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 結局、騒動の結末は酒宴の席になだれ込んだ。
 薪の部屋のリビングで、2人の男性と2人の女性が膝を突き合わせて、一見すると合コンに見えないこともないのだが、内実はそんな平和なものではない。青木にしてみれば、正妻(?)と浮気相手(??)が同席している状態なのだ。

 初めて彩華を見た薪は目を丸くしたが、青木のようにパニックに陥ることもなく、にこりと笑って深夜の訪問客を迎え、手早く酒の支度をして彼女たちをもてなした。冷蔵庫の在庫品を上手に使った酒のつまみは、彼女たちに大好評だった。
「まあ、この卵焼きおいしい。お料理上手ね」
「ありがとうごさいます。ビールもう1本、いかがですか?」

 初対面の二人は青木を挟んだ恋のライバルであるはずなのだが、何故か和やかに笑い合っている。その様子を見て、青木は薪の誤解が解けたと思い込む。彩華の突き抜けた容姿のおかげかもしれない。無理を言って来てもらってよかった。
 本当は雪子に電話をする前に薪の誤解は解けていたのだが、青木は自分が遊ばれていることにも気付かない。その鈍さを薪が愛しいと思っていることには、もっと気付かない。

「サラダもおいしい。このソース、お手製よね。サツマイモの甘煮も、え、このパイも? すごいわ、警察なんかに置いとくのもったいない」
「まあね。薪くんの料理はそんじょそこらの店には負けないわよ」
 焼きおにぎりと大好物のパンプキンパイを両手に持って、雪子は成長期の少年のように食べている。居酒屋で胃に収めた料理は、とっくに消化したらしい。

「なんで雪子が威張るのよ。ちょっとは見習いなさいよ、あんたアタシよりお料理下手くそじゃない」
「なに言ってんのよ、真っ黒焦げの卵焼きしか作れないくせに」
「あんただって似たようなもんでしょ。たまには殻が入ってない卵焼き作れないの?」
「あれでもできるだけ取り除いてるのよ。どうして卵ってあんなに割れやすくできてるのかしら」
「そうよね、持っただけで割れちゃう時あるものね」
「あ、彩華も? あたしもなのよ」
 彼女たちに料理を教えようと思ったら、卵の割り方から入らなくてはならないらしい。彼女たちにとって美味しい卵焼きまでの道のりは、眩暈がするほど遠い。

 薪はクスクス笑いながら、ふたりのやり取りを聞いている。この家の主は楽しそうだが、青木はこの宴席が早く終わって欲しいと願っている。薪の誤解さえ解けたら、もう彼女たちに用は無い。さっさと帰って、薪と二人きりにして欲しい。青木は薪以外の人間にはけっこうシビアだ。
 しかし、事態は青木の思惑とは真逆の方向に進んでいった。どの辺のフィーリングがマッチしたのか、薪が彩華と意気投合してしまったのだ。

「青木がすっかりお世話になったみたいで」
「そうなのよ~、一行ちゃんたらアタシに夢中で」
 はよ帰らんかい、この地球外生命体がっ!!
「ていうか、男はみんなアタシに惚れちゃうってカンジ? おかげでアタシの周りって、ケンカが絶えないのよ、アタシを奪い合って。美しすぎるのって罪よね。オーホッホッホ」
 それはお互い、あなたを他人に押し付けようとしてるんじゃ? いわば生存本能に基づいた行動で、カルネアデスの板が逆さになった状況じゃ?

「あなたも割とそんな感じ?」
「いいえ。僕は彩華さんみたいに人目を引く容姿じゃありませんから」
 マスコミの答弁に慣れている薪は、さすがにうまい言い方をする。確かに彩華は他人の視線を釘付けにする。つまりあれだ、怖いもの見たさだ。お化け屋敷に入るときの心理だ。
「あら、そんなに捨てたもんじゃないわよ。そりゃアタシのレベルに達するためには、長年の努力が必要だけど」
 努力? それは精神修行ですか? 自己暗示能力を極限まで高めるために、ナイアガラの滝にでも打たれてたんですか?
 
「彩華さんの顔は魔界レベルですよね」
 青木がぼそりと呟くと、彩華は青木の方に近付き、青木にだけ聞こえる声で、
「もう、一行ちゃんたら。恋人の前で他の女性を褒めちゃダメでしょ。オンナはそういうの、とっても傷つくのよ」
 頭の中身まで魔界レベルか、この低級使い魔が。
「ツヨシくん。オンナはね、磨き方次第なの。あんただってちゃんとお化粧してかわいいワンピースでも着れば、そこそこ見られるわよ」
 すみません、魔界の美的基準を薪さんに適用しないでもらえますか。
 
 何を思い出したのか、薪はゲホゲホとビールにむせると、必要以上に力を込めて、
「いや、僕は男なんで! ワンピースなんか着ませんからっ。ミニスカートも着物もチャイナドレスもゴスロリもメイド服も、絶対に着ません!!」
「まあ、豊富なバリエーションだこと。なかなかやるわね」
「だから着ませんよ! 二度とごめんですっ!」
「二度とってことは、1回は着てるのね」
 意外と冷静な彩華に突っ込まれて、薪は頭を抱える。墓穴掘りは薪の得意技だが、その様子はとてもかわいい。

「はあ。仕方ないわね。蓼食う虫も好きずきって言うし。あなたから一行ちゃん取り上げちゃったら、もう二度と男が寄ってこないかもしれないものね。相手に不自由してないアタシの方が譲ってあげるべきよね」
 何を言い出すんだ、失礼なっ!  薪に群れるたくさんの虫を払うのに、どれだけ苦労していると思ってるんだ!
「ちがいます、僕は女の子の方が好きなんです! あ、いや、こいつのことはその、つまり、ええと、あううう」
 最後の頃は何を言っているのか解らなくなってしまった薪の言葉を無視して、彩華はガッチリと筋肉の浮き出た肩を竦めた。憂いを含んだ顔つきになり、削げた頬に骨っぽい手を当てて、ほうっとため息を吐く。
 ……吐いた息の中から小さな妖怪が生まれてきそうだ、いっそ呼吸を止めてやりたい。薪がやったら抱き寄せて髪を撫でてやりたくなる仕草なのに、人間見た目じゃないって、あれ絶対にウソだ。

「嘘だと思われるかもしれないけど、アタシだってそんなにもてる方じゃないのよ」
 嘘だなんて思いません。それはあなたが自覚してることの中で、おそらく唯一の真実だと思います。
「まあ、アタシくらいのオンナになっちゃうと、みんな高嶺の花だと思うのよね」
 そうでしょうそうでしょう。ぜひ高いところで、いっそ成層圏辺りで咲き乱れちゃってください。そして宇宙の塵になれ。
「美しいからって、幸せになれるとは限らない。あなたくらいの容姿の方が、幸せをつかみやすいものよ。よかったわね、そこそこの顔に生まれて」
 だから、自分より薪の方が容姿的に下みたいに言うな!
 美しいと褒められることがあまり好きではない薪は平気らしいが、青木は我慢できない。薪はこの世で一番きれいでかわいいのだ。

「三好先生、あのひと何とかしてくださいよ。てか、連れて帰ってください」
「ムリ。彩華にアルコールが入ったら、もう朝まで付き合うしか道はないのよ」
 なんて迷惑な生き物なんだ! だれが連れてきたんだ、こんな粗大ゴミ! ……あ、オレが呼んだのか。
「いいわ、諦めてあげる。一行ちゃん。あなたもアタシのことは忘れてね」
 はい、多分明日の朝まで覚えてないです。人間、精神の安定のために、辛すぎる記憶にはロックが掛かるようにできてるんです。
「あなたの気持ちはうれしいけど。あなたたちの幸せのために、アタシは身を引くわ」
 引いてください、地球の裏側まで! マッハの速度で引きまくっちゃってください!
「最後の思い出に、キスしてあげるから」
 オレを自殺に追い込む気ですか!? それとも、あなたの人生に幕を引いてあげましょうか!?

 ホテルでの悪夢に再び襲われて、青木は尻で後ずさる。彩華が手馴れた狩人の動きで青木を追い、薪と雪子は腹を抱えて笑った。

「薪さん、面白がってないで止めてくださいよっ!」
「いいじゃないか、キスくらい。減るもんじゃなし」
「いやですっ!! オレは薪さん以外の男のひとは気持ち悪っ、な、なにするんですか!?」
 
 薪と雪子は一瞬目を合わせたかと思うと、素早く青木の背後に回った。仕事も遊びも容赦なく、がモットーの雪子に関節技を決められて、青木は上半身を封じられる。女とは言え柔道4段の雪子の技は、青木ごときが簡単に返せるものではない。そのまま床に座らされて、薪の両手が青木の頭を押さえつけた。


*****


 青木くん、ぴーんち!
 あー、楽しい♪♪


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Mさまへ

鍵拍手いただきましたMさまへ

えっ、いいんですか!?
じゃあ、書いちゃおうかな、彩華×青木の愛欲の日々うごげろおごあっ(爆死)

そうですよね、減るもんじゃないんですけどね(^^;
でも書いてる人間が果てしなく狭量なので・・・・・・・・・・この続きはごめんなさい☆

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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