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室長の災難(13)

室長の災難(13)







 35年間の人生の中で、間違いなく窮地ベスト3に入る状況だった。
 相手が2、3人なら、助けが来なくてもなんとかなる。そのはずだった。
「雪子さん、話が違います……」
 情報を流してくれた監察医を恨むのは筋違いだが、愚痴のひとつも言わずにはいられない。

 田崎が近づいてきて、薪の手錠を外した。
 もちろん逃がしてくれるわけではない。これから鬼ごっこが始まるのだ。1対8の。
「さあ、始めよっか。このビルは4階まである。階段しか使えないけど、どの階に逃げてもいいよ。10数えたら追いかけるからね、みんなで」
 外への道は塞がれている。この中で永遠に逃げ切れるわけがない。絶望の中で、それでも被害者たちは走ったのだろう。彼女たちの体中に残った擦過傷が、その恐怖を物語っていた。

 なんて残酷なことを。こいつら、全員逃がさない。

 しかし、今は自分の身が危ない。
 薪は走り出した。高いヒールのせいで、足がもつれる。何度も階段で転げそうになる。
 2階の部屋の入り口の陰で、薪は追跡者を待ち伏せることにした。
 どうせ逃げても逃げ切れない。4階まで走ったら、多分それだけでかなりの体力を削られる。正直なところ、もう足が痛くて走れない。
 ここなら1人ずつしか通れない。と言うことは、1人ずつ倒していける。
 
「刑事さーん、どこー?逮捕してー」
 下品に笑いながら8人の悪魔が階段を上がってくる。若い女の子が、どれだけの恐怖を味わっていたのだろう。やっぱり2、3発は殴らないと気が済まない。
 狩人たちは3つの班に分かれて、獲物を追いかけることに決めたようだ。
 2階に2人、3階に2人、4階に3人。
 やはり、なるべく遠くまで逃げる被害者が一番多かったのだろう。今までの経験からの人員配置ということか。1人はちゃんと外への出入り口に置いている辺り、バカではないらしい。

 入ってきたのは、比較的体の小さい男だった。
 みぞおちに、思い切り手刀を叩き込む。前のめりに倒れたところを、膝と肘で頭を挟むように殴る。うずくまった男の後ろから、もう一人の男が現れる。状況を見て取った男の表情が歪んだ。
「この女……!」
 飛び掛ってくる男の襟元を掴み、体を下に潜らせて投げ飛ばす。
 あまり力はない薪だが、相手の力を利用する投げ技は得意だ。柔道も空手も有段者である。
 失神した2人をその場に放置し、次の階に移動する。
 ハイヒールは脱ぎたいところだが、地面には割れたガラス片も散乱している。裸足では歩けそうにもない。
 3階の2人が、今度は部屋から出て来るところを狙う。
 1人をみぞおちに蹴りを入れて気絶させ、もう1人を手刀で仕留める。残るは4階の3人。1階の1人。

「やるねー、さっすが刑事。強い強い。おい、あいつら起こせ」
 階下の物音に気づいたのか、4階の3人が戻って来た。狭い踊り場で、囲まれる形になって、後ずさる。これは何とか1階の1人を殴り飛ばして逃げるしかない。

「おお、いてえ。よくもこの女」
「だらしねーな、おまえら」
 3階の2人が起き上がってきて、薪は5人の男に囲まれる羽目になった。
「強い女って、いいよね。憧れちゃうなあ。全然、泣かないし、悲鳴も上げない。でもさ、そんな女が犯されて泣くときって、たまんなくいい声で鳴くんだよね」
「……ゲス野郎」
「口が悪いなあ。でも、その顔とのギャップがいいんだよな、刑事さん」
「期待に添えなくて悪いな。僕は男だ」

 5人とも、きょとんとした顔になる。
「なに言ってんの。そんな顔した男がいるわけないじゃん」
「これはメイクだ」
「いや、メイクにも限界あるから」
 誰も信じない。
 えらく腹が立ったが、雪子のメイクはプロ並みだと思うことにして、男としてのプライドを保つ。

「カツラのせいだろう。ほら」
 長いウェーブヘアのカツラを取り、薪は素顔を晒した。いいかげん、蒸れて暑い。それに、髪は短いほうが戦いやすい。
「やっぱ女じゃん」
「女だよな」
 …………雪子さんのメイク技術はSFX級だ。そうなんだ。

 カツラを大きく振り回して、5人の輪に隙を作る。その間隙から飛び出して、薪は一直線に1階へと続く階段に向かった。
 が、足を取られる。前のめりに倒れそうになったところを、下から上がってきた男に抱きとめられた。
 振りほどいて走り出そうとする。が、足が動かない。……動けない。
 動けないどころか、薪はその場にぺたんと座り込んでしまった。
「……?」
 立ち上がろうとするが、体に力が入らない。いきなり手足が作り物になってしまったかのようだ。
「刑事さん、特異体質かと思ったよ。なかなかクスリ効かないんだもん」

 しまった、雪子が言っていたドラックだ。解毒剤はバックの中だ。
 しかし、いつ―――― そうだ、目を覚ましたとき、あれはただの水ではなかったのだ。どうして気づかなかったのか。せっかく雪子から情報をもらっていたのに。

「これでようやく、パーティが始められそうだね」





*****


 ここが書きたかったの~。
 アニメの室長がカツラを取った瞬間。あのシーンが好きなんです。
 カツラ被ってたときより、きれいになってるんだもん(笑)別の意味で襲われそうです(腐)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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