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聖夜(1)

 こちらのカテゴリには、すずまきさんのお話が入れてあります。
 うちの薪さんは、とっても鈴木さんのことが好きなので、青木くんに対する時とは別人のように可愛らしいお姿になって、る、かなあ?




聖夜(1) 







 その日の街は、皆が浮き足立っているように思えた。

 赤と緑。洋服の柄にしたら絶対に趣味の悪い配色に街中が包まれて、さらに金銀のモールがこれでもかというほどに飾り付けられ、極めつけは眼がチカチカするような派手な電飾。街を歩けばそれがいやでも目に入る。
 2058年のクリスマスイブ。恋人たちにとっては年に一度の大切な日だ。
 しかしここ、法医第九研究室には関係のないことだ。
 特に、独善的で仕事の鬼と称される室長にとっては。

「なあ、頼むよ鈴木。今日のデートすっぽかしたら、本当にやばいんだよ。室長に、今日だけは定時退室できるように頼んでくれよ」
 第九の職員たちにぐるりと周りを取り囲まれて、鈴木は困った表情を浮かべた。
「なんでオレ?」
「室長はおまえの言うことだったら聞くだろう? 親友なんだろ、おまえら」
「無理だよ。仕事とプライベートはきっちり分けるやつだからな」

 断ろうとするが人のよい鈴木のこと、同僚に拝み倒されては無下にもできない。言ってはみるけど期待するなよ、とぼやきながらも室長室に入っていく。

 背の高い後姿を見送って、同僚たちは心の底から彼の健闘を祈った。



*****



「クリスマス? 仕事と何の関係があるんだ」
 細い指で鈴木の書いた報告書をめくりながら、室長は12月の外気より冷たい声で言った。
 鈴木は広い肩を竦める。予想通りの答えだ。
 仕事には厳しい親友のことだ。必ずこういう答えが返ってくると思っていた。
 しかし、いつもいつも厳しいばかりでは部下はついて来ない。室長と言う立場を考慮に入れても、薪と他の職員の間には、かなりの温度差があるように感じられる。
 ここは薪のためでもある。鈴木はもう一歩、説得を試みることにした。

「べつに急ぎの案件はないんだろ? 今日はみんな、約束があるんだよ」
「僕にはない」
 鈴木の気遣いをコンマ1秒で切り捨てて、華奢な手を左側のキーボードに伸ばす。手元を見もしないが、片手でも鈴木の操作より格段に早い。

「薪。おまえ、その性格すこしは直せよ」
「ここでは室長と呼べ。鈴木警視」
 PCの画面と報告書の内容を照合していた亜麻色の眼がぎらりと光って、鈴木を睨みつける。怒ったときには捜一の強面より怖いと評判の表情に、鈴木は苦笑で答えた。
「はい、室長」

 氷の室長と噂される親友は、回転椅子を回して左の机に置かれたパソコンに向きなおり、報告書に添付する室長所見を人間離れした速さで打ち込み始める。冷たい横顔には、はっきりとした拒絶が顕れている。取り付く島もない。
 薪とは大学時代からの長い付き合いだ。その頃から怒ると怖かったが、第九の室長という重責に身を置くようになってからは、さらに凄みが増したようだ。

「だいたい、今日はキリストの誕生日だろう。やつらは彼の友達なのか? 誕生パーティにでも呼ばれているのか? バカバカしい。エリート集団が聞いて呆れるな」
 皮肉で辛辣な物言いも、ますます磨きがかかっている。ある意味で成長している、と言えるのだろうか。
「どうせおまえも、雪子さんと約束があるんだろ」
「うちのキリストさまは急ぎの解剖が入って、予約したレストランが無駄になりそうなんだ。よかったら一緒に行きませんか? 室長」

 鈴木の誘いに、薪はキーボードを叩く手を止めた。
 亜麻色の大きな眼を丸くして鈴木を見る。きょとん、とした表情。
 薪は昔から、予想外のことに対してはとても無防備な貌になる。それはひどく可愛らしくて、普段の冷徹な室長の顔とは別人のようだ。

「……キャンセルすれば」
「予約に5万もかかったんだぜ。もったいないだろ」
 薪は小さな口唇にひとさし指をあてて、逡巡している。鈴木のタメ口に、今度は怒らない。
「どうせ雪子さんの好きなフレンチだろ。僕はフランス料理はあんまり好きじゃないから。他のやつを誘えよ」
 くちびるを尖らせて、子供のように拗ねた言い方をする。こういうところは変わらない。親友の鈴木にだけ、見せる表情だ。
「クリスマスに予定のないやつなんか、おまえくらいのもんだよ」
「予定がないって、なんで決め付けてんだよ!」
「あれ? あるのか?」
「……今日は、この報告書をまとめようかと」
 それはクリスマスの予定とは言わない。仕事の計画と言うのだ。
 が、ここで突っ込んではいけない。そんなことをしたら職員全員を巻き込んで、MRIのメンテナンスが始まってしまう。鈴木は言葉を選んだ。
 
「それ、明日でもいいだろ。付き合ってくれよ、薪」
 目が泳いでいる。もう一押しだ。
「……室長」
 なかなかしぶといが、もう網の中だ。声にも目にも、厳しさがない。
「付き合ってください、室長」
「……いやだ」
「どうして」
「男同士でクリスマスのレストランは――イタイだろ」

 たしかに。
 しかし、それは普通の34歳の男性同士だったらの話だ。
 薪は見た目が異常に若くて、鈴木と同い年にはとても見えない。服装によっては高校生で通るくらいだ。
 しかも、女のようなきれいな顔立ちをしている。
 完璧に整った卵型の輪郭。肌はぬきんでて白く、男にしてはふっくらとした柔らかそうな頬をしている。ばさばさと音を立てそうな長い睫毛。小さな鼻とちいさな頤(おとがい)。幼げな外見を何故かくちびるだけが裏切っていて、妙に色っぽくつやめいている。これできりりと吊り上った眉がもう少しやさしければ、スーツを着ていてさえ女性と間違われそうだ。もちろん、ユニセックスな格好をしたら100%女性に見える。
 その容姿ゆえに大学時代から男女問わずモテまくっていたが、本人は恋愛方面には一向に興味を示さず、鈴木が知っている限りでは彼女いない歴15年の強者である。まあ、誰も信じないだろうが。

「ぜんぜん大丈夫。おまえなら」
「どういう意味だよ」
 自分の外見に自覚がないところも変わらない。
 薪の口調がこなれてきたところで、鈴木は取って置きの切り札を出した。
 
「それに、今日は山水亭の懐石料理にしたから。個室だし」
「山水亭? 銀座の?」
 山水亭は薪のお気に入りの料亭だ。人気店で完全予約制、しかもクリスマスイブともなれば、特別メニューで料金は目の玉が飛び出るほど高い。
 きっと薪も、クリスマスの限定メニューは食べたことがないに違いない。これで落とせなかったら諦めるしかない。
 果たして、鈴木の読みは当たった。

「今日くらいは、定時退庁するか」
「はい、室長」
 鈴木は室長室のドアを開けると、モニタールームの同僚たちに向かってVサインを出して見せた。





テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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面白いです!

和食好きの薪さん、クリスマスが誕生日だったなんて!
鈴木さんに甘える様子がもう~。

そして結婚の告白による、突然の変化。
切ないじゃないですか…で、14年前に2人、やっちゃったんですか?それともキスだけ?
指輪ってどんな?
うわーん、気になります、ぜひ14年前の話も書いて下さい。

薪さん、鈴木さんにめちゃ惚れですね。
これで鈴木さんを殺す事になったら…うううう、辛すぎます。

話変わりますが雪子さん、やっぱり料理、余り上手じゃなさそうですよね(笑)

Re: 面白いです!

えええ!めぐみさま、こっちも読んで下さったんですか!?
てか、どんだけ読むの早いんですか・・速読法、マスターしてらっしゃいます?
うーん、薪さんレベルですね(^^

> 和食好きの薪さん、クリスマスが誕生日だったなんて!

あはは。これは勝手な設定です。
和食好きというのも、うちだけだと思います。イメージと中身のギャップが激しいのが、うちの薪さんの特徴です。

> 鈴木さんに甘える様子がもう~。

もう、薪さんじゃないですね。別人だと思ってください(笑)


> そして結婚の告白による、突然の変化。
> 切ないじゃないですか…で、14年前に2人、やっちゃったんですか?それともキスだけ?
> 指輪ってどんな?
> うわーん、気になります、ぜひ14年前の話も書いて下さい。

書いてあります。
でも、イタイんですよー、この話は。
ぶっちゃけちゃうと、薪さんからの襲い受けです。
でも、みなさんのところの薪さんみたいに、うちの薪は上手にできなくって。だからぜんぜん、色気はないです・・・イタイだけ。痛い話が苦手な方には、申し訳ないです・・・。

> 薪さん、鈴木さんにめちゃ惚れですね。

そうなんです。薪さんは鈴木さんにゾッコン惚れてるんですよ。
あ、でも、わたしは「あおまき」ですから。ご安心を。これから巻き返しますから。

> これで鈴木さんを殺す事になったら…うううう、辛すぎます。

ううう、わたしも辛いです・・・。

> 話変わりますが雪子さん、やっぱり料理、余り上手じゃなさそうですよね(笑)

はい。壊滅的です。彼女の料理は銀魂の「志村たえ」クラスです。
薪さんは上手ですよ。あのひとは、わたしの話の中では神様レベルなんで。できないことなんかない、です。
あ、あった。ひとつだけ。
何って、腐、腐、腐(笑)

こんにちわ

初めてコメントさせていただきます。
めぐみさんのとこから、たどってきました。すぎやまだと申します。
コメなれないもので、失礼があったらごめんなさいね。

せつないですね。読んでいて心が痛くなってしまいます。
しずさん所の薪さんは、それはそれは美しくて幼げで。

いいものを読ませていただきました。
これからも、ちょくちょく寄らせていただきますね。

Re: こんにちわ

すぎやまださま、いらっしゃいませ。
あたたかいコメント、ありがとうございます!
すっごくすっごく、うれしいです。

> せつないですね。読んでいて心が痛くなってしまいます。
> しずさん所の薪さんは、それはそれは美しくて幼げで。

切ない気持ちを共有していただけて、本望です。
そうなんです。わたし、切ない薪さんが大好きなんです。

・・・・美しくて幼げ・・・えーっと・・これからわたしのところの薪さんは・・・そのあの・・・崩壊していくというか、その・・・お、オヤジ化していくというか・・うーん・・。
この話で持っていただいたイメージは、粉砕されることになるかと・・・。
な、なるべくそうならないように、頑張ります。

> いいものを読ませていただきました。
> これからも、ちょくちょく寄らせていただきますね。

もったいないお言葉です。
ぜひぜひ、お立ち寄りくださいませ。
お待ちしております!

はじめまして。第九の部下Yと申します。
めぐみさんのところから来ました。

う~ふ~。
とっても素敵でした。
お互い深く思い合って、一度は形のある愛も確かめて、それでもやっぱりそれは自然ではないだろうと、あるべき男同士の友情の形を作ってそれを壊さないようにやってきたんですね。

そして、貝沼事件の捜査へとその想いを二人とも引きずっていくのですね。
甘くてつらいお話です。

この鈴木は私の考えている鈴木ととてもよく似ていますので、とても共感します。

桜もこれから読ませていただきます。

今後ともよろしくお願いします。
お邪魔しました。

Re: タイトルなし

ご来訪、ありがとうございます!
わたしはこのブログを日曜日に作ったばかりで、こちらから先輩方にご挨拶に回らねば、と思っていたんです。恐れ多くもMAKI rulezn のめぐみさんがリンクを張ってくださったおかげで、覗いてくださる方がいらして、びっくりしてます。うれしいです!

> お互い深く思い合って、一度は形のある愛も確かめて、それでもやっぱりそれは自然ではないだろうと、あるべき男同士の友情の形を作ってそれを壊さないようにやってきたんですね。

はい。わたしの中では、ふたりは完璧に両思いなんです。
だけど色々ありまして。まあ、うちの場合は、原作の薪さんとは別人格になっちゃってますから、ふたりの仲が壊れた原因は、完全に薪さんの自爆なんですけど・・。

> この鈴木は私の考えている鈴木ととてもよく似ていますので、とても共感します。

本当ですか!?
共感していただけるとうれしいです。
(ああ、語彙が貧困。さっきからうれしいしか言ってないぞ、わたし)
こういうお言葉をいただけると、ブログ始めてよかった、と思います。
ひとりでシコシコ書いてるときは解らなかった感動です。ひとの言葉ってすごいんですね。
ありがとうございます。
頑張ります!


Re: 恐縮しております

> 鍵付き拍手コメントいただきましたYさま。
> ・・・って、あのYさまですかっ!?月○水の詩の!?
>
> もちろん、何度も足を運んでおります。秘密ファンであのサイトを知らなかったらモグリです。アンケートとか、何度も送っちゃいました。
>
> 光栄です。
> あんな素晴らしいサイトを運営なさっていらっしゃる方に来ていただけるなんて、思ってもみませんでした。しかも、過分なお褒めの言葉を頂いて、感謝にたえません。
> ありがとうございます。
>
> これからも精進いたします。

Cさまへ

Cさま。

鈴木さん、苦手ですか?
あれかな、薪さんに十字架を背負わせちゃった人だからかな。

Cさまはまだ、スピンオフを購入されていないと仰ってましたね。それでは、ジェネシスは未読なのですね。
スピンオフの1巻は、薪さんと鈴木さんの出会いの物語なのですが、それを読むとお気持ちが変わるかもしれません。
本当にね、鈴木さんは薪さんにとって、何重もの意味で、大事な大事な人だったんですよ。
薪さんのルーツも描かれてるし、すごく貴重な一冊だと思います。
鈴木さんが苦手だと、ちょっと手が出し難いかもしれませんが……そこを曲げて、読んでいただきたいです。

逆に単純に、
青木さん以外の人と薪さんが仲良くしてるのイヤー、という理由だとどうにもならないかも。
その場合は諦めます(笑)

あ、あとひとつ。
原作の鈴木さんはうちの鈴木さんみたいに女たらしじゃないので! ご安心ください。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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