天国と地獄1 (1)

 9千拍手のお礼です。

 こちら男爵シリーズです。 ギャグです。
 薪さんのカンチガイは最強、青木くんの受難はMAXになってます。 青木さんファンの方にはごめんなさいです。

 なお、こちらのふたりは恋人同士ではありません。 
 青木くん、まだ告白すらできてません。

 本編で言うと『告』以前の状態がずーっと続いてる感じです。 天然薪さんが青木くんを振り回してた、あの辺りですね。 
 思い返せば、あのころが一番楽しかったような。
 丁度、原作の3巻辺りが一番萌えたように、いえその。(^^;

 よろしくお願いします。


 

 



天国と地獄1 (1) 







 ひと目会ったときから、オレは薪さんに恋をした。
 初めはそうとは気付かなかったけれど、後から考えるに、きっとそういうことだったんだろうと思う。

 初めて会ったとき、薪さんは室長室のソファで眠ってた。
 警察に入って、当然のようにむさくるしい男ばっかり見てきたオレにとって、その姿は衝撃的だった。
 抱き枕よろしく分厚い本を抱えて、あどけない顔で眠っていた彼。警視正という肩書きから、自分より10は年上のはずなのに、その寝顔はまるで少年のようで。
 女っぽいとは感じなかったけれど、男のひとだとも思えなかった。

 彼を起こしてくれ、と所長の田城さんに言われたので、オレは恐る恐る薪さんの肩に手を掛けて、彼の身体を揺すった。薪さんの肩はとても華奢で小さくて、オレの手のひらにすっぽりと納まってしまうその頼りなさは、やっぱり男のひととは思えなかった。
 薪さんは目を覚ますと、いきなりオレの手首をびっくりするくらい強く握り締めた。

 大きく瞠った亜麻色の瞳でオレの顔を見て、「ずっと後悔していた」などと意味不明の言葉を重ねた挙句、オレの手首を摑んだまま再び眠ってしまった。
 眠りに戻る直前、長い睫毛の縁に光るものがあったように見えたのは、錯覚だったかもしれない。だけど、歪められた彼の瞳には間違いなく苦悩の色があり、原因は分からなかったが、その苦悩が彼をひどく痛めつけていることだけは理解できた。
 だから、薪さんが新入りのオレに辛く当たった時、この酷薄な言動は彼の本当の気持ちではなく、彼の懊悩が言わせる苦痛の叫びなのだと思った。

 眠りながら涙を浮かべるほどつらいことがあるのに、冷静さを装って職務をこなす。
 彼が必死になればなるほど、その姿は痛々しかった。猟奇犯罪が起きるたびに、自分を追い詰めるように非人間的なスケジュールで事件に挑む彼を見て、いつかぽっきりと折れてしまうのではないかと不安になった。

 オレは、そんな薪さんのことが気になって仕方なかった。不安が募るほどに、薪さんから目が離せなくなった。
 毎日毎日、彼のことを見続けた。彼を見ることができない日は、いまいちやる気がでなかった。お陰で周りの先輩たちからは、「室長がいないと青木はしぼんだ風船のようだ」とからかわれた。

 自分でもおかしいと思っていた。

 どうしてこんなにあのひとのことが気になるのか、その理由がさっぱりわからなかった。まさか男のひとに恋をするなんて、そんな馬鹿げたことが自分の身の上に起こるとは、夢にも思わなかった。あのひとが自分にとって、こんなに重要なひとになるなんて、その頃は予想だにしなかった。

 現在、オレは人生のパートナーを得て、毎日の職務に邁進している。充実した日々を過ごしながらも、当時の出来事は鮮明さを失わず、あの頃を思い出すたびに甘い痛みを覚える。

 これは、そんなオレの昔話だ。



*****



 まとめ上げた報告書をフォルダに保存し、青木は大きく伸びをした。

 昨日の仕事はきつかった。
 回されてきた脳は若い女性ばかりを狙った連続殺人犯のものだったが、怨嗟と狂気のフィルターを何重にも施され、さらに幻覚のラッピングまでされたSクラスの画だった。つまり、最悪ということだ。
 この事件には共犯者の存在が確認され、その画が犯人の脳に残っていた。プリントした共犯者と思しき人物の画を捜査一課に送ったのが、1時間前のことだ。

 徹夜明け、もう何日も寝ていない薪を自宅まで送るように言われて、青木は岡部の顔を見上げた。あの薪が、共犯者の逮捕を待たずに家に帰るなんて、よほど体力の限界にきているのだろうか。
「今、眠ってるから。そーっと運んで自宅のベッドの中に放り込んで来い」
 それは……午睡中のトラをオリに戻せということで?
 たしかに、そうでもしないと薪は休暇を取らない。猟奇事件の続くこの季節、薪の生活空間は、第九の仮眠室と室長室だ。仮眠室で睡眠をとり、仕事をしながら簡単な食事を摂る。そんな毎日がひと月近く続いている。

「あの、途中でもし、薪さんが目を覚まされたら?」
「そのときは、運が悪かったと思って歯を食いしばれ。俺を恨むなよ」
「ええ~……」
 青木がこの役目を仰せつかったのには、理由がある。
 青木は岡部と共に薪の飲み仲間で、彼の自宅への出入りを許されている。薪のマンションの鍵は瞳孔センサー方式で、本人がいないときは管理人に鍵を開けてもらうしか入る手立てがないのだが、この2人なら管理人とも顔なじみなので、事情を話せば鍵を開けてもらえるのだ。

 岡部に促されて室長室へ入ると、薪が執務机に突っ伏して眠っている。頬の下で書類が皺になっており、つまりこれは突発的な眠りだ。薪はいつも限界を超えるまで無理を重ねてしまうから、彼の意思とは関係なく生命維持機能が働いて、身体のほうが勝手に睡眠をとるようになったらしい。
「失礼しまーす」
 一応、声をかけてから薪の身体を持ち上げる。捜査中は食事をしなくなってしまうという困った癖が抜けない薪の身体は、びっくりするくらい軽い。

 薪を抱いてモニタールームを抜けるとき、今井がご苦労さま、と苦笑いした。この複雑な笑みの裏には、何日か前も青木がこうして薪を仮眠室に運ぼうとして、目を覚ました薪に「余計なことをするな」と怒鳴りつけられていた、という目撃事項が関与している。
 同じく徹夜明けで腫れぼったい目をした今井に、青木からはにっこりと笑いかけて、「眠り姫が起きないように祈っていてください」と冗談を言った。

 薪のマンションまでは、車で1時間ほど。
 昔はもっと職場に近いところに住居を構えていたそうだが、あの事件の後、こちらに引っ越したと聞いた。薪が昔どんなところに住んでいたのか、青木は知らない。

 マンションに着いて、再度薪の身体を持ち上げる。今日の眠りは深いらしく、薪はピクリとも動かない。
 管理人に訳を話してドアを開けてもらい、部屋の中に入ると、予想通り悪臭が立ち込めている。黴臭く、饐えた匂い。まったく、何日家に帰ってなかったことやら。

 息を詰めたまま薪を寝室に運んで、ベッドの上に下ろす。ジャケットを脱がし、ネクタイを取ってワイシャツのボタンを二つほど外してやる。ベルトを抜き、靴下を脱がせ、夏用の薄い布団を掛けてやる。
 それから家中の窓を開けて換気をし、リビングと台所の換気扇も回す。キッチンはきれいに片付いていたが、多分、冷蔵庫の中はまた魔窟になっている。時間があれば掃除をしてやりたいところだが、自分はこれから職場に帰らねばならない。
 枯れて腐っていた百合の花の始末をし、青木は薪の様子を見るために寝室へ戻った。

 薪はよく眠っている。
 初めて会ったときにも薪さんは眠っていたな、と昔の記憶が戻ってきて、青木は頬を緩めた。

 その時、ポケットの携帯電話が振動した。着信を見ると、岡部からだ。
 リビングに移動して、携帯電話を耳に当てると、果たして共犯者逮捕の吉報だった。これで幻覚だらけの犯人の脳に、報告書に記載できるような説明が付けられる。
『おまえも今日は休んでいいぞ。そのまま車で家へ帰れ』
 ありがとうございます、お言葉に甘えます、と礼を言った青木は、しかし自分の家に帰る気はさらさらなかった。

「さて、まずは冷蔵庫の掃除だな」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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