ロジックゲーム(8)

ロジックゲーム(8)





「2ヶ月!?」
 室長会議用に作成したレジュメをディスプレイ上で確認していた青木は、宣告された期間の長さに思わず声を上げた。

「そんなに長い間、薪さんと会えないんですか?」
 同僚たちが退室した後の職場にふたり、会議資料を作りながら、こっそりと秘密の会話をする恋人同士。そんな甘いシチュエーションの中、薪の冷淡な声が響く。
「会えなくなるわけじゃないだろ。職場が一緒なんだから」
 カシャカシャとキィを叩く音を途切れさせないまま、薪はこともなげに言葉を継いだ。

「月曜から金曜まではここで会える。顔も見られるし、話もできる。休日とアフターを一緒に過ごすことができないってだけで」
 そこが重要なのに!

 青木の不満顔に気付いて、薪がタイピングの手を止める。華奢な両手を机の上に置いて、諫めるように青木を見た。
「調査期間は、それで乗り切るしかないだろ」
「そこまで警戒しなきゃいけないんですか? これまでみたいに頻繁には行けないとしても、せめて週に一度くらいは。オレは薪さんの部下なんだし、部下が上司のマンションを訪ねるのは不自然なことじゃないでしょう。オレに調査官が付いていたとしても、家に入ってしまえば、中で何をしているかまでは分からないんだし」
「いいや、分かる」
 キッパリと断言して、薪は資料を手に取った。左上端をホチキスで留めて、青木の方へ差し出す。

「いつだったか竹内が言ってただろ? あいつら、みんな諜報部員なんだから」
 あれは竹内の冗談だったと青木は思うのだが、薪はすっかり信じ込んでいるらしい。何を根拠にしているのか、薪の中でそれは確定事項のようだった。

「先週の水曜日、もしもおまえに調査官がついていたとしたら、おまえが僕の家に来て、夕飯にきのこスパゲティを食べたことも、野菜スープに入ってた人参を残したことも、みんな報告書に記載されるんだ。風呂の中まで覗かれて、ホクロの数まで数えられて、それから」
 そこで薪は不意に口をつぐみ、考えを巡らすときのように口元に右手を当てた。大きな瞳があちこちに彷徨うのと、すべらかな頬に微かに昇った朱色に、薪の最大の懸念を知る。
 どうやら、過去の経験が彼を慎重にさせているらしい。

「と、とにかく! 念には念を入れた方がいい。今日から2ヶ月間、僕たちはただの上司と部下に戻る。職場の外では絶対に会わない。これは命令だ」
「そんなあ……」
 傲慢に言い放った形の良いくちびるを、青木は恨めしそうに見上げる。
 プライベートのかわいい薪の姿を見られなくなる、それは青木にとっては死活問題だ。その状態が長く続くことで、無気力、倦怠感といった謂わば一種の中毒症状を呈する。

 恋人としての時間を過ごせない2ヶ月間を想像するだけで、足元がぐらつきそうになっている青木に比べて、薪は憎らしいくらいに冷静だった。淀みなく動く指先はショパンの調べのようにキィを叩き続け、亜麻色の瞳はディスプレイに据えられたまま、青木のほうを見ようともしない。
 薪は平気なのかもしれない。もともと恋愛には興味の薄いひとだし。
 青木には分かっている。自分は薪の恋人だけど、その自分が彼の心を占めている割合なんて、せいぜい3%くらいのものだ。仕事が9割、残りの1割は人間関係に向けるが、それも仕事関連の人間が優先されて、青木の順番はずっと後。例外は雪子だけだ。

 親に叱られてしょぼくれる子供のように肩を落とした青木に薪は、慰めにしては軽すぎる口調で、
「2ヶ月なんて、あっという間だろ。それに、会えないのは休日だけだ。2ヶ月のうち休日なんて、10日あるかないかだろ」

 オレはその10日のために生きてるんですっ!

 そう言ってやりたかったが、我慢した。
 ここで下手に逆らって、そんな聞き分けのないことを言うなら別れる、と叱られるのも困るが、万が一、調査官によってふたりの関係が露呈し、薪に迷惑を掛けることになるのはもっと困る。

「わかりました」
 重いため息と共に青木は頷き、薪が確認して寄越したレジュメを受け取った。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、こんにちは。


> ところで、これからこのあおまきさんは長い2ヶ月に突入するのでしょうか?青木君の元気一杯な下半身とでっかい胃袋が2ヶ月も薪さんなしで耐えれるのか、興味津々ですo(≧∇≦o)。

元気いっぱいな下半身(爆)
そ、それはそうなんですけど~、このふたりって3ヶ月に1ぺんが基本だから平気だと思いますっ。(それは男爵じゃ?)

でっかい胃袋のほうは心配ですね。
食い逃げとかしちゃったらどうしましょう(笑)


> あ、でもそれよりも本当は寂しがりな薪さんの精神の方が心配…(笑)。

そ、それがそうでもなくて~~、
もうちょっと突っ込んだ話にした方が面白かったと自分でも思ったんですけど、実はですね、

> 原作が予想以上のツラい展開になり、正直戸惑っているせいか、しづ様のお話を「あぁ、こちらの薪さんと青木君は幸せな二人だわー」と、いつもホッとしながら拝見しております。

正に、この心理状態でして。
原作の衝撃が冷めやらぬうちに書いたお話だったものですから、異様に平和なお話になってしまったんです(^^;
原作であそこまでやられたら、創作でそれ以上いたぶることはできなくて~~。 ドSの目にも涙、的な、生ぬるいお話に・・・・・すみません。

あ、でもですね、
最近『青木くんの元カノを出して、今の薪さんとの幸せを噛み締める』という穏やかな話を書こうとしたんですよ。
それが何故かすったもんだの話になっちゃって~、青木さんはナイフで刺されちゃうし、薪さんは職務に背いて犯罪を隠蔽しちゃうし、もうぐちゃぐちゃ。 
でもこれって、調子出てきた証拠だと思うんですよ!(←鬼っ子) 
Sが書けるってことは、精神的に元気になった証拠だと・・・・・・・あ、何か今、すっごい冷たい視線を感じたような・・・・・・・生きててすみません・・・・・・。


> このお話の続きも楽しみにしております。

はい、平和な展開と結末をお約束します(^^



えっと、それと、Aさまにエールです。

どうか頑張って・・・・!!
良い結果が出るように祈るくらいしかできませんが、どうか辛抱なさって・・・・・。
形にできなくてもどかしいですが、本当に想ってますから!
頑張ってください!!



プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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