FC2ブログ

スロースロースロー(12)

スロースロースロー(12)







 翌週の日曜日。
 パステルブルーの明るい内装が施された病院のロビーで、薪は北村を待っていた。
 北村は待ち合わせの5分前に現れた。これは大学時代からの彼の習慣である。
 薪が右手に果物籠を持っているのを見て、気を使わせて済まない、と謝ってきた。北村の見かけによらない細やかな性格は、何年経っても変わらないようだ。

 桧山少年の病室は4人部屋だが、ベッドは半分しか埋まっていなかった。彼のベッドは窓際の右側だ。
 何故か窓が開いている。冷房が苦手なのだろうか。
 ベッドの横に、見舞い客用の背もたれのない丸イスが1つだけ置いてある。病室を覗いたふたりは、そこに先客の姿を見つけて顔を見合わせた。

 イスに腰掛けて、桧山少年と楽しそうにゲームをしていたのは、彼にレイプ犯の濡れ衣を着せようとした張本人だった。普通に考えれば、口もききたくない相手のはずだ。
 それなのに、桧山少年の顔は先週とは別人のようだった。
 明るくて楽しそうで、生きる希望に満ち溢れていて。その笑顔が見舞い客の存在によるものだ、ということは明白だった。

「よう。元気か? 徹」
「北村さん。あ、童顔の刑事さんも」
 ……ちゃんと名前で呼んで欲しい。
 修一は薪に気付くと、ぺこりと頭を下げた。先週とはいくらか印象が変わったような気がする。この年頃の子供はどんどん成長するから、そのせいかもしれない。

「こんにちは、徹くん。これお見舞い」
「ありがとうございます」
「ずい分元気になったみたいだね」
「はい。来週には出られるって」
「よかったね」
 二言三言会話を交わして、薪は先に病室を出た。彼が元気になったのならそれでいい。あとは北村に任せて、桧山少年の身を案じていたお人好しに「元気そうだった」と伝えてやろう。

「刑事さん、待ってください」
 薪が廊下を歩いていると、後ろから修一が追いかけてきた。
 この子とはあまり口をききたくない。
 先日、彼は薪の劣等感をこれでもかというほどに煽ってくれた。薪にとっては、できれば二度と会いたくない相手だ。
 それでも、無視するなんて大人気ない真似はできない。薪は平静を装って振り向いた。

「ぼく、桧山と付き合うことにしました。恋人として」
 セフレの間違いじゃないのか、と心の中で突っ込んで、薪は「そう」とだけ言った。無駄なことを言って、余計なことを聞かされたくない。
「だから三年の先輩たちとは、もう会わないことにしました」
 果たして、いつまでそれが続くやら。今は桧山も嬉しいだろうが、近い将来はきっと地獄を見る。中学生の男子同士による修羅場の果ての殺傷事件が発生しそうだ。
 
「刑事さんに言われて思い出したんです。桧山はエッチの最中じゃなくてもぼくのこと好きだって言うけど、先輩たちはそんなことなかったなって」
 ただの性欲処理機にしか見られていなかった証拠だ。自業自得とはいえ、不憫な子だ。
「あれからぼく、桧山とよく話し合って。桧山がぼくのこと、1年のときからずっと好きだったって聞いたら、なんだかうれしくなって。それで桧山とエッチしたら、気持ちが落ち着いたんです。
 毎日しないと眠れないくらい欲しかったのに、この頃はそうでもなくって。ひとりエッチの時も、アレを桧山のだと思うと、ふわってからだが浮き上がるみたいになれるし」
「ちょ、ちょっと待って。いつ、したの? 桧山くんは入院中だよ?」
「同室の人が、検査に行ってるとき」
 病院で何やってんだ!
 
 
「誰かに見られたらどうする気?」
「カーテン閉めて、声を出さなきゃ平気だよ」
 薪には絶対にムリだ。悲鳴を殺すことなんかできない。傷の手当は早そうだが。
「今日も誰にも気付かれなかったよ」
 そういえば、窓が開いてた。もしかして冷房が苦手なんじゃなくて、あれは匂い消し……ああ、ダメだ、貧血起こしそうだ。
「あのね、きみね」
「桧山が欲しがってたから」
 修一は、少しだけ頬を染めた。

 ……むかし、鈴木に求められて、大学の教室でキスをしたことがある。
 好きなひとには逆らえない。求められるのがうれしいから。
 セックスに刺激を求めたがる鈴木は、公園とか野外でもしたがって。落ち着かなくてすごく嫌だったけど、結局許した。あのころの僕だったら、病院でも許したかもしれない。

「刑事さんにはいいこと教えてもらったから、お礼にコツを教えますね」
「は?」
「相手の目を見て、呼吸を合わせるといいですよ。挿れるときに息を吸って、引くときに息を吐くの。息を吐くときに力を抜いて。体位は後背位を勧める人が多いけど、僕の経験では正常位が一番楽だったなあ。足を相手の肩に掛けるようにして」
「いや、いま必要ないから。あれは昔の話だから」
 修一はクスッと笑って、薪の顔を悪戯っぽい表情で見た。その顔はなかなかかわいい。子供らしい無邪気な顔だ。

「刑事さん、キスマークついてる。こないだと違うところ」
「え!?」
 思わず両手で首を隠す。しまった、これでは白状したようなものだ。
「こ、これは虫に刺されて」
 少年はにこにこと笑っている。
 だめだ、バレてる。

「声は殺しちゃダメ。自分の喘ぎ声で、自分も興奮するから。自分に楽しむ気がないと、相手も楽しくないよ。それから」
 薪が聞きもしないのにあれやこれやと経験に基づくノウハウを伝授して、じゃあ頑張ってね、と手を振り、修一は病室へ戻っていった。
 取り残された薪は、呆然と佇んでいる。
 中学生にセックスのアドバイスを受けてしまった。もうプライドなんか粉微塵だ。粒子レベルだ。

 電話が使用できる廊下の端まで歩いていって、携帯電話を取り出す。リダイヤルを押すと、相手は2コールで電話に出た。
「青木。今から僕の家に来られるか?」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

負けるが勝ち‥ともいいますから(^∀^;)

いやん、薪さん‥また呼び出しですか‥
もう‥負けず嫌いなんだから‥
そんな薪さんが…す・き…

ああ!失礼しました‥こんにちはしづ様。
しばし妄想しておりました。
ええ、そうですね。
習うより慣れろ‥鉄則です。
しかし‥生身の体ですから、そこのところお気を付けになって
いただきたいと思っております(^-^)

ていうか‥愛情ですね。
青木くんに愛情があるからこそ申し訳ないと言う気持ちも‥。
優しい方です。
それに輪をかけて青木くんは優しい‥
だから‥スロー×3‥
温かい、この上なく優しいお話です。
私はそう思っていますが‥本意でなかったら‥すみません<m(__)m>

頑張って薪さん‥いいえ、頑張らないで。
頑張る事ではないんですもの‥。
‥慣れですっ!!
(笑)何度もチャレンジするうちに‥慣れますから‥
痛々しいかぎりですが。

あなたが青木を喜ばせたい‥その気持がきっと良い方向に
向かうと信じております。

※別件ですみません。
しづ様、お祝いのお言葉ありがとうございました!
あなた様には‥感謝状を捧げたい想いでございます。

ruruさんへ

こんばんは、ruruさん。


> いやん、薪さん‥また呼び出しですか‥

3回目のリベンジです!(笑)


> 習うより慣れろ‥鉄則です。

ですね、いくら本を読んでもダメですね、これだけは(^^;


> ていうか‥愛情ですね。
> 青木くんに愛情があるからこそ申し訳ないと言う気持ちも‥。

・・・・・・え?
あ、ああ、そうですね、はい・・・・・(←何故か滝汗)
うーん、どう言ったらいいかな、まだこのふたりって完全な恋人同士になってないっていうか・・・・・薪さんの愛情と迷いが半々で・・・・・だいぶ不安定なんですよね。だから薪さん、焦ってるんです。
この辺は、次のお話で。(あ、でも、あれはあおまきすとさん閲覧禁止だ(笑))


> 温かい、この上なく優しいお話です。

きゃん、ただのRギャグですっ、そんな心温まるお話ではありませんっ(><)
でもruruさんがそんなふうに受け止めてくださってるなら、とてもうれしいです。


> あなたが青木を喜ばせたい‥その気持がきっと良い方向に
> 向かうと信じております。

あ、これはあります。
愛情かどうかはまだ微妙なんですけど、相手を喜ばせたい気持ちは山のように持ってます。
だから、最終的にはいい方向へ行きますよ♪


あと、お祝いのお返事をありがとうございました。
感謝状なんて、きゃん、うれしいです。こちらこそ、これからもよろしくお願いします(^^
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: