室長の災難(8)

室長の災難(8)







 田崎良彦は、その女が店に入ってきたときから目を付けていた。
 ふんわりとウェーブがかかった亜麻色の長い髪。同じ色のやさしげな細い眉。二重の大きな双眸はやはり亜麻色で、純粋な日本人ではないようだ。
 形の良い小さい鼻。肌は透き通るように白い。赤いルージュをひいた唇をすぼめ、ストローを咥える。そんな当たり前の仕草が驚くほど艶っぽい。

 ちらちらと彼女の方を見ているのは、自分だけではないようだ。が、ラッキーなことに自分の席からは彼女がよく見える。
 さっきから彼女は、何度も時計を見ている。どうやら待ち合わせらしい。耳元のイヤリングや念入りな化粧から、相手は男だろうと推測する。
 しかし、相手は時間に遅れているようだ。こんないい女を待たせるなんて、不届きな奴もいたものだ。
 コーヒーのグラスが空になり、彼女は明らかに苛立ち始めた。時間の確認はもう6回目だ。
 今なら、ものにできるかもしれない。

「待ち合わせですか?」
 いきなり前の席に座った不躾な男に、彼女の視線は冷たかった。
「失礼ですが、ずいぶん待たされてますよね。彼が来るまでの間だけでも、僕とおしゃべりしません? あんまりきれいな人なんで、ずっと気になってたんですよ」
「あの」
 彼女が何か言おうとしたときに、携帯電話が鳴った。
「もしもし、小池くん? どうしたの……え、残業? またなの? はいはい、あなたのとこの上司が怖いのは知ってるわよ。でも、これで何回目だと思ってるのよ。3回に1回くらいは断れないの? 今月に入ってデートしたの、2回だけよね。
 ……わかった、もういいわ。立派なお仕事、頑張ってください。映画は一人で観に行きます。おっかない上司によろしく! ていうか、その上司と結婚すれば!? バイバイ!」
 目の前に他人がいるのを忘れていたのか、電話を切ってから気まずそうな顔になる。さっきの怒った顔は非常に魅力的だったが、困った顔は一変して可愛らしい。

「ごめん。なんか、タイミング悪かったみたいだね」
 彼女は黙ったままうつむいている。伏せられた睫毛が驚くほど長い。
「忙しいんだね、彼」
「いつもこうなの。すっごい、意地悪な上司なんだって」
「いっそのこと、浮気しちゃう?」
「え?」
 冗談だよ、とにっこり笑う。
 相手の反応は悪くない。恋人とケンカして、自棄になっている若い女。簡単だ。
「映画は一人じゃつまんないでしょ。オレで良かったら付き合うよ。ってか、付き合わせてください」
「ぷっ。素直なナンパね」
「男なら見逃せないでしょ、こんな美人。行こうか?」
 まだ少し迷っているようだったが、ここは押すべきだ。ネイルが映える華奢な手を掴んで、立ち上がらせる。

 自分の伝票と合わせて彼女の分も払い、連れ立って店を出る。店でちらちらと彼女を見ていた連中の歯噛みが聞こえるようで、いい気持ちだった。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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