理想自己と現実自己の齟齬解消に関する一考察(1)

 こんにちは~。

 予告では『スキャンダル』というお話を公開するはずだったんですけど、それのちょっと前の話が書き上がったのでこちらを先に。すみません、いっつも予告通りに行かなくて。(^^;

 これ、ものすごく難しい題名なんですけど、哲学も心理学も関与してなくて、ぶっちゃけ、

 ただのRです。


 なんか題名が思い浮かばなくて~~、もともと何が言いたいのかわからない内容だし~、
 要は、
 セカンドインパクトの直前だから、ちょっとくらいイチャつかせてやるか、的なお話なので、深い意味は無いです。 カテゴリ的には雑文に入れてもいいくらいです。


 このお話の時期は、ふたりが付き合い始めて3年くらいです。
 なので、薪さんの熟成度も完熟に近付いておりまして、糖度も高めに……最初の頃とは別人みたいですね☆

 どうか広いお心でお願いします。

 あ、今更ですが、18歳未満の方はご遠慮ください。





理想自己と現実自己の齟齬解消に関する一考察(1)












 細い注ぎ口の薬缶からぼたぼたとお湯が落ちて、部屋一杯に馨しい香りが広がった。
 ペーパーフィルターの中で、挽きたてのコーヒーがふうわりと丸くなる。それを見て薪は、得意げに口角を上げた。満足そうな顔でサーバーからカップに注いだコーヒーを自分の口に運び、しかし一口啜って複雑な顔になる。

「う~ん、やっぱり後味が悪いな。何が悪いのかな」
「最初のお湯が速いんです。もっとゆっくり落としてみてください」
 青木は新しいフィルターに粉を入れ、薬缶を手に取ると、お手本を示すようにお湯を注ぎ始めた。やがてサーバーに落ちてくる薪を虜にする魅惑の液体。自分が淹れたものより高い香気、深いコク、そして自分には出せない苦味の中にあるまろやかな甘さ。

「これだけはおまえに敵わないな」
「年季が違います」
 青木が薪のためにコーヒーの勉強を始めたのは5年前。薪が青木にその技術を習い始めたのは、今年になってからだ。
「でも、薪さんが淹れてくれたのも美味しいですよ。これで充分だと思いますけど」
「相手は小野田さんだからな。舌も肥えてるんだ」

 薪に官房室への出向の内示があったのは、今年の初め。4月からは非正規だが、官房室の仕事に携わることになる。
 本音では、官房室の書類仕事には食指が動かないのだが、これは小野田との最初からの約束だ。それも本来なら完全異動のところを、新しい第九が軌道に乗るまでは薪が監督をする、という条件を呑んでもらっての人事だ。小野田に感謝しないわけにはいかない。

 薪の我が儘のおかげで、小野田は昨年、中園という警視長をロンドンから呼び戻すことにした。定年退職する田端の代わりに首席参事官に据える予定だと小野田本人から聞いて、だったら僕はいらないでしょう、と言ったらさすがに叱られた。
 あれは失言だったな、と思い出して薪は苦笑する。小野田は薪にはとても甘くて、叱られたことなど滅多とないのだが、あの時の小野田は小言を言いながらも困った顔をしていた。薪は多岐に渡って小野田に助けられているし、その高潔な人柄を尊敬してもいるから、彼を悲しませるようなことはしたくない。だから出来る限り、小野田の意向に副うようにしたいと思っている。

 が、そこには障害が2つ。
 1つは今述べたように、仕事の問題。そしてもう一つは、目の前にいる男のことだ。

 青木は薪の部下で、秘密の恋人だ。付き合い始めて3年になる。
 薪に同性の恋人がいることを、もちろん小野田は快く思っていない。現に付き合い始めたばかりの頃、別れるように諭された。そのとき薪は、小野田とある約束を交わし、しばしの猶予を捥ぎ取ったのだが。

 表立っては何も言わないが、小野田の態度の端々には、別れて欲しいという気持ちが現れている。それは決して自分の思い過ごしではない、と薪は確信している。
 それには根拠があって、一昨年の冬だったか、青木が幹部候補生選抜の監査を受けた折、薪は上条という少年に、自分と青木は愛し合っているから彼と別れてくれ、と迫られた。
 青木の性癖を知っている薪は、彼の言うことをまったく信じなかった。青木はノーマルな男だ。女性ならともかく、知り合ったばかりの男の子と寝たりしない。なるほど、これが『別れさせ屋』という職業の人間か、とその時の薪は自分でも呆れるくらい冷静に彼をあしらった。

 自分たちの仲を知り、さらには監査対策で距離を置いていることを知ってのこの襲撃は、間違いなく内情に通じている者の差し金と思われた。心当たりは小野田しかいなかった。
 青木には、彼らは監査課の人間だと取り繕っておいた。そうしないと、単細胞の青木は小野田に直接抗議に行きかねない。官房長の小野田に一介の警視が盾付くなど、小野田自身が許しても周りの人間が許さないだろう。

 そんなことを思い出し、薪の瞳は少しだけ憂いを帯びる。が、敢えてそのことは忘れようと努める。せっかくふたりでいられるのに、つまらないことを考えたくはない。

「薪さん、跡片付けはオレがやりますから。冷めないうちにリビングで飲みましょう」
「ああ。そうだ、これ」
 冷蔵庫から白い箱を出し、ケーキナイフを持って、リビングに向かった恋人の後を追う。せっかく美味いコーヒーがあるのだ、この機会に食べなくては。

「適当にカットしておいてくれ。―― とっ!?」
 薪はその箱を開けてローテーブルの上に置き、ナイフを恋人に渡して切り分けておくように指示をした。次いでフォークと皿を取りにキッチンへ戻ろうとし、足を滑らして後方に倒れた。薪がドジったのではなく、パーカーのフードを引っ張られたのだ。

「何するんだ、いきなり!」
 身体ごと青木の腕の中に引っくり返るような形になって、薪は抗議する。近くにナイフもあったのに、悪ふざけにも程があるぞ。
 ソファに座った恋人の膝の上に抱かれ、彼の顔を見上げると、青木は何故かニコニコと笑っている。ものすごく嬉しそうだ。そんなにケーキが食べたかったのか?

「薪さん、これ、オレのために作ってくれたんですよね」
「当然だろ?」
 薪はそれほど甘いものは好きではない。だからこれはもちろん、甘いもの好きの恋人のために焼いたのだ。
「嬉しいですっ、薪さんがこんなに可愛いことしてくれるなんて」
 何言ってんだ、こいつ。意味わからん。
「バレンタインにチョコレート、しかもケーキなんて手間の掛かるものを……薪さん、オレも薪さんのこと大好きですからねっ」
「ち、ちがう! これは別にそんなんじゃなくて!」
 季節柄、その材料が目に付いただけだ、他意はないんだ、と叫ぼうとして、薪の口唇はそれを為せない。幸せな勘違いに舞い上がった単細胞な男の唇が、薪のくちびるを塞いでいる。振りほどこうと腕を突っ張るが、恋人の大きな身体はびくともしない。
 しまった、これはエライことになった。青木が突っ走り始めたら、止めるのは至難の業だ。

「あ、青木、落ち着け、コーヒーが冷め、むぐぐっ」
 一瞬だけ離れた口付けの合間に誤解を解こうとするが、直ぐに別の角度から捕らえられ、今度は口中にまで侵入されて、言葉どころか呼吸までふさがれてしまった。
 酸欠状態で身体に力の入らない薪の状況を行為続行の承諾と取ったのか、青木はいささか乱暴に薪をソファに押し倒すと、パーカーの裾から右手を入れてきた。くちびるを合わせたまま、不埒にも胸の周辺で遊び始める指先に、薪の背中がひくんと反り返る。でもそれは単なる反射で、その刺激に喜んでいるわけじゃない。それなのに、青木の手はしつこくそこを刺激してきて、薪の膝に自分の昂ぶりを押し付けてきて――。

「ぷはっ、あのな、違うんだ、青木。バレンタインとか関係なくて、んんぅっ」
 パーカーと厚手のシャツを捲り上げて露わにした白い肌に、むしゃぶりついてくるくちびるを感じて、薪は声を殺す。気をつけないと、おかしな声が出てしまう。その声が彼の衝動を一気に加速させることを、薪は知っている。
「た、たまたまセール中で安かったから」
「薪さんっ、愛してますっ」
 ひとの話を聞かんか―――っ!!

 普段の青木はとても大人しくて、薪の言うことは何でも聞くのに、一旦理性が飛ぶとどうしようもないならず者に成り下がってしまう。いつもの穏やかで純情そうな彼は何処へやら、まるで貪るように薪を抱く。
 彼をこんな風に変えてしまうスイッチがどこにあるのか、薪にはよくわからない。それはいつも突然で、信じられないくらい激しい。

 青木が自分より12歳も年下の若い男だということは理解しているが、年齢的にも体力的にも、薪には少々荷が重い。だから合議の上、彼の欲求に応える日は週末だけと定めた。その日はきちんと下準備もして、それなりの覚悟も決めて、ほんの少しだけ期待もして夜を迎えていたのだが。
 3年目に入ってから、徐々にその公約が崩れてきている。こんな風に突発的に行為に入ってしまうことも多くなってきて、薪はとても困っている。

「だ、ダメだって、あっ」
 ひょいと身体を裏返されて、簡単に衣服を剥ぎ取られる。ちょっとやそっと叩いたくらいでは動じない、青木の強靭な肉体の前に、薪はいつも自分の無力さを思い知らされる。長年の努力の結果、生まれつき恵まれた身体に筋肉と武術を身につけた青木は、警察内部の武道大会でも表彰台の常連になりつつある。

「バカ、やめろ! こんなところで……っ!」
 いつもの手順でそこをほぐされて、薪は声を失う。くちびるを噛み締めて耐えるのがやっとだ。
 こんな明るい照明の下で、しかもソファの上なんかで、僕がこういうの嫌いなこと知ってるくせに。

 薪はセックスに刺激を求めたがるタイプではない。薪が恋人との交合に求めるのは、安心と充足感だ。もっと理性的に、お互いを慈しみ合いながら、穏やかにからだを重ねたいのだ。
 例えば、愛撫はこんなふうに一方的ではなく、互いを同時に愛して。性的刺激を欲しがるのではなく、相手に対する愛情からひとつになりたいと望み、自然に彼を迎え入れる。彼が自分の中で律動すれば、微かに吐息が熱くなるけれど、言葉が乱れたり理性が飛んだりすることはない。そういうセックスが薪の理想だ。
 しかし、現実は。

「あっ、あっ、あおきっ、もっと、そこっ、ああああ!!」

 もう本能のままというか、ケダモノが2匹というか……コトが済んで理性が戻ってくると、その最中に何を言ったか正確には思い出せないのだが、ていうか、思い出したら恥ずかしくて死ぬ。
 嵐みたいな情動が薪の中を駆け抜けていって、気がつくと夢中になって腰を動かしていたりする。薪が最近本当に困っているのは、実はそんな自分の変化だったりする。

 快楽の余韻に浸ってぼんやりとソファに突っ伏していた薪の身体を、恋人の力強い腕が抱き上げた。手首と右足首に引っかかっていた衣服が取り去られ、裸にされてバスタブの中にそうっと入れられる。2月の夜、温かいお湯はとても心地よい。

 絶妙の湯加減に夢心地になりつつ薪は、自分を後ろから抱いている男に、釘を刺しておかなくては、と思う。
 最近のこいつは図に乗りすぎだ。さっきだって、僕があんなに抵抗してたのに。

 だけど結局は流されてしまった事実を思い出して、薪は強い自己嫌悪に陥る。さらには先刻口走った2,3の言葉もフラッシュバックしてきて、自分もあの事態を楽しんでいたことを自覚し、どうしようもないジレンマに焦がれる。
 結局薪は一言も言葉を発することができず、ならば行動で示そうと、自分を抱く太い腕を振り払おうとした。両手を掛けて拘束を解こうとするが、狭いバスタブの中でその動作は多分に難しく、薪の動きは途中で阻まれる。
 それは自分の思惑とはまるで反対のことだけど、客観的に見たらまるで自分が彼の腕を抱き返しているように見えるのだろうと思い、おそらく後ろのバカも同様の誤解をしていると確信し、だけど決してそれを不愉快に感じていない自分に何よりもがっかりして、薪は投げやりに青木の左肩に後頭部をもたれさせた。

「薪さん?」
「なんだか……抜けられないとこまで来ちゃった気がする」
「はあ?」

不思議そうな青木の声を聞きつつ、薪はバスルームの湿った天井に向かって大きなため息を吐いた。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Yさまへ

Yさま、こんにちは~♪
コメントありがとうございます(^^


>タイトルが哲学的だったのでどんな話だろう??と思っていたら、薪さんのココロとカラダの乖離(笑)のことだったんですね。

そうなんですよ(笑)
題名の割に、ものすごく下らない内容なんです(^^;


>ここまでくるのが長かったですね~抜けられないところまで。。。と落ち込んでいる薪さんがかわゆいですvv

3年も掛かっちゃいました☆
お話的には、『サインβ』のあたりから目覚めたという・・・・・・きゃー、何の話でしょう、すみません、かんべんしてください。
でも、落ち込む薪さんはわたしも好きです。 バカな子ほどかわいいです。


>セカンドインパクトでの薪さんを考えると心臓が痛いのですが、

あ、これはですね、そんなに心配されることはないかと・・・・・。
大丈夫ですよ!
このわたしが、カワイイカワイイうちの薪さんを泣かせたり(じゅるっ)
食事も喉を通らないほどに悩ませたり(じゅるるっ)
するわけないじゃないですか♪♪♪
・・・・・・なんでしょう、このカッコの中の効果音は。

でも、多分そんなに痛くないし、ふたりの絆は深くなると思うので・・・・・
気楽に楽しんでくださると嬉しいです(^^


ありがとうございました。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: