ハプニング(4)

 こんにちは。
 現場に出始めてから、体重と体脂肪が自然に落ちたのは嬉しいんですけど、ときどき意識がオチそうになります(@◇@
 ネットもオチぎみですみません~。 みなさんのところへも、行けなくてすみません~~。
 今日は雨なんですけど、現場は休みでも、挨拶回りとか材料の搬入とか立会いの書類とか、あれやこれやの雑用が。
 現場が上がる予定の10月末まで、亀更新&不義理をお許しください。

 




ハプニング(4)





「青木、おまえ顔色悪いけど大丈夫か? 身体の調子でも悪いのか」
「いや、平気だ。……です。それより曽我、さん。この窓の隅に映ってるの、犯人の車じゃないのかありませんかですでしょうか」
 「……大丈夫か? 青木。ちょっと休むか?」
 不自然な会話を交わしているふたりの様子を見て、室長は宇野に「青木を室長室に」と声を掛けた。時刻は定時の10分過ぎ。急ぎの案件もないし、他のものは退室するように、と言い於いて、先に室長室へ入る。

「青木、帰る前に室長室だってよ」
「きっとお説教だぞ。おまえ、今日一日おかしかったから。コーヒーの味は冴えないし」
「そうそう。資料探すのも、やたら時間がかかるし」
「買出しだって、俺の嫌いな鶏肉避けるの忘れてるし」
「……すみませんでした」
 
 そんな会話が聞こえてくる。それから帰り支度をする音と、MRIの終了確認のブザーが鳴り、お先に失礼します、と職員たちに挨拶をされ、思わず反射的に下げようとした頭をすんでのところで止める。身に付いた習性は、咄嗟のときに出てしまうものだ。
 
 居残りを命じられた青木が室長室に来ると、薪は部屋に鍵を掛けた。青木はふらふらと歩いて室長席に座り、デスクの上に両肘をついて頭を抱えた。相当キているらしい。
「薪さん、大丈夫で」
「大丈夫じゃない!!」
 ばん! と机を叩き、その威力にびっくりしたように目を瞠る。自分の手の大きさと力の強さが何倍にもなっていることに、彼はまだ実感がない。

「もう、どうしていいかわからん! 何がなんだか……てか、何でおまえってあんなに仕事が多いんだ? 捜査に割く時間がないじゃないか。みんなしていいように使いやがって」
 苛立った声で、自分が自分に詰め寄ってくる。何とも不思議な光景だ。
「何がコーヒーの味が冴えない、だ! 文句があるなら自分で淹れろ、バカヤロー! 5年も前の新聞記事なんか、そんなに早く見つかるかっ、てか、あいつらの好き嫌いまで僕が知ったことか! イヤなら食うな!!」
 あの沈黙の間に頭の中で叫ばれたに違いないセリフを音声にしてスッキリしたのか、薪はどさっと椅子の背にもたれ、優雅に足を組んだ。
 
「あんな大量の雑用、よくひとりでこなしてたな」
 普段、青木に言いつけられる雑用は薪からのものがダントツに多いのだから、今日はそれほどでもないはずだ。しかし、それを言うと張り飛ばされるかもしれない。痛いのも嫌だが、薪の身体に傷をつけたくない。
「朝練もきついし。腕立て伏せと腹筋100回って、おまえプロレスラーにでもなるつもりか?」
 岡部が決めた特訓メニューは、特殊班並みの厳しさだ。薪は実際に不特定多数の団体から命を狙われているのだから、彼を守ろうと思ったら、いくら鍛えても足りないくらいだと言われた。
「岡部は全然容赦しないし。投げ飛ばされて、あちこちアザだらけだ。おまけに先週の木曜、僕がだるそうにしてたけどあれはおまえのせいだろう、って言われて何度も関節技決められて、痛いのなんのって」
「岡部さんはそれだけ、薪さんのことを大事に思ってるんですよ」
「どうしてその報いを僕が受けなきゃならないんだ! 理不尽じゃないか!」
「すみません……」
「僕の顔して謝るなっ! なんかむちゃくちゃ腹立つぞ!」
 どうしろと言うのだろう。
 薪の中にも明確な答えがあるわけではなく、現況の不満を事情の通じる青木にぶつけたい、それだけらしい。

「おまえの方はどうだ。会議とか、おかしな発言してないだろうな」
「発言どころか、話してる内容が良く分かりません」
「それでいい。何を聞かれてもその場での即答は避けて、僕に指示を仰げ。特に、第九の権限を侵そうとする捜一には、甘い顔するんじゃないぞ」
 眼鏡の奥から切れ長の黒い眼が、ぎろりと青木を睨んでいる。見慣れた自分の顔のはずなのに、何故だかすごくこわい。オレって、こんなコワイ顔できたんだ。

「会議と言えば、これ。間宮部長から預かりました」
「お、早いな」
 今朝の会議の際、間宮に渡された封筒を差し出すと、薪はすぐに中の書類を検めた。細かい文字がぎっしりと並んだそれを一瞬で読み下し、満足そうに頷くと、
「バカとヘンタイは使いようだな」
 と、有名な格言をもじった。間宮の用意した書類は、薪を満足させたらしい。
「それって、二課の課長の身上調査ですよね?」
「なんだ、見たのか。他言無用だぞ」
「もしかして、こないだ小池さんにイチャモン付けてきた件ですか?」
 
 二課の課長は警視総監の息が掛かった男で、昔から薪とは仲が悪かったのだが、二課に在籍して詐欺事件を担当し、見事な検挙率を誇っていた小池が第九に引き抜かれてからというもの、薪を目の仇にしていた。今回の件も言い掛かりに近く、以前小池が担当した事件の犯人に余罪が出てきて、その責任の在りかを明確にするとか何とか。
 確かに自分が担当した事件ではあるが、何年も前の事件を持ち出されても、と小池も困っていた。

「イチャモンじゃなくて、引抜きだ。二課は小池が欲しくてたまらないんだ。小池は生まれつき、言葉に対する感覚が優れている。微妙なニュアンスを読み取るのが上手いんだ。詐欺事件を洗うのに、これ以上強い武器はないからな」
 一言多いのが欠点の第九の失言王子は、裏を返せばそれだけ優秀な言語能力を持っているということ。薪もその点は高く評価している。
「でも、おいそれと渡すわけにはいかん。第九にとっても小池の読唇術は貴重なんだ」
 面と向かって言葉にしたことはないが、薪が部下たちを大切に思っていることはよく解っている。今度のことだって、二課の課長に対抗するために、反りの合わない警務部長に頼んでこの資料を……。

「どうした?」
 急に顔色の曇った青木に気付いて、薪が首を傾げる。この動作を薪がするとアッパーカットに似た衝撃が来て、青木はいつも頭がクラクラするのだが、自分がやると何と言うかその……アホっぽい。
「いえ。それを受け取るときに、お尻さわられたの思い出して……」
 青木が嫌悪と共にそのことを告白すると、薪は烈火のごとく怒り出した。無理もない、さわられたのは薪の身体なのだ。

「間宮には隙を見せるなって、あれほど言っただろ! 顔見たらとりあえずグーパンチで一発行っとけって、僕のアドバイスを実行しなかったのか」
「できませんよ、そんな乱暴なこと。仮にも相手は警視長ですよ」
「僕だって警視長だ」
 そういう問題ではないと思うが。
「でも、この資料欲しかったんでしょう?」
「大丈夫だ。殴ったくらいじゃ、間宮は懲りないから」
 間宮と薪の関係がよく分からない。ある意味、彼を信頼しているのだろうか、それとも限りなくバカにしているのだろうか。
「いいか、この次からケツ触られたら腹に蹴り、揉まれたら股間に蹴りだ。でないと、その場でズボン降ろされて突っ込まれるぞ」
 どこまで危険人物、いや、ヘンタイだと思われているのだろう。少し可哀相になってきた。この資料だって、薪の頼みだから用意してくれたのだろうに。

「いくら何でも過剰防衛じゃないんですか」
「うるさい、誰のために守ってやってると思ってんだ」
 言ってしまってから、ぱっと頬を赤らめて口元を手で覆う。薪は興奮すると口が滑るタイプだから、こういう可愛らしい失言はけっこう多くて、その度に青木は彼を抱きしめたくなるのだが。

「……そそらない……」
 いくら人間見た目じゃないと言っても、あれはやっぱりタテマエだ。しかもそれが自分の姿とくれば、また別の意味で歯止めが掛かる。

「そうだ、岡部さんには事情を話してくれたんですよね?」
 思いついて、青木は確認する。
 入れ替わりの事実は、みんなには秘密にしておくことに決めた。そんな非科学的なことを誰が信じるか、というのが一番の理由だが、実はもうひとつ、大きな危惧がある。
 入れ替わったときの状況だ。
 何故あんな時間にふたりきりで職場にいたのか、何をしていたのか、何が原因でこの珍現象が起きたのか(これは当人たちも知りたいが)それらを追求されたら、ふたりの秘密の関係が公になってしまう。これが職務に関することなら鉄壁のポーカーフェイスで撥ね退ける薪だが、こういうことになると途端にヘタってしまうのがこのひとの特徴で、下手をすると青木より分かりやすい。第九の職員たちの嵐のような尋問に、耐え切れるとは思えない。
 岡部だけはふたりの特別な関係を知っているから、協力してもらおうということで話が決まったのだが。

「いや、それが……なんか、上手く言えなくて。言わないほうがいいような気もするし」
「岡部さんにだけは本当のことを話してフォローしてもらおうって言ったの、薪さんじゃないですか」
「だって、あんなこと言われたら気恥ずかしくて! 元はと言えば、おまえが悪いんじゃないか!」
 また人のせいにして。それは薪の専売特許だが、あれは薪がやるから可愛いんであって、自分がやったら可愛くも何ともない、てかムカツク。
 それでも中身はやっぱり薪で、照れたときのクセで横を向いて口元を覆う仕草を見れば、何となく彼の面影をそこに重ねて青木は心をざわつかせる。
 一刻も早く、元に戻りたい。可愛い薪を見たい。

「あの、今日一日、元に戻る方法をネットで調べてみたんですけどね」
「おまえ、仕事もしないでそんなことやってたのか」
 ボロが出るといけないから、不機嫌を装って室長室に閉じこもっていろと命令したのは薪だったはずだが。
「一番多いのが、入れ替わったときと同じシチュエーションで同等級の衝撃を与える、というパターンみたいです」
「同じシチュって、おまえ」
 薪の、いや青木の顔が歪んだ。何を考えたのかすぐに解ったが、それは自分でも無理だと思っていた。自分相手に欲情なんかできないし、自分に抱かれるなんてありえない!

「いや、それは不可能ですから。ええもう色んな意味で」
「だよな。僕、男のハダカ見ても勃たないし」
 そうなのだ、このひとは普通に女性の身体に反応するのだ。昔、ただの友だちだったころには一緒にAVを見たこともあるし、歌舞伎町のお風呂屋さんに連れて行かれたこともある。女の子の裸体を見て、薪はちゃんと反応していた。あのとき青木は、真面目に性転換を考えた。

「椅子から転がり落ちる、というのだけ試してみましょうか。場所も関係してるかもしれませんから、そちらのモニタールームで」
 少々の痛い思いは仕方ない。事態は急を要するのだ。
 今はまだ凶悪事件が起きていないから仕事も何とかなっているが、何かしらあればそこでアウトだ。薪が室長として動けなかったら、第九は機能しない。職務上の失態は許されない。ひとの命に関わることだし、第九の失墜を狙っているものはたくさんいる。その者たちに付け込まれる隙を与えてはならない。

 薪と第九を守らなければ。
 青木は強く心に誓い、室長室の扉を開けた。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Cさまへ

いらっしゃいませ、Cさま。

しのご言ってないでって(笑)
だって、相手が自分の姿をしてるんですよ~~? その気になるかなあ??
あ、でも、オトコですからね。
心情的なことはどうでも、物理刺激で何とかなるか、って、身も蓋もありませんね(笑)

てか、それで薪さんが攻めに目覚めちゃったらどうしましょう。 
ふたりが自分の身体に戻った後、攻守が入れ替わっちゃったりして☆ 


このお話には残念ながら(?) Rシーンはございませんが、
Cさまに楽しんでいただけたら嬉しいです(^^
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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