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スロースロースロー(6)

スロースロースロー(6)







 田辺少年と会ったのは、所轄の少年課に設けられた談話室だった。
 犯罪に関わった少年少女からの事情聴取は、この部屋で行われることになっている。ソファとテーブルのセット。観葉植物にテレビ。本棚には雑誌や漫画。壁紙も明るいブルーが使われている。
 警視庁の取調室とは大分違う。対象となる年齢層を考慮して、緊張が和らぐようにわざと普通の部屋にしてあるのだ。

「北村先輩。僕と彼を二人にしてください。絶対にドアの外で立ち聞きなんかしないでくださいね」
「しないよ。おまえの怖さはよーく知ってるからな」
 北村がそんな下衆な人間でないことはよくわかっている。だからこれは、田辺少年に対する気遣いだ。
 北村が去った後、薪はわざとドアを開けてそこに誰もいないことを確認した。田辺少年が本当のことを喋りやすい様にするためだ。
 
「さて。修一くんだったね。ジュースでも飲む?」
 備え付けの冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して、コップに注ぐ。二人分のグラスを持って、薪は少年の向かいに腰を下ろした。
「どうぞ」
 緊張した様子の田辺少年に、にっこりと笑いかけてジュースを勧める。薪の顔を見て、少年の頬がほっと緩んだ。
 少年の警戒を解くために、薪は今日はスーツを着ていない。近い年齢と思わせたほうが相手をリラックスさせられると踏んで、普段着に近いシャツとジーンズという出で立ちだ。しかし何故か上着は長袖、しかも詰襟だ。
「暑くないんですか?」
「うん。僕は暑さには強いんだ」

 薪の向かいで大人しくジュースを飲んでいる少年は、田辺修一。桧山少年にレイプされたと供述している、彼のクラスメイトだ。
 なるほど、女の子のようにかわいらしい顔をしている。
 つやつやした黒髪に白い肌。大きな眼はいくらか垂れ目がちで、そこが庇護欲をそそる。細い鼻梁に紅を差したような赤い唇。子供ならではのふっくらとした頬。声変わりも訪れていないから、喉仏も出ていない。からだの線も細い。 まだ大人になっていない彼は、しかしすでに性経験だけは済ませていて。
 最近の若いもんは、ときれいな顔の裏側で、薪はまた顔に似合わないことを考えている。
 この子はまだ13歳。その頃の薪には、性のきざはしすらなかった。第二次成長の気配さえ感じられなくて、次々に大人になっていくクラスメイトを羨ましく思っていた。この時期は、早く大人になるのが偉いような気がしていた。

「修一くんは、勉強できるんだってね。ご両親とも学校の先生なんだって?」
「はい」
「優等生なんだ。そんなきみがサボリの常習犯だった桧山くんと仲良くなるなんて、不思議な縁だね」
「……仲良くなんかないです。桧山くんは、ぼくにひどいこと」
 うつむいて、修一は口を閉ざした。
 目がウロウロしている。さかんに瞬きをしている。まだ子供なのだ。ウソをつくのに慣れていない。

「知ってる? 人間は嘘をつくとき、瞬きの回数が増えるんだって」
 ぎくりと肩を強張らせて、こわごわと顔を上げる。向かいに座って微笑んでいるやさしげな風貌の青年の本当の怖さを、なんとなく感じ取ったようだ。
「当ててみようか。きみ、レイプなんかされてないんだろ」
 ずいっと顔を近づけて、少年の幼い顔を覗きこむ。少年は青い顔をして、くちびるをわなわなと震わせていた。
「レイプされた人間ていうのはね、もっとずっと深い傷を負うんだよ。体だけじゃなく、心もずたずたに傷つくんだ。きみみたいに、翌日学校で当の相手と一緒にゲームをすることなんかできないよ。
 彼とは合意の上だった。違う?」

 薪の言葉に、修一は必死で首を振った。嘘じゃない、と繰り返した。
「ご両親には絶対に内緒にするから。本当のことを言ってごらん。きみだって苦しんだはずだよ」
 両親には言わない、と薪が保証したからか、修一は首を振るのを止めた。
 ここで切り札。
「桧山くんは自殺しようとしたんじゃない。ただの事故だ。だから怖がらなくていい」
 薪の言葉に、修一は顔を上げた。涙で潤んだ黒い瞳が、ゆらゆらと揺れて男の庇護欲を掻き立てる。

「本当に? ぼくのせいじゃないの?」
「うん。違う。彼は偶然あやまって落ちただけだ。きみが音楽室でしていたこととは、何の関係もないよ」
「良かった……ぼく、ずっと怖くって」
 ぽんぽんと細い肩を叩いてやる。やわらかい肩だった。

「どうしてレイプがウソだってわかったの?」
「君の供述書。経験者なら一発でウソだってわかるよ」
「刑事さんも?」
「むかし、ね」
 本当は現在、上手くできなくて悩んでる、なんて言えない。

「僕の秘密を打ち明けたんだから、君の秘密も教えてくれるかい?」
「……1月くらい前から、三年の先輩と……」
「どうして? 桧山くんとうまくいかなかったの?」
「ううん」
「それなのに、どうして他の人とそんなことになったの?」
「桧山だけじゃ、足りなくて」
 恐ろしいことを聞いたような気がする。

「足りないって、なにが?」
「だからエッチの回数が。毎日して欲しいのに、桧山はムリだって。それでもう一人必要になって」
「そ、そうなんだ。ふーん……」
 こっちはひとりでも持て余してるのに。

「音楽室で会ってたの?」
「ううん、準備室のほう。あそこはものがいっぱいあって、隠れやすかったから」
 音楽準備室は音楽室の続き部屋だ。窓もあった。
「彼が屋上から落ちたときも、その先輩と会ってたんだね?」
「うん」
「その、最中だったの?」
「うん。先輩、とっても強くって。2時間くらいぼくの中で動いてるんだ。何回もイクけど、休まないで続けられるし」
「へ、へええ……」
 2時間、2時間……あの痛みを2時間。…………死ぬしかない。

「ぼくは夢中だったから気付かなかったんだけど、先輩が桧山に気付いて。先輩はぼくと桧山が付き合ってたの知ってたから、ぼくに振られたと思って自殺したんだ、って言われたの。だからぼく、あれは無理矢理されたんだって、つい」
「レイプは嘘でしたって、さっきの刑事さんに言えるね?」
「うん……ごめんなさい」
 涙ながらに謝罪を繰り返す田辺少年の頭をやさしく撫でてやって、薪はポケットに忍ばせたブザーを押した。ほどなく、北村が部屋のドアをノックする。田辺少年の様子を見て取ると、新たな調書を作成するために部下を呼び出す、と言う。供述書の立会いは2名以上と決められているが、薪は部外者だからその書類に名を連ねることはできないのだ。

「じゃあ僕はこれで」
「ま、待って、刑事さん。ここに居て」
「え?」
 北村のほうを見る修一のおどおどした目で、薪はこの少年に自分が引き止められた理由を察した。
 北村の容姿は岡部に近い。目つきも鋭い。ヒゲも濃い。小さい子供なら、顔を見ただけで泣き出しそうだ。修一もこの男に、自分がウソをついたと告白するのが怖かったのだろう。
「お願い」
 北村は薪のほうを見て、肩を竦める。
 駐車場で青木が待ってるのに。1時間もすれば終わるから、その後一緒に第九へ行くつもりだったのに。
「わかったよ」

 ここで田辺少年の気持ちが閉ざされてしまったら、元も子もない。
 薪は少年ににっこりと笑いかけ、部下への指示を携帯のメールで送信した。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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きゃー

こんばんは。
きゃーっ!さ、さいきんのお子さまはマセテマスね…。「足りない」なんて、と、とんでもない爆弾発言に、「ブハッ」と吹きそうになりました(^o^)/。
薪さんも彼を見習って、頑張っていただきたいですo(^-^)o。
あ、でも、そもそも青木君のサイズが立派すぎるから、多分、薪さんの負担が大きいんですよね?もしも貧弱なサイズだったら、薪さんでも二時間我慢できたのでしょうか?

鍵拍手くださった方へ

こんにちは、いらっしゃいませ(^^
更新を楽しみにしてくださってるとのお言葉、とっても嬉しいです。


>「1人じゃ足りない」「二時間」の場面、薪さんの表情を想像して、笑いました。

笑っていただけました? 
わ~い、うれしいなっ、こちらのギャグイチオシでございます♪
限りなく目が点になり、頬には汗、額には盛大に青筋が立っていたことでしょう(笑)


>青木に「今の中学生は‥」と言って、この話をするのでしょうか?プライドの高い薪さんなら、自分が負けてる話はしないですよね

しちゃったりして(^^;
プライドの高い薪さんですが、よっぽどショックだったと見えて、これから逆ギレです(笑)

あずきさんへ

こんにちは、あずきさん♪
いらっしゃいませ~。


> きゃーっ!さ、さいきんのお子さまはマセテマスね…。「足りない」なんて、と、とんでもない爆弾発言に、「ブハッ」と吹きそうになりました(^o^)/。

あははは、実はこの修一くん、モデルがありまして。
この当時読んだBL小説の主人公が、こんな感じだったんですよ。もー、あっという間にデキちゃうわ、テクニシャンになっちゃうわで。
ウソだー、というわたしのツッコミがそのまま薪さんの気持ちに(笑)


> 薪さんも彼を見習って、頑張っていただきたいですo(^-^)o。

ですね、中学生に負けていられないですよねっ!


> あ、でも、そもそも青木君のサイズが立派すぎるから、多分、薪さんの負担が大きいんですよね?もしも貧弱なサイズだったら、薪さんでも二時間我慢できたのでしょうか?

きゃー、あずきさんったら(笑+汗)
どうなんでしょうね、設定上では薪さんが未熟だからってことになってますけど(^^;

とりあえず、これからの薪さんのがんばりを楽しみにしててください☆
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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