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QED(1)

 今回はラブコメです。
 ええ、わたしがラブコメを書くとこんな感じに。あははは。

 時系列では『ナルシストの掟』の次、『運命のひと』の前になります。
 ちょびっとRなので、苦手な方にはごめんなさいです。

 よろしくお願いします。





QED(1)










 2週間の長期にわたる警視長新任研修から解放された薪が一番にしたことは、部下に電話を掛けることだった。
『いま終わったんだ。これから帰るから』
 それだけ言って電話を切る。そこには何の指示もないが、あの男にはこれで通じるはずだ。

 研修会場の山梨から自宅に帰り着いたのは3時間後。玄関を開けると、美味そうな煮物の匂いがした。
「お帰りなさい。お疲れさまでした」
「うん」
 電話で連絡を入れておいた部下が出迎えて、薪から着替えやテキストの入った大荷物を受け取る。脱いだジャケットを差し出すと、それをハンガーに掛けてくれる。甲斐甲斐しい新妻のような奉仕っぷりだ。
 留守にしていた部屋はきれいに掃除され、夕飯の支度もできている。あとは。

「風呂、沸いてますよ」
 当然のように頷いて、薪はバスルームに向かう。あの電話からこれだけの指示を読み取れるのは、たぶんこの男だけだ。
 湯船にはリラックス効果の高いラベンダーのアロマオイルが落とされていた。とてもいい香りだ。ここまでは期待していなかった。これは評価対象だ。今夜は研修で疲れているからその気はなかったが、褒美をくれてやるとするか。
 風呂から上がり、額に落ちてくるさらさらの髪をかき上げつつ、薪はサニタリーを出る。腰に短いタオルを巻いただけのだらしない姿。他人が部屋にいるとは思えない行動だが、湯上りの薪はいつもはだかのまま室内をウロウロしている。身体についた湿気が飛ぶ前に下着をつけるのは不快だ、というのがその理由だ。

「あ~、疲れた。マジで疲れた。仕事してたほうがよっぽど楽だ」
「そんなに大変だったんですか?」
 くつろいだ様子でリビングのソファに座った薪の前に、部下が冷えたビールを置く。こういう気の利くところがこいつのいいところだ。こんな風に精神的に疲れているときには、何も言わなくても自分の欲しいものが出てくる境遇に身を置きたくなるものだ。

「だって2週間もホテルに缶詰で、ぶっ続けで研修だぞ。ほとんど新興宗教だ。洗脳されてるとしか思えない」
 警視長の新任研修会ともなれば難易度も高くて当たり前だが、薪の不平は研修の内容ではない。どの分野でも他の研修生に水を開けて、教授陣を唸らせるような成績を修めている。
 薪の不興の原因は、研修の名目で自由を奪われたことだ。仕事の指示は施設の電話を使うことができたが、会話は講師陣には筒抜けになるので、それ以外の話はできなかった。研修期間中研修生たちは、家族とも友人とも一切の会話を禁止されていた。

「だいたい、おかしいだろ。外部との連絡も自由に取れないなんて。携帯まで取り上げられたんだぞ。まるで犯罪者扱いだ」
「オレの声が聞けなくて、寂しかったですか?」
「べつに」
 喉の渇きをビールで潤しつつ、薪は素っ気無くこたえる。グラスが冷たく冷やされていることに満足を覚えるが、それとこれとは別問題だ。

「ていうか、この2週間、イライラしないで穏やかに過ごせた気がするな。出来の悪い部下の姿を見ずに済んだせいかもしれないな」
「……第九(こっち)も平和でしたよ。皆のびのび仕事してました。だれかさんに皮肉や嫌味を言われる心配をしないで仕事ができるのが、こんなに楽しいとは思いませんでした」
 部下の生意気な返答に、薪はムッと眉をひそめる。
 就業時間外とはいえ、上司にこんな口をきくなんて。褒美は取消しだ。
 こいつも皮肉を言うようになった。第九に入って3年目。職場でも中堅どころになってきた、というよりは自分と『特別な関係』になったことのほうが、この男の軽口を助長している要因としては大きいのだろう。ここはシメておかないと。

「なんだ。じゃ、僕は服を着てもいいんだな」
「え?」
「2週間も会えなかったから、てっきり欲しがるかと思ってたけど。おまえ、要らないみたいだし」
 明日は平日だから最後まで許してやる気はさらさらなかったが、ここはこう言ってやったほうが相手のショックが大きいはずだ。これに懲りて、二度と生意気な口をきかないようになるだろう。

「すいません、欲しいです。ものすごく欲しいです」
 薪の目論み通りに、相手は平身低頭必死になって謝ってきた。変わり身の早いやつだ。
「僕がいなくて平和だったんだろ」
「あれはウソです。みんな薪さんがいなくて寂しいって言ってました」
 こいつは以前はウソの吐けない男だったのに、最近はそうでもない。こんなふうに白々しいウソも吐けるくらい面の皮が厚くなった。

「今更だれが信じるか」
 ケッと横を向くと、不意に抱き寄せられた。
 強い腕。たくましい胸。この1年でこいつはまた強くなって、手加減なしの試合になったら投げ飛ばせるかどうか自信がない。

「オレは淋しかったです。すごく淋しかったです」
「僕の皮肉が聞けなくて?」
「もうカンベンしてくださいよ」
 どうやら反省したようだ。キスくらい許してやるか。

 目を閉じて上を向く。すぐにくちびるが被さってくる。軽いキスで済ませるつもりが深く重ねられて口を開かされ、舌の侵入を許してしまった。
「んんっ」
 舌の下部から舐め上げられて吸い取られ、口中でねぶられる。甘くてゾクゾクする感覚に、背筋が震えてしまう。耳下から首筋をくすぐるように這う指先が、甘酸っぱい感覚を運んでくる。無意識に吐いた息は、自分でもびっくりするくらい淫靡に震えている。
 背中を抱いていた手が、下の方に下りてくる。尻の下に潜り込んできた不埒な手を止めようとして、薪は身をよじった。

「さわっていいなんて言ってないぞ」
「よく言いますよ、確信犯だったくせに。2週間も逢えなかったんですよ。薪さんのこんな格好見たら、我慢できなくなっちゃうに決まってるじゃないですか」
 それはそっちの事情で、自分には関係ないことだ。だから、相手がこうくるのを期待していた、なんてことは断じてない。

「こらえ性のないやつだな。そんなんで、よく今まで性犯罪に走らなかったもんだな」
「相手が薪さんだからですよ。他の人なんか興味ないです」
「そんなことないだろ。○間×紀江がヤラせてくれるって言ったら飛びつくだろ」
「しませんよ。薪さんじゃあるまいし」
「バカにするな。僕はあんな胸の小さな女に興味ないぞ」
「じゃあ、深田×子だったら?」
「もちろんやる。朝までやりまくってやる」
「……今の発言は『今夜は朝までして欲しい』ということで理解していいんですね」
「なんだ、その勝手な解釈。あっ、こら! やめろ!」
 足を大きく広げさせられて、膝を折り曲げられる。明るいリビングのソファの上でそんな恥ずかしい格好にされて、今更ながら羞恥心が顔を出す。

「み、見るな!」
「ずっと見られなかったから、今日はよく見たいです」
 どうして青木がこんなものを見たがるのか分からない。自分にも同じものが付いてるんだから、自分のを見ればいいのに。
 熱い視線をそこに感じて、薪は真っ赤になる。見られることで興奮する人間も世の中にはいるのかもしれないが、薪はそういうタイプではない。

「明かり消せ!」
「ダメです」
 こいつとは最初からそうだった。明るいところでするセックスが好きらしく、何度頼んでも消してくれた試しがない。
 青木は薪の尻の下に手を差し込むと軽く浮き上がらせ、迷いもせずに、そこに顔を埋めてきた。薪の足を自分の肩の上に乗せるようにして、深く咥え込んでくる。他の男のものを口に含むなんて、薪だったら怖気をふるってしまう行為なのに、こいつはちっとも躊躇わない。

「あっ、やっ、やめろ!バカ!」
 険しい声で叫ぶが相手は止まらない。舌を絡めながら吸い上げられ、唇で扱かれて罵倒はすぐに激しいあえぎに変わっていく。
「はあっ、あっ、あっ」
 薪の変化を見て取って、相手は服を脱ぎ肌を合わせてくる。薪は男のたくましい背中に夢中で縋りついた。

「ベッドに」
「ここでしたいです」
「い、いやだ。ここじゃ恥ずかし……んあぁ!」
 こういうことは寝室で、部屋を暗くして行うのが普通だ。でも、こいつは常識が通用しない男で。こないだなんか朝っぱらから台所で挑まれて、思いっきり股間を蹴り上げてやった。それからまだいくらも経ってないのに、懲りないというバカというか。
 
 でも、今日は抵抗できない。
 2週間ぶりの人肌はとても心地よくて。自分が思っていたよりもずっと自分はこの男に飢えていたのだ、と解ってしまった。
 今日はこのまま、きっと最後まで許してしまう。明日は長期研修明けで、想像するも恐ろしい書類の山と対峙しなければならないのに、だからこれ以上、体力を削るような真似はしたくないのに。
 しかし、身体のほうは自分の意志とは反対に動く。忍んできた指先にわななくように震えて、腰が勝手に浮き上がって前後に振られて。これじゃまるで悦んでるみたいだ。

「は、はやくっ」
 セリフまで思惑と真逆になってきた。自分の口に裏切られるなんて。
 95%を占めていたはずの薪の理性はすっかり片隅に追いやられて、愛されたがりの甘えん坊の子供がそれに取って代わる。こいつは子供の強みで、言いたいことを言うだけ言って熱が冷めると消えてしまう。残った5%の理性はこいつが去ったあとのフォローをどうしたものか、死ぬほど頭を悩ませることになるのだ。

「まだダメです。もう少しほぐさないと痛いです」
「平気だ。だから早く」
 なに無責任なこと言ってんだ。だれが痛い思いすると思ってんだ。
「淋しかったんだ。痛くてもいいから、早くひとつになりたい」
 ちょっと待て! そんなこと言ったら、こいつがのぼせ上がって大変なことに……!
「うれしいです。大好きですよ」
 くっそー!

「あっ、あくうっ!」
 彼が入ってくる痛みも、理性(ぼく)を取り戻してくれない。それどころか喜びまで沸きあがってきて、痛いのに嬉しいなんて、やっぱり僕はどこかおかしい。尤もこうやって、部下と関係を持ってること自体あっちゃいけないことなんだから、おかしくて当たり前か。

 明るいリビングで恋人を受け入れながら、薪は残った僅かばかりの自我が完全に消滅していくのを感じていた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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