女神たちのブライダル(2)

女神たちのブライダル(2)













 湯煙の中で、薪は恋人の背中に自分の身体を擦り付けている。石鹸を泡立たせ、ソープ嬢の真似事をして戯れている。相手の男はとても嬉しそうだ。ぬるぬる滑る皮膚の感触を楽しんで、くすくすと笑っている。

「今日はどうしたんですか?」
「なんだ。嬉しくないのか」
「うれしいですけど、後が怖いです」
 薪の現在の恋人は、12歳年下の男性である。こういう関係になってだいぶ経つが、一向に熱が冷めないという変わった男だ。
 薪も男だからその心理は理解しているつもりだが、男にとっての恋愛は獲物を手に入れるまでが楽しいのであって、落としてしまったら後は多少なりともテンションが下がるものだ。その先には結婚というゴールが待っているわけだが、薪たちには当てはまらない。男同士だからだ。

 その夜は考えるところがあって、薪は自分から年若い恋人を風呂に誘った。普段ならこんなことは絶対にしないのだが、今日だけはこいつの喜ぶことをしてやりたい。
「オレ、背中流して下さいって言っただけで、ここまで頼んでませんけど」
「サービスしとく。今日は特別だ」
 手を前に回して、胸や腕を洗ってやる。とても大きな男なので、洗うのも一苦労だ。

「じゃあ、今度はオレが洗ってあげますね」
「僕はおまえが来る前に洗ったから」
 言いかけて、気付く。こいつは僕の身体に触りたいのだ。
「うん。たのむ」
 胡坐をかいた男の膝に、後ろ向きに腰を降ろす。相手の胸に背中をもたれさせて、男の大きな手を自分の前に持ってくる。手に手を添えて胸から腹、その下へさらに下へと導いていく。足を曲げてその部分を突き出し、男の手が動きやすいように腰を浮かす。
「念入りにな」
「はい」

 ぬぷっと男の長い指が入ってくる。びくりと背中を仰け反らせて、薪はその愉悦を味わう。
「よく洗って……奥まで、ンんっ!」
「奥よりここですよね、薪さんのイイトコ」
「そ、そこはダメだって」
 自制心をフルに使って、薪は自分の身体を恋人の手から引き剥がす。自分が悦んでしまってはダメだ。今日はこいつを悦ばせてやると決めたのだから。

 シャワーの湯を強めに出して、相手と自分の身体についた泡を洗い流す。薪よりもずっと若い恋人は、ほんのわずかの接触で、早くも欲望のきざはしを覗かせている。
 薪は両膝を床につき、犬のような格好になって相手の下腹部に顔を寄せる。両手で大事そうにかれを包み、くちびるを尖らせて先端にキスをする。相手が戸惑っているが、このさい無視だ。目を閉じて咥え込む。息苦しさを堪えて、頭を上下に動かす。
「薪さん……ああ……」
 気持ち良さそうな声。悦んでくれたらしい。

 薪の口の中で、それは大きく膨らんでくる。だんだん息ができなくなってきた。たまらず、口を離して息を継ぐ。舌を使って下から舐めあげる。くちびるで挟んで吸い上げる。びくびくと震えがきて、もう少しで終りを迎えそうだ。
「ちょ、ちょっと、やばいです」
「いいぞ。このまま出せ」
「いや、ダメです。ほんと、もう、あっ、あっ!」
「おまえはいつも僕のを飲んでくれるだろ。だから今日は僕が」
「でもっ、くっ!」
 薪は細い指を相手のバックに滑り込ませた。自分がされていることを思い出して、そっくり相手に返してやる。自分と同じ身体なんだから、性感も同じはずだ。

「~~っ! ま、薪さん!」
 喉の奥に暖かい飛沫があたって、思い切り咳き込んだ。痛い。鼻から逆流してきた。もの凄い匂いだ。吐きそうだ。
 飲んでやろうと思ったのに、大半が口の外へ出てしまった。でも、飲めたもんじゃない。めちゃめちゃ不味い。

「おまえ、今までよくこんなもん飲んでたな」
「薪さんのは平気ですけど、オレも自分のは飲めません」
「おんなじ味だろ? 成分が同じなんだから」
「うーん、どうなんでしょうね。試してみましょうか」
 伸びてくる大きな手を押し留めて、ベッドへ誘う。このまま続けたらのぼせそうだ。

 若くて力持ちの恋人は、薪の体をバスタオルでくるむと、軽々と抱き上げて寝室へ運び込んだ。ベッドの上にそっと寝かせて、すぐに上から覆いかぶさってくる。今さっき薪の口の中に放ったばかりだというのに、そこはもう使用可能な状態になっている。若いというのは羨ましい限りだ。自分ではとてもこうはいかない。
 というか、相手の体力についていけない。こいつが満足するまで付き合おうと思ったら、翌日は一日中ベッドで寝ていることを覚悟しなくてはならない。

 でも。
 今日は付き合ってやろう。明日は室長会議の日だけど、僕も今日だけは思い切りこいつに抱かれたい。

 恋人のやさしい愛撫に、薪は大きなよがり声をあげる。くちびるを噛んで声を殺す努力は、今日はしない。僕がたくさん乱れたほうが、こいつは喜んでくれる。僕が恥ずかしい思いをすればするほど、激しさを増す性技がその証拠だ。
 だから今日だけは、気持ちいいって叫んでやろう。正直に何をどうして欲しいか、訴えてやろう。こいつが僕に望むことは何でも叶えてやりたい。

「あっ、そこ。すごく感じる」
「気持ちいいですか?」
「うん、もう我慢できない、早くきて」
「はい」
「もっと奥まで、深く入れて……突いて、もっと、もっと強く……もっといっぱい、おまえが欲しい……!」
 普段なら、口が裂けてもこんなことは言わない。今だって本当はもの凄く恥ずかしい。でも今日だけは、こいつが欲しがるすべてのものを与えてやろう。心も身体もプライドも、僕があげられるものは全部あげてしまいたい。

 今日が最後のチャンスだから。
 僕が本当はこんな風におまえと愛し合いたいと思っていることを吐露することができる、最後の機会だから。

 意識的に甘い声を上げながら相手の腰に足を絡ませ、彼の快楽を高めるように技巧を駆使しつつ、薪は心の中でカウントダウンを始める。
 このままずっとこうしていたい。ずっと繋がっていたい。でも、どんなことにも必ず終始があって、これを終えなければ次の未来は始まらない。

 若い恋人の欲望に終りが来て、薪は荒い息を吐く。いつもならこのまま眠ってしまうのだが、今日はこれからが本番だ。
 隣で満足げな呼吸をしている男の胸に手を当てて、薪は上体を起こした。相手の顔をよく見る。最初は死んだ親友によく似ていると思っていたのに、この頃はまったくの別人だと思うようになった。
 男らしい眉に切れ長の目が、とても好きになった。高い鼻とセクシーなくちびるに、ぞくぞくするような色気を感じるようになった。
 誰よりも大切で、誰よりも大好きな恋人―――――。

「おまえ、僕に何かして欲しいことないか? 今日は何でもしてやるぞ」
「どうしたんですか、本当に。具合でも悪いんじゃないですか?」
 ひとがせっかく親切に言ってやってるのに、素直にきかないなんてバカなやつだ。こんな機会は二度とないのに。
「僕だって、たまにはやさしくしたいときもあるんだ。何でも言ってみろ、怒らないから。次は僕が上になってやろうか? それとも口でしてやろうか。今度こそ、ちゃんと飲んでみせるから」
 遠慮深い恋人は、しばらく考えた後にやっと口を開いた。
「ひとつだけ、いいですか?」
「ひとつじゃなくていい。いくつでも、どんなことでも叶えてやる」
 AVまがいのことも風俗嬢みたいな真似も、いくらだってしてやる。おまえが喜ぶなら、今日の僕はおまえの奴隷になる。

「オレのこと、好きだって言ってキスしてもらえますか?」
「……そんなんでいいのか?」
「オレは、薪さんがオレのこと好きだって言ってくれるのが一番嬉しいです」
 恋人の一途な言葉に、薪は思わず泣いてしまいそうになる。
 こいつはこんなに僕のことを好きでいてくれて。純粋に僕だけを愛してくれて。僕みたいな不実な恋人を、もう何年も。

「わかった」
 相手の首に腕を回して抱きしめる。耳元で愛していると何度も囁く。素直な恋人はオレもです、と返してきて、薪のからだを抱きしめてくれる。
 想いの限りを込めて、薪はその唇にくちづける。永遠にこうしていたいと思うが、そうもいかない。そろそろ時間切れだ。

「青木。僕のこと、好きか?」
「はい」
「じゃあ、僕の頼みを聞いてくれるか?」
「オレにできることなら何でもしますよ」
 真っ直ぐに返ってくる、若い恋人の答え。にっこりと微笑んで、とても幸せそうだ。

 この笑顔を一生忘れない。僕には、これだけあればいい。

 薪は腹の底に力を込めて、しっかりした声で言った。

「別れてくれ」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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