ハプニング(2)

ハプニング(2)





 木曜日の朝、岡部は道場で後輩を待っていた。
 これは何年も前からの習慣で、火曜日と木曜日の朝7時から、自分の得意分野である柔道と剣道について、後輩に指導をしてやっている。キャリア組でありながら肉体の鍛錬に熱心な後輩の名を、青木一行という。
 青木は職務上の理由ではなく、目一杯私的な事情から強い男になりたいと欲していて、この早朝訓練もその為だ。その目的は決して純粋な向上心ではないが、修行のきっかけが何であれ、大事なのは継続と努力だ。その点、青木はとても優秀な生徒だった。

「遅いな」
 準備体操を済ませ、壁に掛かった時計を見た岡部は、口中で小さく呟いた。
 青木は真面目で、いつもなら岡部より先に道場に到着している。まだ約束の時間から5分しか過ぎていないが、それでも青木にしては珍しいことだ。
 相手が来ないのでは仕方ない、岡部は独りで柔軟体操をして、腹筋を始めた。52回目に上体を起こしたとき、道場の入り口から背の高い後輩が姿を現した。

「おう、青木。こっちだ」
 軽く手を上げて後輩の名前を呼ぶと、彼はすぐに気がついて、こちらに歩いてきた。自分たちと同じように自己研鑽に励む職員たちの間を通って、岡部の傍に立った青木は、なにやら物珍しそうに周りを見回した。
「へえ……結構ひとがいるんだな」
 ヘンだ。
 岡部の顔を見て真っ先に挨拶をしないのも、時間に遅れた詫びを言わないのも青木らしくない。青木はとても礼儀正しい男の筈だが。

「おまえ、竹刀は? 忘れたのか?」
 今日は木曜日だから、剣道の日だ。竹刀を忘れるなんて、青木らしくない。
「あ、いやその、昨日は第九に泊って、ていうか、ちょっと困ったことに」
「仕方ないな、今日は柔道に変更だ。さっさと柔軟始めろ」
 ぼうっと突っ立っている後輩を座らせ、前屈運動の体勢を取らせる。何やらゴチャゴチャ言っていたようだが、遅れた言い訳なんか聞かんぞ。昨日は水曜日、おおよその察しはついている。

「違うんだ、岡部。ちょっと話を……いっ、いたたた!!」
 足を開かせて座らせ、背中にぐっと体重をかけてやると、青木が情けない悲鳴を上げた。
「なんだ、この身体! 固い!」
 おまえの身体だろうが。
「最初の頃は前屈マイナス30センチだった男が、今更なに言ってんだ」
 腰にキタか? と余計なことを言いかけて、岡部は心の中で不満のため息を洩らす。青木のやつ、若さに任せて薪さんの身体に負担を掛けていないだろうな。

 ……今日の重点項目は、受身の取り方にしよう。1本背負い、ガンガン決めてやる。

「マイナス30? 性格と柔軟性が一致しないやつだな……いや、そんなことはどうでもいい、あのな、岡部。聞いて欲しい話が」
「ほら、次! 腹筋と腕立て、100回ずつ! 早くしないと組み手まで行き着かんぞ」
 どうも今日の青木は私語が多いな。
 ん? なんか今、呼び捨てにされたような気がするが、気のせいだよな、きっと。

「ひゃ、100回!?」
「何をそんなに驚いてるんだ。いつもやってるだろう」
「いつも? あのヘタレが?」
「何を他人事みたいに言ってるんだ。薪さんを守りたいから強くなりたい、って言い出したのはおまえの方だろう」
 何年か前に目の前の男が言ったセリフをそのまま返してやると、何故か青木は赤くなってプイとそっぽを向いた。その仕草は照れくささを隠すときの誰かにそっくりで、恋人同士と言うのはだんだん似てくるものなのか、と岡部は自分まで恥ずかしいような気分になった。

 ……今日の仕上げは、痛みの強い関節技にしよう。

 それから青木は黙って腕立て伏せを始め、岡部のスペシャルメニューを黙々とこなした。寡黙に真剣にトレーニングに打ち込む後輩を見て、ようやくいつもの青木らしくなったと岡部は思い、続く一本背負い10連発で些少の違和感を忘れ去った。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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鍵コメくださった方へ

いらっしゃいませ、コメントありがとうございます(^^


> 入れ替わりですか‥気弱な薪さんに強気な青木‥
> なんか萌える響きです。

萌えますか?
じゃあゼヒ、書いてみてください♪
ちなみに、わたしはギャグしか浮かびませんでした☆


> 慣れない図体に四苦八苦する強気な青木もいいですが
> 気弱で、優しい薪さんも‥うううう‥ステキ。

ふふふ、好きそうですよね。
てか、・・・・・さんの好きな薪さんて、こういうタイプですよね? 薄幸の美少年タイプ。
・・・・・・真逆の薪さん像ですみませんっ!


> でも、もし‥岡部さんの中身が青木になってしまったら‥
> 薪さん、どうするのかな‥
> 逃げ回るでしょうか‥?

さあ、どうでしょう?


> 「薪さん、オレは青木ですよ、大丈夫ですから」
> 「‥なにが大丈夫なんだっ!
> 僕の知ってる青木じゃないっ!」
> 「青木ですって!」
> 「よるな、触るな、近づくなーーっ!
> ぎゃーーっ!‥‥‥‥」
> ‥面白そう。

あはははは!
なるほど、ビジュアル的に逃げ回る可能性ありですね。
人間見た目じゃないって、あれ、やっぱりウソですよね(笑)


> それはそうと、石段から落ちないと‥そしたら治るかも。
> 死んじゃうかな‥‥鬼‥‥

それに近い意見を青木くんが出すんですけど、却下されました~。
わたしも色々調べてみたんですけどね、ショックを与えるのが一番の近道みたいですね。
何させようかなっ(←アクマ)


> はたして、どうなるのでしょう‥(笑)
> 手に汗握る冒険ロマン!‥‥
> ‥失礼しました。
> また続き読ませて頂きます。

冒険ロマン(笑)
いえ、ただのギャグ小説ですから~。
いつものように、下らないお話です。
笑っていただけたら嬉しいです(^^


そ、それと、いっぱいあったRは、その~~~、
お送りしたのより、大分軽いです。 自分でも分かってました。
だって、一般公開だもんっ。
これだってギリギリですよっ。 
しづの羞恥心の臨界点なんですっ!! 


> それから‥私は結構、滝沢、好きかもです。
> 「輝夜姫」の柏木様とダブって見えて仕方がないです。
> だから好きなのかも知れません。

本当だ!
柏木さんに似てるかもです。
わたしは滝沢さん、いいひと説なので~。 うん、きっといい人だよ!(何の根拠もない。そして、予想が当たった試しがない)

柏木さんは、晶ちゃんを愛してる、というよりは妄執を感じましたが。 
滝沢さんは、もう少し穏やかに薪さんを好きでいて欲しいな~。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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