トライアングル(11)

 こんにちは、いらっしゃいませ~。

 なんかですね、この話に入りましてから、やたらと鍵コメ率が増えまして(いや、理由は解ってるんですけど)
 気が付くと、最新コメント欄の名前が自分だけという、まるで自作自演の状態に。 げらげら。

 早いとこ、鍵を付けずにコメントいただけるような展開に持って行きたいです。(^^;





トライアングル(11)














 激しい痛みの中で、薪はずっと謝り続けていた。

 ごめんなさい。
 ごめんなさい、雪子さん。ごめんなさい。
 これが最後ですから、許してください―――――。

 相手を跳ね除けようと思えば、できた。体重をかけられても、両手は自由だった。
 わき腹に手刀を叩き込む。下から顎先を殴り上げて脳震盪を狙う。ネクタイを使って首を絞めてもいいし、百合の花弁で目潰しだってできる。身体の小さい薪が捜一時代に鍛えた犯人確保のスキルは、未だ健在だ。
 それができなかった。

 身体を床の上に押さえてつけられての暴力的な交合でも、それは一月ぶりの彼だった。慈しむ余裕もない性急な愛撫も、未だほどけていない薪の秘部を引き裂いたのも、まごうことなく彼だった。
 もう二度と与えられることはないと、彼は別のひとのものになったのだと、いくら言い聞かせても彼を求めることを止められない自分を懸命に抑え、幾つもの夜を過ごしてきた。その彼が、今自分の中にいる。いけないことだと解っていたが、どうしても拒めなかった。
 突き上げられるたびに背中や腕が床にぶつかって、軽い擦過傷と紫色の痣を薪の白い肌に刻み付けていく。しかしそれは、薪にとっては幸せな痛みだった。

「薪さん、お願いですから」
 荒々しく薪の中に入ってきた男は、行動とは反対の哀願口調で薪に訴えかけてきた。
「オレのこと、見てください。オレのことを好きになってください」
 そんな言葉が耳元で繰り返される。
 何を今更、と薪は思う。
 僕はとっくにおまえのこと。でなきゃ、だれがこんな我慢なんかするか。

「オレの名前を呼んでください。オレを感じてください」
 貫かれる苦痛に耐えながらも、身体の奥に男の精を受けたとき、幸福感が満ちてきた。これでお終いだ、と思って、よけい辛くなった。

 青木は行為が済むと、薪をぎゅっと抱きしめて「すみませんでした」と言った。ごめんなさい、と謝った。
 謝るのは自分にじゃなくて、彼女にだろう。雪子とそういう仲になっておいて、こんなことをするなんて。

「おまえのことが、わからなくなった」
 いきなり僕を抱かなくなったと思ったら、いつの間にか雪子さんと親密になってて。それは予定調和だとしても、今日のこれは説明がつかない。

「おまえはいったいどうしたいんだ。僕に何を求めてるんだ?」
「あなたが好きなんです」
「……なに?」
「オレはあなたが好きなんです。他の誰にも渡したくない、この世の誰にも、いいえ、死んだ人にだって渡したくないんです!」
 青木の言うことは矛盾だらけだ。
 雪子のことはどうする気だ。泣いて喜ぶほど彼女との結婚を望んでいたのではないのか。

「雪子さんにプロポーズしたんだろう。それなのに、どうしてそんなことを」
「プロポーズ? どこから仕入れてきたんですか、そんなガセネタ」
 何故そんな白々しい嘘を、と言いかけて、薪は言葉を飲んだ。青木の虚言の原因がどこにあるかを察した薪には、そうするしかなかった。
 自分を避け続けていた青木が、今日になって急にここに来たのも、すぐにばれるような嘘を吐かざるを得ないのも、僕のこの傷を見たからだ。

 毎年、この季節になると。
 僕は自分で自分を傷つけずにはいられない。そうでもしないと、翌日の職務が執れない。そんな僕を知って、やさしい青木は『カワイソウな元恋人』を放っておけなくなったんだ。
 だから、青木はやさしい嘘を吐く。僕にもう少し、夢の続きを与えてくれようとしている。でも、それはひどく残酷な嘘だ。

「隠さなくていい」
 薪は両手で青木の体を押しのけた。離したくない腕の中から抜け出して、のろのろと起き上がった。
 青木のバカ力のせいで、喪服がぐしゃぐしゃだ。背中には潰れた百合の花の汁が沁みこんでいるし、ズボンにも裂け目が入っている。この服はもう着られない。
「僕は大丈夫だから。どうせおまえとは、長く続かないと思ってたし」
 精一杯の虚勢を張って、薪はサバサバした口調を取り繕った。青木の同情をこれ以上買わないように、上着の襟元を合わせて自分の弱さの証拠を隠した。

「それはどういう意味ですか!? オレと本気で付き合う気はなかったってことですか!」
 驚きの声に、薪は顔を上げた。
 青木はとても哀しい瞳をしていた。まるで自分のほうが乱暴されたみたいに、痛々しい表情だった。
 言い方が良くなかった、と薪はすぐに後悔した。そういう意味じゃない、と言おうとした。しかし、その前に青木が言葉を重ねてしまった。

「薪さんは、鈴木さんが好きなんですよね」
 断定されて、言葉に詰まった。
 そんなことはない、とは言えなかった。嘘は吐けなかった。
「オレのことなんか、何とも思ってないんですよね。ただのセフレですもんね」
 バカじゃないのか、こいつ。
 女の子ならともかく、男のセフレなんか要るか。アソビであの痛みに耐えられると思うのか。
 そう言ってやりたかったが、青木の辛そうな顔が薪の口を重くした。
「初めからそういう話でしたよね。体しかやれない、心はやれないって、薪さんそう言ってましたもんね」
 過去の発言の揚げ足を取るような糾弾に、何よりもやけっぱちなその言い草に、薪は心底驚いた。昔のことを蒸し返すのも、捨て鉢な態度も。ありえないくらい青木らしくない。

「どうしたんだ? 急に」
「オレは鈴木さんじゃありません!」
 青木は、当たり前のことを大声で叫んだ。

「もう、いやなんですよ! 鈴木さんの代わりは嫌です! オレを見てください、オレは青木です。青木一行。鈴木克洋とは別の人間なんです」
「そんなことは分かってる。おまえなんか鈴木の代わりになれるか。鈴木のほうが百倍いい男だ」
「じゃあ、ベッドの中で鈴木さんの名前呼ぶの止めてくださいよ!」
 驚愕するのは、薪の番だった。

 ベッドの中で鈴木の名前を?
 こいつに抱かれながら、僕が鈴木の名を呼んでいた?

「あの夜、オレがどんな気持ちであなたのこと抱いてたか、わかりますか? 身体はひとつになってるのに、心は遠くて……オレがどんなに努力したって、薪さんは鈴木さんのことばっかり考えてるじゃないですか。
 今あなたを抱いてるのはこのオレなんですよ! 鈴木さんじゃありません、オレです。オレは青木です!」
「……呼んでた?」
 あの穏やかな青木がこれだけ怒っているのだから、それは本当のことなのだろう。そう思いながらも、薪は確かめずにはいられなかった。
「鈴木の名前を呼んだのか? おまえの前で?」
「わざとやってたんじゃないのは解ってましたけど、でも、だからって。やっぱり我慢できないんですよ……!」
「そうか……それで、僕を抱かなくなったのか」

 どこまで。
 どこまで僕はひどい人間なんだろう。
 ひたむきに自分を愛してくれる恋人に、なんて残酷なことをしたんだろう。

「おまえの言う通りだ」
 乾き切ったアルトの声が、言った。
 感情も抑揚もない冷たい響き。自分の口から出ているとは思えない、遠い遠い声。

「僕は鈴木のこと以外は愛せない。おまえのことも、初めから彼の代わりにするつもりだった」
 雪子さんが青木との未来を受け入れてくれて、本当によかった。
 僕には鈴木を忘れることはできない。この先も、こいつを傷つけることしかできない。
 もう、傷つけたくない。

 薪は青木の瞳をしっかりと見て、別れの言葉を告げた。

「終わりにしよう」




*****


 鍵コメ率100%になりそうです。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Kさまへ

こんにちは、Kさま。

『竹内警視の受難』の頃から、というと~、きゃ、9ヶ月も前から見てくださってたんですね! 
このブログ、まだ開いてから1年くらいなので、もう当初からのお客さまでいらしたんですね。 ありがとうございます~~~!!!


毎日ウキウキ、とのお言葉、とってもうれしいですっ。
ニヤニヤどころかジュルジュルって!(爆笑)
色彩を思い浮かべていただけましたか? 書き手冥利に尽きます(^^

しかーし、Kさま、それはもう・・・・・・少々のSっ気ではなく、ドS確定でございます(笑) お仲間ですねっっ!! (一緒にしないで、という悲鳴がどこからか・・・・・(^^;))


だけど、わかっております。
Sが楽しめるのは、最後のハッピーエンドを信じてくださっているから、なんですよね(^^) わたしだって、そうでなければ書けませんもん。 


たくさんの拍手をありがとうございます。 
これからもよろしくお願いします!!
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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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