スキャンダル(18)

スキャンダル(18)





 官房長室のドアの前で、薪は逡巡を繰り返している。

 小野田が、あの写真を持っている。それもとびきりの恥ずかしい写真を。
 そう考えるだけで、頭が爆発しそうに恥ずかしい。あの写真よりスゴイ、ってそれもうAVを超えちゃってるっていうか、キングオブAVってことで、ああもう……死にたいっっ!!!
 自分たちの行為が汚らしいものだという自覚はあるが、それをよりにもよって尊敬する小野田に見られるなんて、これ以上の恥辱はない。どんなに恥ずかしくても、返してもらわなければ。

 ようやく覚悟を決めて、薪は目の前のドアをノックする。取り乱さないように無表情の仮面をつけるが、多分、写真を見たら落ちてしまうだろう。職務なら被り通してみせるが、仕事が絡まないとあの仮面は剥がれやすいのだ。
 部屋の主の返事を待って中に入り、敬礼する。今さっき部屋を辞したばかりの部下が舞い戻ってきて、小野田は面食らっているようだ。

「忘れものでも?」
「小野田さんが不愉快な写真をお持ちだと、中園さんが」
 小野田は思い出したように背広の内ポケットに手を入れて、中を探った。薪の心臓がばくばくと激しく打つ。

「はい、これ。――――― なに?」
 いきなり懐から問題の写真を出されて、身体が勝手に1mほどバックした。被ったはずの平静は粉微塵に壊れて、頭の中が真っ白になる。
「いらないなら、ぼくがもらっておくけど」
「い、いえ! 返してださいっ!」
 家にある写真は全部燃やした。残る証拠はこの写真だけだ。何としても消去しなくては。

 小野田の手から目的の写真を受け取って、薪は目を丸くした。
 中園的に『一番恥ずかしいと思った写真』――――― そこに映っていたのは。

 場所は第九の仮眠室。窓から差し込む太陽光に照らされた、ふたりの男性。
 かれらはベッドの上に並んで座っていた。きちんと服は着ていて、でもふたりの間に置かれた互いの手はしっかりと組み合わさって。ふたりの視線はうれしそうに絡んで、その微笑みはここが天国だとでもいうように、穏やかで満ち足りていた。
 これは、あの朝だ。
 あの夜は第九の仮眠室で眠って、というか失神してしまって、朝早くに青木に起こされた。服を着て、でも離れがたくて、しばらく黙って座っていた。そのときの写真だ。

「今更なんだけど……中園は、悪いやつじゃないんだ」
「ええ。わかってます」
 薪は本心から頷いた。小野田に渡す写真としてこれを選んだことからも、それは明白だった。
「あいつはずっとぼくのために、汚れ仕事をしてきてくれたんだ。ぼくが官房長になれたのは、あいつのおかげだと言っても過言じゃない。ぼくをここまで押し上げるために、あいつは自分の中にあった人間らしさを捨ててきたんだ」

 中園の気持ちは、薪にもわかる。
 薪にも、守りたいひとがいる。自分が汚れても傷ついても、守りたいひとたちがいる。中園の場合はそれが小野田で、今回のことはその発露に過ぎなかった。薪を傷つけようとしたのではなく、小野田を守ろうとしただけだ。

「ぼくはあいつの理想も夢も、全部背負ってるんだ。だから、立ち止まるわけにはいかない」
「はい」
 下のものの理想を負うのは、上に立つものの務めだ。自分もまた、第九の部下たちの理想を背負っている。
「僕も、ここで止まる気はないです」
「そう? じゃあ、明日の休みは返上してもらって、この書類を仕上げてくれる?」
「わかりました」
 張り切って返事をしたら、小野田に笑われた。ここはブーイングをするところだったのかと気付いて、薪は照れたように笑った。

 早く帰りなさい、と促されて、薪は官房室を辞した。廊下を歩きながら、小野田に返してもらった写真をこっそりと出して、眺めてみる。
 確かに、見ようによってはものすごく恥ずかしい写真だ。いい大人がふたりして、なにやってんだか。写真はすべて燃やしてしまうつもりでいたが、これだけは取っておこうかと愚にもつかないことを考える。

 警察庁の正門の前で、薪は立ち止まった。ポケットから携帯を出し、片手で開いてふっと微笑む。
 それから、1本の短いメールを打った。

『帰宅予定 21:00』




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Kさまへ

Kさま、こんにちは~。
ご訪問ありがとうございます!

リアルがお忙しかったとのこと、お察しします。 年度末も迫ってますからね~。 
それとも、もしかして、受験生とかいらっしゃるのかしら?
うちも甥っ子が今年高校受験で。 お母さん、しっちゃかめっちゃかです☆
もうちょっとですからね。 がんばれ、受験生!


>やっぱり!私の小野田さんです!!素敵なお方です

でしょー!!(笑)
あのですね、裏話を暴露しますと、
この計画、立案実行とも、初めは小野田さんにやらせるはずだったんです。 そのほうが、薪さんが受けるショックが大きいでしょ? (←鬼ですみません・・・・)
でも、大好きな小野田さんに汚れ役をさせるのが嫌で~、中園参事官という新キャラを創っちゃったんです★ 


>今回のssは、何と言いましょうか?そのう・・好きです!登場人物の大人っぽさというか会話の余裕さというか、

今回のSS、オヤジ度高かったですね~(笑)
平均年齢、50歳近かったんじゃないでしょうか。 (ぜったいにBLじゃないな、この話(^^;))


>しづ様渾身のRも

ぎゃーーー!!!
第九の仮眠室でのRは忘れてくださいっ!!
マンションでのRはギャグだから平気ですけど、真面目なのは恥ずかしいです~っ!


>改めて小野田さんの素敵さを認識してしまいました!

嬉しいですっ。
自分が力を入れてるキャラを素敵と言っていただけると、感激もひとしおです(^^

こちらこそ、
読んでいただいてありがとうございました!
Kさまの、またのお越しをお待ちしております。

Wさまへ

Wさま、いらっしゃいませ。
コメントありがとうございます(^^


> 朝読んで、また読んでいます。
> 薪さんを幸せにしてくださって、ありがとう!!

きゃー、こちらこそ、読んでくださってありがとうございます~。
すべての問題が解決したわけじゃないんですけどね(公認になったわけじゃないし(^^;))
今回はひとまず、これで収まりました。


> そうだよ薪さん、幸せになっていいんだよ!
> 嬉しくて嬉しくて、本当に涙が出てしまいました。(涙目で仕事行きましたよ、私)

嬉し泣きだなんて~、こちらこそ嬉し泣きしちゃいそうですっ。
Wさまは、それだけ薪さんがお好きで、薪さんの幸せを望まれているんですね。 わたしも同じ気持ちです。
原作で薪さんが幸せを感じるシーンがあったら、泣きながら仕事しますね、わたしたち。


> オヤジでワガママで勘違いで天の邪鬼で気をもませる薪さんのやっと見せてくれた「素直さ」は
> 天の岩戸から出てこられたアマテラスの如く、眩しく世界を照らすのでした・・・

ちょっ、これ、ひどいんですけど(笑) うちの薪さんって、ここまで?(笑笑)
普段の天邪鬼が効いてますからね~。
そういうひとが素直になったときの可愛らしさっていったらもう~、水爆クラスですよ!


> ずっとこのまま素直キャラのままいって欲しい気もするし

あ、それは無理ですね。 だって、

> 男爵キャラじゃないと笑いがとれないし・・・(え?)

そう、その通りです!!
さすがWさま、分かってらっしゃる(^^
この話、基本はギャグ小説ですからね☆


> でも、いずれにしても楽しませてくれる人ですね~

どちらにせよ、普通じゃないですね。
原作薪さんの対極を目指して(なぜ?)これからも突っ走ります☆☆☆


徳川園の情報、ありがとうございます!
そう、後楽園、岡山は後楽園ですよね(@@) なんで兼六園と間違えたんだろ~、録画しておいた『生さだ』観たばっかりだったからかな~(^^;) (知ってます?NHKの『今夜も生でさだまさし』 今回は金沢からやってました)
わたしの地元の名所と言いますと、偕楽園ですね。
後楽園にはぜんぜん敵いませんけど、梅の季節はきれいですよ(^^


>青薪さんが水戸黄門

これは、薪さんが黄門様で、青木さんと岡部さんが助さん格さん、八兵衛が曽我さんで、弥七が鈴木さんですか? それとも、必ず入浴シーンがある女性キャラに薪さんを起用<こら。 

ええと、今井さんの許婚(スガちゃんあたりで)のお父さんが病弱で(←もちろん山本さん)
仕方なくお金を借りた商人が宇野さん。彼は裏で悪代官(←満場一致で滝沢さん)とつながっていて、その手下の小池さんと組んで、スガちゃんを代官に渡して利権を得ようとして~、
『助さん、格さん、こらしめてあげなさい!』
と叫んだ薪さんに一目惚れして、
『おお、なんと美しい!近う寄れ!!』的な状態になっ・・・・・・・すみません、なんの話だかわからなくなりました。

って、これ、Wさまのコメントの主旨と違う。

こういうのがぽんぽん浮かぶ頭ですみませんv-356
Wさま、呆れてる・・・・・?(^^;


コメントありがとうございました!
Wさまのまたのお越しをお待ちしております!!

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Wさまへ

Wさま、こんにちは~。
コメントありがとうございますっ。
現在公開中の「破壊のワルツ」は、あおまきさんでもないし、楽しいお話でもないのに、それでも読んでいただいてうれしいです~。


えっと、「生さだ」で話が通じると言うことは、Wさまもご覧になったことがあるのでしょうか?
えへへ~、実はさださん、好きなんです~。 それも子供の頃からなんですよ。 ずーっと隠れまさしファンでした。
笑いのネタって(爆)
確かに、さださんのトークは面白いですよね(^^
でもって、彼は決して人を傷つける種類の笑いは選ばないんですよね。 そこが好きなんです。
もちろん、歌も大好きです。 
やさしさとか愛情とか、普通だったら照れが邪魔して隠してしまうようなものを、とっても素直に前面に出してて、それが心地よく耳に入ってくるんですよね~。 彼の選ぶ言葉も音楽も、とても美しいと思います。


> しずさん、本当は「三浦しをん(大好き)」さんじゃないんですか?!

と、言われて、初めて三浦しをんさんをぐぐってみたんですけど(一般常識に欠けててすみません~~!!)
すっごい作家さんなんですね! 直木賞とか獲ってらっしゃる。
今度読んでみよう、と思ったら、メロディに連載中の「まほろ」の原作者なんですね。じゃあ、今度マンガも読んでみようかな。(じ、実は、メロディは秘密とパタリロ以外読んでな・・・・・すーみーまーせーんーーー!!!)

わたしはただの妄想好きの薄汚れたおばさんですが、(^^;
面白そうな作家さんを教えていただいて、ありがとうございました!

褒めていただいてるのに申し訳ないんですけど~、わたしは本当に文才とかないし。 
ていうのは、他のブロガーさんみたいに、日常のこととか感想なんかを書こうとすると、まったく文が出てこないんです。 文才があれば、そういうのも書けるんだろうなあって。  
あれはどうしてなんですかね? 小説を書くときとは、使う脳の位置が違うのかな。



「青薪の水戸黄門」
楽しんでいただけてよかったです~、てか、引かれなくてよかった(^^;
こういう妄想も楽しいですよね!
原作が重いからこそ、アホな遊びをしたくなるというか。
童話とかも、当てはめたら面白そうですよね~♪ うちのあおまきさんでやったら、多分元ネタとはぜんぜん違う話になっちゃうと思いますけど★


それから、9巻の修正箇所の部分ですが。
ネタバレになりますが、お答えしちゃいますね。

ずばり、「カニバリズム事件」の内容です。
本誌掲載のときの「カニバリズム事件」は、
2057年11月、沖縄の南大東島沖の無人島に飛行機が墜落、約1ヵ月後の12月末に発見され、生存者1名が救助されます。 機体は墜落の衝撃でバラバラ、原因究明は生存者の証言に頼らざるを得なくなるのですが、その生存者も事故の状況を説明できるほどの体力は残っておらず、2週間後に病院で亡くなります。
最後の乗客が、死の間際に残した言葉が、
『わたしは他の乗客の遺体を食べて生き延びた』
結果、事故の原因究明のために、薪さんが一人で彼の脳を見ることになった。
これが本誌に記載されたカニバリズム事件です。

で、コミックスになったら、
「北海道根室沖の地震による病院倒壊」になってたんですよ~。
第九で扱うことになった理由も、地震災害にしては遺体に不自然な点が多かったから、なんですね。

いずれにせよ、「薪さんが命まで狙われるようになったのは、この『カニバリズム事件』を見てからだ」と岡部さんが言ってるので、とっても重要な事件だったんですね。

原作の飛行機事故が無くなってしまったので、
「破壊のワルツ」は、コミックス派の方には何がなにやらの話に・・・・・・(^^;
すーみーまーせーんー!!
キーになる事件だと思ったので、まさかその内容が変わるとは想像もしておらず。 見事なフライング創作になってしまいました★ (飛行機のフライとフライングを掛けてみました。お粗末)


> 4月号、楽しみにしていたのに、ここまでしなくていいのに・・・次号まで気持ちが続くかしら・・・という心境です。
> 救いを求め、こちらにお邪魔する毎日です。

4月号、すごかったですね。
薪さん、泣きっぱなしでしたもんね(^^;
あそこまで泣き喚く薪さん、初めて見ました。 
あ、でもですね、わたしは、
腹心の部下である岡部さんの前では、こんな風につらい感情を爆発させて欲しい、と以前から思ってましたので~(それで「岡部警部の憂鬱」を書いた)
ちょっと嬉しかったです。 
少なくとも、ひとりでシーツ噛んで耐えてるよりはいいと思います。 岡部さんが薪さんの秘密を知ったことで、未来に希望が持てたと信じます。


わたしの体調のことまで気遣っていただいて、ありがとうございました。
本当に、3月に入ったと言うのに寒いですよね~。 今日も風が冷たいです~。

Wさまも、お体にはお気をつけて。 どうかご自愛ください(^^
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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