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折れない翼(1)

 予告と違う作品ですみません。 
 ちょっと事情がありまして、こちら、急遽公開することにしました。

 このお話は、以前、わんすけさんにリクエストいただいた『捜一時代の薪さん』でございます。
 なので、わんすけさんに捧げます。
 今までのお礼と、これからもよろしくお願いします、の貢物(?)です。 
 拙いものではありますが、どうかお受け取りください。

 
 過去のお話なので、カテゴリはADです。
 薪さんが捜一にいたのは、わたしの勝手な設定です。 なので、オリキャラ100連発のお話になってます。
 ご了承ください。






折れない翼(1)





 3月の房総半島は、東京より大分暖かい。
 ここへ来る途中で見かけた花畑にはポピーが満開で、多くの観光客が花を摘んでいた。緑は柔らかでとても明るい色をして、色とりどりの花々をやさしく包んでいた。時間さえ許せばゆっくりと散策したいところだが、生憎ここへは遊びに来たのではない。

 K警察署の門をくぐり、3階建ての建物を見上げる。レトロなレンガ造りを模してあるが、中身はカチカチの鉄筋コンクリートだ。しかし、警察の建物にしては味がある方だ。少なくとも薪が勤めている研究所の建物よりは、ずっと市民に親しまれそうだ。
 門前で様子を伺っていると、定刻を過ぎた頃から何人かの職員が玄関に姿を見せ、やがて目的の人物が現れた。
白髪の目立つ五分刈の頭に、いかつい顔立ち。身体はがっちりと締まっており、肩幅が広い。骨太い手に、顔に似合わない可愛らしい花束を持っている。署の女の子が選んだらしい花束は、彼の破天荒な雰囲気を見事に裏切って、見るものをつい失笑させる。

「こんにちは、羽佐間さん。ご無沙汰してます」
 薪が声をかけると相手はすぐに気付いて、素直な驚きをその四角い顔に表した。署の外で待っていた薪の気配りに応えて、こちらへ歩いてくる。
「よお、薪坊」
 花束を持っていない方の手を上げて、薪の名を呼ぶ。懐かしい呼びかけは、薪の心の底に甘酸っぱい感覚を甦らせる。

「っと、呼び捨てにしちゃあいけねえな。薪警視長殿、とお呼びせんとな」
「やめてくださいよ。気持ち悪いです」
 薪は苦笑して、左の肩を少しだけ上げ、左側に細い首を倒した。好ましく思っている相手と対峙したときの薪の仕草は、とても可愛らしい。もちろん本人は気付いていないが。

「長い間、お疲れ様でした」
 心を込めた労いの言葉と共に、箱に入った日本酒を差し出す。羽佐間の好みが変わっていなければいいのだが。
「わざわざ千葉くんだりまで来たのか?天下の薪警視長が。それとも、部下の女子職員に手を出して、クビになったか」
 嬉しいときのクセで、羽佐間は両手をすり合わせると、薪から箱を受け取った。この贈り物に満足しているはずなのに、礼も言わないどころか憎まれ口を叩くところが彼らしい。
「残念ながら、第九に女子職員はいません」
「んじゃ、オトコか」
 ……ものすごく身に覚えがあるが、ここはシラを切らないと。
 薪は思い切り眉をしかめ、剣呑な表情を作った。

「相変わらず口が悪いですね。羽佐間さん」
「おめえに言われても、なんだかなあ」
 羽佐間は薪から受け取ったプレゼントと花束を門前の花壇に置き、苦笑混じりの声でぼやいた。日焼けしたいかつい顔がくしゃりと歪み、鋭い眼光が皺の間に埋もれると、羽佐間はびっくりするくらい優しい顔になった。
 そんな羽佐間を見て、薪は咄嗟に身構える。羽佐間がこういう顔をしたときは、ヤバイのだ。

 腰を落とした瞬間、定年退官する老人とは思えない動きで、羽佐間がつかみかかってきた。
 太くて短い指が、薪のスーツの襟を摑む。押されるままに後方へ身を引き、身長差を逆に利用して、薪は相手の下方へ潜り込んだ。先月仕立てたばかりのスーツが汚れるのも構わず地面に膝をつき、左足で羽佐間の足を払う。靴のままの蹴りだから相当痛かったかもしれないが、そこまで気遣う余裕はない。
 羽佐間は重心を失って、どう、と地面に仰向けに倒れた。それでも薪の襟は放さない。自然と引き摺られて、羽佐間の上に乗る格好になる。
 現場で接近戦になったら、犯人を逃がしたことはない。羽佐間の犯人逮捕にかける執念は健在のようだ。

「か弱い老人に、なんてことしやがる」
「よく言いますよ」
 無骨な手が仕立てのいいジャケットの襟から離れると、薪は身軽に立ち上がった。羽佐間は地面に寝転んだまま、ニヤニヤと笑っている。
「まあ、柔道の腕は落ちちゃいねえみてえだな。それに関しちゃ褒めてやる」
 ゆっくりと身を起こす羽佐間を見て、思わず差し伸べようとした手を止める。これは余計なことだ。
「ありがとうございます。実は、この前初めて雪子さんから1本取ったんですよ」
「ほう。あのユッコちゃんから? そりゃあ、たいしたもんだ。あの娘は元気かい」
「ええ」
「ありゃあ、いいオンナだったな。早くモノにしねえと、他の男に取られちまうぞ」
「……盗られちゃいました。先月結納が終わって、6月に結婚式だって」
 脳裏に浮かんだ男の顔に、薪は思い切り唾を吐いた。
 雪子のような素晴らしい女性が、どうしてあんな人間のクズと。悪夢としか思えない。

「あんなやつに雪子さんを持っていかれるなんて。一生の不覚です」
「かあ。変わんねえな、おめえ。女なんか押し倒して突っ込んじまえばこっちのもんだって、俺が教えてやっただろ」
 言葉だけはポンポン出てくるが、羽佐間の動きは遅い。時間をかけて立ち上がり、腰に付いた芝生を払う。
 その緩慢な動作に老いを感じて、薪は微かな淋しさを味わった。

「だって、雪子さんは僕より強いから」
「情けねえな。ま、この身体じゃ仕方ねえか」
「わっ、ちょっと羽佐間さん!」
 薪の脇の下に両手を入れて、羽佐間は薪を持ち上げた。地面から離れた薪の足が、じたばたと動く。

「おーおー、相変わらず軽い軽い」
「もう。40を超えた男を捕まえて、何するんですか」
「へ? おめえ、いくつだっけ」
「今年で42です」
「……警察庁の七不思議か」
「はい?」
「いや、なんでもねえよ」
 すとん、と薪を地面に降ろすと、羽佐間は薪の頭に手を置いて、親が子供の頭を撫でるようにくしゃくしゃと掻き回した。

「よく来てくれたな、薪」
「羽佐間さんには、お世話になりましたから」
「ああ、確かに。おめえを仕込むのは骨が折れた。とにかく軟弱で役立たずで、次から次へとヘマばっかりしやがって」
 羽佐間に乱された髪を整えながら、薪は神妙に首をすくめる。
 羽佐間の言ったことは本当だ。誰だって新人の頃はヘマをする。頭の良し悪しではなく、慣れの問題だ。

「すみません」
「すいませんで済みゃあ、警察は要らないんだよ」
 使い古されたセリフを吐いて豪快に笑うと、羽佐間は薪が整えたばかりの頭をもう一度くしゃくしゃに掻き回した。イタズラを繰り返す彼の手の温もりを、薪はうれしく思う。それが彼の親愛を現す仕草であることを、薪は知っている。

 羽佐間には、色々なことを教えてもらった。
 効果的な聞き込みの仕方から、尾行の極意(身体の小さい薪は、これだけは初めから及第点だった)現場検証のポイントや張り込みの心得。柔道や空手の手ほどきも受けた。柔道の基本は雪子に習ったが、薪を本当に鍛えてくれたのは羽佐間だった。
「今日は酒の一杯くらい、付き合ってくれるんだろ? もちろん、おめえの奢りで」
「ええ。お手柔らかにお願いします」
「ま、俺も昔ほど飲めるわけじゃねえからよ。20年も経ちゃあ、あちこちガタがきて当然だ」

 20年前。
 もう、そんなになるのだ。

 若かった頃の自分と羽佐間を思い出して、薪はあの頃と同じ、満面の笑みを浮かべた。





テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Cさまへ

いらっしゃいませ、Cさま。
いつもありがとうございます。

薪坊、かわいいでしょ?(笑←友だちにはズレてると言われる、わたしの『かわいいセンサー』)

Cさまの叫びは、すっごく共感します~~!!
でも、管理人さんがお決めになったことなので・・・・・・・、と言いつつ、本音では(TT)
わたし自身、とても楽しみにしていたブログさんだったので、人生の楽しみをひとつ失くしてしまったような気分です。 あの切り口は他にない、貴重なものだったと思うのです。 すごくすごく残念です・・・・・・。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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