スキャンダル(10)

 こんにちは~。

 お天気が渋いですねえ。 また雪になるのかなあ。 困るなあ。
 夜間工事では特に天候に気を使います。 普段は夜間動かさない合材プラントとか、うちのために稼動してもらうわけですから。 それに、NTTケーブルの立会いの人とか。 夜中の1時ごろ来てください、って頼んでおいて、雨で中止になったからまた明日、なんて申し訳なさすぎです。
 付近住民の方にも、夜の騒音で迷惑かけてるし~、
 あー、どうして昼間やらせてくれないんだ!! って、県道でバスが通ってるから仕方ないんですよね(^^;
 現場付近の方、申し訳ありません。(て、ここで謝っても)



スキャンダル(10)












 ふたりが薪のマンションに落ち着いたのは、夕方だった。
 リビングで、床に正座をして姿勢を正し、青木と向かい合う。何ヶ月かぶりのバリスタの手によるコーヒーの香りの中で、薪は重い口を開いた。

「官房長宛に、写真が届いたんだ。こないだ第九の仮眠室で、おまえと……」
 薪は青木にすべてを話すことにした。
 余計なことに巻き込みたくないと思ったが、事が公になったときのことを考えると、事前に知らせて対策を立てておいたほうが良い。対策というのはもちろん、薪との関係を訊かれても知らぬ存ぜぬでシラを切り通すと言うことだ。

「まさか」
「本当だ。ここに写真もある」
 薪は写真を自分の手で保管していた。これは大事な証拠品だから、捨ててしまうわけには行かない。誰にも見られてはいけないから、第九や官房室には置けない。そんなわけで、自宅に持って帰ってきたのだ。
 写真を見た青木は驚きに目を丸くしたが、薪のように取り乱すことはしなかった。じっくりと写真を検分し、色々な角度から眺めている。恥ずかしさが先にたってロクに見ることもできなかった薪とは大違いだが、捜査官としては青木の方が正しい。これは大事な証拠物件だ。検証の必要がある。
 写真を手元に置きつつもそこから目を背け続けていた自分を、薪は少しだけ反省した。

「はあ……この薪さん、すっごくきれいですね」
 ………………。
「いや、現物はもっときれいなんですけど。うっ、これなんか鼻血出そう。髪振り乱しちゃって、足の形とかすごいし、からだは殆ど宙に浮いちゃってるし。アクロバティックな体位に挑戦してみました、って表題がつきそうですね」
 だれがAV写真の鑑賞会をやれと言った!!
「色っぽいですねえ、この表情なんか、あっ、ちょっと待ってください。これってえらいことじゃないですか!?」
 やっと事の重大性に気付いたか。まったく、鈍いやつだ。
 しかし、これで青木も納得してくれるだろう。僕たちが別れなくてはいけない理由に。

「薪さんのこんな姿を、オレ以外の人間が見たってことですよね!? くうっ、口惜しいですっ、殴ってやりたいです!! ……どうしたんですか?」
 思わず床に突っ伏した薪の背中に、青木のボケた声が降ってきた。
「あほかっっ!!!」
 喉が張り裂けようかという勢いで、薪は叫んだ。ここが完全防音のマンションでよかった。

「アホか、おまえは真正のアホなのか!? これは官房長宛に送られてきたんだぞ。それがどういうことか、わからないのか! だれかが小野田さんの失脚を狙って、僕たちの関係を利用したって事だぞ!」
 そこまで説明してやっても、青木には緊迫感がいまひとつ欠けているようだった。捜査のときの半分も神経を尖らせていないように感じられる。あまりにも意外で、現実味がないのだろうか。

「この先誰に何を訊かれても、僕との関係は絶対に否定するんだぞ。いいな」
 それでも、納得してもらわなければ困る。僕との事はなかったことにしてもらって、口を噤んで、もう二度と会わない―――――。
「この辺が潮時だ」
 冷静な声が聞こえる。その声に反応して、薪の身体の中心が震えた。震えは薪の内側から脳に届いて、鼓膜を介すことなく彼に簡潔な言葉を伝える。
 ――――― イヤダ。
「こうなった以上、僕たちは一緒にはいられない」
 イヤダ。
「小野田さんに迷惑掛けるわけにいかないし、僕たちの将来のことだって」
 淀みなく続くアルトの声は乾ききって、一切の感情を含まない。でも、脳内に響く声はどんどん大きくなって。
「だから、おまえとは」
 別れる、と言おうとした。が、薪の口はどうしてもその言葉を成せなかった。
 内側からの声は耐え難いボリュームで、薪の身体中を駆け巡る。その声に揺さぶられるように、細い身体がわなないた。

 いやだ、こんな別れ方はいやだ。
 青木が青木の意志で僕以外の誰かを伴侶に選ぶなら、それは耐えられる、耐えてみせる。だってそれは青木が選んだ道だから、青木が幸せになることだから、流した涙で溺死したって笑ってみせる。
 でも、こんなのはいやだ。誰かの陰謀によって、強制的に別れを選択させられるなんて。青木の意志でも僕の意志でもない、赤の他人の思惑で僕たちが引き裂かれるなんて。

「よかった。薪さん、オレのこと怒ってたわけじゃなかったんですね。ずっと不安で仕方なかったんです」
 別れ話をしているのに、青木は場違いな笑顔で薪の顔を覗き込んだ。あたたかい黒い瞳が、薪のこころを落ち着かせてくれる。
「薪さんに申し訳ないことしちゃったから、そのせいかなって」
 申し訳ないこと?
 まさか、こいつに限って……でも、何ヶ月も会えなかったし。
 こんな状況でも青木の言う「申し訳ないこと」の内容が気になる自分が、薪はとても滑稽だった。別れ話の最中に相手の浮気を疑う無意味さを充分承知しながらも、訊かずにはいられない。

「おまえ、まさか」
「こないだ、やりすぎちゃったから。いくら5ヶ月ぶりだからって、6回もしちゃったから。それで嫌われちゃったのかと思ってました」
 人間、これ以上はないくらいに呆れると、思考が停止するものらしい。思考だけでなく、そのときの薪は無表情に、息すら止まってしまったようだった。
 薪があまりにも冷めた表情をしているので、焦ったらしい青木が必死に言葉を継いだ。しかし、その内容は薪の思考をさらにフリーズさせるものだった。
「いや、本当はもっとしたかったんですけど、薪さんが死んじゃいそうだったんで。オレだって我慢したんですよ」
「……いいな、おまえは幸せで」

 やっとのことで、薪はそう言った。
 言った途端に、腹の底がぴょこっと跳ねた。振動は横隔膜に伝わり、笑いとなって薪の口から出てきた。
「薪さん?」
 いきなり笑い出した薪を、不思議そうに青木が見ている。ひとしきり笑った後、薪は息を整えて青木の顔を挑戦的な目で見た。

「僕の別れ話に応じなかったことを、死ぬほど後悔させてやる」
 肩の緊張を解いて、いつもの胡坐の姿勢になる。腕を組み顎を上げ、上からの目線で青木を見上げる。
「僕はおまえと絶対に別れない。地獄の底まで引きずりこんでやるからな。覚悟しとけ」
 意地悪全開の顔つきで生贄の子羊を見れば、被害者の立場であるはずの彼は何故かとてもうれしそうで。その感情を言葉では表しきれないとでもいうように長い腕を薪の身体に巻きつけて、ぎゅうと抱きしめた。
「薪さんっ」
 薪の名前を呼ぶと同時に首筋を吸い上げる唇とシャツの中に入ってきた右手を押さえて、短い黒髪をぐいっと引っ張る。気分的には盛り上がる場面かもしれないが、こんなことをしても問題は解決しない。
 解決策はただひとつ。この陰謀の犯人を捕まえるのだ。

「ちょっと待て! 今はこれをどうするか、話合おう。おまえの下半身については、そのあと善処するから」
「いや、無理です、限界です」
 論より証拠と薪の手に握らされたそれは、青木の言うとおり臨界点に達していて。
「なんで!?」
「だって、薪さんのあんな写真見たら、もう」
 おまえは瞬間湯沸かし器かっ!
「お願いしますっ!!」
 哀れっぽく土下座までする恋人にほとほと呆れ果てて、薪は深いため息を吐いた。
「おまえ、プライドないのか」
「ないです。プライドとか繊細さとかマイナス思考とか、普通の人間の神経してたら薪さんの恋人なんか務まらないです」
「……真面目に別れたほうがよくないか、僕たち」
「もうっ、意地悪言わないでくださいよ」
 辛辣な言葉ばかり出てくるつややかなくちびるは、実は甘いキスにはとても弱くて、情けない言葉しか持たないはずの恋人の舌から紡ぎだされる痺れるようなしらべにたちまち蕩けていく。

 青木の胡坐の上に座り、薪は太い首に腕を回す。
 何度も舌と呼吸を交換し合い、でも本当に互いの中に収めたいのは胸の中にある大切なもの。青木のそれが僕は欲しいし、僕のそれを青木にあげたい。

「シャワーを」
「このままでいいです」
「じゃあ、ベッドに」
「ここでいいです」
「や、いやだ、床の上なんて……んっ、うん、あっ」
 薪の背中が痛まないように、膝の上に抱いたまま、青木は薪のからだを開いていく。向かい合わせに抱き合って、互いの昂ぶりをその姿態に認めて、2週間振りに確かめ合うのは物理的な形状より形を成さない何か。

 曖昧で不確かで不安定に揺れる、それはしかし、薪の中でも青木の中でも決して消えない、いわば命の根源から生まれてくるもの。
 言葉にすればそれなりの形をとって、ひとまず安定するのかもしれないけれど、そんなことは今はしたくない。型にはめなくても、ちゃんと伝わる受け取れる。ラッピングなんか必要ない、不恰好だけどとっておきのプレゼント。
 高みから落ちた余韻の中で、胸中に抱いたそれを身体の奥に大事にしまって、ああ、これでもう僕たちは無敵だ、と薪は思った。

 が、そんな哲学的なことを考えていたのは薪ひとりだったようで。
「次はこの写真の体位でお願いします」
 一度や二度では満足したことのない元気すぎる恋人は、当然のように再戦を挑んできた。しかし、薪の方は限界だ。もともと行為自体は好きではないのだ。
「い、一度だけって」
「オレ、まだイッてないです」
「嘘つけ、いまので2回目っ、あっ、あっ!」
「ね? 大丈夫でしょう?」
 復活の呪文でもマスターしてるのか、おまえはっ!

「やっ、もう堪忍っ」
「何かすっごく調子いいんですけど、新記録狙っていいですか?」
 新記録ってなんの!? どこのギネスブック!?
 僕じゃない誰か、いや、何かでやってくれっ!

「ゆ、許して、もうっ、あっ、あっ、あ―――っ!!」
 白濁する意識の中で薪は、青木の今年の誕生日プレゼントはゴム製の愛人を贈ろうと本気で考えていた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、こんにちは!
コメントありがとうございますっ!


>青木の誕生日プレゼントには、ゴム製の愛人より

きゃははははっ!!
じゃー、さっそくみーちゃんに交渉してみますね! (鍵コメの意味が・・・)

でも、みーちゃんとこの青木さんは、絶対に手放さないから、新規ご購入ということになりますよね?
あれって1億円とかじゃなかったですか?
うちの薪さん、貯金ないからなあ・・・・・・通帳残高254円の警視長だからなあ・・・・(あ、今度この話を書こう) 
無理だなあ・・・・・ruruさんとこの薪さんに、お金借りようかなあ。(あそこは超お金持ち)

てな調子で、いろんな妄想が広がってしまいました☆
楽しいコメントをありがとうございました(^^
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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