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ロジックゲーム(15)

 2010年も、今日で最後ですね。
 
 今年1年、当ブログにお越しくださったみなさま、本当にありがとうございました。
 嬉しいコメントや温かい拍手をたくさんいただいて、去年に引き続き、今年もとても良い年になりました。
 来年もよろしくお願いします。

 泣いてる薪さんを見て萌えてしまうような薪さんファンの風上にも置けないわたしにも、わけ隔てなく接してくださるやさしい方々に、来年もたくさんの幸せが訪れますように。 

 みなさま、どうかよいお年を!






 最終章です。
 おつきあいくださったみなさま、ありがとうございました。

 





ロジックゲーム(15)





「みんなに何て言って出てきたんだ?」
 薪のマンションに着いて風呂を使い、暖房の効いたリビングに落ち着いて、真っ先にそんなことを聞かれた。よっぽど気になっていたらしい。

「母さんから、親父の3回忌の相談の電話が入ったって言いました」
「そういうことを言い訳に使うのは、倫理的にどうかと……ちょっと待て。おまえの親父さんの3回忌って、去年終わったんじゃ」
「ですね」
「誰も気付かなかったのか?」
「みんな酔ってましたからね」
 青木がそう答えると、薪は軽く首をかしげて、ソファの背もたれに背中を預け、リラックスした姿勢になって、
「まあ、いいか」
 と、倫理観より隠蔽の方に軍配を上げた。
 薪は自分たちの関係が露呈するのを極端に恐れている。恋人が自分との関係を他人に隠したがるというのは少々寂しい気もするが、彼の立場を考えると、それは無理もないことだった。

「はい、どうぞ」
「うん」
 湯気の立つマグカップを薪に手渡し、青木は彼の隣に腰を下ろす。
 休日前夜の楽しみは、ずばり夜更かし。夜更かしのアイテムと言えば、このふたりの場合はコーヒーとDVDだ。恋人同士の夜の楽しみ方としては色気がなさ過ぎるが仕方がない。青木が望む夜の過ごし方と薪の望むそれには、天と地ほどの隔たりがあるのだ。

「そういえば青木。おまえ、年下のかわいい子に迫られたろ」
 思わず、セットしようとしたDVDを取り落とす。誰にも言ってないのに、どこから洩れたんだろう。
「なんで知ってるんですか」
「僕の情報網を甘く見るなよ。で、どうだった? 若い子の味は」
「やめてくださいよ。相手は10歳も年下の、しかも男の子ですよ? オレに何しろって言うんですか」
「12歳年下のおまえに、僕は何をしたらいいんだろうな?」
「薪さんは何もしなくていいです。薪さんのカラダはオレが開発してさしあげま、痛いっ!!」
「開発してもらったのか?」
「されてません!」
 薪に蹴られた肩を押さえつつ、青木はハルと関わった経緯を話した。成り行きで彼の部屋へ上がったのは事実だが、それ以上のことは何もなかったとキッパリ言い切った。なのに薪は、
「隠さなくていいから」
 にやーっとイヤラシイ笑い方をして、でもそんな顔まで愛しい。久しぶりに見たプライベイトの彼は、ふるいつきたくなるくらいかわいかった。

「本当です! 信じてください!」
 からかう口調の薪に、青木が真面目な憤慨をぶつけると、薪はびっくりするくらいきれいに微笑んだ。もう理性が飛びそうだ。
「信じる」
 アッサリと頷いた薪に、青木は頭の中に思い浮かべた不実を働いていないことの証明方法をすべて忘れる。こんなにあっさり許してくれるなんて、今日の薪はやさしい。やはり2ヶ月ぶりだからだろうか。
 が、青木の考えは間違っていた。

「試験に合格したのが、何よりの証拠だ」
「それは、どういう?」
「気が付かなかったのか? あれは、監査課が送り込んだ工作員だ」
「はあ!?」
 薪の突拍子もない意見に、青木は目を剝いた。
「この時期、このタイミング。間違いない。第一、おまえが男の子に迫られるなんて。それ以外の説明がつくなら聞いてみたいものだ」
 どこをどうひねくり回したらそんなスットンキョーな考えが出てくるのか、こっちが聞きたいです!
 とても頭がいいくせに、このひとは時々、とんでもない極論を構築することがある。
 それは薪の特別な頭脳の中のピンホールと言うか、人外のものに届きそうな彼の能力を人間の枠内に抑えているアンカーと言うか、きっと薪はこれで社会との釣り合いを取っているのかもしれない。これがなかったら、とっくに新興宗教の教祖になってる気がする。

「種明かしをするとだな、僕のところにも彼が来たんだ。おまえのことで大事な話があるって。合格発表の5日前だったからな。すぐにピンと来た」
「ちょっと待ってください。いったい何のために、彼はオレに近付いてきたんですか?」
「警察官としての正義と良識をテストするためだ」
「そんなバカな。彼が引ったくりに遭ったのは偶然ですよ? それがなかったら、知り合いになんかならなかったんですから」
「バカはおまえだ。引ったくり犯も巡査も、監査課の人間に決まってるじゃないか」
 そんな。マンガじゃないんですから。

「どうして男の子なんですか? そういう場合、女子職員を使うべきじゃ」
「万が一、ターゲットが誘惑に負けて女子職員が被害に遭うようなことがあったら、誰が責任を取るんだ。身体的な危害を加えられるかも知れない職務に、女の子を就かせるわけには行かないだろ。だから僕が頻繁におとり捜査に駆り出されるんじゃないか」
 いや、責任問題は関係ないと思います。単なる成功率の問題です。薪さんが女装すると、本物の女の子よりもキレイで色っぽいから。楽しみにしてる男子職員はたくさんいて、今や殆どイベント状態になってて、闇では写真がバンバン出回って……くそ! オレの薪さんなのにっ!!

 知らぬは本人ばかりなり、とか、知らぬが仏、とか、頭の中で繰り返される格言を聞きながら、青木は反論を続けた。
「彼が監査課の回し者だったとしてですね、どうして薪さんのところへ行く必要があったんですか?」
「上司の信用度を試したんだろ」
 物事の理由と言うのは、なんとでも付くものだ。特に薪のような理詰めでものを考える人間からは、呼吸をするように理屈が吐き出される。
「それと、探りを入れてきたか」
 薪は急に真面目な顔つきになって、青木を見上げた。亜麻色の瞳には、微かな不安が滞っている。
「監査課は、僕たちの仲を疑っているのかもしれない。うまく躱したつもりだけど、これからはもっと注意しないと」
 薪の言葉に、青木はイヤな予感を覚える。
 監査課の疑いが晴れるまで恋人関係は中断しよう、なんて言われたらどうしよう。やっと2ヶ月の我慢をし終えたと思ったのに、冗談じゃない。

「いや、あれは監査課の人間じゃなかったと思いますよ。だって、彼はどう見ても高校生くらいにしか」
「そうか? 見た目は僕と同じくらいじゃなかったか?」
 自分を基準にしないでください、と叫びたかったが抑えた。2ヶ月ぶりのデート、夜の街に蹴りだされるのはゴメンだ。
「あれは多分、そういう職業の子ですよ。誘い方も手馴れたもので」
「手馴れてるって、どんな風に?」
「なんて言うかこう、フェロモンが。あの雰囲気は、警官には無理です」
 薪とこれ以上離れたくない青木が、薪のテスト説を覆そうと躍起になると、薪は興味深々と言う呈で身を乗り出してきた。
「どんな風に誘われたんだ?」

 熱心な薪の様子に、青木はかすかな期待を持つ。
 もしかして、薪がハルの好意をテストだと言い張っているのは、それを認めたくない彼の可愛らしいジェラシーの表れで、本当は気になって仕方がないのかもしれない。青木の口から詳しく話を聞いて、安心したいのかも。
 青木はにっこりと微笑んで、薪の肩に手を置いた。
「聞きたいですか?」
「聞きたい。監査課のやり口を知っておくのは為になる」
 ……期待したオレがバカでした。

 どこから持ち出しのか、手帳とペンを構えて事情聴取を始める薪を見て、青木は深いため息を吐く。薪が自分にヤキモチを妬いてくれたことなんか一度もない。二言目には口にする、「文句があるならいつでも別れてやる」というセリフは脅しではなくて、本気でそう思っているのだ。
 愛されているとかいないとか、そういう問題ではなくて、薪はきっと、愛していても、愛しているからこそ離れなければならない今回のような経験を過去にもしていて、それが彼に一見酷薄に見える振る舞いをさせるのではないかと、彼と彼の親友の秘密を知る青木は考えている。

「ええと確か、一目惚れしたとか、ぼくを好きにしてください、とか」
「なんだそれ」
 呆れかえったように言って、薪は再びソファにもたれかかった。ペンと手帳をローテーブルに放り投げ、すべての興味を失ったように眼を閉じる。
「こんなにやさしい人と出会ったのは初めてだとか、引ったくり犯を捕まえたときはすごくステキだったとか」
「ぷっ。ミエミエのオダテじゃないか。そんなんで騙されるオトコがいたら、相当のバカだな」
 そう言い切る薪が実は、自分を男らしいと褒めてくれる相手に対しては、哀しいまでにガードが甘くなるという事実を青木は知っている。

「まあ、初対面の相手と安易に関係を持ったりしない、という程度の一般良識を試したんだろう。あまり凝ってたら、テストにならない」
「その割には、引ったくり犯やら巡査やら、えらく大掛かりじゃ」
「警察が芝居をするなら、そういうシチュになるのが自然だ。これが合コンで知り合った相手となると、疑いも出てくるけど」
 絶対に持論を変えない。薪は頑固だ。

「合コンなんか行きませんよ。あなたがいるのに」
「は。どうだか。今回は相手が男の子だったから何もなかったけど、女の子だったらヤバかったんじゃないか?」
「オレは相手かまわず飛びついたりしません」
「なに言ってんだ。ところかまわず飛びついてくるくせに」
 さっきも往来で、とブツブツ言い始めた薪に、青木は苦笑を浮かべる。
 薪だって、抵抗しなかったくせに。それどころか、青木の腕を抱き返したくせに。それはほんの一瞬だったけれど、薪の気持ちを確かに感じることができた貴重な瞬間だった。

「じゃあ、彼から話を聞いたとき、薪さんはオレのこと、ぜんぜん疑わなかったんですか?」
「男だったからな。まずありえないと思った。それに」
 青木は同性愛者ではない。どんなにビジュアルが美しくても、それが同性であればときめいたりしない。見た目に惹き付けられるのは、相手を異性だと認識した時だけだ。
「おまえは知り合ったばかりの相手と関係を持てるような、器用な男じゃないだろ」
 相手の人となりを知らなければ、恋などしない。恋情が育たなかったら、欲望も生まれない。青木はそういう男だ。

 無条件に与えられる恋人からの信頼に、青木は素直な喜びを示す。にこっと薪に笑いかけて、「よかったらマッサージをしましょうか?」と申し出た。
 久しぶりに触れる恋人の身体のしなやかさに、青木は恍惚となる。
 力加減に注意しながら、うつ伏せになった細い背中を揉みほぐし、詰められる吐息と密かに吐かれるため息を手のひらで感じる。あたたかい、薪の身体。今日は幻じゃない。

「信用していただけて、嬉しいです」
「おまえってヘンタイだけど、ゲイじゃないもんな」
 両者の違いが分からない。青木の中では殆ど同一視されている2つのカテゴリを、薪は分けて認識しているのか。
「オレのどこがヘンタイなんですか?」
「立派なヘンタイだろ。明るいところでしたがるし、ベッド以外の場所でもお構いなしだし。内容だって、AVじゃあるまいし、あんなところにあんなことをあんな風に」
 最後の頃はモゴモゴと口の中で言って、薪は組んだ両腕に顔を伏せた。耳が赤くなっているところを見ると、相当恥ずかしかったらしい。
 性欲の薄い薪にとって、セックスはただ、相手の気持ちを量る一手段に過ぎない。快感を深めるよりも、強く抱き合ったり素肌を合わせたり、そんなことの方が大事なのだ。

「普通だと思いますけど」
「そんなわけないだろ! あれが普通だったら、僕の今までの経験なんか、子供のママゴトみたいで……」
 青木に言わせれば、快楽を追求しないセックスなんか本物じゃないと思うが。まあ、薪はもう40に手が届くし。青木も年齢を重ねれば、考えが変わるのかもしれない。

 ふと気が付くと、薪は無言になっていた。
 眠ってしまったのかと思ったが、そうではなく。ぎゅ、とくちびるを噛んで、何かに耐えるような表情になっている。ときどき腰がびくりと動いて、彼の沈黙を湿った息が破る。
 怒られるかな、と思いながらも青木が指先を薪の首筋に滑らせると、薪は小さな声と背中の震えで、それに応えた。

「薪さん。あの……」
「本当は」
 ちょっとだけ、と誘い文句を口にしかけた青木を遮って、薪の声がした。その声には焦燥が滲んで、必死で自分を抑えているように聞こえた。
 首に掛かった青木の手を摑み、自分の頬に当てる。しっとりとやわらかく、温かい頬。

「本当はちょっとだけ、彼の話が嘘じゃなかったらどうしようと思った」

 亜麻色の後頭部が、小さく上下に振られた。青木の指先にくちづけられた、薪のやわらかいくちびるの感触。
 青木は薪の下に手を入れ、彼の身体を反転させた。薪の短い髪がさらりと流れ、艶めく輪が揺れる。前髪の下に隠れた眉は今は弱気に下げられて、その下の亜麻色の瞳は困惑したように青木から視線を外している。
「薪さん」
 愛しげに名前を呼ぶと、薪はおずおずと青木を見た。
 さっきまであんなに傲慢に振舞っていたくせに、でもそのギャップが堪らない。幾度も幾度も青木の中に激しい感情を甦らせるその手練手管を、このひとはどこで覚えてくるのだろう。
 先刻の約束を忘れたわけではないが、どうにも我慢がならない。鉄の自制心も、薪の前でだけは役に立たない。

 右手で彼の後頭部を押さえ、強くくちづけた。やさしさからは遠ざかった、強引なキスだった。
 久しぶりのキスは、強烈な酒のように青木を酩酊させた。何度も繰り返し、重ね直すたびに深くなる吐息と、激しくなる水音。ベッドへ行こうと言い出したのは、薪の方だった。
 久々に見る恋人の白い裸体に、その美しさに感動すら覚えながら、青木はやさしく彼の首筋にキスを落とした。膝から上に撫で上げるように、彼の中心に手を置く。

 耳元に唇を寄せ、ベッドの中でだけ許される少し意地悪な口調で、
「2ヶ月分のストックに利子がついてますけど。一括返済でいいですよね?」
 びくっと跳ね上がった華奢な肩と、大きく見開かれた亜麻色の瞳。青木は笑い出しそうになる自分を必死で抑える。
「いや、分割でいい! できれば1年くらいの長期返済で、てか返さなくていいから!」
「遠慮しないでください」
「遠慮なんかしてない! 明日、ヨーゼフに会えなくなるのが嫌なだけだ!」
 
 往生際の悪い恋人の両手を左手でシーツの上に封緘し、両足を右足で押さえる。ヤメロと喚く唇をくちづけで塞げば、残るはせわしない息遣いだけ。
 彼の呼気にやがて混じり来る甘さを認めて、頭上に纏め上げた薪の両手を解放する。細い腕が青木の頭を愛しそうに抱いて、どうやら明日の予定は変更になるらしい。
 これは双方の合意の上、でもたぶん明日になったら薪は怒るのだろうな、と青木は賢明にも考え、薪の怒った顔を想像して、うれしそうに笑った。



―了―



(2010.10)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Bさまへ

Bさま、こんにちは~。
コメントありがとうございます(^^


>薪さんがきっぱり騙されずにいたかにみえて、でも・・・と青木君に漏らすのにドキドキしてしまいました。 好きだから、信じていてもやっぱり心配ですよね。

騙されてはいませんでしたが、がっつりカンチガイはしてましたね(笑) (まあ、このカンチガイにも裏があって、その辺は先のお話をお楽しみに~)
『でも』はツンデレの基本ですよね。
原作でも、強く見せかけて、ちょこっと覗かせる弱さがたまんないんですよね~。 ああ、薪さん・・・・(←間違った原作の見方)


>今年はしづ様の素敵な物語に出会えて、とても幸運に思っています。どうもありがとうございました。来年も、新たなお話を楽しみにしております。

きゃー、こんなヘンテコなお話を読んでいただいて、お礼を言うのはこちらの方です~~(^^;
うちの与太話にお付き合いくださいまして、本当にありがとうございました。

Bさまのブログのレビューは、何度も頷きながら拝読させていただきました。 特に薪さんの見間違えの件は、「ああ、なるほど!」と。
2月号のレビューもお待ちしておりますので、Bさまのペースで更新してくださいね(^^
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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