折れない翼(15)

 薪さんの身体に女性が触るのは許せない党の方々は、(いつの間にそんな派閥が?)
 こちらはご遠慮くださって。

 広いお心でお願いします。




折れない翼(15)





 犯人逮捕の祝杯を班の連中と空けた後、羽佐間は薪だけを二次会に誘い、強引にタクシーに乗せた。
「後輩が出来たからには、おめえも一人前だ。俺が一人前の男が行く店に連れて行ってやる」
 なんだか嫌な予感がして、薪はその場を逃げ出そうとしたが、羽佐間の太い腕に首を決められて、行くか死ぬかどちらか選べと言われたら、先輩の顔を立てるしかない。

 ほらここだ、と羽佐間に引き摺られて入ったところは薪の予想通り、露出度の多い服を纏った若い女性たちがひしめく、男にとっては楽園のような場所だった。

 薪は、こういう店は初めてだった。
 街で大胆な服装の女の子を見かければ自然に目がそちらに向くが、こういう店には興味がなかったし、大学時代に本当の恋を知ってからは、ますます縁遠くなってしまった。
 席についてお絞りで手を拭き、店の女の子が付いてくれるのを待つ間、薪は物珍しそうに店内を見渡した。いくつかの席に中年の男性がいて、その傍に女性がついて、他愛ないお喋りに興じている。思ったよりも明るい雰囲気で、たまに女性の胸や太腿を触っている客がいたが、それほど濃度の高いものではなく、これくらいならサークルの合コンでも見かけたな、と安心して薪はソファに背中を預けた。

「こんばんは~、羽佐間さん」
「よお」
 驚いたことに、羽佐間の周りには何人もの女の子が寄ってきて、にこやかに笑いかけてきた。羽佐間が女性にモテるとは、事実は小説よりも何とやらだ。
「こいつ、俺の後輩。こういう店は初めてだろうから、サービスしてやってくれ」
 余計なことを、と思いつつ、薪はぺこりと彼女たちに頭を下げる。こういう店から聞き及んだ情報が捜査の局面を開くことが多々ある、その事実を知っている身には、彼女たちに無愛想な態度もとれない。
と思ったのは束の間。

「なに、この子! かっわいい!」
「うっそ、男の子? きっれーい」
「こら、高校生がこんな店に来ちゃダメだぞ」
 口々に叫ばれるNGワードの連発に、薪は不愉快そうに眉をしかめた。

「あのですね、成人男性に向かってそういう言い方は、っ!?」
 一人が薪のネクタイを取り去ったかと思うと、何人もの女の手が伸びて、ワイシャツのボタンを外し始めた。きらびやかなネイルアートが薪の目の前で器用に動き、薪はあっという間に上半身をシャンデリアの光の下に晒す羽目になった。
「きゃあ。顔もきれいだけど、身体もきれい」

 なんだ、この店は!? キャバ嬢じゃなくて客が脱がされるのか!?

 剥ぎ取られたワイシャツで身を隠したい衝動に駆られて薪は、しかしそれをぐっと抑える。男なら、これくらいの事で恥ずかしがってちゃだめだ。捜一に入って1年半、それなりに筋肉もついている。羽佐間の前だし、ここは男の余裕を見せないと。
「まあ、特別なことをしなくても、職業柄自然に鍛えられるって言うか」
 本当は柔道も空手も、吐くほど訓練してきたんだけど。それを言わないのが男のカッコよさってもんだ。

「華奢な肩、かわいい~」
「ウエストほっそーい」
 こいつらには思いやりってもんがないのかっ! 気が付いても言わないでくれるのがやさしさってもんだろ!

「お肌しろーい、すっべすべ~~」
「きゃーん、可愛い乳首~。ピンク色で赤ちゃんみたい~、キスしちゃお」
「ちょっ、やめ……!!」
 遠慮の無い手にベルトを抜かれて、スラックスのボタンを外された。細い女の手とはいえ、何人もの力が合わさると、それはやはり大きなエネルギーを生み出すものだ。薪の体を簡単に持ち上げ、下着一枚のみっともない格好にして、ソファの上に容易く転がすほどの。

「きれいな足~、モデルみたい~~」
「スネ毛ないのね。ちゃんと脱毛してるんだ」
「内股なんかすべすべよお。ほらほら、触ってみて」
 両足を押さえつけられて、膝から上を何人もの手が這い回り―― なんだ、このセクハラ軍団はっ!

「何するんですかっ、止めてください!!」
 必死で叫ぶが、薪の抗議の声などどこ吹く風。
「コレも脱がしちゃえ~~!」
「きゃー、かわいいお尻~、プリップリしてる~!」
「わ―――――っっ!!!」
 男の余裕はどこへやら、薪はとうとう悲鳴を上げた。必死で下着を押さえて、羽佐間に助けを求める。

「助けて、助けてください、羽佐間さんっ!!」
「いいじゃねえか、見せてやれよ。減るもんじゃなし」
「イヤです、僕はみなさんのオモチャじゃな、きゃ――――っ!!!」
 文字通り身ぐるみ剥がされて、したたかなキャバ嬢集団にさんざんオモチャにされ、やっと解放されたときには、薪にはプライドのカケラも残っていなかった。

「もうやだ……女の人、こわい……」
 二度とこういう店には来たくない。こんな辱めを受けるくらいなら、キャバクラもスナックも知らなくていいっ!
「てめえがヘンに恥ずかしがるから、構われるんだよ。シャツ脱がされたくらいで、頬染めてちゃダメなんだよ」
「僕なりに頑張ったんですけど」
「まあ、おめえは正直だからな。思ってることが直ぐに顔にでる。でもなあ、薪坊。俺たちの職業には、心を表に出さない訓練ってのが必要なんだよ。俺たちを騙くらかして罪を逃れようとする連中の相手をするんだ、真っ向勝負ばかりじゃ通用しねえ。因果な商売だよ」
「……羽佐間さん、説得力ないんですけど」
 キャバ嬢の胸もみながら、ニヤけたツラで諭されても。

 ソファの陰でコソコソと服装を整えて、もうこのまま帰るまでここに隠れていたいと言う思いと、かつて経験したことのない恥をかいたことに対する羞恥でうずくまったまま立ち直れない薪の肩に、気安く女の手が置かれた。
「ほらほら、マキちゃん。飲んで飲んで」
「あ、僕、あんまりお酒強くなくて」
「や~~ん、どこまでかわいいのお? もう、あたしの妹にならない?」
「そうね。フリフリのドレスとか、似合いそう」
「ゴスロリとか。ね、姉妹ルックでアタシと歩きましょうよ」
「飲みますっ! 日本酒ガンガン持ってきてください!」
 ここで飲まないとまた女の子扱いされて、この人たちに掛かったら次は衣装まで取り替えられてしまうかもしれない。性根を据えて飲もうとして、しかし先刻の居酒屋でも飲んできた薪はすぐに酩酊状態に陥って、半時もしない間に隣に座った女の子の膝枕で健やかな寝息を立てていた。

「かわいい寝顔。天使みたい」
「それでいて、イロケもあるのよね。不思議」
「ねえ、この子ってさ。絶対にあっちの経験、あるよね」
「ミキもそう思った? 何となく分かるのよね~、こういう雰囲気って」
「まあ、この容姿なら仕方ないんじゃない?」
「この子も本当は、男の方が好きだったりして」
「ていうか、すっごく似合うんだけど、それ! 萌える!」
「あんた、腐女子だったの?」
 女の子たちの姦しいお喋りを止めたのは、気に入りのキャバ嬢の太腿に手を置いた羽佐間だった。

「失礼なこと、言うんじゃねえよ」
 やわらかい肉から手を離し、卓上のウイスキーのグラスを手に取る。ロックの氷がいい具合に溶けて、羽佐間の口中を心地よく刺激した。
「昔のことは知らねえよ。でも、今のこいつは立派な男だ。俺が保証してやらあ」
 羽佐間が目を細めて笑うと、女たちは素直に口を結んだ。
 タフでやさしくて、何よりも自分たちを蔑視しないこの男を、彼女たちは信用していた。その信用は、接客業の彼女たちに時として背信行為を行わせるほどに大きなものだった。

「で、そろそろ本題だけどよ。この店に出入りしてる坂本って男のことだが」
 眠ってしまった後輩の横で、胸ポケットから出した写真をテーブルに置き、羽佐間は事件の情報を収集し始めた。



*****


 一度書いてみたかった、女の子の集団に弄ばれる薪さん。
 あー、楽しかった☆


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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ふふふ、弄ばれる薪さん、楽しかったですか? わたしも書いててすごく楽しかったです(^^
真面目なファンの方には怒られるだろーなー、でも面白いから書いちゃう、てな調子で、こんなんばっかり書いてます。
今後とも寛大なおこころで、
笑ってくださるとうれしいです。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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