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室長の災難(9)

室長の災難(9)







 誘い出すところまではうまくいった。
 途中のコンビニで、計画通り曽我が立ち読みをする振りをして待機している。後ろに一人、捜一の刑事が尾いている。今のところ計画に支障はない。
 田崎はだんだん、人気のない方へ歩いていく。
 馴れ馴れしく肩を抱いてくるのが気持ち悪いが、仕方ない。このまま騙された振りをして、仲間のところへ連れて行ってもらわなくては。

 いつの間にか寂しい通りに出ていた。通りには誰もいない。
 住居表示に「幸町3丁目」とある。目星を付けていた倉庫街の場所だ。
 突然、田崎は立ち止まった。慣れないハイヒールのせいで急には止まれず、体勢を崩した薪の体を、田崎は抱きしめた。
 反射的に蹴り上げようとした足をどうにか意思の力で抑えつけ、薪は身を固くした。田崎が唇を寄せてくる。もう、このまま適当に罪をでっち上げて捕まえてしまおうか、と思いながらも必死で逆らう。

「純情なんだ。今時、珍しいなあ。なんか、本気になっちゃいそうだ」
 鳥肌が立つ。女の子なら喜ぶのかもしれないが、自分は男だ。純粋に気持ち悪い。
「俺の部屋に来ない? 大丈夫。変なことしないから」
 きた。そこに仲間がいるのかもしれない。
「そこで何をしている?」
 唐突に厳しい声が響いて、現れたのはパトロール中の巡査であった。
「嫌がってるじゃないか。やめなさい!」
 ……まずい。
「いや、別にそんなんじゃないですよ」
「お嬢さん。この男とは前からの知り合いですか?この頃、この辺りで殺人事件があったんですよ。被害者はちょうど貴女くらいの年頃の方です」
 余計なことを。これでは、この男について行きづらい。
「このお嬢さんは私が送ります。家はどこですか」
 結局、田崎はその警官に追い払われてしまった。
 作戦失敗である。
 がっくりと肩を落として、薪はため息をついた。

「ご自宅はどちらですか?」
「大丈夫です。一人で帰れますから」
 この警官に罪はない。知らなかったのだ。若い女性が無理に迫られているのを見かけ、親切心で声を掛けた。それは警察官として正しい行動だ。しかし、計画を台無しにされたことに変わりはない。薪の口調が厳しくなるのも無理はなかった。
「いえ、送ります。あなたを一人にはさせられません」
「結構です」
 ハイヒールのせいで足も痛い。曽我が後ろにいるはずだから、車を呼んで第九に戻ろう。

 さっさと歩いて角を曲がる。ここにも人はいない。
「そうは行きませんよ、美人の刑事さん」
 背中にかかった言葉に、薪は驚愕した。 
 この警官、僕が警察関係者だと気づいている?

 驚いて振り返った。いや、振り返ったつもりだった。
 後ろから殴打され、薪はその場に崩折れた。
 警官が仲間――――!?
 
 角を曲がったばかりで、今ほんのわずかな間だけ、尾行の目は届かない。しかし、手馴れた猟師にはそのわずかな時間で充分であった。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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