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ゲスト(1)

 本編に戻ろうと思ったんですけど~。
 メロディ12月号の青木さんのお母さんに、カウンターショックを食らいまして。

 10月号の段階で、お姉さん夫婦は絶望的だと思ってたので、青木家の子供は青木さんひとりになっちゃう。 そのたったひとりの息子が薪さんと恋仲になったら、お母さんはどうするかしら、てなことを考えまして。
 原作ではいざ知らず、わたしの脳内ではこうだわ、的なお話を書いてみたのですよ。

 で、12月号を読みましたら。

「うひゃ― ……」 



 原作との乖離が激しすぎて、お目汚しするのもためらわれるのですが、
 でも、今じゃないと公開できない気もするので、晒しちゃいます。



 ふたりが付き合い始めて、6年目のお話です。
 原作とも、現在公開中の本編ともかなりの隔たりがありますが、ご容赦ください。





ゲスト(1)






 ピンポン、と玄関のチャイムが鳴った瞬間、薪は椅子の上で飛び上がる自分の身体を押さえ切れなかった。
 
 この時間に彼女が来訪することは、事前に連絡があった。それは彼女の立場上自然なことで、心理的にはどうしても成したいことだと思われた。だから拒まなかった。だけど、いざその場面を迎えてみると、予想したよりも遥かにうろたえている自分を見つけて、薪は懸命に自分を叱咤した。
 ドアノブを握る手は震えてるし、足はクローゼットへの避難を強烈に誘惑してくる。それらを必死に腹の底に押し込めて、薪はドアを開けた。

 毎日開け閉めしている自分の家の玄関の戸が、ひどく重く感じられた。その重圧に耐えつつ開いたドアの向こうに、彼女は涼やかに立っていた。

「初めまして。青木一行の母でございます」



*****



「愚息が大変お世話になっております」
 穏やかに微笑んで、彼女は深く頭を下げた。短くまとめた黒髪の、つむじがとてもきれいだった。季節は夏の到来を思わせる時期だったが、彼女は着物を着て、汗ひとつかいていない。その動きは着物慣れしていて、美しい立ち振る舞いだと薪は思った。
 
 こちらこそ、と頭を下げて、薪は彼女を中にいざなった。ソファを勧めて、お茶を用意する。整えてあったお茶のセットを持って、リビングの彼女のところへ戻った。
 手が震えないように注意して、来訪客の前に茶菓を置く。毅然とした佇まいの彼女を前に薪は、ぎゅっと心臓をつかまれるような苦しさを味わう。

 大丈夫、上手くやれる。彼女の来訪に備えて草稿は完璧に仕上げた。説明文は暗記したし、常ならしない音読までしてみて、何回も練習したじゃないか。

 自己暗示をかけるように自分に言い聞かせ、薪は口火を切った。
「ゴソソクから」
 ……噛んだ。

 失態に固まる薪を見て、しかし彼女は穏やかに微笑んでくれた。冷たいお茶で喉を潤し、添えた抹茶のパウンドケーキにフォークを入れる。出されたものを遠慮なく食べるところは、さすが青木の母親だ、と妙なことに感心した。
 ケーキの味に満足してくれたらしい彼女は、目を細めて二口目を食べた。笑うと、目元が青木にそっくりだ。この女性が彼をこの世に生み出してくれたのだと思えば、薪にとっては神さまよりも彼女のほうが尊い存在になる。

「ご子息からお聞き及びかと存じますが、彼には私のボディガードを務めてもらうことになりまして。そのために、同居という形式を取りました」
 はい、と頷いて、彼女は室内を見回した。
 彼女の来訪の目的は、これだ。自分の息子がこれから生活をする場所を見ておきたい。一緒に住むという上司に挨拶をしておきたい。母親として、当然の気持ちだ。

「室長さんのボディガードなんて、そんな大層な役があの子に務まるのかと、不安もございますが。どうかよろしくお願い致します」
「ボディガードと言っても、形式的なものです。役職上のこともありまして、数年前からボディガードを付けるようにと上司に言われていたのを、私の怠慢から伸ばし伸ばしにしてまいりました。
 ご子息を選んだのは、彼が長年私に仕えてくれていて、私の性格を飲み込んでくれているのと、武道、射撃、共に優れた能力を身につけているからで」
 上司に提出した上申書に書いた理由をそのまま告げようとして薪は、自分の声の空々しさに泣きたくなる。

 これは事実じゃない。
 でも、本当のことは言えない。

 あなたの息子と僕は男同士で愛し合ってて、だから一緒に住むことにしました、なんて口が裂けても言えない。

「室長さん。遠慮なさらないで仰ってくださいね。室長さんの眼から見て、あの子はどうですか? 人さまのお役に立ててますか?」
「それはもう。彼のこれまでの功績があればこその、この人事です。才覚、実力共に、彼は平均より遥かに優れています。私が保証します」
「まあ。室長さんにそこまで買っていただけるなんて。ありがたいお話です」
「彼の努力の結果です。素晴らしい息子さんですね」

 青木を産んでくれた偉大なひとに、彼の大切なひとに、僕は平然と嘘を吐く。
 この行動は、よくよく考えた結果だ。姑息に隠そうとしているのではなく、不用意な言葉で彼女を傷つけたくないだけだ。

 ……というのは、もちろんタテマエで。

 彼女が真実を知ったら、僕たちは一緒にいられなくなる。青木も30を超えた大人だ、無理矢理引き裂かれることはないかもしれない。だけど、絶対にトラブルは起こる。
 彼女が住んでいるのは北九州。東京には滅多に出てこない。今日さえ乗り切れば、これまで通りの平穏な日々が続くのだ。波風は起こしたくない。ここは完璧に青木の上司役を演じきってみせる。
 卑怯者と言わば言え。僕は今の生活を守りたい。

「いいえ、室長さんのご指導の賜物ですわ。あの子は昔から争いごとが苦手で、だからスポーツも不得手でしてねえ。親元を離れて、立派になったこと……あら、つい親バカ振りが出てしまいましたわ。申し訳ございません」
 たった一人の愛息子、可愛くないはずがない。彼女がこの世で一番愛しているのは、彼をおいて他にない。

「いいえ。堂々と自慢なさってよろしいと思います」
 彼がこの世に生を受けてからずっと、30余年の時を経て、この人は彼に絶え間ない愛情を注ぎ続けてきた。彼を慈しむこと、愛し続けること、理由などない、母親ならそれは当たり前の、でもこの世で一番尊い愛情。
「特に、ご子息の武術の上達には目を瞠るものがあります」
 彼女の長年の愛情が積み重なって、彼はあんなに美しい人間になった。真っ直ぐに伸びやかに、呆れるほど健やかに。僕を惹きつけて放さない彼の魅力は、この女性が作り上げたと言っても過言ではないはずだ。その彼女に対して、恩を仇で返すような真似をしたばかりか、虚言で彼女を騙そうとしている。
 でも、これはお互いのためだ。知らないほうが幸せということは、たくさんある。

「柔道初段、剣道4段、AP射撃5段というのは、私の部下の中でも秀逸で……すみませんっ!」
「はい?」
 訝しげな相槌が聞こえて、薪はハッと我に返る。
「なにを謝ってらっしゃるんです?」
 しまった、声に出てしまった。
 あんまり申し訳ない申し訳ないと思ってたから、つい。

「あ、いえ、その」
 まずい、頭の中真っ白になってきた。パニックになったらお終いだ、何とか切り抜けないと。切り替われ、僕のジョブスイッチ!

 マスコミの答弁や会議の質疑応答は、薪の得意とするところだ。このくらいの切り返しは、眠っていてもできる、できるはず。
「えっとですね、ご子息の転居が事後承諾の形になってしまったことについて、お詫びを」
「あら。それは一行からの連絡が遅れたからで、室長さんに謝っていただくことじゃ」
「そ、そうですね、ええ。お母さんの仰る通りです」
「本当に、あの子はいくつになってもポーッとした子で」
「そうですね、全くその通りで、いえっ! 青木は、あ、いえ、青木、くん、は、やるときはやる男で、特に剣道してるときはカッコよくて、――っ、あ、いや、つまり、えっとその」

 グダグダになってしまった会話を取り繕おうと、力めば力むほどにボロが出る。終いには何も言えなくなって、とうとう薪は俯いてしまった。
 薪はこういうプレッシャーには弱い。これが仕事のことなら、どんな相手にも臆することなく思ったことを堂々と述べられるのだが、こちらの方面のことになると清清しいほどに崩れる。仕事モードのスイッチが入らないと、びっくりするくらい口下手なのだ。
 何とか立て直さなくては、と焦るが、一旦乱れてしまった精神は元に戻らない。あれだけ周到に用意しておいた草案も、殆ど白紙状態だ。確かこの後は青木の姪、つまり彼女の初孫の話をして、彼女の気持ちを和ませる計画だったと、あ、いや、それは青木の結婚話につながりそうだから止めたんだ、代わりに用意した話題はなんだったっけ。……ダメだ、思い出せないっ!

 真っ白になった頭で、それでも薪は考える。

 薪だって、青木の母親にその場凌ぎの嘘を吐くなんて、不誠実な真似はしたくない。できることなら本当のことを話したい。1年前、小野田さんに辛くも認めてもらったように、青木のお母さんにも認めてもらうことはできないだろうか。

 青木と付き合いだしてから6年。昨年の大きな過ちがきっかけになって、僕は、いや僕たちは誓った。僕たちは一生を共にする、生涯のパートナーになったんだ。だから一緒に住もうと思った。それは周りへのカミングアウトと同じことだったから、なかなか勇気が出なくて言い出すのも遅れたけれど。
 確かに普通の男女の関係ではないけれど、僕たちは真剣に愛し合っていて、互いになくてはならない存在だと分かっている。だから、この気持ちは誰に恥じるものでもないと、他人に非難される謂われはないと、例え相手が彼の親だとしても、堂々と言えるものだと――。

 無理ッ! 僕には無理だ、絶対ムリ!!

 どれだけ自分の気持ちに誇りを持ったところで、所詮は自己満足。彼女の悲しむ顔を想像するだけで、それはいとも簡単に崩れ去る。
 やっぱりここは、真実を隠し通すべきだ。彼女と自分たち、双方の平穏のために。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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