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スロースロースロー(3)

スロースロースロー(3)









 隣に座っている男と恋人同士になって、3ヶ月。
 薪の人生において男の恋人は2人目だが、1人目の男とそういう関係だったのは16年も昔。それ以来男と関係を持ったことなどなかったから、この男と付き合い始めた当初、薪の身体はまったくの初心者に戻ってしまっていた。
 おかげで、最初のセックスはさんざんだった。
 ものすごく痛くて苦しくて、我慢しきれずに情けない悲鳴を上げてしまって。身体を繋げることもできなかった。もしも、この少年みたいに最初から上手にできていたら、もっといい思い出になったのに。

「オレあのとき、あなたの傷ついた姿を見て、自分がレイプしたような罪悪感に苛まれて。それで続けられなかったんです」
 青木の告白に、薪は今更ながら驚いている。こいつがそんなことを考えていたなんて。
「でも、薪さんはそうは思わないでくれたんですよね」
「思わないだろ、普通。合意の上だったんだから」
 薪は薪で、青木は自分に幻滅したのだ、と思っていた。それで途中で帰ってしまった、と信じ込んでいた。でも次の週末、青木はリベンジにやってきて。嫌われたわけじゃないことが解って、舞い上がるほどうれしかった。

「冷静に考えればそうなんですけど。あんな姿を目の当たりにしたら、パニックになってしまって。大人のオレたちですらそうだったんですから、この子たちはもっと悲惨だったと思うんです。まだからだも小さいでしょうし、傷も大きかったかも。だからこんな誤解が生まれてしまったのではないかと」
「それはないだろ。事件発生はふたりが知り合って3日目だ。いくらなんでも、そんなに早く相思相愛になれるもんか。やっぱりこれはレイプ事件だ」
「でも、それだったら自殺するのは被害者の少年のほうなんじゃないですか? それに、加害者の子が自殺を図ったのって、最初に関係を持った日から3ヶ月近くも後ですよ。自分の罪に耐えかねてってことになってますけど、遅くないですか?」

 レイプと断定した薪に、青木は食い下がってきた。
 室長である薪の意見に逆らうなんて10年早いと言いたいところだが、今は職務時間ではないし、薪は部下の考えを頭ごなしに否定する蒙昧な上司ではない。

「そういうこともあるさ。自殺なんて、そんなに簡単にできるもんじゃない。なかなか勇気が出なくて」
「クラスメイトの話では、自殺する素振りは見られなかったとあります。自殺の方法も学校の屋上から飛び降りるという衝動的なものだし、遺書もない。3ヶ月も考え抜いた末の自殺とは思えないんですけど」
 ソファの背もたれに寄りかかって、薪はふっと笑った。

「その矛盾に気付けば合格だ」
「……試したんですか?」
「部下の実力を測るのは、室長の仕事だからな」
 捜査資料を読んで事件の背景を推考する。それは捜査官にとって、とても大切な能力のひとつだ。訓練次第でこの能力は伸ばすことができる。それには、ひとつでも多くの捜査資料を読むことだ。
 青木は捜査官になって3年目。
 先日、警視の昇格試験を受けたばかりだ。もし合格したら、課長クラスの役職で人事異動があるかもしれない。このくらいの実力があれば、第九以外の部署に配属になってもやっていけるだろう。室長としては手放したくない部下だが、青木の出世に結びつくなら、それはやぶさかではない。

「テストは合格なんですね? じゃ、ご褒美をください」
「よし。缶ビールもう1本飲んでいいぞ」
「意地悪しないでくださいよ。オレが欲しいものは分かってるでしょう?」
 もちろん、分かり過ぎるほどわかっている。
 さっきから青木の視線が身体に突き刺さるようだ。しかし、今日はダメだ。

「薪さん」
 肩を抱きにきた大きな手を素っ気無く振り払って、薪はきっぱりと拒絶した。
「明日は室長会議があるから、今夜はダメだ。土曜日まで待て」
「もう待てませんよ。先週も出張が入っちゃって。警視の昇格試験が終わったらって、あれほど約束したじゃないですか」
「仕方ないだろ。仕事なんだから」
 薪だって好きでデートの約束をキャンセルしているわけではない。が、薪にとって仕事は最優先事項だ。これは未来永劫変わらない。

「お願いします」
「ダメだ。明日の仕事に差し障るようなことは、んんっ」
 強引にくちびるを奪われる。上唇と下唇を交互に吸われ、思わず開いた歯の隙間から舌の侵入を許してしまう。たちまち絡め取られて吸い上げられる。二枚の舌が奏でるぴちゃぴちゃという甘い響きを持った水音が、薪から抵抗する気力を剥ぎ取っていく。
 ようやく解放されたときには、息が上がってしまっている。部下の顔を睨んでやろうと思うが、目に力が入らない。

「触るだけです。それ以上はしませんから」
「分かったから、明かりを」
「このままでお願いします。薪さんの感じてる顔が見たいんです」
 悪趣味なやつだ。そんなもん見てどうする気なんだ。
「い、いやだ、恥ずかし……あっ」
 首筋をキュウっと吸われる。いつも注意してるのに、青木は力加減をしない。おかげで6月下旬の暑い日に、薪はワイシャツの襟元を緩めることもできなくなる。
「んっ」
 パジャマの裾から忍んできた指先が、薪の右の胸で遊び始める。以前はこんなところが感じるなんて思わなかったけれど、最近は少しだけおかしな気分になる。

「薪さん、ちょっとお尻上げてください」
 パジャマのズボンを下着ごと下ろそうとしている手が、ソファの上で止まっている。尻を浮かしたらどうなるかくらい、わかる。リビングの電灯は煌々と光っている。ここは徹底抗戦だ。
「いやだ」
「ひっくり返してひん剥きますよ」
 それはもっとイヤだ。

 柔道技なら負けないけれど、力はこいつのほうが強い。体重差もきつい。なにより、今はからだに力が入らない。
「頼むから暗いところで」
「きれいな薪さんが見たいんです」
 青木の回答に、薪は呆れる。
 意味がわからない。37歳の男のどこに、「きれい」という形容詞がつくものを見出せるんだ。
「バカなこと言ってんじゃ、ひっ!」

 青木は痺れをきらしたのか、ズボンの中に手を入れてきた。自分でも知らないうちにそこは勃ち上がりかけていて、その事実は薪の羞恥心を否応なく煽った。
「先のほう、濡れてきちゃってますよ。下着が汚れちゃいます」
 そんな恥ずかしいことを言われて、薪は耳まで真っ赤になる。
 なんて意地の悪いやつだ。昔の青木はこんなことを言うやつじゃなかったのに。

「脱ぎましょ。ね?」




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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