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破壊のワルツ(4)

 今日はメロディの発売日だと言うのに、わたしはどうしてこんなものをアップしているのでしょう。

 薪さーんっっ!
 今行くからねっ、待っててねーっ!
 あ、10時からか。








破壊のワルツ(4)




「おれ、第九辞める。上野も一緒に異動願い出そうぜ」

「えっ!? ちょっと待てよ、落ち着けって」
 上野はこの職場に、そこそこ満足している。確かに室長は横暴だし仕事はきついが、以前の上司から受けたような陰湿な苛めはない。仕事以外のことで叱られたことは一度も無いし、アフターの付き合いを強要することもない。何よりも、仕事熱心で真面目だ。それだけでも以前の上司よりはマシだと思っていた。
 豊村はまだ26で、薪以外の上司に長く仕えたことがない。他にはもっと酷い上役がいることを知らないのだ。上野のように、月に一回出張と称して愛人と公費で旅行に行く上司を持ってみれば、薪が良質な上司の部類に入ることが分かるだろう。

「もう我慢できない。室長の顔見るのも嫌だ」
「待てって! おまえ、昔は室長のことすっげえ尊敬してたじゃんよ。あの人は天才だって」
「その天才が鼻につくんだよ! 天才なら何を言ってもいいのかよ!!」
「うるさいっ!!」
 バン! とドアが開いて、部屋の主が姿を現した。扉の前で怒鳴っていたのだ。会話の内容は室長室に丸聞こえだ。

 亜麻色の瞳を怒りに吊り上げ、頬を紅潮させて薪は叫んだ。
「辞めるなら辞めろ! おまえなんかいなくても、ちっとも困らん。そんな風に同僚の足を引っ張るくらいなら、さっさと辞めちまえ!」
「ああ、望むところですよっ!」
「ちょ、ちょっと! 豊村も室長も落ち着いて」
 エスカレートする言い争いを止める術を持たず、上野はひたすらうろたえる。困惑して嫌な汗をかいた上野の耳に、天の声が聞こえてきた。

「何の騒ぎ?」
 ひょい、と3人の間に顔を出してきたのは、第九の副室長。職員の相談役であり、室長の暴走を止められる唯一の人物だ。
「豊村がっ!」
「室長がっ!」
 同時に喋り出したふたりを制して、鈴木は彼らを室長室へといざなった。それからこちらを振り返り、のん気な口調で、
「上野。コーヒー頼める?」
「あ、はい」
 ホッとしてその場を離れ、上野は給湯室へ向かった。コーヒーカップを3つ用意して、ふと気付く。そういえば、滝沢はどこへ行ったのだろう。

 室長室へコーヒーを運んでいくと、薪と豊村はソファに向かい合って座っていた。鈴木はふたりの中間に立ち、冷静に豊村の訴えを聞いている。
 そっとコーヒーをテーブルの上に置き、上野は部屋を出ようとした。そのとき、初めて鈴木が口を開いて、「薪が悪い」と言った。

「いくらなんでも言いすぎ。辞めたきゃ辞めろって、それは室長が言っていい言葉じゃない」
 恐ろしい目つきで鈴木を睨んで、室長は唇を噛んだ。怖い顔だった。普通より遥かに整っているだけに、その迫力はすごかった。
 が、鈴木は平気な顔で、
「いつも言ってるだろ。言葉は暴力にもなり得るんだから気をつけろって」
 さすが親友。鬼の室長の怒髪攻撃をものともしない。あの目つきで睨まれたら、上野なら竦み上がってしまう。
「でも、豊村もネガティブに受け取り過ぎだ。薪はおまえのことを第九の恥だなんて思ってないし、薪が周りの人間を軽蔑してるってのもおまえの思い込みだ。薪はそんなやつじゃないよ」
 鈴木は床に屈むと、豊村の顔に目の高さを合わせ、彼の顔を覗き込むようにして言った。薪に対する断定的な決め付け方とは、対照的だった。

 その態度に、上野は鈴木と薪の絆の強さを知る。
 このくらいで薪との友情は壊れない、そう信じているから取れる態度だ。確かにこの場を収めるには、薪に謝らせるのが一番いい。豊村だって、本気で第九を辞めたいと思っているわけではないのだ。室長が態度を改めてくれれば、これからも頑張れる。
「だから、薪が豊村に謝って、それでこの件はお終い。いいな?」
 問題は、あのプライドの高い室長が部下に頭を下げるかどうかだが。

「ほら、薪」
 鈴木は豊村にしたように、薪の顔を覗き込むと、ニコッと笑って彼を促した。いつも思うが、鈴木の笑顔は魅力的だ。彼の笑顔には、ひとをやさしい気持ちにする力がある。
 薪はしばらく鈴木の顔を睨みつけていたが、やがて諦めたように肩の力を抜いた。
「…………言い過ぎた。ごめんなさい」
 薪がそう言った途端、彼を除く3人は思わず噴き出した。
「な、なんで笑うんだ!? ちゃんと謝ったのにっ!!」
 膝に手を置き、ぺこりと頭を下げて、その所作にも驚いたが、もっとびっくりしたのは彼の言葉だ。おそらく周りの誰もが予測していた、大人が謝罪するときに使う「悪かった」というセリフを見事に裏切って、「ごめんなさい」ときた。普段の彼とのギャップに笑い出さないほうがおかしい。

「だって、子供じゃあるまいし。ゴメンナサイって、普通言うか?」
「仲間内で『申し訳ありませんでした』って言うのもおかしいだろ」
 笑いながら上司をからかう不届きな部下に、薪がその言葉を選んだ理由を告げる。彼には彼なりの考えがあったらしいが、やっぱり笑える。
 しかし豊村は、薪のその言葉で笑いを収め、向かいの席で少し頬を赤くしている薪をじっと見た。
「仲間……」
 口の中で薪の言った言葉を繰り返し、豊村は彼本来の明るい笑みを取り戻した。

「そうですよね、おれたち仲間ですよね」
「当たり前だろ。2年も一緒にやってて、今更なに言ってんだ」
 まだ笑い足りないのか、鈴木が呼吸を乱しながらも豊村に突っ込みを入れると、豊村は晴れ晴れと笑って、
「すみませんでした、室長。おれが間違ってました」
 かっこいいぞ、豊村、と上野は心の中で同僚にエールを送る。爽やかな、好感の持てる謝罪だ。少なくとも、謝り方だけは室長に勝ってるぞ。
「やっぱおれ、室長のこと尊敬します」
 もともと豊村は、室長に対する憧れが強かった。最近、何となく反発しているようだったが、これで反抗期も終了のようだ。

 薪は豊村の心境の変化についていけず、きょとんと眼を丸くしていたが、ニコニコと彼に笑いかけられて、自分も頬を緩めた。
「ありがとう、豊村。これからもよろしく頼む」
「はい!」
 豊村の元気な返事を耳に、上野は室長室を出た。

 ドアのすぐ近くに滝沢がいて、心配そうな眼で上野を見た。さっきは姿が見えないような気がしたが、それは自分の思い違いで、ずっと豊村のことを案じていたのだろう。
「大丈夫。鈴木さんが上手くまとめてくれた」
「……さすが」
 感嘆したように滝沢が言うのに、上野は大きく頷いて、
「あれだけ興奮してた2人を諌めて、簡単に仲直りさせちまうんだから。鈴木さんの仲裁能力はすごいよ」

 憂いが払われた顔で職務に戻った上野の後ろで、滝沢はそっと室長室のドアを細く開いた。中では鈴木の結納の話になっていて、3人がにこやかに笑い合っていた。
 滝沢の視線は豊村に注がれ、次いで薪に向けられた。それから残るひとりを注視すると、彼は口の中で低く呟いた。

「あいつ、邪魔だな」




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

鍵拍手いただきました Aさまへ


>ほんとに鈴木さんがいてよかった!上野、よくわかってるやん!
>豊村、単純な奴ですな(笑)薪さんたらカワイイから(^^)

鈴木さんがいなかったら、部下が一人もいなくなってますね(笑)
豊村くんは26歳と若いので単純に、上野さんはちょっと年上なので、多少は苦労をしている、という設定にしてみました。
薪さんも、このときはまだ33ですからね~。 可愛い盛りですよ。(??)


>滝沢、覗いているところが不気味~(><)

ふふふふ~、
表面はいい人の振りをして、腹の中は悪意たっぷり。
こういうタイプのひとを書いたのは初めてですけど、楽しいですね~♪
(Sの血、騒ぐ騒ぐ)


例の情報源、ありがとうございます!
2008年は、まだメロディを買ってなかったからなあ・・・・実際にこの眼で見ても、ショックだったと思いますが(^^;
Mさんのブログは、後で確認してみます。
それにしてもAさま、細部まで読んでらっしゃいますねえ。 薪さんへの愛を感じます♪
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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