破壊のワルツ(6)

 こんにちは~。

 原作の鈴木さんは、瞳も髪も茶色だと思います。
 でも、うちは見た目が青木くんにそっくりで、だからこうなって、という話をいくつも書いちゃってるので、鈴木さんの髪と瞳は真っ黒ということで。 
 ご了承ください。





破壊のワルツ(6)






「素直に謝って、いい子でした」
「……殴るぞ」
 頭の上にポンと置かれた大きな手をわざと邪険に払いのけて、薪はむうっと膨れた。
 眼にありったけの怒りを込めて睨んでやるのに、鈴木はニコニコと笑ったまま。眼力の強さは自他共に認めるところなのに、鈴木にだけはちっとも効かない。だけどそれが、何故か嬉しい。

 薪は苦笑して、親友を見上げる。そこで出会うのは、どんなときも薪の気持ちを和やかにしてくれる彼の黒い瞳。感じるのは、喜びとほんの少しの切なさ。
 鈴木に心を読み取られないように、薪は横を向いてキーボードを叩き始めた。

「まあ、こういうことは鈴木の言う通りにしてれば間違いないから」
 薪は、自分が人から好まれない性格だと知っている。子供の頃からソツが無さ過ぎて可愛げがないと言われ続けてきた。学生の頃には同期の友人ができたが、それも卒業と同時に消えてしまうような希薄なものだった。
 そんな薪にとって、鈴木は初めてできた親友だった。
 ずっと自分の傍にいて欲しいと願い、そんなことが叶わないのは百も承知の上でなお願う。叶わないから終わらせることもできない、永遠の希求。

 鈴木は手近の椅子を引き寄せて、執務机の前に座った。長い足をスマートに組み、山になっている報告書の一番上のファイルに手を伸ばす。
「やけにしおらしいじゃん。さすがに豊村とケンカして凹んだか」
「凹んでなんかいない。この頃なんとなくギクシャクしてたから、逆に膿が出せて良かったと思う」
 報告書の見直しを手伝ってくれる鈴木に、薪はためらいがちに言葉を継いだ。豊村との諍いを経て薪は、ずっと前から思っていたことを彼に話すときが来たと感じていた。

「鈴木。僕、気になってることがあるんだけど」
 うん、と鈴木は報告書を読みながら、軽く頷いて薪に話の続きを促した。薪もタイプを打ちながら、それに応じる。
「豊村が反抗的になったのって、滝沢が来てからじゃないか?」

 鈴木が報告書から目を離し、顔を上げたのが視界の隅に映った。数箇所に付箋を付けた書類を机の上に置いて、彼は組んでいた足を解き、きちんと踵を床につけた。
「あいつ、もしかして豊村のこと焚きつけてるんじゃ」
「薪」
 親友の言葉を遮り、両膝に手を置き、こちらに身を乗り出してくる。薪の横顔をじっと見据えて、
「証拠も無いのに人を疑うのは良くない」
 ……言うと思った。

「滝沢は同じ研究室の仲間、オレたちの味方だ。信じ合えなかったら、一緒に仕事なんかできない」
 鈴木は昔、弁護士志望だっただけあって、本当に悪い人間なんかこの世にいないと思っている。彼の人間関係は、まず相手を信じるところから始まる。自分が相手を信じれば、相手も自分を信用してくれるようになる。薪とは正反対の考え方だ。
 刑事という職業がそうさせるのか、生まれ持った卑しさなのか、薪は他人を完全には信じきれない。いつ裏切るか分からない、自分に牙を向いてくるかもしれない、と考えてしまう。特に、海千山千の課長たちを相手にしているときは、雑談中でも気を抜くことができない。さすがに自分の部下たちにはそこまでの警戒心はないが、それでも幾ばくかの不信は残っている。それがこんなふうに、時折芽を吹くのだ。

 薪が無条件で信じられるのは、鈴木だけ。彼だけは、絶対に自分を裏切らない。

「まあ、今度の休日出勤、いい機会じゃないか。滝沢とも交流を図ってみろよ」
 鈴木がそう言うなら、努力してみようと薪は即座に思う。
 鈴木の意向には滑稽なくらい従順な自分を発見して、悔しいようなうれしいような、不思議な感覚に捕われる。
「ちゃんと話してみろよ。そんなに嫌なやつじゃないから」
「でも、滝沢ってちょっと苦手なんだよな。やたらと触ってくるし。肩とか手とか」

 馴れ馴れしく触れられるのも嫌だが、もっと嫌なのは自分を見る滝沢の目だ。
 ふと気がつくと、滝沢はいつも自分を見ている。彼が自分を見る目は、鈴木や他の部下たちのものとは最初から違っていた。
 心の中まで見透かしてやると言わんばかりの執拗な目つき。指の動き、足の運びからでも相手の心を読んでしまいそうなその鋭さは、なるほど現場の経験を積んだ捜査官ならではのものだったが、捜一で見慣れた眼とはまた種類が違っていた。湿気があるというかジメッとしているというか、まるで冷血動物みたいだ。
 滝沢の視線からは敵意さえ感じられるのに、薪に接するときの態度はフランクで、彼は矛盾だらけだ。薪には彼の気持ちが、今ひとつよく分からなかった。

「さわられるの、嫌なのか?」
「当たり前だろ。男の手なんかゾッとする」
 何気なく言ってしまってから、薪はふと気付いて鈴木の方をちらりと見る。危惧したとおり、彼はついさっき薪の頭を撫でて、邪険に払われた自分の手のひらを深刻な表情で見つめていた。

「……鈴木はトクベツ」
 照れ臭くって、とても彼の顔なんか見られないけれど、本気の嫌悪と受け取られて触れてくれなくなるのはもっと耐え難いから、薪は正直に告白する。
 微笑むわけでもなく頬を赤らめるわけでもない薪の横顔に、鈴木は彼の精一杯の強がりと本音を見つけ、ひょいと椅子から立ち上がった。もう一度彼の頭に手を伸ばして、亜麻色の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜる。

「そーかそーか、薪くんはオレにナデナデしてもらうと嬉しいか」
「ばっ、バカ鈴木っ!!」
 今度こそ薪は、真っ赤になって鈴木の手を振り払った。椅子ごと後ろに下がり、相手を威嚇するように腕を組む。
「鈴木克洋警視、夏のボーナス査定マイナス3。上司への態度悪すぎ」
「げっ、それだけはカンベンしてくれ。結婚式とか、いろいろ金かかるんだよ」
 鈴木が焦ってボーナスの目減りを防ごうとするのに、薪は穏やかに微笑んだ。再び横を向いて書類の作成に戻りつつ、「冗談だよ」と画面に向かって言った。

「式の打合せとか準備とか、これからも何かとあるんだろ。なるべく前もって言ってくれよな。シフト組み直すの面倒だから」
 うん、と頷いて、鈴木も仕事に戻る。見直し途中だった報告書を手に取り、付箋を付けた箇所から先を読み始めた。
「今回のことだって、鈴木がもっと早く婚約のことをオープンにしてたら、起きなくていい騒動だったんだぞ。日取りが決まったとき、僕がミーティングで発表してやるって言ったのに、おまえが嫌がるから」
「だって、恥ずかしいじゃん」
「女子高生か、おまえは」
 薪の気色悪い例えに、ふたりともしばし沈黙して、反射的に脳裏を過ぎった鈴木のセーラー服姿を慌てて頭の中から消去する。親友も長くやっていると、思考経路が似てくるものだ。

「結婚式ならともかく、結納はみんなに言わないのが普通だろ」
 1件目を終え、次の報告書を抜き取って、鈴木はペンを走らせる。『犯行の動機が弱い』と余白に書き込み、再調査の箱に入れた。
「滝沢には話しといたんだけどな。週末のメンテの相棒、変更になるって言ったとき」
 3件目の報告書に付箋を付ける手を止めて、鈴木は言った。
「てっきり、伝わってるかと思ってた」
 一瞬、滝沢は鈴木の立場を悪くするためにわざとそれを豊村たちに告げなかったのかと薪は思ったが、そのさもしい考えは鈴木の高尚な精神に打ち消された。
 さっき鈴木に言われたばかりじゃないか。滝沢は味方だ。

「プライベイトのことだからと思って、遠慮したのかな」
 薪は滝沢の奥床しさを前面に出して、そんな理由をつけた。やろうと思えば好意的な解釈だってできるのだ。考え付くのに、皮肉の3倍くらい時間はかかるが。
「だな。オレが言わないことを自分が言っちゃいけないと思ったのかもしれない。あいつ、あんな顔してけっこう気使うから」
「そうだな」
 もっともらしく頷きながら、薪はちっとも同意できていない自分にがっかりする。持って生まれた性質は、そう簡単には直らないものだ。

 滝沢を仲間として心から信じることができる、鈴木の美しい精神に憧れる。彼と一緒にいることで、自分もその高みに近付けるような気がする。
 例え鈴木が結婚しても。パパになっても。
 自分たちの関係は変わらないと、薪は固く信じていた。





テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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