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クッキング(11)

 またもやあおまきすとにあるまじき発言なんですけど。
 わたし、雪子さんとスガちゃんのガールズトークが大好きなんです。 スガちゃん、言葉はキツイんですけど、きっと雪子さんのことが大好きで、ずっと彼女を支えてきたんだろうなあって。

 スガちゃん、これからも雪子さんをよろしくねっ!
 いま青木さん、それどころじゃないから。 もしかしたら、ずっとよろしくねっ! 未来永劫よろしくねっ!!(←わたしが今後の展開に何を期待してるのかとか、追求しないでください)  





クッキング(11)





「ぜ――ったいに逃しちゃダメですよ!」
 雪子の手首を万力のように締め付ける小さな手の持ち主は、耳にタコができるほど繰り返したセリフをまたもや口にした。
「雪子先生にプロポーズしてくれる男性なんか、あと百年待っても出てきませんからね」
 この娘はいったい、あたしが何年生きると思っているのだろう。

「あのね、スガちゃん。風間先生はプロポーズしてくれたわけじゃなくて、『結婚を前提としたお付き合いをしましょう』って言ってきただけよ? OKするかどうかも、あたしはまだ決めかねて」
「20代ならともかく、40に手が届く先生に迷う時間なんかあるわけないじゃないですか。ここで会ったが百年目です」
 なんだか親の仇みたいになってきた。

「だからって何も、勝負服まで用意しなくても。ただ一緒に食事しようって誘われただけよ? 返って引かれちゃうんじゃない?」
「甘いっ!!」
 ブティックの店内という場所柄も忘れて、菅井は大きな声で雪子を一喝する。プライベイトになると、菅井は雪子より優位に立つことが多いような気がする。

「甘いですよ、雪子先生。いいですか、白衣姿の先生しか見たことのない風間先生が、こういうフェミニンなワンピース姿の先生を見たら、どういう反応を示すと思います?」
 フワフワしたピンク色のワンピースを手に取り、菅井はそれを自分の身体にあてがう。童顔で華奢な彼女に、その服はとてもよく似合っていた。
「男はギャップに弱いんです。コロッと落ちますよ、わたしが保証します」
 言いながら、菅井は値札を確認する。まさか、この服を着て行けという気だろうか。ありえない、30超えてパステルピンクを着るくらいなら、雪子は迷彩服を選ぶ。

「まさかスガちゃん、あたしにそれ着ろっていうんじゃ」
「そんな社会的公害を引き起こすような真似はしません。雪子先生がこれを着て街を歩いたら、お年寄りなんかショック死しちゃうじゃないですか」
 失礼を通り越した菅井の切り捨て方に、咄嗟には上手い切り返しが浮かばない。この後輩相手に言語能力を競ったら、雪子の完敗だ。
「でも、形はいいから色違いで……これなんかどうですか? きれいなライトグリーンですよ」
 口惜しさに歯噛みする雪子の険悪な表情を意に介することもなく、菅井は同じ列にあった同型のワンピースを取り出す。さっと雪子の身体にあてがって、「なかなかいいじゃないですか、馬子にも衣装ですよ」と失礼を重ねた。

「こういう色合いのスーツなら持ってるわ。わざわざ新しいものを買わなくても」
「スーツなんかダメですよ。どうせ色気のないビジネススーツでしょ」
 鋭い。でも、30過ぎの女性が洋服を買う場合、公私共に使える服を選ぶのが普通だと思うが。
「男性に誘われたら、着飾って行くのが礼儀ですよ。ロクにオシャレもしないで行くってことは、相手を男性として意識していないってことでしょう? 失礼に当たります」
 そういうものだろうか。
 あまりゴテゴテとアクセサリーをつけたりする事が苦手な雪子は、鈴木とのデートのときもそれほど飾り立てたりはしなかった。現在も、青木や竹内とふたりで会うことはあるが、あれは友だち感覚だし。ていうか、この子に礼儀を諭されるとは。

「はー。ガラじゃないと思うけどなあ、こんなの」
 そうぼやきながらも、菅井に押し付けられたワンピースを試着室で着てみて、鏡の中の自分を覗き込む。スタイルの良い雪子は大抵の服は着こなせるが、ふんわりしたシルエットのスカートは生理的に受け付けないので、これまで穿いたことがなかった。

 初めて出会う自分の一面に、雪子は新鮮な驚きを覚える。
 悪くないかもしれない。
 服に着られている感じがしないでもないが、これはこれでありかも。

 菅井に勧められたワンピースを購入して、それに合わせた靴も買う。美容院へも行くんですよ、と命令口調で言う後輩に辟易して、雪子はため息を吐いた。
 自分のことでもないのに気張りすぎの後輩は、その情熱のすべてが雪子を思ってのことだと分かっているから無碍にもできない。

「よかった、先生を任せられる人が現れて。おかげで雪子先生の老後の面倒は、わたしが見なくても済みそうです」
「なんでスガちゃんがあたしの老後の世話をするのよ」
「だって、雪子先生を屍蝋化死体にするわけにはいかないじゃないですか。だからわたし、将来的には雪子先生をわたしの家庭に引き取ろうかと」
 いったい、どんな将来設計してたの、あんたは。

 口は悪いが、菅井は本当に雪子のことを心配してくれている。鈴木のことも、その後のことも知っている彼女は、雪子の傷を癒そうと懸命に働きかけてくれた。『男の傷は男で癒す』が持論の彼女の好意はありがた迷惑な部分も多大にあったが、それでもそこまで自分を案じてくれる誰かがいるということは、雪子にとって大きな支えとなってきたのだ。
 そんな彼女を喜ばせてあげたい気持ちは、雪子の中にもある。ましてや、こんなに楽しそうに雪子の服やアクセサリを選ばれたのでは、止めることもできない。
 結局は美容院まで菅井に連れて行かれて、彼女の指示で髪をカットされた上に色を染められた。もう、彼女の言うがまま。お洒落に関しては、雪子は菅井の足元にも及ばない。
 そうして仕立てられてみれば元は良い雪子のこと、何処に出しても恥ずかしくないシックな美女の出来上がりというわけだ。

 姿見の中の自分を見て、雪子は何だかこそばゆいような気分を覚える。
 最初は完全にありがた迷惑だと思っていたけれど、雪子だって女性だ、お洒落が楽しくないわけがない。特にこの髪形は気に入った。前髪を左から斜めに分けたショートカットは薪とスタイルが被るような気もするが、今までの真っ直ぐに切り揃えた髪型よりも軽やかで、季節に合っている。新しい服にもマッチして、「らしくない」と「悪くない」が半々くらいになった。
 
 菅井は自分のプロデュースに満足して何度も頷き、次いでいつもの命令的な口調で言った。
「いいですか。風間先生は仕事中の雪子先生しか知らないんですから、気を抜いちゃダメですよ。先生の本性がガサツで女らしさ皆無の干物女だってことがバレたら、この話はおじゃんですからね。お淑やかに振舞ってくださいよ」
 本音が出せないようでは付き合いも長くないだろうと思ったが、最初から全開というわけにもいかない。菅井の言葉は、ある程度は正しい。
「はいはい。せいぜい気をつけるわ」

 素直に賛同の意を示しながら、雪子はふと、この姿を竹内が見たら、それでも自分を男友達として扱うのだろうか、と詮無きことを考えた。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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