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バースディ(3)

 ようやく普通に晒せます、と思ったらこれでおしまいです。
 すみませんでした~~(><)








バースディ(3)






 忙しさが売りの第九にも、憩いのひとときは存在する。
 進行中の事件がなければという条件付ではあるが、その時間には外の空気を吸いに中庭に出たり、堂々とお喋りに興じることができる。

「みなさん、どうぞ」
「お、サンキュー、青木」
 梅雨前線真っ只中の今時期、職員たちが署内の噂話に花を咲かせていると、たいていは気の利く新人がコーヒーを持ってきてくれる。
 青木はもう3年目になるのだから新人とは呼べないのだが、見かけの純真さと素直な性格のおかげで、かわいい後輩の座をキープし続けている。
 その後輩がコーヒーを置いていったあと、小池は曽我にこっそりと話しかけた。

「青木のやつ、昨夜はお楽しみだったみたいだぜ」
「なんでわかるんだ?」
 小池はにやっと笑って、あいつも大人になったよな、とからかうような口調で言った。
「今朝、ロッカールームで着替えてんの見たんだけど。背中じゅう爪痕だらけでさ、肩には歯形まで残ってたんだよ」
「へえ。でも、青木の相手は三好先生だろ? そういうタイプに見えないけどなあ」
「違うな。証拠があるんだ」
 捜査官にとって、証拠はとても大切だ。そこから組み立てられる仮説の信憑性に関わってくるからだ。

「爪の間隔と歯形が、三好先生のものにしては小さすぎるんだよ。それに、三好先生って4月頃に女になったばかりだろ。そんなにすぐに感じるようになるかよ」
「じゃあ浮気ってことか?」
「まあ、相手がバージンじゃムリもないって。たまには熟練した女が抱きたくなるさ」
 雪子の誤解は解消されないまま、どうやら定着してしまったらしい。薪にかけられたもうひとつの誤解もそのままだ。職員たちの勘違いは、いまや室長を超えるかもしれない。

「小池」
 名前を呼ばれて、小池はぎくりとした。
 この氷河期の海の底のような声の響きは……。
 振り返ると予想通り、額に青筋を立てた薪が腕を組んで立っていた。

「今月いっぱい、MRIのメンテナンス、おまえひとりでやれ」
「え! な、なんでですか!?」
「僕がそう決めたからだ!」
 怒鳴りつけられて青くなる。反論が許されるような雰囲気ではない。思い切り辛辣な眼で小池を睨むと、薪は靴音も高く室長室へ入っていった。

「なんで室長、あんなに怒ってんだ? なんでだ?」
「青木が浮気したからじゃないのか。三好先生と室長は親友だから」
「それがどうして俺のところへくるんだよ。青木に言えばいいじゃないか」
「まあ、そこは薪さんだから」
「とりあえず、目に付いた空き缶は蹴り飛ばすタイプだよな。あのひとは」
「俺は空き缶かよ」
 
 そんな会話が交わされる中、第九のバリスタが室長専用のブレンドを持って室長室へと歩いていく。いつもなら薪の機嫌を良くするその魅惑の液体も、今の状況では火に油を注ぐことになりそうだ。
「あ、青木! 今は行かないほうがいいぞ」
「命が惜しかったらやめとけ。顔面に蹴りが来るぞ」
「どうしてですか?」
「薪さん、昨夜おまえがしたことを怒ってるんだよ」
「怒ってませんよ。照れてるだけです」
「はあ?」

 意味不明の言葉を残して、青木は室長室へ姿を消した。
 室長室の中では、雪嵐生産中と噂されていた室長が、寝椅子に腰掛けて背中を丸めていた。

「なにしてるんですか?」
「つめ切り」
 それほど伸びているわけでもないのに、よっぽどヒマなのだろうか。

 昨夜は、と薪に話しかけようとしたとき、室長室のドアがノックされて曽我が顔を出した。
「失礼します、室長。青木、お客さんだぞ」
「だれですか?」
「経理課と庶務課の女の子」
「先週回した伝票のことですか?」
「いや。誕生日のプレゼントだってよ。おまえ、昨日の日曜、誕生日だったんだな」
 ……余計な事を。薪の機嫌が本当に氷河期に入ってしまう。

「いらないって言って、追い帰してくれませんか」
「なに罰当たりなこと言ってんだ。けっこうかわいい娘だったぞ」
 曽我に引き摺られるようにして室長室を出ると、モニタールームのパーティションの向こうに女の子がふたり立っていた。それぞれ、リボンのついた包みを抱きしめている。

「青木のやつ、けっこうモテるんだよな」
「実は俺も、彼女の友だちからいくつかプレゼント預かってる」
「交通課にもあいつに熱を上げてる女の子がいるってこと?」
「青木のクセに生意気だよな」
「昨夜、青木はすっげー女と一晩中ヤリまくって、背中に爪の痕と肩に噛み傷がついてるって教えてやろうか」
「小池」
 ビュウウッと背中にぶつかった冷気に、小池は身を竦ませる。
 おそるおそる振り返って、絶対零度の亜麻色の瞳に凍りついた。

「メンテナンス、延長。来月いっぱいおまえの仕事だ」
「なんで!?」

 遠くから様子を見ていると、何故か青木は困っているようで、何度も首を振っては贈り物を彼女たちに返そうとしているようだ。
「ヘンなやつ。もらっときゃいいのに」
「公務員は付け届けを受け取らないって? 真面目すぎるんだよな、あいつ」
 薪がそちらへ向かって、つかつかと歩いていく。いま薪は機嫌が悪いから、「職場で浮ついたことをするな」と叱りつけるつもりかもしれない。
 こころの中で職員たちは室長の活躍を期待していたが、意に反して薪は彼女たちからの真心を青木に受け取らせ、にっこり笑って彼女たちを見送った。

 他の職員には聞こえない声で、こっそりと薪が囁く。
「素直に受け取ったらいいだろ。本当はうれしいくせに」
「オレはあなたからのプレゼント以外は、欲しくありません」
「僕はそんなもの用意してないからな。期待するなよ」
「薪さんからのプレゼントは、昨日ちゃんともらいましたよ」
「? なにかやったっけ?」
 にっこり笑って、青木が言った。
 
「肩と背中に。あなたの愛の証を」


「お、決まった。薪さんの回し蹴り」
「すげ。蹴りまくり。あ、中段突きも入った」
「薪さん、よっぽど嫌なことあったんだなあ」
「てか、あのひと何であんなに赤い顔してんだ? ヘンじゃないか?」
「蹴られながら笑ってる青木のほうがおかしいよ」
 不思議がる同僚たちの目の前で、薪の正拳突きが青木の顔面に決まり、職務開始のチャイムが鳴った。



 ―了―


(2009.12)





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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鍵拍手いただきました方へ

こんにちは、(初めまして、ですか?) コメントありがとうございます!

>前みたいに、一年に一回とか、一ヶ月に一回とか嫌々しないですみますよね!!

あはは、あっちの薪さんは男爵なので~、はい、本気で嫌がってましたね(笑)
こちらの本編ではそこまでイヤがってないです、照れくさいので一応は断りますが。素直じゃないのは本編の方が上ですかねえ。どっちにせよ、青木くんカワイソウ(^^;


>今回一番つぼにはまった一言『まあ、そこは薪さんだから』、、、どんな(笑)

わーい、ありがとうございます~。
ギャグなので、笑っていただけると本当に嬉しいですっ。


更新が楽しみ、とのお言葉、すごく嬉しいです。
原作から遠く離れたSSで、薪さんのイメージダウンも激しく、申し訳ない気持ちで公開してますので、そう言っていただけるとほっとします(^^
仕事が暇な時期は、なるべく毎日更新したいと思ってます。これからもお付き合いいただけたら幸いです。(^∇^)

Sさまへ

こんにちは、Sさま~~、

>なんて楽しいんでしょう!

楽しんでいただけたみたいで良かったです♪ 
下品になりすぎちゃった、と案じていたのですが、喜んでくれる人がいらして安心してます。(^^


>薪さんはこうして一段一段オトナへの階段を上っていくのですね。

オトナの階段っっ!!
すみません、爆笑しました、クリーンヒットです!
ほんっとSさまって言葉のセンス最高なんだから♪


>でも、原作のあの状況でうつろになっている身としては、しづさんのギャグが必需品なのです。
>そうでもしないとやってられんのじゃー!(とぶち切れる)

ホントですよ~~(><)
もうなんか、いろいろいろいろ心配になっちゃって~~、嫌なことばかり考えちゃって・・・・・・
ギャグでも書かないとやってられないですっ!!

ありがとうございましたっ!

Mさまへ

Mさま。
お返事遅ーーーーーくなってすみません。

うちの青木さんの誕生日お祝い、ありがとうございます。本当に、よく覚えてくださってて。感激です(;▽;) 



>しづさんの文章は流れがあってサラサラと読めてしまう。

そ、そうかな?? 自分ではよく分かりません。


>何度読んでも面白いです!

何度読んでも、ていうか先が分かってるから何読んでも眠くな、、、なんか色々褒めていただいてるのにすみません(^^;


ところで、
Mさんの薪にゃん、拝見しましたよ~!
みなさん注目の膝小僧! 骨っぽくて色っぽい♪
薪にゃんと言うか、わたしには原作薪さんのコスプレにしか見えなかったんですけど。薪さんの密かな趣味コスプレいいんじゃね? て思ったんですけど。
恐るべし、Mさんのデッサン力ww
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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