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室長の災難(15)

室長の災難(15)







 警官隊の突入は、午後11時丁度であった。
 竹内誠警視率いる捜査一課は、先に潜入していた第九の曽我警部の手引きで、目的のビルを速やかに包囲した。秘密裏にことを進めるために拡声器による呼びかけはせず、ブレーカー操作による一時的な停電と発煙筒によるパニックで犯人グループを混乱させ、全員を逮捕することに成功した。

 犯人グループの中に現職の警察官がいたことに、竹内は驚きの色を隠せなかった。
 なるほど、いくら聞き込みをしてもこれでは出て来ない。パトカーが止まっているビルの中でそんなことが行われているなんて、誰も思わない。しかも、ビルの入り口にはよく見かける顔の巡査が立って警備にあたっていたのだから。

「竹内さん、犯人グループ8名全員確保しました! やりましたね!」
「ご苦労。こちらの被害状況は?」
「ありません。先に潜入していた第九の職員が、中の詳しい映像を送ってきてくれてましたから。おかげで細かい突入計画が立てられました。
 今回だけは第九のお手柄ですかね。あ、いや、その」
 竹内の第九嫌いを良く知っている大友は、慌てて口を閉ざした。苦笑いしながら、竹内は気配り名人の部下に言った。
「そうだな。今回だけはな。……おとりはどうした? 無事か?」
「さっき、下の階に第九の職員が連れて行きましたよ。あの背の高い、何ていいましたっけ。メガネ掛けたボーっとした奴」

 犯人グループの搬送を大友に任せ、竹内は1階の部屋へ急いだ。彼の無事な姿を、なんとしても自分の目で確認しておかなければ。
 そうだ、自分はこの作戦の発案者なのだ。おとりになってくれた協力者の無事を確認するのは当然の義務だ。
 まるで年頃の娘を心配する男親のような心境で、竹内は我知らず走っていた。
 なんだろう、この焦燥感は。
 彼の身に何かあったら、俺はどう責任を取ればいいんだろう。

 捜査員や鑑識でごった返している1階の部屋の隅に、竹内の探す人物はいた。
 正座に近い形でぺたんと床に腰を落としているのは、タイトスカートの制約のせいだ。破られて服の役目をしなくなった上着の前を合わせ、両の手で自分の肩をかき抱くようにしてその身を震わせながら、前にいる背の高い男に何事か訴えている。

「おそいっっ!!」
「すみません。でも、信号は無かったんです。ここには、小池さんからの連絡で駆けつけたんですよ」
「そんなはずは」
 不審に思って、付け爪に仕掛けた発信機を確認する。暴行の中でいくつかの偽爪は剥がれ落ちていたが、目的の爪は残っていた。
 が、飾り花の中に仕込んでおいたはずの超小型発信機はない。どうやら拉致された際に、仕掛けを抜かれていたらしい。あの変に盗聴器の類に詳しいと言っていた警官の仕業だろう。
 これでは青木の到着が遅れたのも無理はなかった。
 無理はなかったのだが。

「……おまえが悪い」
「いや、あの、ですから」
「おまえがわるいっ! おまえが早く僕のところへ来ないから、あんなやつらにあんなこと、あっ……――――っ、全部おまえがわるい!!」
 怒鳴り散らしながら、薪は大粒の涙をこぼしている。
 うつむいて歯を食いしばり、必死に嗚咽を抑えようとしてか、肩を抱いた両手の爪が白い肌に食い込んでいる。
「はい、すみません」
「……っ、うっ……」
「オレが悪かったです。怖い思いさせて、すみませんでした」
 青木が大きな手で、亜麻色の小さな頭を撫でる。その手には限りないやさしさと愛情が含まれている。

 薪の細い両手が、目の前のジャケットを掴んで引き寄せる。ジャケットで泣き顔を隠すようにしてしゃくりあげる薪の様子を、竹内は遠くから見ていた。
 やがて落ち着いたのか、薪は泣くのをやめて手を離した。青木のジャケットは落ちた化粧と涙の跡で、クリーニングが必要だった。
 差し出されたタオルで顔を拭き、次に眼を開けたときには、もういつもの取り澄ました表情だ。それを確認してから竹内は、華奢な後姿に声を掛けた。

「無事でなによりです、室長」
 挑むような美貌が振り返る。しかし、まだその眼は真っ赤で、涙の跡を隠しきれていない。それでも気丈に薪は言い放った。
「竹内警視。今回の犯人確保は、第九の協力があればこそです。ここのビルを見つけたのもうちの手柄です。あなたのところの尾行は撒かれたのに、曽我の尾行は成功した。これからは、第九は覗き趣味の引きこもりだなんて言わせませ……」
 薪の毒舌は、途中で止まった。
 竹内が自分のジャケットを脱いで、薪のむき出しの肩に掛けてくれたのだ。宿敵の意外な行動に思わず黙り込んだ薪に、竹内は敬礼した。
「薪室長。第九のみなさんの協力のおかげで、今回の事件は解決できました。ありがとうございました。詳しい報告は明日にして、今日は帰って休んでください」
 この車をお使いください、と自動車の鍵を渡し、竹内はその場を離れた。

 あの室長が、あんなに感情をむき出しにしてぶつかれる相手。自分ではあの中には入れない。第九の仲間の絆というやつか。ならば傷ついた彼を休ませるのは、自分の役目ではない。
 なんだか少し、悔しいような気がする。

 竹内はビルを出た。
 長月のきれいな月夜を、大量の赤ランプが台無しにしている。
 パトカーに犯人たちを押し込んでいた大友が、竹内を見つけて走りよってきた。
「竹内さん。事情聴取、どうします?」
「もちろんこれから徹夜でやっつける! 大事な身内をあんなに傷つけやがって。ギタギタにしてやるからな、あいつら」
「なんか、めちゃめちゃ気合入ってません?」
「拘留期間に休む暇があると思うな~、23日間、目いっぱい使ってやる。死んだほうがましだと思うまで責め立ててやる。取調室は密室だ! 治外法権だ!」
「いや、大使館じゃないですから。いいのかな、こういう発言」
 なにやら心境の変化があったらしい先輩の後に続いて、大友は警視庁へ向かった。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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