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きみのためにできること(5)

きみのためにできること(5)









 薪が官房室に出向いたのは、金曜日の室長会議の後だった。
 岡部の推薦状をもらうためにわざわざ出向いたわけではなく、これはいつもの定例報告だ。小野田に何と切り出したら良いものか、薪はまだ決めかねている。
 先日、あんな風に小野田に口答えをしてしまったことが、薪の心を重くしている。小野田には返しきれないくらいの恩を受けているのに、その彼を悲しませるような真似をしてしまったと思うと、申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。とても頼みごとのできる心境ではない。
 とは言え、岡部の件は速やかに処理したほうがいい。特別研修の申込みの締め切りは、今月の末だ。期限に間に合わなかったら、岡部の昇任は難しくなる。

 決意を固めたときのクセで、薪はぎゅっとくちびるを引き結び、眉をきりっと吊り上げて、穏やかな顔つきで報告書を読む小野田に声を掛けた。
「小野田さん。実は岡部のことなんですけど」
「ああ、はいはい。出来てるよ。これね」
「え?」
 差し出された書類を見て、薪は目を丸くした。
 警視監小野田聖司の名前入の推薦状。推薦事由もきちんと記入されていて、朱印も押してある。

「あれ? 違った?」
「いいえ、ありがとうございます。でも、どうして」
「何日か前に間宮がここに来て。きみがこれを必要としてるって言うから」
 あの腐れ外道が?
 小野田とは敵対関係にあるはずの彼が、どうして官房室に足を運んだのだろう。

「間宮はたまに来てるよ。受付の女の子にちょっかい出しに」
 なるほど。あの男の下半身の前には、政敵や確執までもが吹き飛ぶらしい。どこまでも見下げ果てた男だ。
「そのついでに、ぼくときみのことを冷やかしていくんだよ。『ケンカなんかしてると、火遊びの相手に薪くんを奪られちゃいますよ』って言われたけど、どういう意味だろうね」
「先日、部長会議で顔を合わせたときに誤解が生じまして」

 申し訳ありません、と頭を下げて、薪は密かに安堵する。
 今回ばかりは、間宮の嫌味に助けられた。ケンカ中というわけではないが、言い出しづらかったのは本当だ。自分は現在、小野田の意に副わぬ相手と恋人関係にある。それは小野田が心配するように、ひとに知られてはいけない関係だが、自分たちは真剣に愛し合っている。
 後ろめたいと思うことは何もないはずだし、そんな風に感じること自体恋人に申し訳ないと自分を恥じつつも、心の隅に刺さった常識という小さな棘はなかなか抜けない。そして、自分たちの関係を喜んでくれる人はこの世に一人もいないという事実は、もっと薪を落ち込ませる。

「浮かない顔だね。岡部くんの抜けた穴が気になるなら、官房室から誰か回そうか」
「あ、いえ、大丈夫です」
 小野田は薪にはとても甘くて、いつもこうして気遣ってくれる。でも、今はその気遣いが心苦しい。自分は小野田の要望に応じることができないのだ。
 受け取るばかりで返せない愛情。自分は小野田に、何をしてやれるのだろう。

「そうだ、薪くん。こないだのお弁当、すごく美味しかったよ。特に出汁巻き卵と筍ごはん。今度また、作ってくれない?」
 そんな言葉で、小野田はあの日のことに対してわだかまりがないことを薪に教える。そのさりげない心配りに、涙が出そうになる。
 心から尊敬している。人間として、上司として。小野田の下で働けて、自分は幸せだと思う。

「はい。よろこんで。何かリクエストはありますか?」
「そうだな。茶巾寿司とか、作れる?」
「ええ。じゃあ、次の定例報告のときにでも」
「楽しみにしてるよ」
 薪は深くお辞儀をして、官房長の部屋を辞した。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Tさまへ

はじめまして、Tさま。
拍手とコメント、ありがとうございます!!

最近、ということは、4月の下旬くらいに沢山拍手をくださったのは、Tさまでしょうか?
読んでいただけるだけで、とってもうれしいです。その上拍手やコメントまでいただけて、舞い上がっちゃいそうです。感謝します・・・!


Tさまは、原作の『秘密』にも、最近はまったばかりなんですか?
それでうちのを読んじゃったんですか? 
す、すみません~~~、イメージぶち壊してごめんなさいい~~~!!!


過分なお褒めの言葉をありがとうございます。
一瞬、よそ様のサイトのことかしら、と思ってしまいましたが(だって、うちのはシモネタギャグなのに、素敵なんておっしゃられたら~~~、恥ずかしいです(><))
ありがたく頂戴いたします!!!


あおまきサイコーっ!とのお言葉、わかります!!
わたしも一緒に叫びます、サイコーですよねっ!!
どう見ても思いあってるふたりなのに、どうしてああなっちゃうのかしら、と切ない気持ちになることも多いのですけど、それでも薪さんを応援せずにはいられません。
薪さんが、何の憂いもなく笑ってくれるようになって欲しいです。


はい、これからもがんばりますっ!
薪さんの幸せが原作で確認できるまでは、書き続けようと思っていますので、今後ともよろしくお願いいたします(^^



プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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