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女神たちのブライダル(3)

女神たちのブライダル(3)








 今日の薪は、最初から様子がおかしかった。
 自分から青木を家に誘って、風呂の中で戯れてくれて、ベッドの中で積極的に自分から求めてきて。
 何かあるとは思っていたが、こういうことか。

「どうしてですか」
 青木にとっては、天変地異が起こったに等しい。それ相応の理由がなければ、とても納得できない。

「小野田さんの娘さんと付き合ってるんだ」
 初耳だ。前々から縁談を勧められていたが、今まではきっぱりと断っていたはずだ。
「会ってみたらいいひとでさ。結婚しようと思ってる」
 ついさっきまで、自分の腕の中で悦びに震えていた恋人は、そんなことを言い出した。

「おまえ、前に言ったよな。僕に好きな女性ができて、結婚するなら身を引くって」
 たしかにそう言った。
 そこまでが自分の役目だと思っていた。薪のようなすごい人が、自分のことをいつまでも相手にしてくれるわけがない。もっと早くに薪が結婚を決意していれば、薪はとっくに警視長になっていたはずだ。そうしたら今頃は、警察庁初の40前の警視監が誕生していたかもしれない。薪にはそのぐらいの実力がある。
 それに、自分では薪に家庭を持たせてやることも子孫を残してやることもできない。薪のように優秀な遺伝子を持った人間の子供がいないなんて、薪にとっても人類にとっても大きな損失だ。

「僕が小さいころ、両親亡くしてるのは知ってるよな。だから僕はずっと家庭の暖かさに飢えていて、自分の家族が欲しかったんだ。あんな事件があって、それを一旦は諦めてたけど、おまえのおかげで僕はこうして立ち直ることができた。
 栄子さんと結婚して自分の家庭を持って、子供もたくさん作って、孫に囲まれて死ぬんだ。僕がそんな幸せな未来を思い描けるようになったのは、おまえのおかげだ」
 薪はそこでにっこりと笑った。完璧な笑顔だった。

「おまえには感謝してる。これまでありがとう」

 いつかは、こういう日がくると思っていた。
 薪が本当に立ち直ったときに、自分の役目は終わると解っていた。その日が遂に来たのだ。喜ばなくては。大切なのは、薪が幸せになることだ。自分の恋が成就することではない。

「それで今日はやさしかったんですね」
「うん。感謝の気持ちってところだ。満足してくれたか?」
「はい。最高でした」
 萎えてしまいそうになる気力を必死で掻き集めて、青木はむりやり笑顔を作った。
 ここで自分が泣いたら、このひとは困ってしまうだろう。冷たく見せかけて、本当はとてもやさしいのだ。今だって平気な顔をしているが、心の中は自分を切り捨てる罪悪感でいっぱいになっていることだろう。

「よかった。ごねられたらどうしようかと思ってたんだ。おまえが物分りのいいやつで助かったよ。
 まあ、もともと僕たちはセフレみたいなもんだったからな。おまえもこの次は、ちゃんと女の子の恋人を見つけるんだぞ。結婚して子供作って、親を安心させてやれ」
「……はい」
 笑顔のままで喋り続ける薪を見ているのがつらい。残酷なことを言う人だと思ったが、その裏の真実を知っている青木には、薪を責めることも恨むこともできなかった。

「明日からは、普通の上司と部下だぞ」
「はい」
「いいか。社会人てのはな、プライベートでどんなことがあっても、仕事には全神経を集中させることができなきゃ駄目なんだ。仕事中に少しでもボーっとしたりしてみろ。後頭部に回し蹴りが行くからな」
 薪は、早速上司らしく説教を始めた。辟易した顔を作って、青木はベッドから逃げ出す。シャワーを借りて身支度を整える。薪はパジャマ姿で玄関口まで送ってくれた。

「寄り道せずに、真っ直ぐ帰れよ。明日も仕事なんだからな」
 これでこのひとのこんな姿は見納めかと思うと、泣きそうになってしまう。薪のようなポーカーフェイスは、まだ習得できそうにない。

「青木。いままで楽しかった」
 薪は、最後に極上の微笑を青木にくれた。
 それを目に焼き付けて、青木は薪のマンションを後にした。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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