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女神たちのブライダル(9)

女神たちのブライダル(9)








「ダメです、雪子さん! あんな男と結婚なんて。苦労するのが目に見えてます。僕は絶対に認めませんからね!」
 色とりどりの花束が埋め尽くす小部屋の中、設けられたパーテーションに向かって、薪は喚き続けている。まったく、往生際の悪い人だ。

「今日が結婚式だっていうのに。まだ言ってんですか?」
「だっておまえ。だいたい、おまえが悪いんだぞ。しっかり雪子さんのこと捕まえておかないから、竹内みたいな男に騙されて!」
「はいはい、すいませんね」
 適当な謝罪文句で謂れのない非難を受け流す。このひとの八つ当たりを真面目に聞いていたら、胃薬がいくらあっても足りない。

 シルバーグレイのタキシードに白いネクタイを締め、胸に白い百合を飾って、今日の薪はとびきりの美人に仕上がっている。にも関わらず、その表情は険しい。晴れの日に相応しくない不穏な言葉を並べ立てて、事情を知らない者が聞いたなら、この美しい青年は実は花嫁に横恋慕していて、彼女の結婚をぶち壊そうとしているかのようである。いや、実際壊れて欲しいと思っているのだが。
「今からでも遅くありません、雪子さん。あんな男と結婚するくらいなら、僕と結婚してください!」
「花嫁に何言ってんですか!」
 他人が聞いたらどうする気だ、てか、マジでぶち壊す気だよ、このひと!

「ごめんね、薪くん。あたし、自分より小さい男は対象外なの」
 パーティションの向こうから、最後の化粧を済ませた花嫁が現れる。
 短い黒髪にきらきら光るティアラを差し、白いヴェールをつけている。豊かな胸元を華やかなネックレスで飾り、ピンクの薔薇のブーケを持っている。純白のドレスに身を包んだ彼女は、間違いなく今日の主役だ。
「うわあ……雪子さん、すごくきれいです」
「ありがと」
 薪は、頬を赤くして雪子を見ている。他人が見たら、本当に雪子に恋をしているようだ。

「薪くんにキレイって言われても、なんだかね」
「本当に綺麗ですよ。今日だけはオレの目にも、薪さんより綺麗に見えます」
「……この格好じゃなかったら、一本背負い決めてるわよ」
 口は災いの元。どうやら青木は命拾いしたようだ。

「雪子先生、おめでとうございます!!」
 ノックと共に勢いよくドアが開いて、雪子の助手の女の子が顔を出した。薄茶色のウェーブヘアを今日はシニヨンにまとめて、顔の両側にくるくるとした巻き毛を垂らしている。どちらかといえば幼い顔つきの彼女は、大きな向日葵の花束を雪子に渡すと、嬉しくて堪らない、と言った口調で祝いの言葉を述べた。
 
「わああ、綺麗です、雪子先生。よく化けましたね!」
「……ありがと」
「それにしてもまさか、署内ナンバー1のモテ男を雪子先生が射止めるとは。事実は小説より奇なりって、本当ですね!」
「どーゆー意味かしら」
 怖いもの知らずの物言いに、隣で聞いている青木の方が青くなる。こんなことを青木が口にしたら、間違いなく薪にぶちのめされる。

「いいですか、雪子先生。結婚したからって、調子に乗っちゃダメですよ。浮気のひとつやふたつ、目くじら立てちゃいけません。何たって、相手はあの竹内さんなんですから。女優もモデルも選び放題の彼が、雪子先生みたいなトウが立って雲の上まで到達しちゃったようなオバサンを選んでくれたんですから、感謝の気持ちを常に忘れずに。それが夫婦円満のコツです」
「まー、スガちゃんたら、心のこもったアドバイスありがとう!!」
 慣れているのか、雪子は引き攣りつつも笑顔で菅井に応えたが、治まらないのは雪子の信奉者だ。自分とは真逆の意見に、眉を寄せている。

「お言葉ですけど、菅井さん」
「きゃ、薪室長!」
 薪に気付いた菅井は、たちまちしおらしい女性に変貌した。彼女は薪のファンなのだ。さっきは青木の陰になって、薪の姿が見えなかったらしい。

「雪子さんを妻にできるなんて、男にとってこれ以上の幸運はありません。雪子さんがどれだけ素晴しい女性か、ずっと雪子さんを支えてきたあなたなら解っているでしょう?」
「ええ、もちろんですわ、薪室長。なんてステキなお姿」
「そうです。雪子さんは世界一素敵な女性です」
「そのタキシード姿で竹内さんの隣に立ったら、最高の絵になりますわ。ああ、ウットリ」
「はい?」
「あの、ちょっとでいいですから花婿の控え室へ参りません? 並んだ写真を一枚。こないだの間宮部長とのスクープ以上に盛り上がるかも」
「はあ??」

 わけのわからない会話を繰り広げている二人を尻目に、雪子は青木を手招きした。
 動きづらそうな裾引きのドレスを引き摺りながら、パーテーションの向こうに歩いていき、自分の鞄の中から一枚のメモリーカードを取り出す。
「これ、あげる」
「なんですか? これ」
「証拠物件」
 にやーっと笑って、雪子はメモリーカードを青木に手渡した。純白のドレスが紫色に染まりそうな、清純な花嫁が浮かべるには妖しすぎる笑みである。意味がわからない。
 わからないが、雪子がこういう笑い方をするときはだいたい相場が決まっている。つまり、夜の生活のことだ。このメモリーカードは、その様子を録音したものなのだろう。

 青木の耳に、雪子はこっそりと耳打ちする。
「薪くんのあのときの声って、本当にすごい声ね」
「ど、何処で……まさか、盗聴したんですか!?」
「あら、人聞きの悪い。偶然に決まってるでしょ。ほら、去年青木くんの家に携帯落として」
 あの時だ。
 昨年の狂言自殺のとき、雪子を駐車場まで送って行ったあと、アパートで薪と愛し合った。
「何故か、仕事用の携帯と通話中になってて」
 発信したまま置いていったんでしょ、それ!!

「あんたたちの会話が丸聞こえに」
「三好先生。プライバシーって言葉、知ってます?」
「なにそれ? 食べられるの?」
 独り占めしておきたかった薪の声を雪子に聞かれたのは頭に来たが、どうして雪子がそんなことをしたのか、と考えればそれ以上怒ることもできない。

 雪子は、薪が心配だったのだ。
 荒療治が必要だと言いきった彼女は、それでもやはり薪のことが心配で。あの時の薪には必要なことだと思って実行に移したけれど、彼が深く傷つくであろうことは予想に難くなかった。そのフォローを青木がちゃんとしてくれるかどうか、心配でたまらなかったのだろう。
 だから、雪子にとってはその後のベッドは想定外のことで、聞くつもりなんかなかったのについ――――――。

「ケンカばっかりしてるかと思えば、あんたたちってラブラブなんじゃない。好きだの愛してるだの、よくあんなに繰り返せるわね?」
 ……わざとだ!
 細部まで聞いてるし、てか録音してる時点で明らかに計画的じゃないか!!

 確かに、このデータは貴重だ。
 薪が青木を好きだと言ってくれるのは、理性を失うわずかばかりの時間だけ。シラフのときには一度も言ってくれたことがない。ベッドの中でもいつも聞けるとは限らないのだが、あの夜はお互いの気持ちが昂ぶっていたから、薪は何度もそう口走っていた。
 しかし。

 はいどうぞ、と差し出された証拠物件を、青木は受け取ろうとしなかった。大事なのは録音された音声ではなく、それを叫んだ薪の心だ。
「要りませんよ。オレには本物がありますから」
 自分たちのセックスをDVDに録画するのが流行っているそうだが、青木はそういうことをする気はない。本音では興味もあるし、薪の美しい姿を映像に残したいという気持ちもあるのだが、薪にそんなことを言ったら半殺しにされる。このメモリーカードも喉から手が出るほど欲しいが、こんなものを持っていることが薪にばれたら確実に殴られる。

「でも、捜査が混んできたときには必要になるんじゃない?」
 さすが雪子だ。痛いところをつかれた。
 進行中の事件があるとき、薪は仕事の鬼になる。当然、青木はかまってもらえない。薪はもともと性欲が薄いほうだから、青木が仕掛けない限り自分からは求めてこない。それが何ヶ月続いても一向に平気だ。若い青木には地獄の日々である。
 そういうときは仕方なく、薪との情事を思い出して自分で処理をするわけだが、その時に役に立つ、と雪子は言いたいわけだ。
 雪子の言うとおり、これがあれば我慢しきれなくなって無理やり迫って、薪に投げ飛ばされることも減るかもしれない。
 だが。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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