ロジックゲーム(6)

 昨日、一昨日と、過去作品に拍手をありがとうございました。
 男爵カテゴリの作品と『折れない翼』を読んでいただけたみたいで、うれしいです。 

 あれを全部読むとですね、トータルのページ数が約140P。
 きゃー、さぞお疲れになったことでしょう! ありがとうございました、目薬さして休んでくださいねっ!





ロジックゲーム(6)





「まさか通るとは思わなかったなあ」
 マホガニーの執務机の上に肘をつき、小野田聖司は憂鬱そうに呟いた。

「しかも次席とは」
『なるほど。親バカってのは、子供の恋人の実力を実際よりも低く見る傾向があるんだな。次からは、それを計算に入れることにするよ』
 携帯電話の受話口から聞こえてくるからかいを含んだ男の声に、小野田は軽く舌打ちする。それから子供が親に言い訳するような口調で、
「だってさ、彼は総務から第九へ行ったんだよ。MRI捜査はプロでも、通常の殺人事件の捜査は一度も経験がないんだ。そんな人間が次席って。ありえないだろ、普通」
 読んでいた報告書をポイと投げ捨て、小野田はムッと唇を尖らせた。忌々しそうな口調を隠そうともせず、送話口に向かって無遠慮に吐き捨てる。

「何処に目を付けてるのかね、今年の試験官は」
『試験官は正しいよ。この解答を落とすなら、他の連中の殆どを落とさなきゃならなくなる』
「何言ってんだい、抜けてるところはたくさんあるよ? 被害者の身元確認も、凶器も、プロファイリングだって完璧じゃない」
『おまえは文句ばかりつけるけどね。現場写真から犯人が左利きの可能性を指摘したのは、彼だけだぜ。さすが第九のキャリアだよ。しかも剣道は初段だろ。頭も良くて腕も立つ人材は、貴重だよ』
 ロンドンにいる電話相手のところにも、資料は送っておいた。標的の実力を測ることで、作戦の一助になればと思ってのことだ。彼への賞賛が欲しかったのではない。小野田はカッとなって言い返した。

「中園。おまえは誰の味方なんだ?」
『もちろん、あなた様でございますよ。小野田官房長どの』
 慇懃無礼を絵に描いたような言い回しをして、中園は笑った。小野田はため息混じりに執務椅子にもたれかかり、投げやりに言った。
「わかった、認める。ぼくが甘かったよ」
『もともと無理なんだよ。幹部候補生選抜を青木くんに受けさせて、その結果、薪くんが彼に幻滅するように仕向けようなんて。
 試験に落ちたからって、彼の能力の低さに嫌気が差して熱が冷める、なんてことあるわけないだろ。デキの悪い子ほど可愛いもんなんだから』
「そうかな。ぼくはデキの良い子のほうが好きだけど」
 小野田が正直に言うと、中園は噴き出すように笑った。
『薪くんだって、決して『良い子』じゃないだろ。4年前の事件のことを除いても、彼、スキャンダルまみれじゃないか』
「彼は潔白だよ。周りの連中の目が節穴なんだ」
『本人が潔白かどうかなんて、大した意味はない。知ってるだろ』
「……まあね」
 しばしの逡巡の後に小野田が頷いたとき、卓上の電話がピーと鳴った。受話器を耳に当てると、秘書の柔らかい声が聞こえてきた。

『薪室長がお見えです』
「いいよ、通して」と秘書に答えてから、急いで携帯を口元にあてて、小野田は電話を切ろうとした。が、中園はそれを押し留め、このままの状態で薪との会話を聞きたい、と要求してきた。
「盗み聞きなんて、ちょっと悪趣味じゃない?」
『どうもおまえの印象とエージェントの報告書の間には隔たりがあってね。その辺りを自分の耳で確認したいんだ』
 中園の言い分は分かるが、薪の前であまり卑怯な真似はしたくない。少し迷ったが、これも薪のためと思い直し、小野田は携帯を開いたままデスクの下に隠した。

 軽いノックの音と共に、小野田の大事な跡継ぎは姿を現した。いつものように背筋をしゃきっと伸ばし、細い腕にファイルを抱えている。定例報告を装っているが、彼が話したいのは別のことだ。小野田にはちゃんと分かっている。
「定例報告に参りました」
 涼やかな声。生気に満ちたその声音を、小野田の耳は心地よく捉える。
「ご苦労さま」と受け取って、小野田は彼の顔を見つめる。うれしいことに、彼は充実した日々を送っているらしい。亜麻色の瞳はお日さまみたいにキラキラしているし、頬は薔薇色に輝いている。

「ずい分機嫌が良さそうだね。何かいいことでもあったの?」
「いいことって程じゃありませんけど。一応、ご報告を」
 そう言って、薪は眼の輝きを一段階高めた。
「青木が二次試験に通りました。次点と言う好成績でした」
 平静な口ぶりながら、そこには隠しきれない誇らしさが見え隠れしている。

「へえ、大したもんだ」
 小野田が頷くと、薪は冷静な顔つきのまま、でもその行動は明らかに勢いを得て、
「去年の昇格試験では小野田さんのご期待に応えられませんでしたが、彼は努力を続けています。もちろん、僕も。つまり、その、僕たちは」
 薪はそこで口ごもる。
 右手を口元に当てて固まる彼の姿は、とても希少だ。職務中には、まずお眼にかかれない。 
 その素直な困惑を好ましいと思う気持ちと、あの男だけが彼をこんな風に愛らしく変える事実を認めたくないという苛立ち。後者を抑えつつ、小野田は笑顔を作った。

「そうだね。以前、言ったことは取り消そう。きみは、いや、きみたちは堕落なんかしてない」
 小野田の言葉に、薪はうれしそうに笑う。
 本当に、近頃の薪は笑顔が多くなった。昔の快活さを取り戻しつつある証拠だ。
 これもあの男の功績だというのか?
 いやいや、そんなことはない。時が彼の傷を癒してくれた、それだけのことだ。

「だから監査課による素行調査も、恐れることはない。そうだよね?」

 びくっと細い肩が上がって、穏やかだった薪の表情が強張った。真っ直ぐに小野田を見ていた亜麻色の瞳が、急に落ち着きを失くして部屋のあちこちをさ迷い始める。ポーカーフェイスが十八番の第九の室長は、仕事以外のことになると結構分かりやすい。

「彼とは、他人に後ろ指を差されるようなことはしてない。そうだろ?」
 プレッシャーを掛ける言い方で小野田が追撃をすると、薪はぎゅっと拳を握り締めて、応戦する意志を見せた。

「僕たちは、他人に恥じなければいけないようなことはしていません」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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