トライアングル(10)

 あの~、
 ここからは、Sの方以外はほんっとーに読まないほうが。
 それと、あおまきすと的にはタブーの話だと思うので~、あおまきすとさんには再度避難勧告を。


 自分が書いたものですから、石は受け付けます。
 あ、でも追放はちょっと困る。

 だけどすみません、お話はつづきます。











トライアングル(10)








 週末の土曜日。
 青木は薪と話し合うことに決めた。

 薪の身体中に残った傷跡。あれはおそらく、自分のせいだ。
 2週間前は、あんな傷はなかった。青木が薪を拒絶したあと、あの行為が始まったのだ。
 拒絶されたことにショックを受けたのか、それとも別のことが原因だったのかは分からないが、薪の心が不安定になっていることは確かだった。

 薪の本音を聞いてみたい。
 自分のことをどう思っているのか。鈴木の代わりにしか見られないのか。
 よくよく考えてみれば、薪は青木のことを恋人として認めたことは一度もない。受け入れる努力をしてみる、と言われただけだ。『身体しかやれない。心は鈴木のものだ』と、はっきり言われたこともある。

 ――――初めから、そういう意味だった?
 恋人としてではなく、身体の関係と割り切った付き合いを望んでいたのか? 薪はそんなタイプではないと思っていたのは、青木の思い込みだったのだろうか。
 もしそうなら。これ以上、薪と付き合うことはできない。このままでは、自分の心が持たない。あの幻覚が本物になるかもしれない。それだけは避けなければ。

 青木がドアの前に立ってチャイムを押そうとしたとき、偶然ドアが開いて薪が出てきた。腕に百合の花を抱えて、喪服を着ている。ああ、そうか、と青木は思った。
 鈴木の命日は、来週の水曜。
 その日が近付くにつれて、薪は精神の均衡を乱していく。この暑さが、太陽の眩しさが、夏の匂いが。あの事件を思い出させる。

「どうしたんだ。急用か?」
 青木を見て一瞬驚くが、すぐに平静な顔に戻って薪は言った。
 青木が彼を拒んだ翌週から、薪はよそよそしい態度を取るようになった。
 仕事中は完璧なポーカーフェイスで通しているが、プライベートでは一切話しかけてこなくなった。今日も誘われたわけではない。青木が勝手に押しかけてきたのだ。

「オレはもう用事が無いと、ここに来ちゃいけないんですか」
「当然だ。慎むべきだろう」
 薪の冷たい言葉が胸に突き刺さる。
 自分の誘いを断ったセフレに用はない、と言いたいのか。

「薪さん。ちょっとでいいですから、話をさせてください」
「今は駄目だ。後にしてくれ。大切な人に会いに行くんだ」
 大切なひと。
 それが誰だか、青木には分かっている。
 その人の時間は、すでに止まっている。薪のこのセリフは、青木を追い返すための方便に過ぎない。
 百合の花束を抱いた左手に、例のプラチナのリングが光っている。その硬質な輝きを見た途端、青木の中にどす黒い感情が甦った。

「なんですか、この指輪。薪さんは今は、オレの恋人じゃないんですか」
 小さな手をつかみ、薪の目の前に突きつける。薪のきれいな顔が動揺し、亜麻色の瞳が悲しみに染まった。
「手を離してくれ。待ってる人がいるんだ」
 それは、この世の人ではないはずだ。今でなくてもいいはずだ。
 薪は自分を見限ろうとしている。

 青木の心の中に巣食った黒い怪物は、その瞬間爆発的な成長を遂げた。
 こころが、急速に闇の色に染まっていく。

 目の前の可憐な生き物。青木が長い年月を掛けて慈しみ続けてきた宝物。
 でも、結局手に入れることは叶わなくて。
 愛しても愛しても、抱いても抱いても―――――薪の心は鈴木に囚われたまま。
 ならばいっそ。
 めちゃめちゃに壊してしまいたい。

「そこを退いてくれ。時間が」
 細い肩をつかんで、部屋の中に押し込んだ。
 隙をついて足払いをかけ、肩を突き飛ばした。両手が花束でふさがれていた薪は、青木の技をまともに食らって玄関の段差に足を取られ、床の上に仰向けに倒れた。
「何をす……!」
 薪から花束を奪い取って、床に投げ捨てる。喪服の襟をつかんで華奢な身体を引き摺り上げ、わざと花束の上に組み敷いた。
「やめろ! はなせ!」
 薪の腹の上に乗って、体重を乗せる。黒いネクタイをむしりとり、力任せにワイシャツを破る。蚯蚓腫れの残る胸に、強くくちづける。
「いやだっ、やめろ!」
 身を捩って逃れようとする薪を、乱暴に押さえつける。髪をつかんで無理矢理にくちびるを奪った。
 むせ返るような百合の匂い。薪がもがくたびに花が潰れて、強烈な香りが部屋を包む。

 第九のモニタールームで、以前もこんな薪を見た。
 あのとき薪は、声を限りに絶叫し、鈴木に助けを求めていた。
『たすけて! 鈴木っ、すずきっ!!』
 来るはずのないひとを、泣きながら呼び続けていた。
 今も。
 薪が求めるのは、このリングの贈り主だけなのだ。

 薪の左手を捻り上げ、薬指からリングを引き抜く。薪が鈴木のものであるその証を、青木は床に投げつけた。小さなプラチナの輪が、コロコロと転がる。
「返せ! 大事なものなんだ!」

 大事なもの。
 恋人からの、大切な贈り物。

 薪にとっては、鈴木だけが唯一の恋人で。
 これまでも、これからも。
 薪が自分を愛してくれる日は、永久に訪れない。

 深い絶望の中で、真黒い怪物が大きな口を開けた。その底なし沼のような口の中に、青木の意識は飲み込まれていった。
 微かに聞こえてくる悲鳴。
 吐き気がするほど強くなった、百合の香。
 黒い喪服と白い肌の、くらくらするようなコントラスト。喪服の下の鮮やかな緑。周囲に散らばった花びら。赤い蚯蚓腫れと、新たな傷口から流れ出す鮮血。
 それらが交じり合い、融合し乖離し。奔流となって青木を押し流した。

 青木が正気を取り戻したのは、生理的な激情が去ってからだった。薪の中に放った欲望と一緒に、その狂気から青木も解放された。
「気が済んだか」
 無理矢理に身体をつなげたまま動かなくなった青木に、薪の静かな声が聞こえた。横に顔を背け、小さな声で告げる。
「今日は、行かない」

 自分の下になって苦痛に喘ぐひとの姿に、青木は驚愕する。
 険しく眉根を寄せて、歯を食いしばっている。青白い頬に、涙が流れている。乱暴に床に打ち据えられた身体のあちこちに痣ができて、朱に散らされた刻印と蚯蚓腫れから滲んだ血と共に、その白い肌を凄惨に彩っていた。
「それでいいだろ」
 薪は青木の顔を見上げた。
 亜麻色の瞳に映っているのは、ケダモノのような醜い男の顔―――――。

「すみませんでした」
 消え入るような声しか出せなかった。
「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい……」
 そんなことしか言えなかった。
 言葉を知らない子供のように「ごめんなさい」を繰り返す青木に、薪はため息混じりに言った。

「おまえのことが、わからなくなった」



*****


 以前から数人の方にコメ欄でお知らせしてた「青木くんが薪さんをレイプする話」って、これのことです。
 それと『ナルシストの掟』(12)の中の薪さんのモノローグで「こんな青木は……去年の夏の、あのとき以来だ」ってのもこれです。けっこう、怖かったんですね。(@@)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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