スキャンダル(5)

スキャンダル(5)







 金曜日。薪は今日も警察庁8階の廊下を歩いている。
 小野田と取り決めた基本シフトは、第九は月水金の3日、残りの2日は官房室の仕事をするというものだが、急ぎの事件があれば捜査を優先させていいことになっている。が、それ以外の時には遠慮なく官房室から突発的な呼び出しが掛かる。人事異動のこの季節、様々な団体の役員に挨拶回りをしなければならない。相手の都合によってはシフトの変更を余儀なくされるというのが、薪の今の立場だ。
 今日はどこのお偉いさんだろう、と滅入る気持ちを抑えて、薪は官房室に入った。

「薪くん、こっち」
 官房室の職員たちに目礼し、小野田の部屋へ入ろうとした薪を、首席参事官の中園が呼び止めた。
 中園は小野田の昔からの友人で、現在の彼の右腕だ。去年の春、前任の田端が定年で退職した際、小野田がわざわざロンドンから呼び戻したくらいだから、その実力は相当なものだと思われる。

 薪の前に立って自分の部屋に入った中園は、執務席に着くと渋い顔で腕を組んだ。険しく眉根を寄せて、唇を歪めている。
 中園とは知り合ってまだ4ヶ月ほどだが、彼が薪の前でこんな顔を見せるのは初めてだ。
 彼はひとつだけ困った性癖を持っていて、かわいい男の子が大好きなのだ。小野田の目があるから何もしてこないが、個人的な興味から薪を気に入っていることは確かだ。薪としては不本意な気に入られ方だが、まだ官房室の仕事に慣れていない現況では仕方がない。

「なにか、困ったことでも?」
 中園の表情から不穏なものを感じ取った薪は、彼を促した。中園の憂いは、小野田に関することだ。官房長の平穏を脅かす何事かが起きたに違いない。
「それを君が訊くのかい?」
 逆に質問を返されて、薪は戸惑う。
 どういう意味だろう。中園の渋面の原因は、自分にあるとでも言いたいのだろうか。
「僕がなにか」
 数枚の写真が中園の机の上で、ばさっと音を立てた。自然に落とした薪の目に飛び込んできたのは、絡み合うふたつの裸体。

 一瞬、頭の中が真っ白になった。
 大声で叫んだような気もするし、怒りに任せて机を叩いたような気もする。気が付いたときには薪は、床の上にへたりこんで、奪い取った写真を隠すように身を伏せていた。
 遠くで、中園の声がする。

「今朝、官房長宛に送られてきたんだ。差出人は不明。封筒もありふれた市販品、指紋もなし。手紙もないし、連絡もないから犯人の目的はわからない」
 中園の言うことをやっとの思いで理解して、薪は肩を竦ませる。ガタガタとみっともなく震える唇を動かして、一番心配だったことを聞いてみた。
「小野田さんは、このこと……」
「まだ知らない。僕の処で止めてある」
 そのことに安堵した卑怯な自分を恥じて、薪は深く息を吸った。

 これは十中八九、小野田の政敵が仕掛けた策謀だ。部下のスキャンダルをタネに、彼に脅しをかけてきているのだ。
「辞表を、いえ、懲戒免職にしてください」
 こんなことで小野田の名誉に傷がつくなど、あってはならない。事が公になっても、自分が処罰を受けていれば世間の非難は和らぐはずだ。しかし、短絡的な薪の進言は、首席参事官によってあっさりと却下された。
「無駄だよ。そんなことしたってね、君が10年以上も第九の室長をやってた職歴は消えないよ。小野田が君をその地位に就けた事実もね」
 それはそうかもしれないが、こういう場合の常套手段としては、懲戒免職が王道だ。警察機構から切り離すことで責任の所在を有耶無耶にするのは、この世界の基本ルールだ。

「それに、小野田になんて言うの?」
「正直に話します」
「こんなことくらいで、彼が君を切り捨てると思う?」
「小野田さんだって、リスクを知ればきっと納得してくださると」
「やれやれ、小野田もかわいそうに。あんなに大事にしてるのに、当の相手はそれをまるで分かってないときた」
 床に腰を落としたまま、薪は中園の洒脱な顔を見上げた。
 小野田の友人に相応しく、穏やかな微笑を刻んでいることの多いその口元は苦々しく歪められ、いつもすっきりと開かれた眉根はぎゅっと寄せられている。

「小野田に余計な心配をかける前に、君にはやることがあるだろう」
「離職以外に、僕に何ができると」
「彼と別れるんだよ。当たり前だろ?」
 つややかなくちびるが開き、何か言おうとした。しかし、それは言葉にはならなかった。不安定な吐息が幾度か繰り返された後、薪は「はい」と頷いた。
 薪にとってはようやく絞りだした言葉だったが、中園は厳しい態度を緩めてはくれなかった。
 当然だ。薪は今、官房室を窮地に陥れようとしている不安因子なのだ。

「本当に別れられるの?」
「大丈夫です。青木には、ちゃんと僕から」
「青木くんなの? それ」
「えっ?」
「相手の顔が写ってなかったから。誰だか解らなかった」
 薪は慌てて写真を見直した。
 中園の言うとおり、はっきりと顔が判るのは薪だけだった。どれもこれも相手の男の顔が写らないアングルで撮られていて、もしこれが世間に公表されたとしても責を負うのは自分だけで済む―――― 薪はそのことに、安堵のため息を漏らした。

 パニックになって、冷静な判断ができなくなっていた。中園は、薪が青木とこういう仲だということも知らないはずだ。ここは上手くフォローしないと。処罰が青木に及ばないように、何とか抑えなければ。
「すみません、これは僕の病気みたいなもので。若い男を見ると、つい」
「これまでにも、こんなことを?」
 悪びれた様子もなく、いっそふてぶてしく、薪はヘラヘラと笑ってみせた。
「警察(ここ)は縦社会なので。階級を振りかざせば、大抵の男は言うことを聞きます。彼もそうでした」
「君が無理矢理、彼に行為を強要したってこと?」
「はい。僕がその気になれば、ちょろいです」
 青木は被害者。事情を知らない中園なら、この話が通じるはずだ。

「じゃあ、電話して」
「はい?」
「いまここで、青木くんに電話して。二度とこんなことはしないって、彼に言いなさい」
「……ここで、ですか?」
「できるよね?」
 薄いグレーの瞳が、すべてを見透かすように薪の顔を見ていた。その視線に操られるように、薪は携帯電話の発信ボタンを押した。



*****

 ここまで読み返して、やっと面白くなってきたと思うわたしって、アクマなんですかね??

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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ふふふ

いえいえ、私も面白くなってきたと思いました。
へたり込んで青くなった薪さんを見てみたい。
はい、アクマです^^;

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Mさまへ

Mさま、初めまして!
サイトを立ち上げた頃から、ずっと見守ってくださっていたとのこと、誠にありがとうございます。 
会社でも見てくださってて、で、最近の話は会社では読めな・・・・・ははは(^^;
すーみーまーせーんー!!


>  Rバリバリのよりギャグってる系のお話のほうが好きかもです(R読むなら普通の男ー女のほうが・・・)

わたしも書いてて楽しいのはギャグです。
Rについては、わたしは逆に男女のは気恥ずかしくて、男×男だと、ファンタジーみたいで平気なんです(笑) 男女だとキスシーンすら恥ずいです。 だから竹内と雪子さんのラブストーリーはあんなにイロケのない話に(^^;


> 小野田さんと竹内君が好きです~~~。いや、でも竹内結婚しちゃったからな・・・・・薪さんをうっとり語る竹内君が好きだったのに。

おおっ、作者イチオシの小野田さんファンが! Mさまでお二方目です!
いいでしょう、小野田さん!(ごり押し)
竹内は~、あー、そうですね、いやでも、どうしてあんなタラシを・・・・・・?(サベツ)
竹内の薪さん語りについては、
はい、語ってましたねー。 夢見がちなオトメのように。 うちの薪さん、中身はタダのオヤジなのにねー。 
もともと彼は薪さんの女装姿に惚れたクチですから、外見に惑わされてるんですかね(笑)


> 今回のお話はちょっとかなり私には衝撃が…。

Mさまのご心配はごもっとも!ですが、大丈夫ですよー(^^
最終的に写真は第九にばら撒かれますが、ちゃんと笑えるオチに持って行きますので、ご安心を!
・・・・・・・・あれっ。 
Mさま、どうして顔色が青くなってらっしゃるんですか? 大丈夫だって言ってるのにー(笑)


> 薪さんはオヤジで勘違いちゃんで構わないので、でも、薪さんにはプライド高く輝いていてほしい~~。
> 人に後ろ指さされたり、嘲笑されたりとかしないでほしい~~~~
> そんな事態になったら私は逝ってしまいますです・・・

オヤジで勘違いちゃん。(笑) いいんだ、それで(笑笑)
ですよね、二次創作だもん!
二次創作でここまで崩しておきながら、原作の薪さんには1ミリも崩れて欲しくないしづです。 ヲタク心は複雑なんです。
薪さんにはプライド高く輝いていてほしい、というご意見には賛成です。周りに何を言われても、昂然と頭を上げていて欲しいです。
ただ、うちの場合、官房長の愛人やら何やらの噂があるので、後ろ指を差す人はいます。『ろくな実力もないくせに、実力者に取り入るのは上手い』とか『ベッドの中の実力はさぞすごいんだろう』とか嘲られたりしてますから★
それと、鈴木さんの事件の後は、後ろ指指されまくりでした(^^;
それらを跳ね除ける強さが、薪さんのプライドを支えているのです。


> しづさんの愛を信じてます(しかし、薪さん精神的ショックを受けるって書いてあったから・・・どきどき)

信じてくださってありがとうございます!
こんなS話ばっかり書いてるのに、それを読んだ上で信じてくださるなんて、やさしい方ですね~。
見放されないように頑張ろうっと。


> ところで全然関係ないですが、

この状況、わかります。 きっとわたしも同じことをしました!
偶然でもびっくりしますよね。 きゃーってなりますよね!
わたしなんか、ショップの店員さんが青木さんだっただけでも、きゃーって。(重症)
一度でいいから『薪さん』にお会いしてみたいです。 あ、でも、イメージ崩れるかも・・・・夢のままのほうがいいのかな(笑)


それから、Mさまの予想ですが。
当たってます! (底が浅くてすみません~~!!)
そうなんですよ。 だから大丈夫なんです。(←何が大丈夫なんだ!?と叱られそうですが)
安心して続きを読んでください。


たくさんお気遣いいただいて、ありがとうございました。
コメントの修正は簡単な操作でできるので、気兼ねなさることは何もございません。 これからも、気軽に話しかけていただけるとうれしいです。 おしゃべり大好きなので(^^

ありがとうございました。

めぐみさんへ

めぐみさんったらー!!(笑笑)
ええ、それでこそ3連星ですっ!! めぐみさん、大好きー!!

まあ、わたしの話は、最後は丸く収まるって分かってるから、面白がってられるんですよね。
これが原作だと、ハッピーエンドの保証がないから~、
ええー、どうなっちゃうんだろー、と面白がる余裕を無くしてしまうときがあります。 青木さんのお姉さん夫婦の事件のときは、マジで凹みました。


> へたり込んで青くなった薪さんを見てみたい。

これ、原作でも見たいですよね?
これから出てくるんじゃないかなあ? お姉さんのMRI見ながら、青くなってへたり込む薪さんとか。 
そして滝沢さんのセクハラが(笑)
楽しみー♪
あ、ちなみにわたしは『滝沢さんはいいひと』派です。


Aさまへ

Aさま、こんにちは~。
コメントありがとうございます、って、

> な、中園さんっ、その素敵なお写真をぜひとも私に横流しプリーズっっ。

ぎゃはははははっっ!!!
さっすがAさん、もー、爆笑しちゃいましたよっ。
横流しプリーズっ、プリーズって・・・・・!!! (←苦しい、お腹いたい) げらげらげら!!
あー、おかしかった、悶絶しました。

さすがだなあ、Aさん。 ギャグマシーンだなあ。
ねー、Aさん、また書いてくださいよ~。
Aさんのギャグ、読みたいなー。


> ところでしづ様のえがかれる薪さんは本当に心も高潔で美しい理想の薪さん像で、きっと原作の薪さんも同じようなシチュエーションになったら、こんな風に青木を庇って言いそうですよね。
> すごく不器用で、でも一生懸命生きていて、その生きざまや精神自体が美しくて、素敵で…。

そうですねえ。
うちの薪さんはそんなに出来た人間じゃありませんけど(ただの不器用なオヤジです~~(^^;))
原作の薪さんは、青木さんのことを身をもって庇っちゃいそうです。
と言うのも、最近の青木さんが死んじゃう夢。 あれって、現実にそんなシーンが出てきたら、薪さんがそれを思い出して思わず青木さんを庇ってしまうことの伏線じゃないのかなあって。 わたしはアクション映画大好きなので、それはそれでドンと来いなんですけど、でも、アクション映画の基本は、主人公が生き残ることですからね! その辺、誤解しないでね!(誰に言ってるんだろう)


> もし私のところのアホな薪さんなら

ぎゃははははっ!!!
だーかーらー! これ、書いてくださいよ!!
てか、曽我さん!? ちょっと無理がないですか?
中園 「へええ、彼、メタボに見えるけど、けっこう引き締まった身体してるんだねえ」
薪  「・・・・・間違えました。それは岡部です」
中園 「?彼はもっと毛深いんじゃ」
薪  「じゃあ、小池かな」
中園 「彼、こんなに手足が長かったかな」
薪  「思い出しました、これは今井です」
中園 「棚に眼鏡が写ってるけど」
薪  「宇野ですね、間違いないです」
というわけで、宇野さんに決まりました。 ・・・・・何の話だっけ。


> 冗談はさておき、この先薪さんや青木くんがどう困難を乗り越えるのか、興味津々です。
> 毎日続きを楽しみにしております。

ありがとうございます~、
なーんだ、と言われてしまいそうな肩透かしな展開かもしれませんが、
お付き合いくださると嬉しいです(^^

ありがとうございました。

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Mさまへ

Mさま、こんにちは!

こちらこそ、すみませんでした!
はい、コメントお待ちしてます(^^

あ、そうです、カミングアウトと言えば、
ご友人にこの腐れブログを読んでいることを知られてしまってらっしゃるのかしら?
・・・・・・友情にヒビが入ってませんよねっ? ヘンな目で見られてませんよね?!
Mさまの社会的信用が心配です・・・・・・。


> えっ  第九にばら撒かれる・・・・・?・・・・・・
> ま、いいや、第九の仲間なら、、、、って、そーゆー問題?

大丈夫、大丈夫♪
今回、ここ、イチオシのギャグですから(^^


> でも、私の好きな薪さんは、しづさんの好きな薪さんとかぶるので、ドキドキしながら楽しむことにします。あ、青木はどうでもいいので、青木の写真はばら撒いてください(→本編で地獄にいる人に向って、なんてやつ…)

ええ~~!!
Mさま、趣味わる、ゴホゴホッ!!
オヤジとか勘違いちゃんとか、それ以前の問題として、うちの薪さんて人間的に未熟なんですよね(^^;
でも、書きやすいんです。 自分が未熟者だからかなあ(笑)

それと、青木くんはどうでもいいんですね?
わたしも彼はけっこうどうでもいいんですけど(ひどい)彼が泣くと、薪さんがもっと泣くので・・・・・以前と比べて、あんまり無体なことはできなくなりました。 残念。(非道) 


こんな腐ったブログを『オアシス』だなんて・・・・・・どうもありがとうございます!!
時間は、あ、本当ですね。
夜更かしは美容の敵ですよ! お肌が荒れちゃいますよ! 若さに任せてると、そのうち後悔しますよ!
以上、アラフォーになって後悔しまくりのしづでした★
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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