ロジックゲーム(3)

 こんにちは。

 最近、過去作品にたくさん拍手をいただいてて、とってもうれしいです。 ありがとうございます。
 『ラストカット』以前、まだふたりが恋人同士じゃなかった頃のお話は、自分でも読み返すと、拙いながらに微笑ましくなります。 
 彼らがだんだんに惹かれあっていく過程は、初々しく、一生懸命で。
 だけどもどかしく、なかなか先に進まなくてイライラして、時間ばっかりくいやがって、もうホント腹立つ。(あれ?)

 でも、くっつくまでが楽しいんですよね~。
 原作もその過程だと思えば、楽しめ……ああ、きつ過ぎ★





ロジックゲーム(3)




「幹部候補生の選抜試験を受けろ」
 薪のマンションで、夕飯をごちそうになっている最中のことだった。しゃぶしゃぶの肉を鍋から上げるのも忘れて、青木は呆然と薪の顔を見た。
「幹部候補生? オレがですか?」
 幹部候補生というのは、警察内部にだけ通用するネームバリューで、30歳未満の若手のうち特別優秀な警察官に与えられる称号だ。毎年、若い警視たちの間から選ばれるが、その枠はたったの5人。ペーパーテストだけでなく、実技試験(仮想事件をモデルに、実際に指揮を取る)、監査官による面接、素行調査もされる。もちろん、警視の昇格試験よりも難しい。

「昇格試験で10位以内に入れなかったペナルティだ」
「ペナルティって……だって薪さん、こないだは良くやったって褒めてくれましたよね?」
「褒めてない。おまえにしては良くやった、って言ったんだ」
 夏に受けた警視の昇格試験の際、薪から『10位以内に入れ。できなかったらおまえとは別れる』と宣言された。薪が作ってくれたノートや参考書をフルに活用して受験に備えたが、いかんせん、準備期間が短すぎた。
 結果は25位。試験には受かったものの、薪の望むベスト10には入れなかった。
 25位という結果に、薪は怒らなかった。それどころか、「おまえにしては頑張ったほうだ。良くやった」などと、やさしい言葉を掛けてくれたりしたのだ。そのときは。
 それから5ヶ月も経ってから、何を考えたのか、薪は突然その話を蒸し返してきた。

「おまえはバカなんだから、努力を怠るな。努力して、やっと人並みなんだから」
 煮えすぎて固くなった肉をひょいと箸で掬い上げて自分の椀に落とし、新しい肉を鍋に泳がせてから青木の椀に入れてくれる。とってもやさしいことをしてくれているのだが、言葉は目一杯きつい。
「前にも言っただろ。僕はバカは嫌いだ」
 またそんな無茶苦茶なことを、と言いかけて青木は、昇格試験の結果が出た時のことを思い出した。
 あれは9月。夏に起きた事件の波紋が、ふたりの仲をギクシャクさせていた頃のことだ。

『僕の恋人なら、それくらいできて当たり前だ』
 試験前、薪はそう言った。でも、試験の結果が帰って来た頃には、恋人という関係自体が破綻しそうだった。だから怒らなかったのだ。
 自分から離れていきそうな恋人の機嫌を取りたかったのではなく、恋人でないならその必要はないと、実は切り捨てられそうになっていたのだと、薪のやさしい言葉の裏側を初めて知って、青木は肝を冷やしつつ、首を縦に振った。

「分かりました」
 薪が厳しい要求をしてくるのは、自分を恋人として認めてくれている証だと思えば、頷かざるを得ない。
 しかし、幹部候補生選抜とは。
 薪の手前、弱気を表に出すこともできず、青木は心の中でため息をついた。
「受けるからには落ちるなよ? 落ちたら今度こそ別れるからな」
「……やっぱり……」
 やわらかく煮えた肉と一緒に椀の中に放り込まれた薄切りの人参を見て、青木は喜びと苦悩を深める。意地悪とやさしさが混在する薪との会話は、時々すごく疲れる。
 だけどこの人はものすごくずるい人で。青木に無理難題を押し付けたときには、必ずと言っていいくらい、かわいいことをしてくれる。

 その日も冬のお約束というか、薪はちゃんとバレンタイン仕様のチョコトリュフを作ってくれていて、しかもそれを口移しに食べさせてくれたりなんかして、さらには極上の笑顔つきで「頑張れよ。おまえなら受かると信じてるからな」なんて励まされた日には、「必ずご期待に応えます!」とついつい断言してしまって、「そうか。じゃあ、今日から勉強しよう」てな具合にベッドの約束をはぐらかされて、結局は薪の都合のいいように……ああっ、何度引っ掛かったら学習するんだ、オレ!!

 そんなこんなで、選抜試験を受けたのが5月。
 昇格試験のための猛勉強が記憶に新しかったせいか、一次のペーパーテストは思ったよりも上位で通過できた。問題は2ヵ月後の二次試験だ。

 課題は、殺人事件の陣頭指揮だった。
 現場検証は済んでいるから、まずは捜査官たちに事件の概要を説明する。いつも職場で尊敬する上司がするように、淀みなく解りやすく、そう心掛けたが3箇所ばかりつまづいた。
 次に現場写真と報告書を見直し、犯人像のプロファイリングを行う。この試験は指揮官としての実力を見るものだから、これは専門のものに任せても良いのだが、もちろん自分で正確なプロファイリングができれば評価は高くなる。外せば逆に減点になるが、年がら年中モニター画像を見ている自分が画から何も読み取れないのでは、第九の名折れだ。

 殺人事件の現場となった廃屋には、異常なくらいの血痕が残っていた。あちこちにベタベタとついた痕跡は、まるで子供が悪戯にぶちまけた赤インクのようにも見えた。被害者の男性は頭部と両手を切断され、持ち去られていたことから、受験者の中には快楽殺人を疑う者もいたようだったが、青木は違うと思った。

 後に試験官にその理由を聞かれて、青木はこう答えた。
『現場写真が健全だったので』

 殺人事件の現場を健全というのはおかしな表現だが、青木が普段見ているMRIの画に比べたら、まるで毒が足りない。猟奇殺人者の現場と言うのはこんなものではない。見た瞬間に息苦しくなり、自分が闇の中に堕ちていくような感覚に囚われる。その失墜感がない画は、たいてい普通の人間が止むに止まれず起こしてしまった事件だ。
 頭部と両手を持ち去ったのは、被害者の身元を隠すための手段に過ぎないと青木は判断した。現場に残された、犯人が自分を誇示するかに見えた多くの痕跡は、パニックに陥った人間が慌ててつけてしまったものだと思った。何故ならいくつかの血の手形は、布のようなもので擦られていた。拭き取ろうとして、それを為しきれなかったのだろう。快楽殺人者なら、そんなことはしない。

 加えて、足跡の写真を大きく拡大してみると、僅かに左足のほうが深かった。つまり犯人は左利きの可能性が高い。左手で被害者の遺体の一部が入った鞄を持ったと考えられるからだ。
 足の大きさと歩幅から見て、犯人は若い男性。壁に残された手形からも男だと判別はついたが、人間の頭部を持った上でのこの歩幅は、20代から40代前半だろうと思われた。
 この辺の事実はもちろん鑑識で確認されることだが、これは試験なので敢えて記載されていなかった。現場写真から情報を読み取る能力も、試験対象になっているのだ。

 最終的に青木は、周辺の聞き込みと目撃者の捜索、被害者が身につけていた衣類等からの身元の洗い出しなどなど、総勢40名の捜査計画を立てた。これが第九だと、岡部と今井、曽我と自分あたりで殆ど調べてきてしまうのだが、あれはMRIあってこその実地検分だ。一般の捜査では、そうはいかない。
 
 そんな調子でそこそこ上手く行ったように思われた二次試験だったが、解答内容を薪に話した途端、青木は自分の不合格を予感した。
「なんだ、その行き当たりばったりな捜査計画は。そんなんでホシが挙がるか、バカ」



*****


 一応注記しておきますが、幹部候補生制度というのは、警察にはありません。 自衛隊とかにはあるみたいですけど、現在の警察にはないんです。 
 でもほらっ、これは未来のお話だから! できるかもしれないじゃん!
 ウソばっかり吐いてごめんなさい。(←きっとロクな死に方しない)



 

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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つっこみですが

しづさん、こんにちは。

久しぶりに来て突っ込ませていただくんですが、お許しくださいませね。

私、右利きですが、荷物は左で持つことが多いですよ。ショルダーも左肩だし、ハンドバッグも左手だし、買い物袋も左手ですね。それで、買い物が重くて右手に持ち変えると、長続きしないんですよ。

右手を使う→慣れって感じです。

もしかして、これは青木の思い違いで、薪さんが次回、突っ込むのかしら?

(青木は普段、鞄をどっちの手で持つんだろう???)

おじゃましました

イプさまへ

イプさま、こんにちは。


きゃん、頭脳明晰なイプさまにつっこまれてしまいました。
ですね~、実はわたしも右利きですが、バックは左に掛けます。 利き手が空いてるほうが、ものが取り出しやすいからです。

ただ、こんな緊急の場合は利き手で持つんじゃないかなあ、と思っただけです。 
それと、わたしの兄は左利きでして。
ちょっと重いものになると握力の強い左手で持つそうなので、こんな可能性もあるかなって。 人間のアタマって、けっこう重いでしょ。
てか、この犯人のモデル、お兄ちゃん?(笑)


次回、薪さんはそこには突っ込みません。
ていうか、もっと思い込みの激しいことを言ってるような??
やっぱり低脳が天才を書くのは無理があるわ★ 特に事件関係は。(^^;

ということで、見逃してくださいね。

Kさまへ

鍵コメいただきました、Kさまへ。

Kさま、はじめまして。
リンクを辿られてのお越し、ありがとうございます。 
リンク先さまの素晴らしいブログをご覧いただいた後では、お目汚しにしかならなかったと思うのですが~~、『あおまき小説を最後まで』読んでくださったのですね。
あんな大量の文章を!!(@@←自分で書いておいて、眩暈って)
ありがとうございます、本当に頭が下がります。


>途中、薪さんや青木くんにシンクロしてしまって、何度も笑ったり泣いたり…。

ありがとうございます~~~~!!!
こんな読み方をしてくださって、書き手冥利に尽きます。
わたしのような ただのヘンタイ 未熟者が書いた文章に共感していただけたのは、ひとえにKさまの感受性の豊かさと、原作への薪さん愛の賜物かと・・・・・・・・そうと分かっていても、やはり嬉しいです! ありがとうございます。


>最後にはちゃんと雪子さんも幸せになってうれしかったです。これからもふたりには本当の意味で幸せになってほしいです。

雪子さんが幸せにならないうちは、薪さんは自分の幸せを考えられない、と思ってこんな話の流れになりました。 原作の薪さんも、心の底ではそう思ってるんじゃないのかなあ・・・・・・違うのかなあ?
『本当の意味で幸せに』
はい、その通りです。 このふたり、まだ本当の意味で幸せになってません。
青木くんは決意してますけど、薪さんはまだちょっとヌルイです。
自分との関係は、青木くんにとってマイナスになる、とか考えてますから・・・・・・最終的には開き直りますけどね(笑)


『ロジックゲーム』のほうも、続きを楽しみにしてくださっているとのこと、
本当に励みになります。
土日には、アップできると思います。
楽しんでいただけるとよいのですが・・・・・・今回、シチュの割には平坦な話になってしまって。 (いつものことですが)自信ないです(^^;

書いてるものも人間の中身もつたないわたしですが、
これからも、どうかよろしくお願いします。

Kさまのまたのお越しを、こころよりお待ちしております。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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