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スキャンダル(12)

 ということで、本日2個目の記事です。
 よろしくお願いします。




スキャンダル(12)












 翌朝、不覚にも強制的な睡眠を摂らされたおかげですっきりと目覚めた頭を、専属バリスタの特製ブレンドでさらに冴え渡らせ、薪は問題の写真を検分した。朝食を摂った後のダイニングテーブルに何枚ものきわどい画を並べ、捜査官の眼でそれを見る。
 捜査官モードになってしまえば、それがどんなに恥ずかしい写真だろうと関係ない。例えそこに自分と母親のセックスが映っていても平気な顔で見られるくらい図太くないと、第九の捜査官は務まらない。

 検証の結果、写真は3方向から撮られている。おそらくは高精度のCCDカメラが仮眠室に設置されていたのだろう。問題は、それを設置したのが誰か、ということだ。
「犯人は一体、何が望みなんでしょうね」
 昨夜あれだけ体力を消耗することをしておいて、目の下にクマもなく食欲も旺盛な部下を見て、薪は彼の若さを羨ましく思う。薪がもし女性相手にあの回数をこなしたら、次の日は多分、腰が立たない。

「小野田さんの失脚を狙ってるに決まってるだろ? 」
 コーヒーの香りを吸い込み、脳神経を活性化させる。集中力を高めるのに、臭刺激は効果的だ。
「オレは、このターゲットは薪さんだと思うんですけど」
「なに言ってんだ。写真は小野田さんのところに送られてきたんだぞ」
「でも、まだ何の要求もないんでしょう?」
 それは薪も不思議に思っていた。この写真が官房室に届いてから、すでに3週間が経過している。その間、動かない敵の真意はまったく理解できない。

「時期を待ってるのかもしれない。将来、小野田さんが次長に推挙されるときとか」
「だったらその時に使うんじゃないですか? だって犯人にとって、これは大切な切り札でしょう。それを前もって提示してしまったら、対策を立てられてしまうかも知れないじゃないですか。例えば、今のうちに薪さんを免職にするとか。そうすれば小野田さんは無傷ですよね」
「小野田さんは、それはしないって」
「でも普通は、小野田さんがそこまでして薪さんを庇うはずがないと考えるんじゃないですか?」
 それはそうかもしれない。

「犯人の狙いが薪さんだと思ったのには、もうひとつ理由があります。この写真なんですけど」
 昨夜とはまったく違う引き締まった顔つきで、青木は写真を指差した。その厳しい目つきにどきまぎする自分を見つけて、薪は慌ててそれを押さえ込んだ。
「薪さんの顔ははっきりと写っているのに、オレの顔は写ってないですよね? どの写真も身体の一部分で切れている。これは、オレが薪さんを庇えないようにするためだと思います」
「庇うって、どうやって」
「この写真にオレの顔が写っていれば、オレが薪さんを無理矢理襲ったことにして、そうすれば薪さんは被害者ということで、お咎めなしでもいいでしょう。だけどこの写真だけでは、その方法は無理です」
「バカ! 例え写真におまえの顔が写ってたって、そんなことできるわけないだろ!」
 青木の浅知恵に怒りを爆発させ、薪は椅子を蹴って立ち上がった。

「あれは、合意の上だったんだから。ていうか、僕の方から、その……」
「あくまで対策のひとつですよ」
 赤くなって語尾を濁す薪に青木はゆるりと微笑み、直ぐに真面目な顔になって自分の推理を話した。

「でも、不自然だと思いませんか? あのとき、オレたちかなり動いてましたよね。定点カメラで薪さんだけが写るなんて、ありえないと思うんですよ。何十枚かあった写真の中から意識的にこの数枚を選んだ、あるいはオレの顔が映らないように取り込んだ画像を調整した、と考えるのが自然でしょう」
 青木の言うことは、いちいち尤もだ。
 動揺のあまり、冷静な捜査官としての思考を失っていたことに気付いて、薪は己を恥じた。
 いきなりあんな写真を見せられて、小野田に対する申し訳ない気持ちで一杯になってしまって、物事を順序立てて考えることが出来なくなっていた。青木と別れろと命令されて、この状況では仕方ないと思いつつも、こんな別れ方はいやだと、そればかり・……。

「だけど、そうなってくると分からないことがあるんですよね」
 青木は人差し指を鼻の上に置き、眼鏡を押し上げる仕草をした。モニターを見るときに、よくやる動作だ。青木の集中が高まっている証拠のそれを、薪は頼もしいと感じた。
「犯人はどうして何も行動を起こさないんでしょう。この写真をマスコミや上層部にばら撒くとか、ネットで公開するとか、いくらでも手はあるのに。早くしないと、間に合わなくなってしまいますよね?」
「間に合わないって、何が?」
「官房室付け参事官の辞令ですよ。今のうちなら第九の醜聞で済みますけど、薪さんが正式に官房室の人間になってしまってからじゃ、警察機構全体のスキャンダルになってしまうでしょう? 」
「そんなの、犯人にとっては関係ないだろ」
「大有りですよ。犯人が葬りたいのは薪さんであって、警察機構ではないはずです。これは内部犯行ですから」
 内部犯行であることは、薪にも予想がついている。しかし、これを小野田の政敵と考えず薪の政敵と捉えるなら、彼(あるいは彼ら)の矛盾した行動にも説明がつく。相手は、小野田が薪を見限るのを待っているのだ。

「警察内部に犯人がいるという根拠は?」
「根拠は2つあります。第一に、第九のセキュリティは特別製です。外部の人間がそう簡単に入れるとは思えません」
 機密漏洩防止の観点から、第九のセキュリティは特別製だ。毎週月曜には玄関からモニタールームまでにある5つのゲートのセキュリティがすべて新しくなり、パスワードも変更される。
「第二に、月曜日の朝、つまりこの写真が撮られた1週間後ですね、盗聴器類のチェックをしたときには、すでにカメラはありませんでした。犯人が持ち去ったものと思われます」
「ちょっと待て。盗聴器類のチェックって、おまえそんなことしてたのか?」
「以前、風呂にCCDカメラが仕掛けられてた事があったでしょう? あれ以来、毎週月曜、それと外部から人が入ったときには必ず調べることにしてるんです。オレ以外の誰かに薪さんのはだかや寝顔を見られるなんて、我慢できませんから」
「……理由はともかく、よくやった。と言うことは、犯人は、月曜日の日中カメラを設置してこの画像を手に入れ、翌週の朝までには証拠を持ち去ったことになるな」
「でも、それが誰かは判らないです。仮眠室の入口には目隠しのパーティションが置いてあって、職員に気付かれず中に隠しカメラを仕掛けることは、第九のモニタールームに入れる人なら誰でも可能です。今はボールペンやUSBメモリに偽造したカメラがありますからね。仮眠室のクロゼットに置いてあっても、不思議には思わないでしょう」

 仮眠室のクロゼットは4つあるベットの横にそれぞれ付いていて、扉は無い。ジャケットやネクタイを掛けるハンガーが2つ、それと眼鏡や時計を置くための棚があって、そこにこのカメラは置いてあったと推測される。
「だけど、あの1週間に第九を訪れたのは、みんな薪さんと親しい方ばかりで。その中の誰かを疑うことなんか、できないです」
 薪は頭の中で、恒常的に第九に出入りしている彼らの顔を思い浮かべてみる。そのうちの一人が取ったあの夜の行動を思い出して、薪はある可能性を導き出した。

「そんなに……?」
 急に黙り込んでしまった薪に気付いて、青木は心配そうに声を掛けた。
「薪さん?」
 事の深刻さは青木にも解っている。自分が原因で小野田を窮地に立たせることになるかもしれないのだ。責任感の強い薪には、これ以上の苦痛はない。

「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。小野田さんには、切り札がありますから」
「切り札?」
 きょとんと首を傾げて、鸚鵡返しに薪が訊く。
「なんでおまえがそんなこと知ってんだ?」
 そう、自分はそれを知っている。でも、薪は知らなくていい。

「薪さん」
 青木は席を立って薪の椅子の右隣へ回り、その場に膝をついた。テーブルに置かれた小さな手を取って、両手で包み込む。
「離れてても、会えなくなっても。オレ、あなたのことがずっとずっとずうっと好きですからね、一生あなたが好きですからね」
「なんだ、急に。気持ち悪いやつだな」
「本当です、信じてください。オレ、薪さんの幸せをずっと祈ってますから」
「なに会えなくなるようなこと言ってんだ。別れないって言っただろ?」
 青木はそれには答えず、黙って薪の身体を抱きしめた。
「青木? どうしたんだ?」
 自分の腕の中で不思議そうに瞬くかわいい恋人に、限りない愛しさを感じながら、青木は不確定な未来しか持てない自分の現状をもどかしく思う。

 名古屋のコンベンションホールで小野田にパンフレットを渡され、すれ違いざまに囁かれたセリフ。
『気をつけなさいよ。ぼくにあれを使わせたくなかったら、慎むことだ』

 青木の命綱は、小野田が握っている。あれを使われたら、薪との関係も自分の人生もお終いだ。しかし、それを後悔する気はない。
 それはとても簡単な数式だ。
 薪への愛と自分の人生は、等記号で結ばれている。どちらかが消えれば、もう一方も消滅する。青木の頭の中にあるのは、それだけだ。その両方が消えた後のフォローは、小野田に頼んである。きっとうまくやってくれるだろう。

 3年前、青木と小野田の間に交わされた密約。一枚の事件調書に込められた青木の決意と覚悟のほどを、薪は生涯知ることはなかった。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Mさまへ

Mさま、こんにちは(^^


> どきどき、です!
> おもしろいです~~~~

きゃっ(≧∇≦)
楽しんでいただけて、うれしいです!!
かなーり独りよがりに書いてますからね(^^;) 面白いと言っていただけると、公開してよかったと思えます♪


> 昨日こちらにお邪魔した時は、

あはははっ!! 
いいんですよ、うちの青木くんなんかそんなもんですよっ! 彼はケダモノですから★


> ごめんね、青木くん。そうだよね、そこまでアホじゃないよね、あんなノートつけててもね。そこまでアホだったら、薪さんに好かれるわけないものね。

あんなノートというのはアレですか、ハプニングのときの秘密ノートですか?
あれは多分、薪さんの手によってこの世から消し去られたものと思われます(笑)
アホもここに極まれり、という感じですが、薪さんも薪さんで、青木くんと一緒にベッドで撮った写真を携帯に保存しておいたりなんかして、このふたりアホップルなんじゃないかと・・・・・・お似合いv-345


> さてさて、これから捜査官の目で写真を検証し始めた薪さんが、やっと本領発揮?
> たのしみにしています!

の、はずなんですけどね~~~。
相手が悪くてヘタってます(--;
今回の薪さん、ぜんぜんカッコよくない。


> 全然関係ないですが、目黒の殺人事件で

現実にもモニターを見っぱなし、という捜査をしているんですねえ。
テレビドラマでしか見たことはありませんが、ああいう感じなのでしょうね。


>「専門の捜査官が、犯人が映っているかいないかもわからない画像を、それこそ目を真っ赤にして、何時間も何時間も見続けて、「一瞬」の手掛かりを捜すんです」

このセリフ、すごく重みがありますね。
彼らの犯人逮捕に掛ける執念が詰まっているような気がします。
頑張って欲しい、努力に見合う成果を上げて欲しいと、心から思います。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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