スロースロースロー(10)

スロースロースロー(10)









 ベッドの上で、薪はうつ伏せになって枕を抱えている。
 両膝をついて、腰を高く上げている。部屋が明るいからめちゃめちゃ恥ずかしいが、何度頼んでも相手が電気を消してくれないから仕方がない。

「あの、仰向けじゃダメですか?」
「この方がいいんだ」
 仰向けでもうつ伏せでも、痛みは変わらない。だったら、少しでも我慢しやすい体勢を取りたい。これは本能に基づく姿勢なのだ。

 今日は何がなんでも決めてやる、と薪は決心している。
 あんな身体の小さな中学生にできて、大人の自分にできないはずはない。ちゃんと最後まで、こいつが満足するまで頑張ってみせる。

「今日は僕がどれだけ痛がっても、最後までしろよ。絶対だぞ。やらなきゃ絶交だからな」
 よくよく考えたら、セックスが上手くいかないのは僕だけのせいじゃない。これは共同作業なんだから、こいつにも責任の一端はあるんだ。僕が痛がるとすぐに止めてしまうこいつも悪い。無理矢理にでもしなかったら、いつまでたってもできやしない。
「イヤですよ、そんなの」
「じゃあ、絶交だ。もう二度とくるな」
「……わかりましたよ。泣いても知りませんからね」

 大きな手が薪の腰をつかみ、ベッドがぎしっと軋む。前戯のときは蕩けそうになっていた身体が、一瞬のうちに固くなる。
 あてがわれたものの質量感に、思わず腰が引けて呼吸が浅くなる。
 息をつめたら、痛みは倍増する。ゆっくり呼吸をすることが大切だと本に書いてあった。リラックスして、肩の力を抜いて、あそこを緩めて……っ!!

「あがっ! ぐっ!」
 呼吸法もなにもあったもんじゃない。そんな生易しい痛みじゃない。
 骨盤が無理矢理広げられる激痛。足も腰もぜんぶ痛い。内臓が押し込まれるような感覚に、胃がひっくり返りそうだ。
 引き裂かれる、突き刺される、掻き回される。
 目の前が真っ赤に染まる。激しくライトが点滅する。本能のままに、絶叫する。
「い、痛い痛い! やめてっ、やめてくれ!」
 涙でぐしょぐしょになった顔を枕に埋めて、薪はなす術もなく嗚咽する。身体の中の異物が、ゆっくりと抜かれていく。その静かな動きにさえ、内蔵が引きずり出されるような苦痛が伴う。
 あんなに固く決心してたのに、気が付いたらやっぱり泣き叫んでた。
 どうやったらこの痛みを心地よく感じることができるんだろう。どうやったら……こいつをちゃんと受け入れてやれるんだろう。

「なんで止めちゃうんだ。続けろって言っただろ!」
 涙に濡れた声は、完全に裏返っている。情けなさも最高潮だ。
「すみません」
「いつまでもちゃんとできないのはおまえのせいだ。いつもおまえが途中で止めちゃうから」
 自分の未熟さを相手のせいにして、薪は歯を食いしばる。何かが込み上げてきて、醜態を晒してしまいそうだ。
「はい、すみません。オレが悪いです。ごめんなさい」
 暖かい胸に抱きこまれる。大きな手で頭を撫でられる。
「ふ、うう――っ!」

 青木の手は薪の涙腺を壊す。
 この手にかかると、薪は子供に帰ってしまう。相手が12歳も年下の男だとか自分の部下だとか、普段拘っていることがどうでも良くなってしまう。
 くやしい。情けない。あれほど我慢するって大見得切ったのに。
 
「ちくしょ……」
「薪さん、どうしてそんなに焦ってるんですか? オレ、ゆっくり慣らしましょうって言いましたよね」
「だって。早くしなかったらおまえ、僕以外のひととするだろ。それが嫌だから」
 涙と一緒に本音が出てしまった。
 くすっと笑う声が、頭の上から聞こえてくる。
「しませんよ。するわけないじゃないですか」
「ウソだ。男の我慢なんかそんなに長くできるもんじゃない」
 薪も男だから、そこら辺はよく解っている。男の事情が簡単に封じ込められるものなら、この世に中絶手術は必要ない。
 
「忘れちゃったんですか? オレ、薪さんに2年も片思いしてたんですよ。その間、誰ともしてません」
「そんなわきゃないだろ。24,5のときなら僕だって」
「オレのシフトのどこに女の子ナンパする時間があるんですか?」
「風俗とか」
「オレ、風俗キライですから」
 そうだった。恋をした相手じゃないと勃たないって言ってたっけ。

「オレが欲しいのはあなただけです。代用品は要りません」
「……本当に? 1回も?」
「はい」
「じゃあ、どうしてたんだ?」
「中学生のときと同じコトをしてました」
 つまりそれはマスターベーションということだろう。昨夜、そんなことを言ってた。
「僕の睫毛と唇で?」
「……すみません」
 くちびるはともかく、睫毛はどうやって使うのだろう。怖いけど聞いてみたい。

 青木はバスローブを身につけると、いつものように電子レンジで蒸しタオルを作ってきて、薪の身体を拭いてくれた。いつもは自分で拭くのだが、今日は少し甘えてしまいたい気分だ。
 薪の身体がきれいになると、青木はそっとシーツを掛けてくれた。細い身体をシーツごと自分の胸に抱きこんで、腕を薪の首の下に差し込む。
 そのまま何やかやと喋り始めた。青木は行為の後のピロートークが大好きなのだ。

「でも、良かったですね。桧山くんのレイプの嫌疑が晴れて」
「容疑は晴れても、気は晴れないだろうな」
 浮かない顔で、薪は言った。
 ふたりは第九の帰りに、桧山少年が入院している病院に寄ってきた。
 修一がレイプの疑惑を否定した、と告げても嬉しそうな顔もせず、黙ったままだった。何を話しかけても無反応で、かれの心にはぽっかりとした虚空がうがたれてしまったのだと分かった。

「失恋しちゃったわけですからね」
「それだけじゃない」
 桧山の顔つきは、恋を失って嘆くものの顔ではなかった。その姿は、自分の罪におののく科人の姿だった。 「自分があんなことを田辺くんにしたから。だから彼が狂った。そんなふうに思ってるんじゃないかな」
「そんな、桧山くんのせいじゃないのに。どっちかって言うと、修一くんの方に素質があったっていうか」
「最初から上手くできるなんて、そんな人間この世にいるのか? 僕なんか」
「個人差がありますから」
「便利な言葉だな、それ」
 苦笑して目を閉じる。こいつの腕枕は、かなり気持ちいい。

 修一は、きっとこの心地よさを知らない。どこまでも自分を甘えさせてくれる相手に、癒される幸せも知らないのだろう。だからセックスの快感だけにのめり込んで。
 可哀想な子だ、と思うのは、酸っぱいブドウというやつだろうか。

 桧山少年の想いが少しでも修一に通じるように。恋人の温かい体温を感じながら、薪はそう願わすにはいられなかった。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Sさまへ

Sさま。

ぎゃー、こんなシーンにまでっ、と言いますか、恥ずかしくて読み返せませんー(><)

自分が読むに耐えないようなもの読ませてすみませんっ!
書いてるときは平気でも、平常に戻ってみると(@@;)てなります。
グロシーンと一緒で、今はもう、こういうの書けませんね。(^^;)


Sさまはお仕事で書き物をしてらっしゃるから、ちゃんとご自分の原稿の見直しとかなさるんですね。
わたしもやってるつもりなんですけど、どうしても出ますね~。 それもぽろぽろと。
防ぐにはどうしたらよいのか、コツとかありますか? プロの方のご意見、聞きたいです。

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Sさまへ

Sさま。

丁寧なご回答、ありがとうございました~!

「冷却時間が必要」で、「少なくとも丸1日おいてからチェック」は、なるほどと思いました。
そうなんですよね。 
書き終わって直ぐにチェックしてデータ保存するのですけど、ブログにアップする時にもう一度読み直すと、必ず何処かしら間違ってるの。(^^;
直後のチェックは効率悪いんですね。 これからは、翌日以降に見直すことにします。


Sさまの原稿は、たくさんの制限があるのですね。
わたし、そういうのは苦手ですっ。(><) 「400字以内」とか「である調指定」とかされただけで何も書けなくなっちゃう。 レポートや論文の類を書いたことがないからかな。


> 万人にわかるように書くためには、しょうがないかと

文字の世界は読み手に伝わってナンボだと思うので、わたしも極力心掛けてますけど、やっぱり自分が気持ちいい方の文体へ流れていってしまいます。
でも、Sさんが手がけてるものは文章が分かり難かったら致命的ですものね。(^^;) 厳しい世界ですねえ。



そして今回、Sさんの年齢を教えていただきまして。
お姉さまだったんですね。(@@; 
ごめんなさい、年下だと思ってました、生意気なクチ利いてすみませんでしたっ。 

これに懲りず、これからもご指導くださいませ。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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