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斜塔の頂(1)

 こんにちは。

 こちら、『トライアングル』で壊れてしまった二人の関係を修復する話になって、る、かなあ??
 一応、第3部の最終話です。

 よろしくお願いします。







斜塔の頂(1)








 斜めに傾いた塔の天辺で、彼はヤジロベエになってゆらゆらと揺れている。
 右手に黄昏色の珠、左手に暁色の珠。二つの重さは均等で、だから彼はバランスを保っている。
 
 片足立ちになった彼の下に、床は見えない。ひどく傾いだ建物の角に立っているので、見下ろせるのは遥か下方の地面だけだ。そこには気味の悪い虫がうようよしていて、彼はぞっと背筋が寒くなる。
 下を見ないように、何とか踏ん張ろうとするけれど、片足しかない彼には不安定に揺れることしかできない。

 こわい、誰か助けて、と思わず叫びたくなるのを、声に出したらその反動で落ちてしまうことを経験から知っている彼は、歯を食いしばって堪える。募る恐怖に、誰か誰か、と心の中で繰り返す彼の右手に持った黄昏色の珠が、彼を勇気付けるように暖かな光を宿す。
 光は次第に大きくなり、彼を包み込もうとする。懐かしい匂いと安寧が、その光には含まれている。

 すべてを預けたい衝動に駆られて、でも、それはしてはいけないことだ、と彼は自分に言い聞かせる。だけど、彼を包む光はどんどんその輝きを増し、さらには彼自身の中にその光と一体化したいという欲望が生まれて、彼の情動は自身にも抑えきれないものとなる。
 耐え切れず、彼は自分を誘惑する黄昏色の珠を投げ捨てる。自然、左の珠の重さに、彼の身体は大きく傾いた。

 あ、と微かな声を上げて、バランスを崩した彼は塔の天辺から落下する。
 耳の両脇を、ソニックブームのように風が通り過ぎる。怖いのに、恐ろしくて仕方ないのに、彼は両目を見開いている。

 彼の亜麻色の瞳に、地面が映る。

 おぞましい虫たちが、うじゃうじゃと蠢いている。長い触手と数え切れない鞭毛。長細い体の両脇に生えている十数本の短い足。百足のようなその生物が、上空から落ちてきたご馳走に気付いて、一斉に顔を上げた。
 刹那、彼は鋭い悲鳴を上げる。

 見渡す限り地面を埋め尽くしているその虫たちの顔は、彼の美しい顔にそっくりだった。




*****





「青木。ちょっと」
 ガイドブックを片手に自宅のパソコンの前に座っていた薪が、青木のほうを振り返った。はい、と応えを返してソファから腰を上げ、薪の背中からパソコンを覗き込む。画面には、馬に乗った若い女性が映っていた。どこかの牧場のホームページらしい。
「ここ、生まれたてのポニーがいるって。今度の週末、見に行かないか」

 薪は動物が大好きで、ただの友だちだった頃には、さんざん動物系のテーマパークに付き合わされた。動物園に水族館、サファリパークに牧場。サル山公園に行ったときには、青木の頭の上にサルが乗ってきて、大騒ぎになった。「親だと思われたんだろ」と薪は笑ったが、岡部じゃあるまいし。
 しかし、恋人同士になってからは、連れ立って出かけることはしなくなった。
 薪は、周りの人間に自分たちの関係を知られることを極端に怖れていて、デートどころか、職員食堂で隣に座ることさえ躊躇している。何もそこまで、と青木は思っているのだが、いくら誘っても首を縦に振ってくれないものだから、青木も最近は薪を外に連れ出すことを諦めかけていた。

 そんな薪からの誘いに、青木は有頂天になる。
 はいっ、と元気よく返事をしたら、薪に笑われた。気恥ずかしく思ったが、薪が笑ってくれればいいか、と考え直した。

「場所は栃木県ですか?  じゃあ、出発は7時で」
 朝が早いから土曜の夜のデートは無理だな、と心の隅で少しだけ残念に思う。それを表情に出したつもりはなかったが、薪は横目で青木の顔を見て、意地悪そうに笑った。
「おまえが何考えてるか、当ててみようか」
「なんですか」
「土曜の夜の分、今日させてもらえないかな、って」
 ……するどい。
「そんなに物欲しそうな顔してましたか?」
「してた」
「……すみません」
「謝ることじゃないだろ。したかったらすればいいじゃないか」
 あっさり許されて、青木は戸惑う。
「恋人なんだから」

 回転椅子を回して、薪は身体ごと青木の方に向き直った。自分から手を伸ばして青木の頭を抱き寄せ、くちびるを重ねてくる。
 薪が自分からこんなことをしてくれるなんて。踊りだしたいくらい嬉しい。
 青木はホクホクと舞い上がる。しかし、それは一時のことだった。

 寝室で自分から服を脱いでくれた薪のからだは、その積極さとは裏腹に、固い蕾のようだった。くちづければとろりと潤む亜麻色の瞳は、静かな湖面のように冷静なまま、青木の舌が首筋を這えば乱れるはずの吐息は穏やかに凪いで。下方に伸ばした青木の手の動きに、腰を浮かせることもしない。
「気乗りしませんか?」
「そんなことない」
 長い睫毛が、下方に伏せられる。その震えに彼の不安を悟って、青木は薪のからだをすっぽりと胸に抱きこむ。先を続けようと、青木の腰に伸ばされた小さな手を捕らえて、自分の背中に回す。薪は諦めたようにふっと息を吐くと、青木の背中を強い力で抱きしめてきた。
「寒くなりましたからね。こうやってくっついてるの、気持ちいいですね」
「……うん」

 実は、もう3ヶ月以上もこんな状態が続いている。
 恋人の変化の裏側を探って、青木は嫌な記憶に突き当たる。思い出したくもない記憶は、しかし青木の中にしっかりと根を下ろし、その剣のような枝葉の先端で、時折ちくちくと青木の心を刺し続ける。

 あの悪夢のような夏の夜から4ヶ月。
 以前と変わらぬように振舞っているが、どことなくギクシャクしている薪と、表面上は平穏な日々が続いている。
 青木の方だって、気にしていないと言えば嘘になる。恋人が、自分に抱かれながら他の誰かのことを思い浮かべていた、という事実は、そんなに簡単になかったことにできるものではない。
 いくら取り繕っても、何も知らなかった頃には戻れない。だから、青木にできることはひとつだけ。薪の憂いは見ない振り、だ。

 彼の不調は多分心因性によるもので、その理由は察しがつく。薪は多分、自分があの日のようになることを恐れているのだ。
 薪にとってはおそらく初めてだった理性を失うような快感に、思わず叫んでしまった昔の恋人の名前。それは、薪が自分と身体の関係を持ちながらも、今でも彼のことを愛しているのだ、と痛烈に知らされた瞬間だった。
 青木とて、あれを繰り返し聞きたくはない。何より、こんな薪は可哀相で。だから薪をベッドに誘う回数も減ってしまった。からだは繋げなくても、裸でじゃれ合うのはとても楽しかったのに。

「週末、楽しみですね。ポニー、かわいいでしょうね」
 ベッドの中ばかりが恋人の交流ではない。青木は薪の気を引き立てようと話題を転じたが、薪が興味を示しそうなその会話は、続けることができなかった。青木の腕の中で、薪はすでに寝息を立てていた。
「疲れてるのかな。それとも、睡眠不足かな」
 もしかしたら、いつかのように悪夢にうなされているのかもしれない。

 あの夏の日以来、薪は青木を自宅に泊らせなくなった。理由ははっきりとは言わないが、おそらく、無意識の自分を警戒しているのだ。
 眠っている間に、彼の名を呼んでしまったらどうしよう。
 現在の恋人に対する気遣いから派生している宿泊禁止の条例は、裏を返せば、今も昔の恋人の夢を見る、ということだ。

 青木はいつもするように、薪にパジャマと下着を着せてやり、首まですっぽりと毛布を被せた。あどけなさの残る寝顔に、そっとキスをする。
「おやすみなさい」
 どうか楽しい夢を、と願って、青木は薪のマンションを出て行った。




*****


 EDの薪さん書いてるのなんて、わたしだけだろうなあ。(笑)



*****



 この下は、お話には何の関係もない8月号を読んでの妄想です。
 考察じゃないです、ただの妄想です。
 
 
 




 いらっしゃいませ~。




 未だ、8月号の衝撃から起き上がれないしづですが。
 何が一番ショックって、あの幸せの象徴のような一家を見舞った悲劇です。
 ショッキングな展開のお話は大好物のわたしですが、これは予想しませんでした。

 
 これがもし、普通のサスペンスドラマだったら、面白い展開だと思うのです。 

 巨悪と戦うことに些かの躊躇いを覚える若い捜査官、そのたった一人の姉とその家族が殺され、彼は復讐心と共に戦いの覚悟を決める、みたいな。 
 だけど、そこに薪さんと青木さんが絡むと、あああああ、冷静になんかなれないよおお!!
 ワクワクできない。 きっと今のわたしは作者の望む読者の姿ではない、と思いつつも、楽しむ気持ちより不安が勝ってしまうのです。 ヘタレな読者ですみません、清水先生。



 それにしても、事件の裏側って、どうなってるんでしょう??

 わたしは考察は苦手ですけど(←アタマわるい)、妄想は得意なので~~。
 ちらっと妄想してみました。



カニバリズム事件の秘密

 飛行機墜落はそれ自体が偽造事故で、政府の秘密を握る一人の乗客を抹殺するためのものだった。 発見を遅らせたのは確実にターゲットを殺すためで、意図的な工作だった。 他の乗客はその犠牲になった。

 その事実を知った遺族が集団で、事件を隠蔽しているものたちに脅しをかけてきた。 
 薪さんには爆弾、青木には身内の惨殺という形で。 青木の姉一家を殺害したのは、身内を殺された思いを知れ、という意味。

 糸を引いているのは滝沢。 遺族に事実を知らせて、焚きつけた。

 滝沢の動機 
 滝沢自身も遺族の一人で、真実を隠蔽した上層部及び第九に恨みを持つ。 遂には第九壊滅を目論み、第九へ異動願いを出す。 
 貝沼事件にかこつけて次々と同僚を抹殺、自分は気が狂った振りをして偽装入院。 陰で暗躍を続け、すべての準備が整ったところで行動を起こした。 

 よし、これで1本SS書いて、リハビリしよう。


 ということで、原作の予想をしているわけじゃなくて、妄想です。
 
 滝沢さんはいいひとで、入院は偽装だったかもしれないけれど、陰で第九のために働いていたのだと思います。そのことを田城さんは知っていたのでしょう。だからその事情を説明するために、一緒に来たのだと思います。
 10月号では、薪さんを狙った犯人たちのことが、滝沢さんの口から語られるのかもしれません。 




 失礼しました。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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No title

しづ様

キャーッ、すてきステキ素敵☆☆\(^o^)/☆☆
このSS、お書きになったら是非とも読ませてください。
皆さまの8月号のレビューを読ませていただいて、私も妄想してみたのですが、まとまりませんでした。(←超頭悪い)

話変わって、しづ様のあおまきーー
やれやれ、認印を押して3か月たっているのに、全然進展していないんですね。
実はEDと読んでも何のことか、すぐには分かりませんでした。だって、しづ様の薪さんだけなんですもの。(笑笑)
青木がんばれ!
鈴木さんの方が100倍いい男だったんだから、百折不撓でいくっきゃない!!

これは12月頃のお話ですよね? 今年のクリスマスこそは、かしら?
関係が修復されるかどうか、楽しみにしています。

サンショウウオさま

こんにちは、サンショウウオさん。
お返事遅れまして。 ちょっとヘタレてました、すみません(^^;


> キャーッ、すてきステキ素敵☆☆\(^o^)/☆☆
> このSS、お書きになったら是非とも読ませてください。

このSSって、ブラック滝沢の復讐劇ですか?
そうですね~、もうちょっとリハビリしてから構想を練ってみます。


> 皆さまの8月号のレビューを読ませていただいて、私も妄想してみたのですが、まとまりませんでした。(←超頭悪い)

今回のレビューは、どちらさまも読み応えがありますよねっ。
みなさん、とても鋭くていらっしゃって。 そして、ひとりひとり違う解釈をなさっていて。
同じ物語なのに、様々な感想や解釈が生まれる。 これは善人と悪人の境界線をはっきりさせない、『秘密』ならではの楽しみ方ですよね。


> 話変わって、しづ様のあおまきーー
> やれやれ、認印を押して3か月たっているのに、全然進展していないんですね。

そんなことないですよ、進展してますよっ。
鈴木さん問題が前面に押し出されて・・・・・・あ、あれ?後退してる??


> 実はEDと読んでも何のことか、すぐには分かりませんでした。だって、しづ様の薪さんだけなんですもの。(笑笑)

でしょうねー!
きっとエッチがキライな薪さんもうちだけですよ(^^;
あ、女性とのエッチは好きなんですよ。 普通にできますしね。 死んでも書きませんけど(笑)


> 青木がんばれ!
> 鈴木さんの方が100倍いい男だったんだから、百折不撓でいくっきゃない!!

はい、ありがとうございますっ。
がんばってもらいます!
百折不撓って、難しい言葉ですね。(さすがだ・・・・・) うちの青木くんにはピッタリの言葉だと思います。


> これは12月頃のお話ですよね? 今年のクリスマスこそは、かしら?
> 関係が修復されるかどうか、楽しみにしています。

うちのふたりは、クリスマスには縁がありません。 その日は鈴木さんの呪いが掛かってるので(笑)
3部も終わりなんでね、関係は修復させます。 途中どれだけ泥沼を歩いても、最後はハッピーエンドで、がわたしのポリシーなので(^^

ありがとうございました。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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