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スロースロースロー(5)

スロースロースロー(5)







 翌日、北村は再びティーラウンジで薪と会っていた。
 梅雨明けから夏に向かう暑さの中、氷の警視正と異名を取る後輩は、首の上まできっちりとワイシャツのボタンを閉めてネクタイを結んでいる。
「おまえ、暑くないの?」
「平気です。僕は暑さには強いんです」
 昨日のエンジ色のタイも良かったが、今日の水色のダイヤ柄もよく似合っている。見るものに涼やかな印象を与えて、薪の美貌を引き立てている。

「桧山くんが飛び降りた場所が気になります。この見取り図で行くと」
 薪はテーブルの上に校舎の見取り図を出し、細い指で屋上のドアを指した。
「このフェンスを乗り越えて、ここから飛び降りたことになってますけど。屋上のドアを開けて真っ先に目に入るのは、この柵のほうですよね。衝動的に自殺したならこちら側から飛び降りるのが自然じゃないですか?」
 たしかに、薪の言うことは正論だ。こちら側から飛び降りればフェンスを登る手間もない。
 自殺者の心理というのはとても複雑で、理屈で説明がつくものではないが、死ぬことで頭がいっぱいになっている状態でわざわざ裏側に回って飛び降りるのはおかしい。

「僕の考えではこの事件は、自殺ではなく事故だと思います。少年は飛び降りる気はなかった。ここは彼のお気に入りの場所だったんでしょう? 授業をエスケープしてはここでゲームで遊んでいた、という証言もあります。そこから何か驚くようなものを見て、びっくりして落ちたんじゃないでしょうか」
 捜査資料を読み解いて、仮説を立てる。事件に関わった人々の心を読み、その行動を予測する。薪の優秀さは知っているが、昨日の今日とは。

「真向かいには音楽室があります。彼が屋上から落ちたのは6時。まだ日が落ちてない。視界は明るかったはずです」
 薪の仮説では、桧山少年は自殺するつもりはなかったことになるが、レイプの嫌疑が晴れたことにはならない。そこのところはどう考えているのだろう。
 
「これは想像ですけど」
 そう前置きして、薪は自分の仮説を語り始めた。
「クラスメイトの証言からも、桧山くんと田辺くんの間に、肉体関係があったのは本当のことだと思います。おそらくは合意の上だったのでしょう。でもその後何かがあって、ふたりの間に亀裂が入った。
 音楽室には高価な楽器が置いてあるため、鍵が掛かるようになっています。学校の中では貴重な部屋なんです。田辺くんは事故の当日、ここでだれかと会っていたのではないかと。友達同士で話をしているとかじゃなくて、つまりその」
 それを見て驚いて、ということか。

「徹くんはどうして本当のことを言わないんだ?」
「それはたぶん、桧山くんが田辺くんのことを大切に想っているから」
 音楽室で田辺がしていたことを、他人に洩らすわけにはいかない。そういうことか。

「目撃者を探してみる」
「その前に、この二人と話をさせてください」
「大丈夫なのか? 忙しいんだろ、おまえ」
「乗りかかった船ですから。明日は土曜日で、学校はお休みでしょう。田辺くんに連絡をとってもらえますか?桧山くんのほうは、部下に行かせますから」
「昨日の部下か? 可哀想に、アフターどころか休日まで奪う気か」

 ふふ、と笑って、薪は冷たい烏龍茶を飲んだ。今日はボロを出さなかった。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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