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女神たちのブライダル(7)

女神たちのブライダル(7)








「実はもう、何回かデートもしてるの」
 雪子の告白に、氷の警視長はその美しい頬を真っ赤に染め、形の良いくちびるをまるで似つかわしくない罵りの言葉で彩った。
「あのやろう、いつの間にっ!」
 
 怒りを抑えるように大きく息を吸い、ハッと一気に吐き出して、薪は雪子のほうを強い目で見た。その亜麻色の瞳に、いつもの冷静さは欠片もない。
「ダメです、雪子さん! 竹内は人間のクズです、女性の敵です! あいつの女好きの噂、知らないわけじゃないでしょう。あいつは女なら誰だっていいんです。8歳の女の子だって口説くんですよ!」
 それは薪の誤解である。
 その事件の時には青木も居合わせていたから、事情を知っている。しかし、敢えて弁明はしてやらなかった。竹内が薪に惚れていることを知っていたからだ。

「それは昔の話でしょ。今はそんなことないわよ」
「だまされてるんですよ! 人間、そんなに簡単に変わるもんじゃないんです。女好きは一生、女好きのままです。傷つくのは雪子さんなんですよ」
 雪子の抗弁を聞こうともせず、薪は頭ごなしに竹内の人格を否定する。薪は思い込みが激しい。薪のこの性質には何度も泣かされてきた青木だが、竹内のことに関してだけは結果オーライだ。他のことならともかく、薪のハートを射止めることに関しては、青木は一流の策士になれる。

「大丈夫だったら。ああ見えても竹内は結構真面目で」
「まさか、まだ何もしてないでしょうね? ムードに流されて許したらおしまいですよ。犯り捨て御免なんですから、あの男は!」
 血の気の引いた顔で、たらりと冷や汗までかきながら、薪の狼狽振りは滑稽ですらある。まるで年頃の娘を心配する父親のようだ。
 雪子は薪の娘ではないし、もう40を超した大人なのだから、そんなことは大きなお世話だと思うのだが、それを指摘したりしようものなら薪の怒りは青木に向けられる。青木の顔の腫れは、間違いなく倍になるだろう。

「うーん。エッチは克洋くんより上手かも」
「なんて軽はずみな真似を! あの男は穴さえあれば何でもいいんですよ!」
「そこまで言う?」
「許しませんよ、僕は絶対に認めませんからね! 今ならまだ間に合います。即刻、別れてください!」
 なんて横暴な言い方だろう。許さないと言うが、薪に何の権利があるのだろう。

「だから、薪くんには言いたくなかったのよね」
 薪の理不尽な横車を予想していたのか、雪子は軽くため息をついて、助けを求めるように青木の方を見た。
「薪さん。薪さんは竹内さんのこと、誤解してます。竹内さんは三好先生のことを、本当に大切に想ってるんですよ」
 雪子のSOSを察知して、青木は竹内を弁護することにした。それはもちろん、雪子たちを応援する気持ちからの行動だったが、青木の中には策士としての考えも存在した。
 昔のことはさておき、竹内は現在真剣に雪子との未来を考えている。が、そう簡単に思い切れないのが恋というものの厄介なところで、まだ薪に些少の未練を残しているようだ。青木としては、ここで薪に竹内と雪子の仲を認めさせ、ふたりの仲を確実なものにして、恋敵にとどめを刺しておきたい。
 卑怯? 上等だ、きれいごとだけで自分のものにしておけるほど、薪を狙っている人間は少なくない。標的になっている本人に自覚が無いとなればなおさら、青木は狡猾になるしかない。

「おまえまで何言ってんだ! 雪子さんを竹内のクソなんかに奪られていいのか、くやしくないのか。おまえはそれでも男か!」
「いや、別にオレ、三好先生のことは何とも思ってないし」
 雪子にはいくらか怒気を抑えていた薪が、青木には遠慮なしに噛み付いてくる。さっきも青木のことはさんざん殴ったくせに、雪子にはちょっと睨んでみせただけでお咎めなしだ。この差はなんなのだろう。

「竹内みたいな外道に比べたら、このヘタレのほうがまだマシです! 雪子さん、考え直してください!」
「薪さん! なに言い出すんですか、オレの気持ちは」
「おまえの気持ちなんかどうだっていいんだ! 大切なのは雪子さんの幸せだ!」
「どうだっていいって、そんなあ」
 薪の優先順位はとても明確だ。好きなひとにはどこまでも甘く、そうでない人間には限りなく厳しいのだ。

「悪いけど、12歳年下の男はちょっとね」
「じゃあ雪子さん! いっそのこと僕と!」
 薪は完全にテンパッている。
「ごめんね、薪くん。あたし、自分より小さい男には興味ないの」
 スパッと急所を攻められて、薪はがっくりと肩を落とした。

「女の人に振られたの初めてだ、僕……」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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