくゆくは第九の室長になってもらわねばならない。自分の後を任せられるのは、彼だけだ。実力、才覚ともに申し分ない。研究室のメンバーからも絶大な信頼を得ているし、誰が室長になるよりスムーズにことが運ぶだろう。
 が、問題がひとつ。岡部の役職は、警部なのだ。

 室長になるには警視正以上の階級であることが必須要件だ。とりあえずは今春、警視の特別昇任人事を警務部長から発令してもらい、再来年には警視正の試験を受けさせる。その話を警務部長に持ちかけるつもりだった。
 本来なら会議のついでではなく、人事部に出向いて話をしなければいけないところだが、薪はある事情から彼の私室に行くことを避けている。もっと言ってしまえば、警務部長の間宮とはふたりきりになりたくないのだ。

「やあ、薪くん。相変わらずきれいだね。会えてうれしいよ」
 会議室に入ってきて、人目も憚らずにのたまったセリフがこれだ。いい加減あきらめればいいのに、この男もたいがいしつこい。
 警務部長の間宮は、男女交えて10人以上の愛人を持っているという恋多き男だ。薪のことをその一端に加えようと、色々やってくれた。薪にとっては思い出したくないことばかりだ。間宮はかなりのイケメンだし、警務部長という立場からも相手には不自由しないだろうに、どうして自分に執着するのだろう。

「警視長試験はどうだった?」
「結果は秋にならないと判りません」
「判りません、て顔じゃないな。自信あるんだ」
 それには答えず、薪は黙って目を伏せた。間宮は隣の椅子に腰を下ろして、薪の肩に手を伸ばしてきた。払いのけたいのを必死でこらえ、薪は身を固くした。

「来年の春には警視長か。俺のテリトリーを離れるわけだ」
 警視長から上の人事は、上層部が決定する。薪の配属先に関して、間宮は決定権を持たなくなるのだ。つまり、人事を理由に薪に圧力を掛けることはできなくなる。
 といっても、今までそれらしきことをされた覚えはない。どちらかと言うと間宮の人事は薪にとって都合のいいほうに働いていて、昨年の3人の新人キャリアの配属などは、その最たるものだとも言える。薪自身はあの人事を喜ばなかったが、間宮にしてみれば第九の人手不足を補うつもりで配属を決定したのだろうし、結果的に岡部を副室長に任命することもできた。
 間宮の邪な気持ちを考慮に入れれば、あれは自分の気を惹くための人事だった可能性もある。その後の女子職員についても、もう新人キャリアは勘弁してほしい、と頼んだ件についても、間宮は薪の望み通りの人事をしてくれた。だから、今日の頼みもきっと勝算がある。

「あの、間宮部長。ちょっとお話があるんですけど。この会議の後、いいですか」
「きみの言うことなら何でもきいてあげるよ。女子職員? それとも昇任人事?」
「昇任人事のほうです」
「岡部くん?」
 当たりだ。
 この男は下半身でものを考えるような最低の外道だが、頭はいい。仕事もデキる。特に間宮ノートと称される人事管理データには、署内の職員たちの細かい個人情報がぎっしりと書き込まれている。そのデータから下される間宮の人事考課は、実に正当だ。間宮のことは虫唾が走るほどに嫌っている薪だが、人事部長としての才覚だけは認めている。

「う~ん。ちょっと難しいかな。彼は去年の春に、特別就任の特例措置をとったばかりだろ。もう少し留保期間が欲しいところだね」
 岡部は警部でありながら、第九の副室長という役職に就いている。普通、副室長は警視以上の階級の者が務める慣わしになっているから、この人事も間宮の特別承認によるものだったのだ。
 間宮自身、岡部の実力は買っているから、その人事の際には二つ返事で承認印を押してくれた。実際はバックボーンがあって、ある出来事を水に流すことを条件に辞令を発行してもらったのだが、そのことは岡部には内緒だ。

「そこをなんとか。間宮部長のお力で」
 肩に置かれた間宮の手に自分の手を重ねて、薪は上目遣いに警務部長を見上げた。こんな男に媚びるのは業腹だが、大事な部下のためだ。
「あれ? 薪くん、もしかして恋人できた?」
「は?」
「ああ、やっぱり。誰かのものになっちゃったんだ」
「……なんで分かるんですか?」
「肌の色と匂い」
 今までと、どこがどう違うんだろう。
 恋人ができると肌の色がピンク色にでもなるのか? 甘ったるいケーキの匂いでもするのか?

「肌の艶が良くなったし、色っぽい匂いがする」
 色っぽい匂いって、どういう匂いだろう。
 匂いの心当たりは今朝のコーヒーだけだが、実はそれは恋人と一緒にベッドの中で飲んだものだったが、千里眼じゃあるまいし、まさかそんな。

「しかも熱愛中だね。どこのだれだろうな、その幸運な男は」
 なんで男と決めつける!?
 いや、たしかに男だけど、反論できないけど。でもやっぱり不愉快だ。

「あのですね、僕が好きなのは、ぽっちゃり系の小柄な女の子で」
「ダメだよ。俺にはわかるって言っただろ?」
 間宮はすっと立ち上がり、薪の背中に回った。くいっとワイシャツの後ろ襟を引き、中に目を走らせる。
「ほら。証拠が残ってる」
 ……だから、痕をつけるなっていつも言ってるのにっ!

「痕を残すのが好きな女の子なんですよ」
「背中に? ちょっと不自然じゃない?」
 自分でも言い訳がましいと思うが、以前は間宮の誘いを『自分は男には興味がない』という理由で断っていた薪としては、熱愛中の恋人が男だと白状するわけにはいかない。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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ま、間宮様~私の背中も‥

‥ふふふふふ‥ファン?いる訳ないですって‥?
しづさん、分かってるくせに(笑)

かぁーーーっ!肌の色と匂いで分かるなんて‥
ヘンタイの中のヘンタイですね!たまりませんっ(^∀^;)
その場面が目に浮かびます‥ワイシャツの後ろを引っ張って‥
ぎゃーーーっっっよ、ヨダレが‥
私が超美形の男子だったら‥くっそーーっ
‥すみません‥かなりイっちゃってます。
間宮様はもう書いては下さらないものと思ってましたから‥
いゃっほ~(^O^)です。
いゃあ、リクした甲斐がございました(T_T)
超嬉しい‥えへへへへ‥←ほんと、すみません‥ヘンタイ好きで。
薪さんもひと舐めくらいさせてあげれば‥
不穏当、不適切な発言お詫びいたします<m(__)m>

ああ‥嬉しいなぁ間宮様のようなキャラを生むしづさん‥天才!
あははっ‥あははっ‥またまいりますねっ!
おかしな私のことは気になさらないでくださいませっ!
失礼いたしました。えへへへへ‥

ruruさんへ

こんにちは、ruruさん~。
青の陰影、佳境ですよね。読み逃げしててごめんなさい、でも続きをとっても楽しみにしてます。あとでまた伺いますね!


> ‥ふふふふふ‥ファン?いる訳ないですって‥?
> しづさん、分かってるくせに(笑)

でた、世界でただひとりの間宮ファン!(笑)
ほんっとruruさん、やさしいですね(^^


> かぁーーーっ!肌の色と匂いで分かるなんて‥
> ヘンタイの中のヘンタイですね!たまりませんっ(^∀^;)

かぁーーーって(笑)
そうなんです、わかるんです、間宮はキングオブヘンタイです!!(なんだ、この会話は。ruruさんとしかできないよ、楽しー♪)


> その場面が目に浮かびます‥ワイシャツの後ろを引っ張って‥
> ぎゃーーーっっっよ、ヨダレが‥
> 私が超美形の男子だったら‥くっそーーっ

あ、大丈夫ですよっ!
間宮はバイですから。美人なら男も女もOKです。ruruさんの美しさなら、両手広げてウェルカムです!!
どこまで節操なしなんでしょう、この男(笑)


> ‥すみません‥かなりイっちゃってます。
> 間宮様はもう書いては下さらないものと思ってましたから‥

だから、間宮に様をつけちゃダメですってば(笑)
様付けで呼ばれるような人間じゃないですよ、彼は。わたしが乗り移ってますから♪


> いゃっほ~(^O^)です。
> いゃあ、リクした甲斐がございました(T_T)

わたしも書かないつもりだったんですけど~、票が集まっちゃったから。まさか彼が3位になるとは・・・・作者の予想を上回ってくれました(^^;

ruruさんがお望みなら、これからも書きます!ヘンタイ度は下がっちゃいますけど。
あおまきさんがくっついた後のセクハラは、ただの嫌がらせになってしまうので、あまりさせたくないんです。くっつく前なら青木くんを奮起させたり、間宮と青木くんは違う、と薪さんに思わせたりと使い道があったんですけど、今更セクハラしても意味がないですよねえ。
え?ruruさんが楽しい?
嫌だわ、ruruさんたら。しづと同じご意見♪(言ってない)


> 超嬉しい‥えへへへへ‥←ほんと、すみません‥ヘンタイ好きで。
> 薪さんもひと舐めくらいさせてあげれば‥
> 不穏当、不適切な発言お詫びいたします<m(__)m>

ひと舐めって(笑)(打ち消してるのにレスするな)
どこをですか?(←不穏当な発言)


> ああ‥嬉しいなぁ間宮様のようなキャラを生むしづさん‥天才!


ありがとうございます!
天才とヘンタイは紙一重って言いますものね!(言わない)


> あははっ‥あははっ‥またまいりますねっ!
> おかしな私のことは気になさらないでくださいませっ!
> 失礼いたしました。えへへへへ‥

ruruさん、笑い方が素敵ですwww。
はい、お待ちしております。
コメントありがとうございました(^^

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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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