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ハプニング(3)

ハプニング(3)





 木曜早朝の合同会議の席に、竹内誠は目当ての人物の姿を見つけ、彼の姿が目に入る位置に自分の席を定めた。真正面ではなく、3席ほどずれた斜め前。このくらいの位置が彼と自分の関係には相応しいと、竹内は考えている。

 席に着いてレジュメをめくりつつ、そっと横目で彼を見る。
 亜麻色の髪が朝日にきらめき、長い睫毛が影を落とし、白い肌が真珠のように淡く光っている。つやつやとした薄ピンク色のくちびるを僅かに開いて物憂げに息をつく、その姿はまるで一枚の絵のようで。
 相変わらず綺麗だな、と今日も竹内は胸をときめかせる。

 竹内の目を捕らえて放さない彼は、第九研究室の室長。捜一のエースとして1課を代表する竹内とは敵対関係にある部署の最高責任者だ。部署同士の対立そのままに、数年前までは親の仇のようにいがみ合っていたのだが、ある事件をきっかけに、竹内の彼を見る目は180度方向転換した。それからは、誠意をもって彼に接しているつもりだ。彼の方は相変わらずだが。

 竹内の視界の隅で、薪は細い指をレジュメに伸ばし、紙をめくって内容を読み始めた。天才と名高い彼は、書類を読むのも他人の何倍も速く、いつもあっという間に読み終えてしまうのだが、今日は何故か妙にゆっくりと内容を確認しているようだ。
 きれいな睫毛を伏せて、亜麻色の瞳を左右に動かし、ロマンチックな詩を読むように穏やかな表情で書類を眺める。桜貝のような爪が愛らしさを強調する指先を、オーケストラの指揮でもするように華麗に動かして、その流れるような彼の所作に竹内はいつも、無機質で飾り気のない官公庁の会議室が優雅なサロンでもあるかのような錯覚を覚える。
 ……はずなのだが。

「?」
 何だか今日の薪は、妙にぎこちない動きをしている。書類の捲り方もオーバーリアクションだし、キョトキョトと周りを気にしてばかりいるし。一番、彼らしくないのはその姿勢だ。薪はいつも背筋をピンと伸ばして椅子に深くかけているのに、今日の彼は猫背になっていて、しかも緊張しているとはっきり分かる形に肩をこわばらせて、まるで借りてきたネコのようだ。
 何かあったのだろうか、と老婆心を止められない竹内がなおも薪を見ていると、亜麻色の瞳と視線がぶつかった。瞬間、竹内は薪がプイと横を向く姿を予想した。薪から発せられる『捜一は第九の敵』オーラはとてもあからさまで、顔を見るのもイヤだと思われていることを竹内は知っているからだ。
 ところが。

 薪は竹内の顔を見るとパッと笑顔になって席を立ち、こちらに歩いてきた。
「おはようございます、竹内さん。竹内さんもこの会議のメンバーだったんですか」
 ものすごい強烈なイヤミがきた。もう何度も顔を合わせている定例会議なのに、今までおまえの顔なんか目に入らなかったぞ、というわけだ。
「ええ、一応」
 まあ、このひとの皮肉と嫌味には慣れている。どんな内容でも、薪に話しかけてもらえるのは嬉しいし。皮肉を思いついたときの意地悪な笑みだとしても、薪の笑顔はとても可愛い……なんか、本当に可愛いんだけど。

 思わず、竹内の目は薪の顔に釘付けになる。
 いつもの片頬を吊り上げるような笑みではなく、自然に、長年の友人に笑いかけるような素直な笑顔。このひとがこんな風に、自分に笑いかけてくれるなんて。いつも彼の周りを取りまいている氷のオーラも感じられない。やわらかくて暖かく、夢幻のように美しい――― 春の女神が地上に降りたら、こんな感じだろうか。

「隣に座ってもいいですか?」
 親しげな中にも奥ゆかしさを潜めた、明るい響きの美声。薪がこんなにやさしく自分に話しかけてくれたのは初めてだ。
「あ……どうぞ」
 ようやくそれだけ言うと、竹内は薪の顔から視線を外した。あのまま見ていたら、場所柄もわきまえず惚けてしまいそうだ。

 薪は体重を感じさせない身のこなしで竹内の隣にすとん、と座って、小さな声で言った。
「よかった、知らない人ばかりで緊張しちゃって」
 薪らしい皮肉だ。『知らない人』というのは派閥違いの人間のことだ。官房長の秘蔵っ子である薪は、当然次長の派閥とは敵対している。その連中に囲まれているよりは、自分の方がまだマシということか。

「あの、竹内さん。ここに書いてあるこれって、どういう意味ですか?」
「え?」
 レジュメにある略語を差して、薪は竹内の顔を覗き込んでいる。これはあれだな、この略語の説明をさせて、それが少しでも違っていたら皮肉ってやろうという計画だな。
 それが分かっていても、この上目遣いの愛らしい表情を見せられては、彼を無視するなんてことは竹内にはできない。

「DARPA……米国国防総省高等研究計画局、だと思いましたけど」
「へえ。何をするところなんですか?」
「国防省の機関ですから。軍事に関する新技術の開発とか」
 一般常識の範囲を超えない竹内の解答に、薪は感心したように頷いた。
「よくご存知ですね。さすが竹内さんだなあ」
 薪の素直な賞賛に、竹内は椅子から転げ落ちそうになる。薪の方から話題を振ってきたのだ、自分の知識の豊富さをひけらかすように捲くし立ててくると思ったのに。
「見習わなきゃ」
 独り言みたいに呟く薪の姿に、竹内は開いた口がふさがらない。

 いったい、今日はどうしたんだろう? 自分の前でこんな態度を取るなんて、彼に何が起こったのだろう?
 熱でもあるのだろうか。そういえば、ちょっとダルそうだ。動きも緩慢だし、目つきも……うわ、やばい、すっごくかわいい。

 会議の間中、竹内は隣の薪のことが気になって仕方なかった。眉毛が穏やかに垂れていると、本当にやさしそうに見える。時々目が合うと、にこっと微笑んでくる。もしかしたら、俺はまだ夢を見ているのかな。夢の中で、今朝の会議に出席しているのかな。夢なら醒めないで欲しい……。

 いっそ永遠に続けばいいと竹内が願った会議が終り、薪は席を立った。
 失礼します、と礼儀正しく挨拶をして、竹内から離れていく。生返事を返しつつ、夢の余韻の中で竹内は彼の背中を追いかける。

「薪くん。これ、頼まれてた資料」
 細い背中に声が掛かり、薪は足を止めた。会議室を出て行こうとした薪を呼び止めたのは、警務部長の間宮だった。
 竹内はすっと表情を引き締め、さりげなく二人に近付いた。間宮の動向には気をつけてくれ、と岡部にも頼まれているし、竹内自身、ふたりの接近には心穏やかならぬものを感じている。
 
 間宮という男は多情な男で、すでに何人もの愛人を持っているにも関わらず、薪を狙っているらしい。清廉な薪をそんな目で見るなんて、それ自体許せない話だ。間宮の毒牙に掛かるくらいならいっそのこと自分が、いやその……。
 薪も、自分が彼にどんな目で見られているか分かっているから、その警戒心たるや見事なものだ。間宮が半径1m以内に近付いただけで、絶対拒絶のオーラを出しまくり、剣呑な目つきで相手を睨み―――――。

「間宮部長。いつもお世話になってます」
 睨み……あれ?

 おかしい、薪が間宮に普通に挨拶している。いつもの薪なら無愛想に「どうも」が関の山なのに。
 薪のガードが甘いものだから、間宮はさっさと薪の肩を抱き、部屋の隅に連れて行って何やら話し始めた。

「今日も色っぽいね。昨夜、デートだった?」
「ど、どうしてそれを、ひゃ!」
 薪のスーツの裾がもぞもぞと蠢いて、間宮の手が見え隠れしている。助けてやりたいが、それは余計なお世話だ。見かけによらず薪は強いし喧嘩っ早い。5秒もしない内に蹴り飛ばされるのがいつものパターンだ。
 が、その日に限って薪は身を固くして、じっと間宮の仕打ちに耐えるふうだった。どうしたのだろう。大人しくしていれば止めてくれる、そんな生易しい相手じゃないことくらい分かっているだろうに。

「薪室長! 官房長がお呼びですよ」
 見かねて、竹内は助け舟を出した。余計なことを、と後で薪に怒られるのは承知の上だ。
 間宮より高い階級にいる薪の守護者の名前を出して、いやらしい手から薪の身体をひったくるように庇うと、間宮は一瞬、蛇のような目で竹内を睨み、しかしすぐにいつもの余裕を持ったプレイボーイの貌に戻って、「じゃあまたね、薪くん」と右手を上げて去っていった。

「大丈夫ですか、薪室長」
 薪は真っ青になって、小刻みに身体を震わせている。A4サイズの封筒を胸に抱きしめるようにして肩を竦ませ、寒さに震える小鳥のように。
 どうしたのだろう、今日の薪は本当におかしい。いつもなら顔に似合わない悪態を吐くか、腹立ち紛れに近くの椅子を蹴り飛ばすかしているところだ。
 しかし、傷心を表面に出した彼の、なんて庇護欲をそそることだろう。守ってあげたい、抱きしめて慰めてあげたい、と心の奥底から湧き上がってきた彼への気持ちを、竹内は必死で抑えた。

「気持ち悪い……」
 ぽつり、と薪は言った。
「知りませんでした、こんなにおぞましいものだったなんて……何だか、自分が汚れたような気がします……」
 潔癖な薪には、耐え難い屈辱なのだろう。清く美しい彼、その彼をこんなに傷つけて、どうしてくれよう、間宮のやつ。
 とりあえず、間宮の愛人(女性に限るが)を何人かモノにして口惜しがらせてやるか、と捜一の光源氏の異名を持つ竹内は下賎な仕返しを思いつくが、このところ女性キラーの才能もすっかり錆付いてしまって、というのも薪に恋をしてからというもの、軽い恋愛ができなくなってしまった彼は、現在振られ記録を更新中である。

 それにしても、泣き寝入りとは薪らしくない。抵抗しなかったのは、胸に抱えた資料と何か関係があるのだろうか。
「大丈夫ですよ、薪室長は汚れてなんかいません」
 そう言って細い肩を叩いてやると、薪はホッとしたように竹内を見上げて、「もちろんです」と笑い、ぺこっと頭を下げて会議室を出て行った。その姿はやっぱり普段の彼よりずっと頼りなくて、しばらくの間竹内は、薪の後姿から目を離せなかった。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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狼に食べられそうなくらい‥可愛い‥

しづさん、こんばんは。

では‥‥‥叫ばせて頂きます。
ぎゃーーーっっっ!!
なななんて可愛いのっ!!
ツボっ!ツボですっ!
‥「気持ち悪い‥‥‥」
って‥たまりませんっ!超可愛い‥(≧▽≦)
いっそのこと暫く‥一年くらいこのままだったら‥
さぞかし愛らしい薪さんファンが増えることでしょう。
でもね‥間宮様と長い時間喋ると気づかれてしまうでしょうね。
それもまた一興と迫られるかも‥ふふふふふ‥それもいいかも‥
ってよくないっ!
よくないですけどギリギリを見たくなりました。

ああああ‥ぺこっと‥頭を下げて?ううううう‥(泣く)
愛らしい‥絶対そういう仕草が似合うんですよ!
‥ほんとうにしづさんの薪さんらしくない薪さんですねっ!
(さりげなく失礼なこと言いました‥)

それもたまには新鮮でいいなぁ‥
青木と薪さん倦怠期だったら‥入れ替わって‥というのも‥
いやいやいやいや、何でもありません‥
失礼いたしました。

今日の一冊も‥笑いました。
あの若さ、どんだけしているのでしょう(笑)

狼になって食べちゃってください(ruruさんへ)

ruruさん、こんにちは~。


> では‥‥‥叫ばせて頂きます。
> ぎゃーーーっっっ!!

わはは☆ 予告されちゃいました(笑)

> なななんて可愛いのっ!!
> ツボっ!ツボですっ!

ruruさん、やさしくて物静かな薪さん好きですものね~~(^^
喜んでいただいて、うれしいです。


> ‥「気持ち悪い‥‥‥」
> って‥たまりませんっ!超可愛い‥(≧▽≦)

そうですか?(^o^)/
わたしは、うちの薪さんがこんなんだったら気持ち悪・・・・・・・いえその、ゴホゴホ。


> いっそのこと暫く‥一年くらいこのままだったら‥
> さぞかし愛らしい薪さんファンが増えることでしょう。

なんかそれ、大変なことになりそうですね。
てか、第九潰れちゃうんじゃないですか?(笑)←うちの青木くんに室長が務まるとはとても・・・・・・。


> でもね‥間宮様と長い時間喋ると気づかれてしまうでしょうね。
> それもまた一興と迫られるかも‥ふふふふふ‥それもいいかも‥
> ってよくないっ!
> よくないですけどギリギリを見たくなりました。

やだー(笑笑)
だって~、中身は青木くんですよ~! 
外見オトメ、中身はがっつりオトコの薪さんが襲われそうになって、ぎゃーぎゃー喚くから面白いんですよ~♪(←非道)


> ああああ‥ぺこっと‥頭を下げて?ううううう‥(泣く)
> 愛らしい‥絶対そういう仕草が似合うんですよ!

ええ、見た目はね。
本人も分かってて、敢えてそうするときもありますよ。 うちの薪さんも、目的さえあれば策士になりますから。

> ‥ほんとうにしづさんの薪さんらしくない薪さんですねっ!
> (さりげなく失礼なこと言いました‥)

うはははは!! たしかに!
ですね、うちの薪さんのセックスアピールは、『外見と中身のギャップにクラクラ』ですからねっ!


> それもたまには新鮮でいいなぁ‥
> 青木と薪さん倦怠期だったら‥入れ替わって‥というのも‥
> いやいやいやいや、何でもありません‥
> 失礼いたしました。

しません(笑)
これは拍手のお礼なので、R嫌いの方にも読んでいただけるように、Rシーンは入れなかったんですよ。
てか、難しくないですか?
薪さんに責められて善がる青木くんの反応、書けます?
・・・・・・・・・・ムリ(笑)


> 今日の一冊も‥笑いました。
> あの若さ、どんだけしているのでしょう(笑)

おそるべし、老化防止成分!!(笑)
豆しば、かわいいですよね~~。 かわいいくせに、シュールなところ・・・・・・ちょっと薪さんに似てません?
失礼しました。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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