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室長の災難(5)

室長の災難(5)







 室長室から聞こえていた喚き声が途切れて、静かにドアが開いた。
 雪子に続いて、室長室から美しい女性が出てくる。
 ワイシャツ姿に亜麻色の短髪。耳元のイヤリングと、白い首筋が眩しいくらいだ。
 形の良いやさしげな眉。長い睫に縁取られた大きな二重の眼。頬はほんのりと色づき、明るい雰囲気をかもし出している。あどけなさを残す唇は赤く縁取られ、グロスのおかげでより一層つややかに、むしろ妖艶でさえある。
 街を歩けば、十人のうち十人が振り返りそうな美女であった。

「ま、薪さん?」
「うわあ、見事に……」
 短髪の美女が、きつい目でこちらを睨む。睨まれたほうがクラクラしそうなほど美しい。
「それ以上、言うなよ。3日くらい徹夜で仕事させられるぞ」
 岡部が曽我にそっと呟く。賢明な第九の職員たちは、みな一斉に口を閉ざした。

 そこに、手提げ袋を持った青木が現れた。ぽかんと口を開いたまま動かない。
「見とれてるわね」
「分かりやすいですね」
 呆れたように雪子が言うと、曽我が相槌を打つ。ワイシャツ姿の美女は動かない青木に近づき、手提げ袋に手を掛けた。自失していた青木が我に返る。

「着替えはこれか」
 おとり捜査用の衣装を捜一から受け取ってくるよう命じられたことを思い出して、青木は慌てて手提げ袋を薪に差し出す。渡そうとして、急にかぶりを振る。
「やっぱり駄目です。室長、襲われちゃいますよ」
「襲われないと、おとりにならないだろう」
「駄目ですってば! 強姦魔ですよ!」
「平気だ。僕は男だ」
「平気じゃないですよ! 男だって安全ってわけじゃ」
「妊娠はしない」
「いや、その前の段階があるでしょう」
「うるさいな! ケツの穴のひとつやふたつ、ガタガタ言うな! 眉毛のほうが大問題だ!」
「ケッ……まゆ……? はあ?」
「よっぽど眉毛、大事だったのね……」

 きれいな顔にそぐわない会話で、呆然とした青木から手提げ袋を奪い取る。躊躇なく袋の中身を取り出した薪の顔が、しかし瞬時に青ざめた。
「まあ。かわいいキャミとミニスカ」と、雪子の声。
 絶句。
 きっと似合いますよ、なんて思っても言えない。言ったらブリザードが吹き荒れそうだ。

 固まった空気を破るように、薪は突然、室長室に駆け込んだ。
 どかん! と何かを蹴飛ばす音と、がしゃん! と何かを投げる音。続いて「くっそー! あのやろー!」と口汚く罵る声が聞こえる。
 モニタールームの空気がますます重くなった。
 ふと、静かになる。
 しばらくして、室長室のドアが開いた。

「雪子さん。これ、どうやって着るんですか?」
 薪はパットの入ったブラを持っている。雪子は上を向いて、大きなため息をついた。





*****



 「3体連続解剖より疲れたわ」
 第九の応接用テーブルに両肘をついて、雪子は頭を抱えた。第九の新人がコーヒーを淹れてきてくれる。その味と香りに、雪子は目を丸くした。
 「美味しい。喫茶店のコーヒーみたい」
 「ありがとうございます」

 コーヒー好きの薪のために、青木は日々精進を重ねている。
 この頃はブレンドの楽しさも覚えて、今日はモカをベースにマンデリンとブラジルを1割ほど。香りが良くてコクがあり、ボディが強くて後味が良い、薪の好みにぴったりのブレンドをただいま模索中だ。
 「助かりました、三好先生。女の子の服なんて、みんなよくわからないから」
 「詳しかったら怖いわよ」

 捜一が用意したのは、シースルーのキャミソールとタイトのミニスカートだった。
 派手ではあるが、趣味は悪くない。ただ、男に女装させるというシチュエーションでは、嫌がらせ以外の何ものでもなかった。
 嫌がる薪に、女物の下着をつけさせるのは骨が折れた。上はともかく、問題は下だ。
 あのスカートの短さでは、屈んだときに間違いなく下着が見えてしまう。だから見せるための下着が一緒に入っていたのだが、それをつけるのはかなりの屈辱だったようで、さんざん煩悶した挙句に室長室のキャビネットをぼこぼこにして、竹内への呪いの言葉を吐き散らしながら、薪はやっと着替えを終えたのだ。

 「薪くんは?」
 「捜一の竹内さんのところへ、打ち合わせに行きました」
 「そうなの?見に行かなくっちゃ」
 「先生、どんだけヒマなんですか」
 「だってあたしも竹内のヤロー、嫌いだもん。あの薪くんを見てどういう反応するか、あいつの間抜けたツラ、見たいじゃない?」




*****


 すみません、すみません、すみません・・・・・。
 うちの薪さんはホントに口が悪くて・・・・・育て方を間違えたみたいです(^^;





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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